鬼ヶ島にある大きな木まで辿り着いたクリス達。そこの根元には掘られていた傷を見つけた。
「私達、本当にこのままでいいのかな?」
クリスは言葉にシャーリー、ミント、ライチ、レナは首を縦に振った。
「そうだよ。私達は強くならないといけないんだ。五日間なんて短過ぎるよ」
「そうですわよね。わたくしも異存はありませんわ」
「……みんなが決めた事をミントが変えるなんてしないのです。ミントと一緒なのですよ」
「やりましょう、みんな。魔導師や紫子先生の為にも私達が強くなる為にも」
「うん!」
クリスが右手を前に出すと、シャーリー、ミント、ライチ、レナはそれぞれ右手を上に乗せていく。
「あれ? 手を乗せたのは良いのですけど、誰が声を出すのですか?」
「……クリスなのです」
「そうよ、クリス。あんたが最初に出したんだから」
「わ、分かった。それじゃあみんな、頑張りましょう!」
「「「「おぉ〜〜!」」」」
クリス達は大声を出して気合を入れた。
魔法少女の正しい学び方
第八十三話 鬼ヶ島での決意
「……と、気合を入れたの良いのですけど、結局どうするのですか?」
「う〜ん……どうしよう」
クリスは両手を組んで首を傾げる。強くなると言ってもこの島の事については、この場にいる全員が無知であるので、どうすれば良いのか、さっぱり分からないのだ。
「あら、奥から何か聞こえますわ」
ライチが耳を澄ませると、奥から何か音が鳴っているのが聞こえてきた。クリス達も耳を澄ませてみると、確かに何かが鳴っている音が聞こえた。
「これって……電話の音?」
耳を澄ませるとちりりり〜んと言う音が聞こえた。
「行ってみましょう」
クリスは音が鳴っている方へと向かって走っていく。シャーリー達もクリスの後を追う。空洞は奥に行くにつれて暗くなっていくはずなのに、天井に豆電球が付いていて明かりとなっている。そして音源である黒電話を見つける事が出来た。
「これ、電話なの?」
クリスは初めて見る黒電話に困惑する。クリスの家の電話はデジタルであってこんな黒電話を見てもよく分からなかった。
そしてさっきからずっとちりりり〜んと黒電話が鳴り続けている。
「ど、どうしたら良いかな?」
「そんなの受話器を取れば良いじゃない」
「そ、そうだよね。よし!」
クリスは覚悟を決めて黒電話の受話器を取った。受話器を耳元に当てるクリス。すると……
『おお、漸く繋がったか。どうやら無事に島に辿り着いたみたいだな』
「ゆ、紫子さん!?」
電話の相手は何と紫子であったから、クリスは驚いた。それは周りのみんなも驚く事であった。
『うむ。みんな元気で良かったぞ。ハクトなんかお主らの事が心配しておったからな』
「えっと、これってどこに繋がっているのですか?」
『わしの実家じゃ。ちょっとその島に工夫しておっての。その近くに映像を映す事が出来る映写機があるはずだから、それでわしの顔が映す事が出来るはずじゃ』
「シャーリー、近くに映写機があるからそれを点けてくれるかな?」
「う、うん……あ、これだね」
シャーリーは近くにあった映写機を見つけて電源スイッチを押すと、向こう側で和室にいる紫子が映った。
『おお、見えるか』
紫子は手を振ってくる。そしてさっきは受話器を取っていたクリスしか声が聞こえなかったけど、映写機からはみんなにも紫子の声が聞こえた。
「あの紫子さん。この島って何だか色々な動物がいるのですけど、あれは一体何なのですか?」
『おお、それって「パンチュー」と言うネズミの事を言っておるのか。手紙にも書いてあったけど、あいつらはたまに下着や水着を盗んでいくから注意しておく事じゃ』
「あのネズミどもめ」
「剣の錆にしてくれますわ」
シャーリーとライチがパンチューの事で再び燃え出した。
「……二人は結構根に持ちすぎなのです」
「ミント、誰でも水着を盗られると怒るよ」
『何じゃ、早速奴らに襲われたのか』
「はい。浜辺で私とシャーリーとライチが水着を盗られそうになったのです」
『言っておくけど、奴らは中々諦めない奴らだからな。今後は下着を洗濯する時は気を付ける事じゃ。奴らはいつどこからやってくるか分からぬからの』
はっはっはっと紫子は笑っているが、クリス達は笑い事ではないので笑えなかった。
『さて、お主らにはそこで五日間過ごしてもらうが、やっていけるか?』
紫子はニヤニヤと言っているが、クリス達は目を合わせた。
「あの紫子さん。少しお願いがあるのですけど良いでしょうか?」
『んっ? どうしたのじゃ?』
「えっと……実はみんなと話をしたのですけど、私達この島でしばらく修行をしたいのですけど、良いでしょうか?」
クリスの提案に紫子は目を見開いて驚いた。
