朱雀の間にある火山が噴火する。
「さて、燃えてきたぜ」
エンガはフレイムフォースを発動して魔力増強している。頬に炎の様な刺青が浮かび上がって、身体がメラメラと燃えている。
「何? 急に魔力が上がった……炎を食べる事で魔力を増加させたのね」
シャーリーは拳を構えて、相手の出方を窺う。
「行くぜ!」
エンガはシャーリーの所に一瞬で跳んで来てシャーリーの腹に肘鉄を当ててきた。シャーリーは防御する事が出来ず、ダメージを受けて顔を歪ませる。
「ぐっ、この!」
シャーリーはすぐに反撃の拳をぶつけようとする。しかし、エンガは腕で受け止めると、シャーリーはエンガの腕の熱さに驚く。
「な、何なの? 身体が本当に燃えているの?」
「フレイムフォースを発動している間、俺様の身体は炎の様に燃えているのさ。身体もかなり高くなっているから、火傷しても知らないぜ」
エンガの手が炎を纏って燃えている。
「炎属性増強魔法と言った所ね。でもね、同じ炎属性の私に効くのかしら?」
「悪いが、こいつを使っている状態の俺様は最強なんだよ。行くぜ!」
エンガはシャーリーに向かって拳をぶつけていく。シャーリーはエンガの攻撃を防御していくけど、相手の拳が熱く、防御を止めて回避行動を取る。
(急に動きが変わった。こいつの熱い拳を受け続けたら、火傷してしまう。でも、私だって負けるわけにはいかないのよ)
シャーリーはエンガの拳を避けてカウンター攻撃をする。エンガが攻撃することを予測して躱してから、カウンターの拳をエンガにぶつける。
「やるじゃねえか。だが、まだまだだ!」
エンガはシャーリーのカウンターを躱して、飛び蹴りを喰らわせる。
「ぐっ! こっちだって、まだまだ行けるわよ!」
シャーリーも負けじとエンガにわき腹にキックを喰らわせる。
シャーリーとエンガの激しいぶつかり合いは続いている。しかし、シャーリーの方はそろそろ体力と魔力が限界が来ている。このままでは、魔力切れを起こしてしまう。
「はぁ…はぁ……」
シャーリーは肩で息をする。身体中痣や火傷の痕だらけになっている。
「どうした? 体力の限界か?」
一方エンガは全く疲れが出ていない。戦っている途中炎を食べて体力が回復しているのだ。
「喰らえ! フレイムバード!」
エンガは右手を前に付け出すと赤の魔法陣を出して、そこから火の鳥を飛ばしてくる。シャーリーは右手の上に左手を下にして円を描く様にして火の鳥を掴んでいく。
「キャラメル流古武術『円月』!」
シャーリーは円を描いていた両手を中心に持っていき、掴んでいた火の鳥達を炎の玉に変えて、エンガに向かって放った。
「魔法を返してくるとは、中々やるじゃねえか。だがな、俺様に炎をぶつけてくるのは間違いだぜ」
エンガは大きく口を開けると、シャーリーの放った炎の玉を飲み込んだ。
「俺様は炎を喰って、さらにパワーアップするのさ。さっき同じ属性同士ではそんなにダメージを与えられないと言ったけど、俺様にとって炎はご馳走みたいな物さ。そして体力も魔力も回復するから、ここにある炎で俺の体力と魔力は無限となるのさ」
エンガは近くにある炎を掴んで、それを口の中に入れる。この朱雀の間にある炎がある限り、エンガは無敵みたいな物である。それに引き換えシャーリーは戦いが長引けば体力と魔力は切れてしまう。
「まあ、お前と遊ぶのも飽きてきたし、そろそろ終わらせてやるよ」
エンガは足元に魔法陣を出して、神獣変身魔法『朱雀』を使って、大きな火の鳥となった。
「いくら炎の耐性がついていても、骨も残らねえぐらいの超高温の炎を喰らえば、骨ごと溶けちまうぜ。さっきみたいに魔法を返せば良いと思っているだろうけど、返す隙を与えなければ意味がないぜ」
エンガはシャーリーの円月を理解している。つまり技を出しても返す隙を与えさえしなければ魔法を返される事はないのだ。
『マスター。すぐに回避行動を』
「そうしたいけど、身体がもう……」
シャーリーの体力はもう限界みたいで、さっきから身体が動かせなくなっている。魔力の方もゲージを見る限り、ギリギリ残っているぐらいである。
『マスター、ここで諦めるのですか?』
「諦めたくないわよ。こんな所で負けたくないわよ」
『でしたら、父上とハクトに教えてもらった事を思い出してください』
ストライク・バスターにそう言われて、シャーリーは思い出す。
『良いか、シャーリー。キャラメル流古武術は確かに魔法を使わない普通の武術だ。しかし、だからと言って魔導師より劣っているわけではない。武術とは心を強くする為の術だ。心が強くなれば、誰にも負けない強さとなるのだ』
『シャーリー、お前が負けたら後衛のクリスやミントに迷惑がかかる。だから、決して諦めずに勝たなければならないんだ。大丈夫だ。お前はやれば出来る魔導師だ』
