鬼ヶ島でのサバイバル生活を始めて三日が経った。最初は初めての事で戸惑っていた事が多かったクリス達だったが、漸く慣れてきたのか、やっとまともな生活になってきた。
森の中で突進してくる大きな草食動物が迫ってきても逃げる事をしないで立ち向かっていった。
「せいっ!」
「はあぁ〜!」
シャーリーは拳で、ライチはサバイバルナイフで草食動物と戦っている。
「これで終わりよ!」
シャーリーがトドメの一撃を喰らわせて草食動物を倒した。
「ふ〜、これでよしっと……」
「さてと、ミントさんから頼まれていた物を取りませんとね」
ライチは草食動物の角を手に入れた。
「さてと、クリス達の方も終わっていると思うから戻りますわよ」
ライチはサバイバルナイフを鞘に納めて、角を持って戻ろうとする。
「ちょっと待ちなさいよ! 私を置いていくな!」
シャーリーも草食動物の尻尾を掴んで引き摺っていく。
魔法少女の正しい学び方
第八十五話 鬼ヶ島の怪物
ミントはとんちんかんと錬金術で色々な道具を練成している。鬼ヶ島では魔法は使えないけれど錬金術は出来るみたいで道具作成は全てミントに任せている。
「……とんちんかんとなのです」
練成陣で包丁やお鍋なども練成している。
「どうかな、ミント」
レナが大量の鉄鉱石を持ってきた。
「……バッチリなのです」
鉄鉱石を練成陣の中心に置いて練成して、新たな道具が出来た。
「ミント〜! 戻ったよ!」
シャーリーとライチが帰ってきた。
「……お帰りなのです」
「頼まれていた物を取ってきましたわよ」
シャーリーとライチは取ってきた草食獣の角や鳥竜獣の爪などをミントに見せた。
「どうかな、ミント。これだけあれば出来る?」
「……うん、あとはクリスが持ってくるので揃うのです」
「クリスちゃんは今火山の近くに行っているから、帰ってくるのは遅くなると思うよ」
レナが火山の方を向いた。今あそこの近くにはクリスが一人で行っているのだ。
火山近くには鉱石が取れる採石場みたいな場所になっていて、クリスはミントが練成したピッケルを使って鉱石を採取していた。
「ふ〜、今回は結構取れたね」
クリスは一息吐いて倒れている木に腰掛ける。袋の中には鉄鉱石や結晶石と言った鉱石がたくさん入っている。
「これだけあれば問題ないでしょう。これでミントも喜ぶかも……っ!?」
クリスは何かの気配を感じて腰を上げて周囲を確認する。
「この気配は……奴か!?」
クリスは叫んだ瞬間、周囲からパンチューの群れがクリスに襲い掛かってきた。
「いつまでもやられると思ったら、大間違いよ!」
クリスは持ってきていた長さ1メートルぐらいの棒を持ってパンチュー達を薙ぎ払ったり吹き飛ばしたりしていった。この三日間でクリスは杖を使う時の近接戦闘用に棒術を覚えていっているのだ。
次々とパンチューを倒していくけど、数で圧倒するパンチュー達はそれでもクリスの下着を手に入れようと奮闘する。
「この……いい加減にしなさい!」
それでも負けじと頑張るクリス。その時大きな気配を感じてクリスはその場から少し後ろに跳んだ。その後、ドシンと何かが上からやってきた。
「……出たわね。いつもいつの突然現れる謎の怪物」
体長2メートルぐらいで髪がもじゃもじゃと顔まで隠れているが目をきらーんとさせていて、上半身裸で下は黒いブーメランパンツを穿いている謎の怪物。
「ウガァァァァァァ〜〜!」
怪物は雄たけびを上げるとパンチュー達は慌てて逃げていった。パンチュー達はこの謎の怪物が現れると一目散に逃げていってしまうのだ。
「ウガウガ! ウガッフ!」
怪物は何か言っているが、クリスには理解出来なかった。
「今日こそその化けの皮を剥がして、私達が受けた辱めを百倍返ししてやるんだから!」
クリスは頬を真っ赤にして棒を構える。
実はクリス達がこの怪物と出会ったのは初日の夜であった。クリス達が夕飯の準備を終えていざ食べようとした時だった。この怪物が突如やってきて、夕飯と干してあった水着を盗んでいったのだ。それからこの三日間たまに現れてはクリス達を辱めていったので、温情なクリスもこいつが現れたらぶちのめそうと考えている。
「ウガ〜!」
怪物はクリスに向かってジグザクに突進してくる。クリスは相手の動きをよく読んでから躱していく。怪物攻撃は主に体当たりか、両腕からのひっかき攻撃だけである。クリスはその2パターンさえ把握していれば躱す事が出来るのだ。
「この!」
クリスは怪物の攻撃を躱して腋腹狙って横に薙ぎ払って、そのまま棒の先端を顎に向けて突いた。怪物は上に吹っ飛ぶが着地する。急所である顎を狙ったのに全くダメージがない。この怪物の厄介な所はタフな所である。ダメージを喰らっていないのか全く分からない所であるので、クリスも倒せるかとどうか分からないのだ。