『ほお、それはどうしてじゃ?』
「五日間だけここで過ごしても多分強くなれないと思うのです。ハクトさんはこの島で長く過ごしていたのかも知れないと思ったのです」
『それは正解だ。ハクトはその島で一ヶ月は過ごしておったからの。まだちっこい時にわしが無理矢理置いていったのじゃ。一ヶ月そこで過ごせたらわしが直々に修行をつけてやると言っての。そしてハクトは見事に一ヶ月過ごす事が出来てあれほど強くなったのだ。まあ、わしにはまだまだ遠く及ばないけどな。ちなみに黒狐は一年間そこで暮らしておったぞ』
「い、一年!?」
あの黒狐が一年間鬼ヶ島で過ごしていたと知り驚くクリス達。やはり自分達は甘くされていると気付き落ち込んできた。
『どうしたのじゃ、そんなに暗い顔になって。まあ、お主らはまだまだ半人前じゃからな。五日間過ごす事が出来ればたいしたものだと思うぞ』
「それじゃあダメなんです! それじゃあ何のための特訓なんですか!」
クリスは怒鳴る様に叫んだ。
『何じゃ? お主らもその島がどれだけ危険なのか身を持って理解したはずだぞ。海には大型の海獣、森には大型の草食獣だけではなく肉食獣もおるのだぞ。しかも魔法は一切使えない。今のお主らなら二日も保たないと思うぞ。体力と気力がなくなってすぐに帰りたいと思ってしまうぞ』
それを言われるとクリス達は黙ってしまった。まさにその通りだった。海には大型のカエルに出くわして、浜ではパンチューと言うネズミ、そして森には一角の草食獣が襲いかかってきて、クリス達はただ逃げることしか出来なかった。しかも紫子の話では肉食獣もいると言っていた。
「だけど……ハクトさんは一ヶ月も過ごす事が出来たのですよね」
『そうじゃ。あいつも当初はすぐに帰りたいと言うと思ったが、見事に一ヶ月過ごす事が出来た』
「でしたら……私達も負けたくありません」
クリスは持っている受話器を強く握り締めた。
「いつまでもハクトさんの背中を追いかけても、ハクトさんはすぐに遠くまで行ってしまいます。それを繰り返していましたらいつまで経っても追いつけません。ですから、私達ももっと強くなりたいのです」
『……なるほどな。クリスはそう言っておるけど、他のみんなはどうなんじゃ?』
紫子はシャーリー、ミント、ライチ、レナを見ると、四人も決意は出したみたいな表情をして首を縦に振った。すると紫子はニヤリと笑った。まるでこの五人の表情を待っていたみたいな顔であった。
『良いじゃろう。そこまで言うのなら、わしも気分が変わった。五日間だけじゃあ不満だと言うのなら、ハクトと同じ一ヶ月は過ごしてみるか?』
「一ヶ月……」
今が七月の下旬であるから一ヶ月過ごしても夏休みが終わるわけではない。
『どうしたのじゃ? やはり一ヶ月は無理か。だったら一週間に変えても……』
「いいえ、やります! 一ヶ月間ここで過ごします!」
『そうか。そう言ってくれるとわしも嬉しいぞ。そこで一ヶ月過ごせばお主らは生まれ変わった様に強くなっておるはずじゃ』
紫子は待ってましたと言わんばかりに大喜びしている。
『心配するでないぞ。お主らの親には既に連絡しておるから』
「……それって最初からミント達を一ヶ月間ここに過ごさせる気満々ではなかったのですか?」
『まあ、お主達ならそう言うと思ったからの。信じておったぞ』
「本当に一ヶ月間ここで過ごせれば強くなれるのですか?」
『もちろんじゃ、それは約束してやる。それまでにお主達のマジカル・ドライブをグレートアップさせておいてやる』
「わたくし達のマジカル・ドライブをグレートアップしてくださるのですか?」
『そうじゃ、お主らから預かっておったマジカル・ドライブは今エンジニアがアップグレードしておるのだ。お主らが強くなるから、ドライブの方もアップグレードをしておかないといけないからの。だから預からせたのじゃ』
紫子はクリス達が強くなるのでマジカル・ドライブも魔導師の強さに合わせないといけないので、ドライブエンジニアであるジンがクリス達のマジカル・ドライブをアップグレードしているのだ。
「では、わたくし達が強くなっている間、マジカル・ドライブも強くなっていると言う事なのですね」
『そうじゃ。いくらお主らが強くなっても、ドライブが弱いままでは意味がないからの。お主らの力に合わせて調整する必要があるから。心配するでないぞ』
グッドサインを出す紫子。ジン先生なら問題ないとクリスが思った時、レナが手を挙げた。
「紫子先生、私にはドライブがないのですけど……」
レナは元々魔導殺しNO07を元にして作られた人工生命体。魔力も持たないのでマジカル・ドライブは持っていないのだ。