ヤナギとハクトに言われた事を思い出したシャーリーは、折れかけていた闘志に火が再び点いた。
「そうだったね。私はこんな所で負けるわけにはいかないのよ」
シャーリーは拳を構える。
「ストライク・バスター、ありがとうね。もう大丈夫よ」
「何を考えているのか知らないけど。もうお前が俺様に勝つ事なんて出来ないのだよ!」
「勝負はまだ終わっていないわよ。見せてあげるよ、これが私とキャラメル流古武術、そしてストライク・バスターの力よ!」
シャーリーは体内の魔力を増加させると、身体が真っ赤に燃えて、さらにバチバチと雷が出始めてきた。
「何っ!? 雷属性もあるだと!?」
「あら、属性が一つだけとは限らないでしょう。私は炎と雷の魔法を使う事が出来るのよ」
炎と雷の属性を持つシャーリー。いつもは炎属性だけしか使わないけど、本気のさらに本気になれば、雷属性を使う事にしているのだ。二つの属性を同時に使うと魔力をかなり使うのだ。だから、これは最後の切り札みたいな物である。
「ふははははははぁぁ〜〜! 面白い、面白いぜ!」
朱雀の姿のしているエンガは大笑いする。
「気が変わったぜ。お前とはもうちょっと楽しめそうだぜ!」
エンガはシャーリーの突っ込む。さっきまではシャーリーの円月に対して返せないほどの炎を与えようとしたけど、それを止めて接近戦で勝負する事にしたのだ。
「喰らえ! 朱雀衝撃波!」
エンガの身体が炎を纏ってシャーリーに向かって突っ込んできた。さっきはシャーリーはシールド魔法では受け止められず、吹き飛ばされてしまった。しかし、今度のシャーリーはそんな防御なんてしない。逆に拳を構えて攻撃態勢をとっている。
「さあ、行くわよ!」
シャーリーは足元に魔法陣を出す。
「キャラメル流古武術『紅蓮雷桜牙』!」
シャーリーは拳に炎と雷を纏わせると、突進してくるエンガに向かって正拳突きを放った。ぶつかり合うエンガの突進攻撃とシャーリーの正拳突き。
「はぁぁぁぁぁぁ〜〜!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ〜〜!」
力のぶつかりあいが爆発を起こしてエンガとシャーリーの間合いが離れた。
「朱雀咆哮波!」
エンガは口から大きな炎の玉を作り出して、シャーリーに向かって放った。シャーリーは向かってくる大きな炎の玉を向かって右の拳を引いて、左手を前に突き出す。
「キャラメル流古武術『円月―満―』!」
シャーリーが突き出していた左手で炎の玉を受け止めた瞬間、引いていた右の拳を前に突き出して炎の玉を殴り飛ばした。
「おっと!」
エンガは殴り飛ばされてきた炎の玉を躱した。
「まさか俺様の朱雀咆哮波を殴り飛ばしてくるなんて、やってくれるぜ! だが、まだまだ終わらせないぜ」
エンガが空高く飛び上がって、さっきよりももっと大きな炎の玉を作り出した。
「これで終わらせてやるぜ。さっきのように殴り飛ばせると思うなよ。こいつは全てを貫通させる。これで終わらせてやるぜ!」
エンガの作り出す巨大の炎の玉にさらに魔法陣で膜みたいなのもので包み込んだ。
「良いよ。こっちも次の一手で終わらせてやるぞ」
シャーリーは右の拳に炎と雷を纏わせる。
「朱雀獄炎弾!」
エンガが巨大な炎の玉をシャーリーに向かって放った。さっきまでより威力も上がっていて、とても防げる魔法ではなかった。だが、シャーリーは怯えなかった。自分がこれまでやってきた事を思い出して、そしてハクトとみんなを信じて、そしてヤナギから教えてもらったキャラメル流古武術の為に。
「キャラメル流古武術『煉獄』!」
シャーリーは左の拳に魔力を籠めて、向かってくる巨大の炎の玉に向かって拳をぶつけた。ぶつかり合う中でエンガの放った巨大の炎の玉からひびが入って、ガラスが割れるような感じに粉々に砕けてしまった。
「そ、そんなバカな……俺様の最強の魔法が破られただと!?」
エンガはありえなかった。朱雀獄炎弾は全てを焼き尽くすエンガの最強の魔法である。それを左の拳だけで砕け散ってしまうなんてありなかった。
「左……? ま、まさか!?」
エンガは何かに気付いた時にはもう遅かった。朱雀獄炎弾を放った場所を見ると、そこにシャーリーはいなかった。そして上空からシャーリーが現れた。シャーリーは足に魔力を籠めて爆発を起こして、その勢いで飛んできたのだ。そしてエンガよりも上に飛んできて空に逃げない様にした。
「これで終わりだ! キャラメル流古武術奥義『雷光爆炎拳』!」
シャーリーは全ての魔力を右手に集めて、渾身の一撃をエンガに向けて放った。エンガは防御しようとするが拳のスピードが速すぎて防御出来ず直撃を喰らった。そしてそのまま地面まで落下していく。
(ば、バカな!? 四神獣の牙であるこの俺様が、こんな最下級魔導師に負けるだと!? ありえない、そんなのありえてたまるかぁぁぁ!?)
