「うおぉぉぉぉ〜〜!」
デュアルドラグロードの浮遊城の地下を必死に走っている虎之助。天井がひび割れて今にも崩れそうになっている。
「あの、虎之助様。大丈夫なのですか?」
ミルフィーユ皇女が虎之助に問いかける。
「おお、大丈夫だぜ。タイガーである俺っちは無敵だぜ」
「それはそうですけど……これはちょっと……」
ミルフィーユ皇女は少し恥ずかしそうな表情をする。
「ほへっ? どうしたのですか、皇女様?」
「あの……この様な抱っこは、その恥ずかしいです」
ミルフィーユ皇女が恥ずかしがるのも当たり前である。今ミルフィーユ皇女は虎之助にお姫様抱っこされている。
「何を仰っております、皇女様。お姫様を運ぶ方法と言いましたら、お姫様抱っこと決まっているのですよ」
「まあ、そうなのですか? それは失礼しました……あっ」
「ほへっ? ぐへぇ!?」
虎之助が前に走っていると首に崩れて横になっていた柱が引っ掛かった。虎之助はそのまま首が伸びていく。お前はゴム人間か!?
そして引っ掛かった首が取れて、一気に縮んでいき、やがて元に戻った。
「あんなのより、俺っちの方が格好良いぜ。とにかく、ここももうすぐ崩れるかも知れませんから、しっかり捕まっていて下さい。少しスピードを上げますので」
「はい。虎之助様にお任せします」
ミルフィーユ皇女は両腕を虎之助の首にしっかり抱き締める。
浮遊城が大きく揺れ始める。最上階にある玉座の間にて、大きな魔力が二つぶつかり合おうとしているのだ。
ぶつかり合う二つの巨大な魔法。しかし、それはすぐに決着が着いた。何故なら、サイガの八岐大蛇はどんどんハクトの天魔神滅陣に飲み込まれていったからだ。
「な、何だ? 何が起きている!? 何故俺の八岐大蛇が飲み込まれているんだ!?」
「簡単な話だ。天魔神滅陣によって、お前の魔法は飲み込まれているからだ。魔戒神生流裏秘伝の奥義と言っても、魔神の魔法の方が上だと言う事だ」
「どう言う事だ!? 俺の魔戒神生流は最強のはずだ! 親父からそう教わってきたんだ」
「残念だけど、裏秘伝を超える魔法。それこそが神の力も魔の力も飲み込む魔神ラグナローグの力。そして! これが本当の魔戒神生流奥義の力だ!」
ハクトは左腕をゆっくりと引いて力を籠めてから、思い切り前に突き出した。すると、天魔神滅陣から無数の竜巻が出現してサイガの周りに襲い掛かってきた。
「こ、これは!?」
「お前が出した八岐大蛇の魔力と一緒に返してやったんだ。相手の魔法を飲み込み、その魔力と俺の魔力を合わせて返す。これこそが天魔神滅陣の本当の使い方だ!」
「それって、ハクトさんとサイガの魔力を合わせたと言う事は、2倍いいえ3倍返し!」
クリスが驚くのも無理はない。奥義同士がぶつかり合おうとした以上、それを飲み込んで返して来たという事は、撥ね返したと言うより、倍にして返したと言うのが正解である。そして、倍で返ってきたと言う事はいくら防御に徹しようが防ぎきれない。
「バカな……この俺が負けると言うのか……」
襲い掛かってくる無数の竜巻にサイガは足を動かす事が出来ない。逃げ場がない以上、防ぐ事も出来ない。
(何故負けた……俺は親父に認められるためにここまで来たんだ……どんな手を使ってでも……)
サイガは向かってくる竜巻の前で何かを思い出している。それは昔の話だ。
サイガはただ父親のゼーガに自分を認めてほしかっただけだった。優秀であるゼーガはサイガがどんなに上手く出来たとしても当然だと言って褒めてあげない。サイガがどんな努力しても優秀であるゼーガは出来て当たり前だと言って、出来なかった時は何故こんな簡単なことも出来ないのだと罵倒し怒鳴り続けてきた。ゼーガにとってサイガはかつて敗北を喫して苦汁を舐めさせられ、今も自分の上に立っている嵐山黒狐に復讐する為の道具に過ぎなかった。だからこそサイガはゼーガに自分を認めてほしいと心の中で思っていた。
(負ける? 負けるのか? あいつと俺に一体どこに差があった。あいつにあって、俺にない物とは一体なんだったんだよ……)