『言ったはずじゃろう。心配するなと。今レナ専用のマジカル・ドライブも開発しておる。もちろん魔導殺しNO07もアップグレードさせてやる』
「本当ですか!?」
レナが驚くの表情をする。
『わしは嘘など吐かぬ主義じゃ。期待させておいてがっかりさせる様な事はせぬ。とにかく楽しみに待っておれ』
「はい……」
「良かったね、レナちゃん」
クリスはレナに声を掛けてまるで自分の事の様に喜んでいる。レナは頬を少し赤くして嬉しそうに頷いた。
『さてと、連絡はそちらからも掛ける事が出来るけどあまり期待するでないぞ。わしも結構忙しいからそっちに構ってられないからな』
「いいえ、大丈夫です。私達は私達で何とかしてみます」
『うむ、良いぞ。少し心配はしておったけど、その顔ならもう大丈夫じゃろうな』
「はい。色々とありがとうございました。それでは一ヵ月後にまたお会い出来る様にこちらも頑張ります」
『おお、頑張るが良いぞ。それじゃあ切るぞ』
紫子がそう言ってからプツンと映写機の映像が切れて、受話器からもツーツーと電話が切れた音が流れた。クリスは受話器を戻す。
「……これでミント達は一ヶ月間ここで特訓が出来るのですね」
「そうね。もう逃げられないんだよね」
クリス達が決めた以上、もう逃げられる事が出来ない。だけど、クリス達に恐怖感はなかった。
「だけど、何とかなるよ。私達はどんな時でも決して諦めなかったでしょう」
「そうですわね。ハクト様がここにいましたらきっと諦めるなと仰いますわ」
「……そのお兄ちゃんの為にも、ミント達は強くならないといけないのです」
「魔導師と一緒に戦う為に……そして魔導師に追いつく為に」
「よっしゃあ、燃えてきたわよ!」
「その意気だよ、みんな。頑張ろう!」
「「「「おぉ〜!」」」」
クリス達は手を挙げて気合を入れた。
「それじゃあ、まずはこの島の探索から始めないとね。どこに何があるのかまったく分からないから、島を歩いていきましょう」
クリスは黒狐の地図を広げる。しかし、この落書きの地図ではどこに何があるのかまったく分からない。だから、まずはこの島の探索をする事を提案する。
「まずわたくし達がいる所はここですわね」
ライチが黒狐の地図(らくry)で大きな木が書かれている場所を指した。現在クリス達がいる場所がここである。
「そして私達が最初に辿り着いた砂浜がここだったはず」
レナが黒狐の地図(らry)で砂浜らしき場所を指した。
「……あとはこの辺りがさっきまでミント達が逃げ回っていた森だったのです」
ミントが黒狐の(ry)で砂浜らしき場所の上の方にある場所を指した。もじゃもじゃと書かれているここが森だとクリス達は解読した。
「と言う事は、残っているのは最初の砂浜の反対側の方と、あの火山みたいな山だけね」
シャーリーが黒(ry)で島の反対側の場所を指して、ここからでも視認出来る大きな火山を指した。
「あの火山って噴火とかしないのかな?」
「……この地図もどきには火山の事は書いていないのです」
ミントの言うとおり地図(もどき)には火山の事は書かれていない。
「でも近くまでは行ってみようよ。危険なのかどうか確かめないと」
「私もシャーリーの意見には賛成です。噴火しそうならば近寄らなければ良いのだから」
シャーリーの意見に賛成するレナ。クリスはうんと一度頷いてから決めた。
「よし、まずは火山まで行ってみましょう。危険なのかどうかはそこで判断しましょう。それと途中までも道のりも知っておかないと」
「それなら私が得意だから、私がやる」
レナが手を挙げる。レナはかつてサバイバルの様な生活をしていた時にどのルートが一番近道なのか彼女の目が覚えてくれるのだ。
「それじゃあレナちゃん。これからは島の地図をマッピングとかしてくれるかな?」
「うん、分かった。私もみんなの役に立ちたいから」
「この島では魔法が使えませんから、やはりここはシャーリーさんが頼りになりませんといけませんわね」
「さっきみたいなモンスターが出て来たら真っ向から勝負しろって言うの」
「……ミントがみんなに指示を出すのです。それから何か武器になりそうな物を作っておく必要があるのです。それはミントが担当するのです」
それぞれみんなの役割が決まっていく。クリスが中心になって島の探索をして、シャーリーはモンスターが出て来た時キャラメル流古武術で倒す。ミントはモンスターとの戦闘時の指揮官と武器の作成をして、ライチは武器が出来次第シャーリーと一緒にモンスターを倒すが、今はクリスと一緒に島の探索、レナは島を探索しながら地図を作成していく。
こうして、クリス達は鬼ヶ島にて一ヶ月間の生活を始める事になった。
(続く)