クリス、シャーリー、ミント、ライチ、レナの5人は、海に飛び込んで必死に鬼ヶ島へ泳いでいくが、魔法が使えないこともあり、魔力を上手く使えないので泳ぐこともかなり辛いみたいだ。
「ぷはっ、みんな、大丈夫?」
シャーリーが先頭になってみんなの状態を確認する。
「私は大丈夫だよ」
「……ミントも大丈夫なのです」
クリスとミントが返事をするが、ライチのレナは返事をする余裕がないみたいに必死に浮いている。島までまだまだある距離であるが、そんなに荒れている海でないので、少しずつ進んでいけば約五分で辿り着けるはずである。
そう、何も起きなかったらの話である。
「んっ?」
「どうしたの、クリス?」
「今、海中に何か大きな影が見えたのだけど……」
「……く、クリスさん…じょ、冗談はよして……下さいまし……こ、こんな海のど、ど真ん中で……大きな影が見えたって……い、言わないで下さい……」
既に体力の限界なのか、息切れ状態のライチが必死に抗議をする。しかし、今まさにライチの周りに黒い影が通り過ぎていったのを、他の四人が確認した。
「……ら、ライチ、し、下……下に……」
「で、ですから、驚かせないで…下さい……そんなの…いるわけが……」
ライチが否定しようとした時、ざばーんと言う音とともにライチの背後から何かが浮上してきた。ライチ以外驚きの顔をしていて(ミントは目をキラキラさせている)ライチはゆっくりと後ろを振り返ると、そこには巨大なカエルが顔を出していた。
「な、ななな、何ですの〜〜!?」
巨大カエルが口を大きく開け出すと、海水がどんどんカエルの口の中へと入っていく。当然クリス達もどんどんカエルの口の中へ飲み込まれようとしている。
「ど、どどど、どうするの!?」
「こんな奴、魔法でぶっ飛ばして……」
「……今、ミント達は魔法が使えないのです」
ミントの言葉に四人はそうだったと気付いた。
「どうにもなりませんわ!」
「シャーリーちゃん、貴女の古武術なら何とか出来るのでは」
レナは前にシャーリーが使っていたキャラメル流古武術は魔法を使わない武術だと聞いている。
「そうだけど、海の中じゃあ拳に力が入らないよ。あのカエルの上に跳べれば」
「だったら、私に任せて」
レナが海の中に入ってシャーリーの足裏に手を置いて、勢い良く海上へ上がっていった。それにより、シャーリーは少しだけど海の上に立つ事が出来た。
「これなら行けるわ!」
シャーリーは足に力を入れると勢い良く上に跳んだ。
「喰らえ! キャラメル流古武術『震空拳』!」
シャーリーは拳を構えてカエルに向かって放った。カエルは拳と内側から来た衝撃波を喰らって、海の水を飲むのを止めた。あと少し遅かったら、クリス達はカエルのお腹の中に入る所であった。
「やった! 凄いよ、シャーリー! レナちゃん!」
どぼんと落ちてきたシャーリーと海から顔を出してきたレナに抱きつくクリス。
「ちょっ、く、クリス!?」
「クリスちゃん、苦しい……」
クリスに抱き締められたシャーリーとレナは溺れそうになる。クリスが二人と一緒に海の中に沈んでいってから気付いて、やっと解放して海中から顔を出してきた。
「ぷはっ! ごめんなさい!」
「いや、良いけどね……」
「……うう、危うく溺死する所だった」
シャーリーとレナがぶくぶくと顔を出してきた。
「……カエル」
ミントがお腹を上にして気絶しているカエルを見てしょんぼりしている。あの巨大なカエルの事をかなり気に入っていたみたいだった。
「これでもう何も怖くありませんわね……」
「それはフラグよ、ライチ……って、嘘……?」
シャーリーが突っ込んだ瞬間、それは大きな波が発生して、クリス達を飲み込んでいった。
「きゃあぁぁぁぁぁ〜〜!」
クリス達は海の中で意識を失っていく。
「う、う〜ん……」
クリスがゆっくりと目を開けると、砂の匂いがした。
「あ、あれ……? 私達……」
身体を起こすと、そこは人の気配がまったくしない無人島だった。砂浜の奥には森が茂っていて奥には大きな木が立っていた。海の方ではさっきのカエルや大波なんて夢みたいな感じな穏やかに波の音を出している。
「……みんなは?」