サイガはそのまま竜巻に襲われて壁を突き抜けて外に落ちていった。今も続く竜巻は玉座の間の壁や天井を壊し続けていく。だが、そんな竜巻もハクトやクリスには一切襲い掛かってこなかった。まるでそこだけは音ら罠様に動いている。
そして竜巻が止んでいくと、玉座の間はかなりボロボロになっていた。天井は全部崩れて星空が見える様になった。
「はぁ…はぁ…はぁ……」
ハクトは息を乱して片膝を着く。
「ハクトさん、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。少し魔力を使いすぎて疲れただけだ」
「レナ、お疲れ様。ありがとうな」
レナは少し頬を赤くして顔を逸らした。
「クリス!」
すると扉の方からシャーリー、ミント、ライチがやってきた。
「みんな……うわわっ!?」
シャーリー、ミント、ライチがクリスに抱きついてきて、クリスは倒れそうになった。
「良かった、クリス。大丈夫だった!? 怪我してない?」
「え、ええ……大丈夫よ」
「……クリス、無事で良かったのです」
「クリスさん、良かったですわ」
「ミント、ライチさん。うん、ごめんなさい。それとありがとうね」
クリスは微笑んでミントの頭を撫でる。
「ハクト、あんたも大丈夫なの? 何だか、物凄い魔力を感じたのだけど」
シャーリー達が階段の上っている間に、ハクトの天魔神滅陣とサイガの八岐大蛇がぶつかり合っていたので、シャーリー達も大きな魔力に驚いていた。
「ああ、こっちも大丈夫だ。あいつをぶっ飛ばしたから、もうここにいる理由はない。帰ろうか、みんな」
ハクトはゆっくりと立ち上がった。みんなも頷きあって玉座の間を出ようとする。
「っ!? 全員ふせろ!?」
ハクトが叫ぶと玉座の間から炎と氷の魔法弾がハクト達に襲い掛かってきた。ハクトはシールド魔法を展開して攻撃を防いだ。
「くっ……」
だは、残り少ない魔力で作ったシールド魔法であって、すぐに効果が切れて、ハクトは膝を着く。
「ハクトさん!? もう魔力が」
「はぁ…はぁ…はぁ……大丈夫だ。それよりも奴だ」
ハクトは崩れている玉座の所にいる人物を見る。
「やれやれ、まさか君達がここまでやってくれるとは計算外でしたよ」
そこにはゼーガが不敵に笑みを浮かべながら立っていた。
「ゼーガ……サイガは倒した。この戦いは俺達の勝ちだ」
「君達の勝ちだと? 何をおかしな事を言っているのですか? あんな奴に勝ったぐらいで終わってほしくありませんよ。まだこの私がいるのを忘れないで頂きませんと」
「あんな奴……」
クリスはぼそりと呟いた。
「あいつだけは……許せない……ぐっ」
ハクトが必死で立とうとするが、魔力が切れかかっている所為で上手く立ち上がれない。
「その身体で私に挑もうと言うのですか。無駄な事を」
ゼーガが人差し指をハクトに向けて指すと、人差し指の前に魔法弾を作って放った。ハクトは避ける事も出来ず喰らってしまい倒れる。だが、今のはたとえ万全であっても避けられなかったかも知れない。何故なら、今の魔法弾はハクトの目ではまったく捉える事が出来ず喰らった事さえあとで気付いた様子である。
「ハクト!?」
「……お兄ちゃん!?」
「ハクト様!?」
シャーリー、ミント、ライチがハクトの前に立つ。
「…に、逃げろ……」
ハクトが三人を止める様にするが、力が入らず声が出せない。
「おやおや、君達が私に歯向かうと言うのですか……愚かなガキ達ですね」
ゼーガは再び人差し指を前に突き出して、シャーリーに向かって魔法弾を放った。
「ぐっ!」
シャーリーはシールド魔法でゼーガの魔法弾を防いだ。その間にミントが錬金術でゼーガの足元の岩を鎖に変えて拘束する。そして、ライチがスカーレットローズを出してゼーガに向けて一閃する。
「……なっ!?」
しかし、ライチの剣はゼーガに届く前にシールド魔法で止められてしまっている。
「所詮はガキの考えですね。この優秀な大魔導師である私に通用するとでも思ったのですか?」