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜!」
シャーリーはさらに魔力の籠めて地面まで落下していく。そして地面に落ちた瞬間、大爆発が起きた。
爆煙が晴れていくと、そこには拳を地面に向けたままのシャーリーと、渾身の一撃を喰らって気を失っているエンガは人間の姿に戻っていた。
「はぁ…はぁ…はぁ……か、勝った……」
残りの魔力がほとんどなくなっている状態のシャーリーは、そのまま仰向けになって倒れた。そしてエンガの胸に付いていた魔水晶が砕け散って、朱雀の間の結界が消えていった。
「どうだ、デュアルドラグロードの魔導師さん。この世は全て弱肉強食だって言っていたわね。だから、私が強者であんたは弱者と言う事になるのよ……って、聞いていないみたいね」
シャーリーは気絶しているエンガに声をかけるが、全く反応がないのを確認すると、魔導服を解除して制服姿になった。
「ふ〜……ありがとうね、ストライク・バスター。あんたが私のパートナーで凄く嬉しいよ」
『私もマスターのマジカル・ドライブで良かったと思っています。貴女を強くしていく事が私の役目ですから』
「ええ、でもちょっと休ませて貰おうかしら……ちょっと張り切りすぎて疲れちゃった……」
シャーリーは倒れたまま、天井を見上げる。
(ハクト。私は勝ったわよ。だから、あんたも負けるんじゃないわよ。クリスを早く助けてあげなさいよね)
シャーリーはそう思いながら、身体を休める。
玉座の間ではクリスを拘束していた赤の魔法陣が、ガラスが割れる様な音をして砕け散った。その前には緑の魔法陣が砕け散ったので、残るは青の魔法陣だけとなった。
「みんな、頑張ってくれているんだ。残る魔法陣はあと一つ」
クリスはみんなが四神獣の牙と戦っているのだと思っている。そして三つ目の魔法陣が消えたと言う事は、三人倒した事になる。これで残る四神獣の牙は一人となったのだ。
しかし、クリスは知らない。残る最後の一人が四神獣の牙のリーダーである青龍のフーガである事を。そして何より自分が早く自由の身になる事を祈っている。
「……ハクトさん」
クリスは目を瞑るしかなかった。何故なら、玉座の間にて戦っている二人の魔導師、ハクトとサイガ。この二人の戦いは見ていられなくなってしまったからだ。
レナがハクトに向かって叫ぶ。彼女が見ている所が部屋の壁で、そこにハクトがボロボロの姿で倒れているからだ。
「どうしたんだ。お前の実力はそんなものなのか? 下らない。実に下らないぜ」
一方サイガの方は全くダメージを受けていないのか傷一つ付いていなかった。
「くっ……」
「まだ立ち上がるか。そうでなくては潰し甲斐がないぜ!」
サイガは黒い炎を纏わせて、ハクトに向かって跳んで拳を突き出すと黒い炎がハクトに向かってきた。ハクトは魔導殺しNO01でサイガの黒い炎を斬って消滅させるが、その後に来るサイガの拳を防御出来ず、顔面に喰らってしまい、壁に身体をぶつける。
「おらおらおら! まだまだ倒れるんじゃねえぞ!」
サイガはさらに追い討ちを掛ける様にハクトの腹に拳を何発も喰らわせる。ハクトの口から血が吐き出された。
「まだ来るな、レナ!」
ハクトがレナに向かって叫んだ。
「いいか、レナ。こいつは俺が倒す。それまで手を出すな。お前にはやってもらいたい事があるんだ。だから、それまでは手を出すな。良いな、これは命令だ」
ハクトが笑って言った。レナはハクトが何を考えているのか分からない。もちろんクリスもハクトがどうしてレナと一緒にサイガと戦う事をしないのか分からない。
「まだまだ余裕があるじゃねえか。四神獣の牙もあと一人だが、フーガは俺の次に強いぜ」
「そうか……だが、こっちだって勝つと信じているからな」
ハクトが笑みを浮かべているのが気に入らないから、サイガはハイキックでハクトを吹き飛ばした。
残っているのは、青龍の間にいる青龍のフーガとミントの戦いだけである。
(続く)