朱雀の間で、大きな爆発音がする。
「おらおらおらおらおら!」
朱雀のエンガが空から両手を前に出して火の鳥を連発で放っている。
「くっ、よっ、ほっ、わわっ……」
シャーリーは火の鳥を避け続けている。避けきれないと思ったら……
「とりゃ!」
拳に炎を纏って火の鳥を殴っていく。それらを始まってからずっと続いている。シャーリーの身体は火傷の痕がかなりあるけど、エンガはまったくダメージを受けていない。いや、正確にはシャーリーはまだエンガに一発も攻撃出来ないのだ。
「あんたね。空に飛んでいないで降りてきなさいよ!」
そう、戦いが始まってすぐにエンガが背中に炎の翼を出して空を飛んで、そこから火の鳥を放っているのだ。航空術を持っていないシャーリーにとって空中の敵に攻撃する事は出来ないのだ。またシャーリーは近接戦闘系の魔導師であるから射撃系や砲撃魔法などはあまり使えないのだ。
「何だ、俺様に攻撃したいのなら、飛んで来いよ」
エンガが来いと挑発する様に人差し指を動かす。その態度にシャーリーはカチンと頭に来た。シャーリーは近くにある大きな岩を持ち上げた。
「これで、どうだぁぁぁ!」
シャーリーは躊躇いもなく大きな岩を投げ飛ばした。
「おいおい! どんだけ力があるんだよ!」
エンガは右手を前に出して火の鳥を放って岩を破壊した。すると、シャーリーは高く跳び上がって、落ちてくる岩の破片を次々と飛び乗っていく。
「って、何じゃそりゃぁぁ〜〜!?」
「よしっ、次で届く!」
シャーリーは足に魔力を溜めて、一気にエンガの所まで跳んだ。航空術が使えないから足に魔力を溜めて高く跳ぶと言う作戦に考えていたけど、近くにエンガの高さに届く場所がないから、まずシャーリーは大きな岩を投げ飛ばしてエンガにそれを破壊してもらい、その破片を足場にして跳び続けて、エンガの高さに届く距離を稼いで、そこから一気に跳んだのだ。
「行くわよ、鳥野郎!」
シャーリーは拳を構えてエンガに向かって拳をぶつけようとする。
「甘いぜ!」
エンガは炎の翼を広げてシャーリーの攻撃を回避した。
「なっ!?」
空振りしたシャーリーはそのまま地面に向かって落ちていった。シャーリーは足に魔力を纏って着地する。じーんと足に来るけどダメージはそんなに受けていない。しかし、エンガには攻撃が当たらず、シャーリーはエンガを見上げる。
「どうしたどうした!? もうおしまいか? だったら、さっさとくたばりやがれ!」
エンガは火の鳥を連発で放つ。シャーリーは回避し続けながら次の手を考える。
(まったく、空からぼかすかと撃ちまくって! だけどどうしたら良いのよ。あんな高い場所から攻撃されたらこっちは手が出せない。さっきみたいにもう一度岩を足場にするのは……ダメね。あいつが岩を避けられたら意味がない。あいつをどうにか地面に落とさないと)
シャーリーは火の鳥を避け続けるが、攻撃の目処が立っていない。エンガは容赦なく火の鳥を放ち続ける。
「これで終わらせてやるぜ!」
エンガは両手を上に挙げると、大きな火の鳥を作り出す。
「……そうだ。前にパパに教えてもらったあの技を今試せるチャンス」
シャーリーは何かを思い出して構える。
「諦めたみたいだな。喰らいやがれ!」
エンガが大きな火の鳥を放った。
(ハクトに教えてもらった魔力のコントロールと、パパに教えてもらったキャラメル流古武術で)
シャーリーは向かってくる火の鳥を、右手を前に突き出して受け止める。そしてそのまま時計回りに右腕を回転させて火の鳥をエンガに向けて投げ返した。
「な、何っ!?」
まさか火の鳥を返されるなんて思わなかったエンガは驚いてしまって、避ける事も防御する事も出来ず火の鳥を喰らった。
「……何とか上手くいったみたいね。キャラメル流古武術『円月』。これを出来る様になる間、ずっとパパやハクトに痛い思いをさせられていたな」
シャーリーは一粒の涙を零す。円月を覚える為にハクトとヤナギに色々されてきたのだ。円月は相手の魔法を受け止めて遠心力を使って投げ返すと言う技である。ハクトに魔法を何度もぶつけられまくって、ヤナギからは何度も投げ飛ばされて覚えたのだ。
「あいつは?」
シャーリーはエンガの様子を見ると、エンガは地面に落ちていてボロボロになっていた。
「こ、こいつ……やってくれやがって……だが、さっきのはちょっと油断していただけだ。俺様の本気を……ぐはっ!」
