白虎のライガ、玄武のヒョウガ、朱雀のエンガが倒されてしまい、残りはこの青龍の間にいるフーガだけとなった。そして、その相手はミントである。
青龍の間にて、その二人の戦いはかなり激しくなっている。風が吹き荒れる谷にて大地が突き出ている。ミントの錬金術によって大地を抉られているのだ。
「……それ」
ミントが両手を合わせてから地面を触って錬金術を発動させる。練成陣が出てくると地面から岩の槍が出て来て、フーガに向かって放たれた。
「ふっ」
フーガは右手の人差し指を前に突き出すと、魔法陣を出して風の刃を放って、ミントの岩の槍を切り刻んでいく。
「次はこちらの番です。ソニックセイバー!」
フーガが魔法陣を出すと無数の風の刃を放った。
「……この程度なら」
ミントはシールド魔法を唱えて、フーガの魔法を防いだ。
お互いこれと言った決定打を与えず、まだまだ戦い続けているミントとフーガ。かれこれ30分以上やっているのに、二人とも魔力切れなど全くなく戦い続けている。錬金術を使って攻撃するミントと、空中を飛びながら風属性の魔法を使うフーガ。
「どうやら私の目に狂いはなかったみたいだな。君とこうして戦いのハとても楽しいですよ」
「……ミントはそんなに楽しめないのです。早くクリスを助けないといけないので、貴方を倒さないといけないのです」
ミントは今すぐにでもクリスを助けに行くためにフーガを倒さないといけないと思っている。
「……だから、貴方のその魔水晶を壊す」
ミントはそう言うと、放魔で弓矢を作り出して、フーガの胸に付いている魔水晶に向けて矢を射る。フーガは飛んできた矢を掴んだ。
「……んっ? 何だ、この矢は……?」
フーガが掴んだ矢の先は、まるでキューピットの矢の様なハート型の形をしている。
「これに射止められた者はどうなるのだ?」
「……ミントでも分からないのです」
ミントが放った矢は放魔で作った矢であるけど、効果は何があるのか分からないとんでも魔法であるので、あの矢も何かあるはずである。
フーガはその矢を風の刃で斬る。
「私の魔水晶を破壊する事は出来ない。これは私の精神とリンクしているので、私を気絶させない限り破壊する事は出来ないのさ。これを狙うよりも、私を倒す事を考えたほうが良いぞ」
フーガの付けている魔水晶にはフーガの魔力とリンクしているので、フーガを倒さない限り魔水晶を破壊する事が出来ない。前にライチがヒョウガの魔水晶を破壊しようとしていたけど、実はあれも破壊することは出来なかったのだ。
それからまたしても二人の攻防は続く。ミントが錬金術で足元の地面を柱にして空中にいるフーガと同じ高さまでやってくる。
「……一つ訪ねたい事があるのです。どうしてデュアルドラグロードはシャインヴェルガを攻めようとしたのですか? これは国の決めた事なのですか?」
「質問が二つになっているが、まあ良いだろう。我々デュアルドラグロードがシャインヴェルガに聖戦を与えて来たのだ。力ある我ら帝都デュアルドラグロードが、何故シャインヴェルガに劣るのか理解出来なかった。だから、どちらが強いのか決めようとしているのだ」
「……下らないのです」
ミントはフーガを睨みつける。身体からメラメラとオーラで出ている。
「……そんな下らない理由でシャインヴェルガに喧嘩を売ってきたのですか。皇女様やクリスを誘拐して魔法学校を壊そうとして、先生や黒狐さんまで傷付けて……絶対に許さないのです」
ミントが珍しく怒っている。両手を合わせて地面を触れて錬金術を発動させる。柱の一部から大砲が現れて、そこから鉄球が飛んできた。しかし、フーガは余裕で鉄球を躱す。
「下らない理由とは言ってくれますね。私も今回の聖戦には少し燃えているのですよ。ですから、ここらで国の為に戦うと言うのも良いかと……おっと」
フーガが言い終わる前にミントが大砲から鉄球を飛ばしてきた。
「……戦争をしたいと言うのでしたら、容赦はしないのですよ」
「そうですね。こちらもそろそろ本気でやらせていただきましょう」
そう言うと、フーガは突風を巻き起こして、ミントが作った柱を破壊する。ミントは地面に着地すると落ちてくる岩をシールド魔法で防ぐ。
「東の風よ。矛となりて全てを貫くが良い。エウロススピア!」
フーガが突き出した右手から魔法陣を出して先端が槍の形をした風を放った。崩れた岩を貫いて粉々にしていき、ミントに向かっていく。
「……放魔『シールド・ジ・アイアス』」
ミントは向かってくる風の槍に対して、大きな盾が出現して風の槍を防いだ。