クリスは周りを見渡すと、シャーリー達が近くで倒れていた。クリスはみんながいる事にほっと安心する。クリスはみんなを揺すって起こしてあげると、シャーリー達も漸く目を覚ました。
「良かった、みんな無事みたいね」
「ええ……本当に死ぬかと思った」
「……なのです」
「まったくですわ……」
「修行にはなりましたけどね」
全員もう満身創痍状態である。
「その割には荷物は全部無事と言うのは凄いですよね」
クリスは背負っていたバッグを確認すると中身はまったく濡れていなかった。
「……防水加工にも程があるのです。これって紫子さんが用意した物ですけど、一体どこの物なのですか?」
「さあ……」
メーカの名前がどこにも書いていないけど、防水加工には本当に驚かされた。
「バッグの中には……Tシャツとジャージのズボン、あとサバイバルナイフが一本入っているね」
バッグの中身を確認すると、無地の白いTシャツと紺色のジャージのズボンが一着ずつと、刃渡り10センチ程度のサバイバルナイフが入っていた。
「良かった。このまま水着で生活をするのかと思いました」
クリスは水着のまま生活するのかと思っていたけど、ちゃんと着替えがここに用意されていた。紫子はそこまで考えていたのだろう。
「……クリス、シャーリー、ライチ。上だけでも着たら?」
ミントが今頃になってクリス達に教えてあげた。実はクリスやシャーリー、ライチのビキニタイプの水着は上だけが何故かなくなっていたのだ。クリス達も漸くそれに気付いて悲鳴を上げて胸を隠す。一方ミントとレナはワンピース水着であったので問題はなかった。
「ど、どどど、どうして無くなっているの? さっきまでちゃんと付けていたはずなのに!」
クリスは辺りを見渡すと、クリスの水着が勝手に動いているのが見えた。いや、勝手にではない。何か小さい物がビキニを持って移動しているみたいだ。
「あれは、ネズミ?」
レナが確認すると、そこには数十匹のネズミがクリスの水着を持って移動している。他にもシャーリーやライチの水着も持っている。
「……バッグに手紙が入っているのです。『鬼ヶ島には女性の下着や水着を盗んでいくネズミ『パンチュー』と言うモンスターがいるので、下着や水着を洗濯する時は気を付けるのじゃ』と書いているのです」
ミントがバッグに入っていた防水シートでラミネートされていた手紙を見つけてそれを読んだ。どうやら、そのパンチューと言うネズミのモンスターがあれである。
「ふふふ、あのネズミどもめ……」
シャーリーがメラメラと燃えている。それに続いてライチも立ち上がった。
「行きましょうか、シャーリーさん」
「ええ。返してもらうわよ、私達の水着を!」
シャーリーとライチが一斉に走り出して、パンチュー達を蹴散らしていく。パンチュー達も抵抗しているが、今の二人に対抗する事が出来ない。
そして数分後、パンチュー達が漸く水着を手放して逃げていった。
「はぁ…はぁ…はぁ……と、取り戻したわ……」
「はぁ…はぁ…はぁ……まったく、何なのですか、あのネズミ達は……奪われない所かわたくし達の着ている水着まで盗ろうとするなんて」
シャーリーとライチは息を乱して水着を取り戻した。戦いの時、パンチュー達は奪われないよう抵抗していたと思ったら、今度はシャーリーとライチの下の水着まで取ろうとしていたけど、それも何とか食い止めたのだ。
「とりあえず、また盗られないように服に着替えておきましょう。水着はどこかで私達の目の届く所で干しておけば良いし」
「そうだね。またあいつらに盗られたくないし」
クリスの提案にシャーリーは納得して、他の3人も首を縦に振った。他に誰もいないと言う事で、その場で水着を脱いで服に着替える。
「んっ?」
するとクリスが何かを感じたのか、森の方に振り向く。
「どうしたの、クリスちゃん?」
「う〜ん……今何か誰かに見られていたの様な気がしたんだけど……気のせいだよね」
鬼ヶ島は無人島である以上、そこに住んでいる人などいないはずである。だからクリスは気のせいだと思って、それ以上は考えない様にして着替えを続けた。
しかし、クリスの勘は当たっていた。森の奥の方でがさがさと言う音がして草の中からキュピーンと言う音が鳴るぐらいの二つの光が光っていた。
着替えを終えて、バッグの中身を確認すると、中からこの島の地図みたいなのが出てきたが……