エンガが何か言おうとした瞬間、シャーリーが跳び蹴りをしてきて顔面に喰らった。
「空さえ飛んでいなかったら、こっちの物よ」
シャーリーはエンガを空に逃がさない為に連続攻撃をする。
「こいつ……良いだろう、ぶっ飛ばしてやるよ」
エンガは両腕を炎を纏ってシャーリーに向かっていく。
「面白いわ、かかってきなさい」
シャーリーは向かってくるエンガとぶつかる。エンガが右のストレートをぶつけるが、シャーリーはそれを避けてカウンター攻撃する。しかし、エンガもシャーリーのカウンターを躱した。シャーリーは回し蹴りをすると、エンガも回し蹴りでぶつかり合う。
「ぐぐぐっ……」
「う〜っ……」
ぶつかり合う二人の蹴りが衝撃で離れて、シャーリーとエンガの距離が離れる。
「はぁ…はぁ…はぁ……やるじゃねえか……」
「はぁ…はぁ…はぁ……あんたもね……」
火山が噴火すると、シャーリーとエンガは動き出した。
「フレイムバード!」
エンガは火の鳥を放つ。
「その攻撃はもう見切っているわよ」
シャーリーは火の鳥を避けていき、エンガに迫る。シャーリーは右手の拳を強く握り締める。
「キャラメル流古武術『震空拳』!」
シャーリーは右の拳を思い切り前に突き出した。エンガは両腕でシャーリーの拳を防御するが、内側から衝撃波の様な物を喰らった様に吹き飛ばされた。
「がはっ! な、何だ、今の攻撃は……防御したのにダメージを受けるなんて……」
「残念だけど、この技に防御は意味ないわよ。この技を習得するのにかなり時間がかかったけどね」
震空拳は、空気の抵抗を無力化して震動を与えて放つ防御不能の技。シャーリーはそれをついに自分の物にするが出来た。
「まだまだだ! 今度はこっちの番だぜ!」
エンガは両腕に炎を纏わせてシャーリーに向かっていった。
「朱雀翼衝撃!」
エンガの腕が炎の翼となって振り下ろされる。炎と衝撃波がシャーリーに襲い掛かり吹き飛ばされる。それでも意識を保って着地する。だが、ダメージはかなり喰らってしまっている。
「何てパワーなのよ……」
「俺様は四神獣の牙の中で一番パワーのある魔導師だからな。パワー勝負になれば俺様に糧はしないのさ。俺様の拳は鋼の壁も貫く事が出来るのだからな」
「自慢にならないわよ。私だってパワーには自身があるのよ。私ならクリスタルだってぶち壊せるわよ」
「訂正する。俺様ならダイヤモンドをぶち壊せるぜ」
「間違えたわ。私ならオリハルコンを壊せるわよ」
シャーリーとエンガは変な言い合いをし始めた。
「はぁ…はぁ…はぁ……私はあんたをさっさとぶっ飛ばして、ここから出たいのよ。みんなを早く助けに行かないといけないのだから」
「他の奴の心配するだけ無駄だぜ。今頃は他の四神獣の牙にやられているに違いないのだからな」
「そんな事ないわよ。ミントも…………虎之助もライチだって負けないわよ」
「今少しだけ考えてなかったか?」
「う、うるさい、うるさい! とにかく早くあんた達を倒してクリスを助けるんだから」
「……そうかい。だったら、こっちもそろそろ本気でやってやるとするか」
エンガはそう言うと、足元に魔法陣が現れて、エンガの身体が変化していく。くちばしが出て来て、両腕が炎の翼となり、足が爪に変わって身体からは炎を纏って空を飛び始めた。
「な、何よ、それ!? 変身魔法!?」
「そうさ。神獣変身魔法『朱雀』。この姿になった時、パワーもスピードも段違いに上がるのさ。この姿を見て生きて帰れた者はいないのさ」
「まったく、中ボスの分際でそんな隠し玉を用意しているなんて」
「誰が中ボスだ!」
エンガが口から炎を吐き出した。シャーリーは慌てて炎を躱す。
「これでお前を燃やし尽くしてやるぜ」
エンガは身体から炎を出して全身に炎を纏わせた。そして空高く飛び上がった。
「朱雀衝撃波!」
エンガはそこから急降下してシャーリーに突撃する。シャーリーはシールド魔法で防御する。
「無駄だ!」
突進してきたエンガはシャーリーのシールド魔法とぶつかる。
(ぐっ、何てパワーなのよ……こ、このままだと……)
シャーリーはさらにシールド魔法を強化するが、シールドからひびが入りだした。
「燃え散れ!」
エンガはさらに加速した瞬間、シャーリーのシールド魔法は破壊されてしまい、エンガの突進がシャーリーとぶつかってシャーリーを吹き飛ばした。吹き飛ばされたシャーリーは仰向けに倒れる。
「ふっ、決まった様だな」