「ほお、やるではないか。伝説の盾を具現させるとは」
ミントのアイアスの盾とフーガの南風の槍がぶつかり合って消滅する。
「……剣よ」
ミントは両手に双剣を出して、それをフーガに向かって投げ飛ばした。フーガはそれを避けるが、双剣はフーガの後を追いかける。
「追跡機能付きの剣か……ならば、南の風よ。疾風の如くその足を加速させよ。ノトスアクセル!」
フーガは風を纏って加速した。ミントの双剣はフーガに追いつけなくなり、追跡機能がなくなって落ちていった。フーガはその速さでミントのいる所までやってくる。
「……っ!?」
ミントはやってくるフーガに地面の触れて大きな壁を作り出す。
「その程度の壁では防げないですよ」
フーガは加速しながら飛び蹴りをして、ミントの壁を破壊した。
「んっ?」
しかし、その足が何かに絡め取られている。
「……捕まえたのです」
ミントは向かってくるであろうフーガに備えて、壁の他にトラップも用意していた。壁が壊れると発動して鉄の鎖で相手を縛ったのだ。
「やりますね。ここまで私の攻撃を予測するとは思いませんでした」
「……貴方の性格なら、この程度の鎖なんてすぐに解けるはずなのです」
ミントはフーガから少し離れる。フーガは「そうでしたね」と呟いた後、簡単にミントの鉄の鎖をぶち壊した。
「……でも、これで終わりなのです」
そう言うとミントは放魔で巨大ピコピコハンマーを出した。人間十人をぺちゃんこに出来るほどの大きさで、ミントはそれを軽々持っている。そしてそれを大きく振り落とした。フーガはそれを避けるけど、ピコピコハンマーで叩きつけられた地面は大きく割れてしまった。見た目はピコピコなのに中身は鋼鉄で出来ているみたいだ。
「見た目とは違って怖い代物ですね。あんなのに叩きつけられたら肉塊にされていましたよ」
「……大丈夫なのです。ちょっとハンバーグになるだけだから」
それは大丈夫ではないと思いますよ、ミントさん……
すると、ミントの足元から風が巻き起こった。
「北の風よ。彼方の空に舞い上げろ。ボレアスダイブ!」
フーガの魔法にミントは空に飛ばされていく。フーガはその後を追う様に飛んでくる。ミントはくるくると回りながら飛ばされていくが、途中で止まる。そして両手に双剣を作り出す。
「……そこなのです!」
ミントが双剣を投げ飛ばすと、また双剣を出して投げ飛ばす。それを3回もするとフーガの周りにミントの剣が飛び回っている。
「……会長の剣属性の魔法の様に出来ないですが、これぐらいならミントでも出来るのです」
飛び回っている剣の様子から、ライムのフェアリーダンスの様に剣が飛び回っているが、ライムのはもっと剣を飛ばしているが、ミントのは放魔で作った双剣であるから長時間続かない。時間が経ったら消えてしまうが、フーガの足止めする事は出来た。
「エウロススピア!」
フーガは東風の槍を飛び回っているミントの双剣に向けて放った。ミントの双剣達は次々と吹き飛ばされて消えていく。
「……よしなのです」
ミントは両手を合わせて両手を前に突き出すと、そこから何かが集り出して銀が作られていく。銀はさらに形を変えて猫の姿になる。
「……行くのです、白銀の猫」
『にゃ〜!』
ミントがそう言うと白銀の猫はフーガに向かってパンチする。
「錬金術にこんなやり方があるとは知りませんでしたね。今の錬金術は空気中にある塵を銀に練成させたのですね。なかなか高度な錬金術でありますし、こんな可愛らしい猫が向かってこられては私も攻撃する事は出来ませんね。ですから、かわいそうですがご退場させていただきます」
フーガは白銀の猫の攻撃を避け続けながら呪文を唱える。
「ハリケーンソニック!」
白銀の猫に対してフーガは風属性の魔法を放つ。白銀の猫は竜巻に巻き込まれて吹き飛ばされた。竜巻に巻き込まれた白銀の猫は切り刻まれてしまって普通の銀に戻って消滅する。その間、ミントは地面に着地するが竜巻がミントに向かってきた。
「……まだなのです」
ミントは先程残していた銀を使って大きな盾を作って竜巻を防いだ。
「残念です。背後ががら空きですよ」
「……っ!?」
ミントが大きな盾で防いでいる間に、フーガはミントの背後を取った。
「西の風よ。剣となりて斬りつけよ。ゼフィロススラッシュ!」
フーガは左手から風の剣を出して、ミントの背中を斬った。ミントはダメージを受けて盾の練成に集中できなくなり盾が消滅して前方の竜巻が襲い掛かってくる。ミントは竜巻に巻き込まれて身体を竜巻の中にある刃に切られて吹き飛ばされる。