「黒狐さん……ヘタすぎます」
クリスはがっかりしていた。この地図は黒狐が書いた地図だが、それはもう幼稚園児が書いた様な落書きの地図であった(第一話でハクトに渡した地図と同じである)
「……最早地図としての機能がないのです」
「地図なしでどうやってこの島の事を知れば良いのよ……」
彼女達にとって鬼ヶ島は未開の島である。だからこそ地図は絶対に必要な道具だと言うのに、この地図ではまったく役に立たない。
「これではどこに何があるのかまったく分かりませんわ。どうしましょう」
「とりあえずあの大きな木までは行ってみませんか?」
レナが砂浜からも見えている大きな木を指した。距離は少しあるけど、そんなに時間が掛からないと思われる。黒狐の落書き地図でもその大きな木が書かれていて『ここで寝泊りをする様に』と書かれている。
「そうだね。まずはそこまで行ってみましょうか」
クリスがみんなに訊く。シャーリー、ミント、ライチはそれに賛成する。クリス達はバッグを背負って立ち上がって大きな木を目指して森の中に入っていった。
森の中に入ってしばらくすると、クリス達は叫び声を上げながら逃げている。追っているのは全長20メートルぐらいの一角の草食獣である。
「何であんな大きな生物がいるのよ!」
「知りませんわよ!」
「……喋る事よりも走るのです」
クリス達は必死になって逃げ惑っているが、先頭を走っているレナが目指す大きな木に向かっているので、目的地にはどんどん進んでいる。
「あ、あれ?」
クリスが後ろを振り返ると、さっきの草食獣が急に動きが止まった。まるでクリス達を見失ったみたいにキョロキョロと辺りを見渡している。
「どうしたのかな? 何で急に私達を追わなくなったのかな?」
「……ここ、何かの結界が張ってあるみたいなのです」
ミントが近くの木を調べると、何かの札が貼られていた。それが結界の札であると気付く。
「でも、この島って魔法が使えないんじゃあ……」
クリスは魔法を使おうとするが魔法弾や空を飛ぶ事すら出来ない。だからさっきの一角の草食獣相手でも逃げる事しか出来なかったのだ。
「……多分、ここには何か別の力が出ているのです。恐らく紫子さんが何かしたのかも知れないのです」
ミントの考えは殆ど当たっていた。紫子がこの島に来る人の為に用意してあった結界であったのだ。
「みんな、見えてきました」
レナが指した場所は広場となっていて、その中心に大きな木が立っていた。
「結構広いんだね、ここって」
「ですが、寝る所がありませんわね。どこで寝るのですの?」
ライチの言うとおり、ここには寝泊りをする家とかがないのだ。広場には草しかなくて大きな木の根元には大きな空洞があって、そこにも札が貼られていた。
「うわ、ここ何だか暖かいのだけど」
「ここも何か別の力があるみたいね。ここなら寝ても風邪は引かない」
レナが荷物を降ろすと、クリス達も荷物を降ろした。
「あれ? 何でしょうか、この傷は……」
クリスを壁に掛かっている傷を見つける。四本の斜め線に一本の縦線が交えている傷が六つ付いていた。
「これってもしかして漂流した人が付けた日付じゃないかな。よく漫画やゲームでもサバイバル生活の時にやっているお約束みたいなやつ」
「ああ、ありますわね。それじゃあ、これは30日間ここにいた人が付けた者ですわね」
「それってもしかしてハクトさんじゃないかな。前にここで一ヶ月間いたと言っていたので、その時に付けたのかも知れないね」
「ハクトは一ヶ月もここに過ごしたと言うの……それなのに私達は五日間しか過ごさないといけないんだよね」
シャーリーの言葉にみんなは黙ってしまった。
「何だか、少し悔しいね……」
「そうですわよね……」
「……ミント達は、いつまでもお兄ちゃんの後ろを追いかけている感じなのです」
クリス達はいつもハクトに助けてもらってばかりである。だけどこの特訓で少しでもハクトのあとを追いかけていきたいと思って参加したと言うのに、またしてもハクトとの差を見せ付けられてしまった。
「ねえ、みんな。本当にこのままで良いのかな……だったらさ、私達だって……」
クリスがみんなに提案した。シャーリー、ミント、ライチ、レナはお互い顔を見合わせてから大きく頷いた。
(続く)