ゼーガは人差し指を上に向けて動かすとライチの周りに雷を纏った竜巻が発生して、ライチを上空に吹き飛ばした。そしてミントの拘束を解くとシャーリーに向けて氷と岩石の魔法弾を交互に放った。シャーリーはシールド魔法で防ぐが二つの属性には耐え切れず、シールドは破壊されて吹き飛ばされる。最後にゼーガはミントの足元から炎と雷の衝撃波を与えてミントを吹き飛ばした。三人は地面に落ちて倒れる。
「ぐっ……な、何なの……あの魔法は……」
「……それが何なのです。ミント達は諦めないのです」
ミントが立ち上がろうとすると、シャーリーやライチも立ち上がろうとする。
「ほお、まだ懲りないみたいですね。くたばりなさい、ガキどもめ」
ゼーガがミント達の足元に魔法陣を張ると、炎を纏った竜巻の魔法を放った。ミント達は暑さと風の力を喰らって悲鳴を上げる。
「シャーリー、ミント、ライチさん!」
「っ!? はぁぁぁぁ〜〜!」
炎の竜巻は消滅して、ミント達は地面に倒れる。
「貴方の魔法を狩らせてもらいます!」
レナが魔導殺しNO07を構えて跳んだ。その速さに面食らうゼーガの背後に周ったレナは彼の首を横に一閃しようとする。
「小ざかしい事を……身の程を知れ!」
ゼーガは自分の周りに黒いレーザーみたいなのが浮上した。レナは黒いレーザーを斬ろうとするが、効果がなく、黒いレーザーにレナは喰らってしまう。
「レナちゃん!」
クリスはレナまで倒れてしまい、レナの名前を叫ぶ。
「やはり役に立たない駒ではダメでしたね。この私がやっておけばもっと簡単に終わらせられたみたいですね。所詮ガキはガキと言う事ですね」
「……役に立たない駒……ですって」
クリスの言葉が聞こえたのか。ゼーガはニヤリと笑った。
「ええ、その通りですよ。任務を遂行出来ない奴なんて、役立たずですよ。この優秀な大魔導師である私の許で学んだと言うのに成果を出せないなど、ゴミ当然です。サイガもあれだけ大見得を切っておきながらあの様です。死んだのでしたら、それはあいつに運がなかったと言う事でしょうね。ふははははは!」
ゼーガは大笑いする。クリスは歯を噛み締めて、拳を握り締めて立ち上がった。そしてゼーガを思い切り睨み付けた。
「許せません……貴方だけは絶対に許せません……」
クリスはゆっくりとゼーガに向かって歩き出す。
「クリス……ダメよ……」
「……クリス。戦ってはダメなのです……」
「クリスさん……くっ」
倒れていたシャーリー、ミント、ライチはクリスを見上げて言うけど、クリスはそのまま前に進んでいく。
「ブレイブスター、システムコードリリース」
「今度は君の番ですか? でもお友達を傷付けられて冷静さを失っていますね。そんな奴など、すぐに終わらせてあげますよ」
ゼーガは余裕の笑みを浮かべながら、人差し指を前に突き出してクリスに向かって岩と雷の魔法弾を放った。しかし、クリスは一瞬で姿を消した。
「な、何だ!? どこにいる!?」
「貴女の目の前ですよ」
クリスはゼーガの前にいて、杖を構えている。
「スターダストシュート!」
クリスは天空の魔法弾をゼーガに向けて数発放った。ゼーガはクリスを目の前に現れた事に驚いて、シールド魔法を出す事も出来ず、クリスの魔法弾を喰らった。
「き、貴様……」
ゼーガはクリスの攻撃に腹が立ってきたのか、ゼーガは魔法弾をクリスに向けて放ったが、クリスは瞬間移動する様に消えてしまう。
「みんなを傷つけて、さらにデュアルドラグロードの皆さんも駒扱いする。そんな貴方を私は許しません。エンジェルフェザーモード!」
クリスの背中に白い翼が生えて上空に飛び、スターダストシュートを放つ。
「舐めるでないぞ。ガキが」
ゼーガはクリスを睨みつけると、岩石に雷を纏わせてクリスに向けて放った。
「そんな魔法、私には届きません」
クリスはゼーガの攻撃を避け続ける。
「みんなが私を助けに来てくれた。だから今度は私がみんなを助ける番です。行くよ、ブレイブスター」
『了解です、マスター』
ゼーガに本気で挑もうとするクリス。ブレイブスターを構えて、みんなを守る為に戦い始める。
(続く)