エンガは攻撃が決まった事を確信して、纏っていた炎を解除する。
「ぐっ……か、身体が…動かない……」
シャーリーは身体を動かそうとするが、痺れたみたいに動けなくなっている。シールドブレイクによって身体が一定の間動けなくなってしまったのだ。
「これでトドメだ! 朱雀咆哮波!」
口を開けたエンガの前に炎の玉が大きくなっていき、エンガはその炎の玉を放った。
「くっ……負けてたまるかぁぁぁぁぁぁ〜〜!」
シャーリーは無理矢理身体を起こすが、手遅れだった。エンガの放った炎の玉はシャーリーとぶつかって大爆発を起こした。
シャーリーがいた場所は炎に包まれてしまい、シャーリーの姿が見えなくなってしまった。
「ふっ、どうやら骨ごと燃えてしまったか。少しやりすぎてしまったか」
エンガは朱雀の姿から元の人間の姿に戻っていった。
「まあ、所詮この世は弱肉強食。強い者が生きて、弱い者は死ぬ。俺様の様な強い者の前には、お前の様な弱い者は死んで当然なのさ。ふふふ…ふははは…は〜っはっはっはっはっ!」
右手を顔に当てて、大笑いするエンガ。
「さてと、他の連中はどうなったのか、ちょっと様子でも見てくるか」
エンガがその場所を去ろうとした。
「ちょっと待ちなさいよね……勝手に終わらせないでよね……」
激しく燃えている炎の中から声が聞こえた。エンガはゆっくりと振り返ると、炎の中にシャーリーが立っていた。
「えぇぇぇぇぇぇ〜〜!?」
エンガは目玉が飛び出るぐらい驚いた。
「ば、バカな!? ありえない!? 俺様の大技を喰らわせたと言うのに、ピンピンしているなんてありえない!」
先程の朱雀衝撃波と朱雀咆哮波はエンガの技で強力な技のはずなのに、シャーリーはあまりダメージを受けていない。
「お前、どんなトリックを使っている。て言うより、どうして炎の中にずっといられるんだよ。普通なら酸欠とかで死ぬだろう」
確かにエンガの言うとおりである。炎の中にいる事もありえないけど、たとえ炎の中で無事でも周りの酸素がなくなって酸欠で倒れるはずなのに、シャーリーは酸欠で苦しんではいない。
「相性の問題じゃないかしら」
「相性だと?」
「あんた、さっきから炎の魔法しか使っていないでしょう。私もあんたと同じ炎属性の魔法を使うから炎に対する耐性が付いているのよ。だから、あんたの炎はそんなに効いていないのよ。ありがとうね、ストライク。あんたのおかげでこいつの炎に耐えられるわ」
『いいえ、マスター。貴女がハクト殿に学んだ事を覚えていたおかげです』
シャーリーのドライブ、ストライク・バスターの属性は炎であるので、エンガの炎魔法に耐える事が出来るのだ。
「同じ属性同士では、あまりダメージを与えられないと言うが、それはお前も同じではないか」
「果たしてそうかしら? 私がパパから学んでいるキャラメル流古武術は魔法を使わない武術よ。それにさっきの攻撃の様に防御の上からでもダメージを与える事が出来るのよ。それと、この炎、あんたに返してあげるね」
シャーリーは拳を構えると、シャーリーの周りで燃えている炎がシャーリーの拳に纏い出した。
「キャラメル流古武術『烈火空破拳』!」
シャーリーが右の拳を前に突き出すと、纏っていた炎の衝撃波がエンガの横を通り過ぎて後ろの火山にぶつかった。
(な、何だ、今のは? 全然見えなかったぞ……それにこいつ、わざと外しやがった……)
エンガの顎から汗が零れ落ちた。地面に落ちて暑さで蒸発する。
「さて、どうする?」
シャーリーは拳を構える。エンガは思わず後ろに下がってしまった。
(この俺様がこんなE級魔導師に恐れているだと!? ふざけるな! 俺様は四神獣の牙だぞ! デュアルドラグロード魔法学校のエリートだぞ! ふざけるんじゃねえ!)
するとエンガの身体が炎を纏い出した。シャーリーは何か仕掛けてくるのかと身構える。
「てめえ如きにこれを使うなんて思わなかったけど、これで終わらせてやるよ」
エンガは大きく口を開けると周りにある炎がエンガの口の中に向かっていった。そしてエンガはそれを食べ始めた。
「う、嘘でしょう……炎を食べているの?」
炎を食べる魔導師なんてありえないと思うシャーリーであったが、エンガは炎を食べていく。そして食べ終わった時、エンガの魔力が増加された。
エンガの髪が燃える様に真っ赤になり、頬には紅い模様が出始めた。シャーリーは拳を握り締めて気合を入れなおす。
(続く)