背中から地面に叩きつけられて倒れるミント。だが、まだ息はしている。
「……放魔『アゾット』」
ミントは右手にアゾット剣を出して一振りする。光の粒が出て来てボロボロになっているミントの身体を治していく。
フーガはミントが相当魔力を使っているであろうと考える。それは正解である。ミントは放魔と錬金術をかなり使ってしまっているので、残りの魔力も少ない。実際身体の傷は治しても、魔力切れによって身体がフラフラしている。
「……まだ負けていないのです。ミントは負けたらクリスは助けられないのです。お兄ちゃんの役に立ちたいのです」
ミントはフラフラした身体で膝に手を置いて肩で息をしている。
「やはり君があの中で一番強い魔導師もとい錬金術師だったみたいだ。身体がボロボロでも君の目からはまだ敗北の色が映っていないのですから。これは私も全力で相手をしなければ失礼に値しますね」
フーガはそう言うと上空に浮かび上がり、足元に魔法陣を出した。
「我ら四神獣の牙最大の変身魔法。神獣変身魔法『青龍』発動!」
魔法陣が光り出すと、フーガの身体が変化していく。身体が青い鱗をした大きな龍に変身した。
「……それが貴方の本気なのですか?」
「ええ、そうです。我ら四神獣の牙はそれぞれ、朱雀、玄武、白虎、そして青龍と四つの神獣の姿に変わる事が出来る変身魔法を会得している。これは膨大な魔力を使うので滅多に使いませんが、この姿になって敗北した事はありません。それに今の君では本気の私を相手する事など出来ないでしょう。これは私からの感謝の姿です。これで葬ってあげますので、神に祈る間を与えてあげますよ」
青龍の姿となったフーガは大きく息を吸い込んだ。魔力がどんどん膨れ上がっていき、一気に放出しようとしているのだ。
「……ミントはここで負ける訳にはいかないのです。シャーリー達が勝っているのに、ミントだけ負けたらそんなの自分が許せないのです」
「確かにそうかも知れないな。他の奴らの魔力が消えている以上、残っているのは私と君だけだ。だから私も早く君との戦いを終わらせて、残りの三人と戦わないといけないのですよ」
ミントとフーガは戦っている途中で魔力が消えている事に気付いていた。最初はライガ、次にヒョウガ、そして先程はエンガの魔力が消えたから、四神獣の牙で残っているのは自分だけだとフーガは考えている。
「ですが、君はここまでだ。楽しかったですが、世界とは君が思っている以上に残酷なのですよ」
フーガは溜めていた魔力を一気に放出しようとしている。
「これで終わりです。テンペストブレス!」
口から巨大な大嵐をの息吹を放った。
「……パラケルスス。放魔と錬金術の同時解放」
『JA』
両手の甲に付いているパラケルススが光り出して、ミントの身体が光に包まれる。そしてミントは放魔である金属を作り出して錬金術で形を練成させる。そしてフーガのテンペストブレスとぶつかった。
「何だ? 何をしたんだ?」
フーガは仕留めていないとすぐに解った。そしてミントの姿を見ると、ミントの前に何か金色の盾が出ていてミントを守ったのだ。
「私のブレスをあんな盾で守っただと? いや、違う。あれはただの盾ではないな……っ!? まさか、あの盾は!?」
ミントはさらに放魔で先程と同じ金属を出していく。
「幻の金属オリハルコンをこの世界に持ってきたのか……未知の魔法と呼ばれる放出系魔法。その力はめちゃくちゃと呼ぶにふさわしい」
フーガはただ呆然としている。この世界では決して見る事の出来ない幻の金属オリハルコンをこの目で見る事が出来たのだから。
そしてミントは目を瞑ってオリハルコンに触れる。
「……古の世界より眠りし巨人よ。我が命を与えて、ここに目覚めよ。その拳は大地を割り、その足は海を越えよ。そして我が敵を打ち砕け」
ミントが呪文を唱えているとオリハルコンが形を変えていき、巨大な人型となっていく。
「ゴーレム製法……いや、それだけじゃない。これがあの錬金術師の本気という事か。先程までは私と同じ様に手を抜いていたと言うのか……面白い、実に面白いですよ!」
フーガはさっさと終わらせようと思っていたが、それは間違いだった。ミントとまだまだ勝負をしたいと思い始めた。
そしてミントが造ったゴーレムが完成した。ミントはゴーレムの肩に乗る。
「……さあ、行くのです。古の巨人オリハルコンゴーレム」
キュピーンと目を光らせたオリハルコンゴーレムは拳を握り締めて大きく雄叫びを上げた。
(続く)