「本当にいい加減くたばってほしいよ」
クリスがこんな事を言うぐらい、この怪物には嫌な思いしかしていないのだ。
「うがが〜!」
怪物は力を溜め始めている。クリスは距離を取って構える。そして怪物が右手で思い切り拳をぶつけてきた。クリスの反応が少し遅れてしまって避ける事ではなく棒で防御態勢をとってしまった。その為、棒が真っ二つに割れてしまって、クリスは吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ! いてて……」
クリスは起き上がる。幸い後ろに跳んだ事でダメージを最小に抑える事が出来たけど、持ってきていた棒はもう役に立たなくなったからクリスは棒を捨てる。
「やってくれますね……って、ちょっと貴方達!?」
クリスの周りにずっと伺っていたパンチュー達がここぞと言う時に現れてクリスの下着を手に入れようとしてくる。
「い、いやぁぁぁぁ〜! ズボンを下げようとしないでよ!? この! いい加減にしなさい!」
クリスはパンチュー達を蹴り飛ばしていった。
「ふ〜……さて、残るはあの怪物だけ」
クリスは怪物に向かって跳んでいき拳をぶつける。
「うがが〜!」
怪物は両腕でガードしてクリスに向かってひっかき攻撃をしてくる。クリスは怪物のひっかき攻撃を躱すと、右足のジャンピングキックを放った。
クリスはこの鬼ヶ島に来て、魔法が使えない事から護身術として先程の棒術とシャーリーから武術を学び始めたのだ。天空魔法だけだとやはり不便になってきているので、ここらでシャーリーに武術を、ライチやレナからは武器を使っての練習を始めて、ミントからは錬金術での攻撃を躱す回避練習を始めているのだ。みんなも自分達のスキルを上げる為にそれぞれ練習を始めている。その中でもっとも鍛錬に励んでいるのがクリスである。
現にこうして怪物相手に一人で奮闘出来る様になったのだ。今までなら魔法が使えないので逃げるしか出来なかったけど、今では真っ向から勝負する事が出来る。
「せいやっ!」
クリスは右の拳をまっすぐ突き出してぶつける。怪物は少し後ろに下がった。
「はあ…はあ…はあ……今日はなかなかしつこいですね……いつもだったらもう逃げているはずなのに」
怪物との戦闘から既に50分が経っている。本来なら20分ぐらいでこの場から立ち去ってくれるはずなのに、いまだにクリスと戦おうとしている。だからクリスも撤退出来ずにこうして戦闘続行しているのだ。
「いい加減に倒れてくださいよ。私達の水着の仇を取りたいのですから……」
先程も説明したけど、この怪物は初日にクリス達の水着を盗んでいったのだ。あれからまだ返してもらっていないし、せめて仇を取ろうと戦いを挑んでいる。
「ウガ? ウガウガ」
すると怪物が何かを思い出したようにある所からクリス達の水着を取り出した。
「えっ? い、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!? ど、どこにしまっているのですか!? 私達の水着を!?」
クリスは大声で悲鳴に近い声を上げた。そう、クリス達の水着は怪物のパンツの中に入っていたのだ。ずっとそこに入れられていたのか、何だか嫌な臭いが出ている。
「水着が……私の水着が……」
涙を浮かべながらクリスは呆然とする。クリスの水着はハクトと一緒に買った大切な水着であったのに、今では見る影もない感じである。
「……許さない。絶対に許せない!」
クリスは涙を拭ってキッと怪物を睨み付けた。背中から真っ赤な炎が燃えていて、本気で怒っているようだ。まあ、大事な物をパンツの中に入れられていたら誰だって怒るだろう。
「ぶちのめす……」
クリスは拳を構えて怪物に向かっていった。
「喰らえ! キャラメル流古武術『空破絶衝拳』!」
クリスは最初に右の拳での正拳突きをした後、瞬時に左の拳で同じく正拳突きを放った。怪物は不意を突かれた二連撃だった為まともに喰らって吹き飛ばされた。森の中へ消えてしまったから、どうなったのか分からないのでクリスはトドメを刺しに森の中に入っていった。
「どこ行きました! 隠れていないで姿を見せなさい! 今日と言う今日だけは絶対にぶちのめして、今晩のおかずにしてやるんだから!」
クリスはきょろきょろと周りを見渡して怪物を探し出す。
「ウ……ウガガァァァァァァ〜〜!」
北東付近から怪物の声がしてクリスはそちらに向くと、怪物はクリスに飛びかかってきた。
「逃げない事は褒めてあげますよ。でもね、水着の穢した代償はまだまだこんな物ではないのですよ!」
クリスは拳を構えてぶつかろうとした時、クリスと怪物は何かの気配を感じてその場から後ろに下がって距離を取った。そしてそこにドシンと何かが乱入してきた。
「う、嘘でしょう……?」
クリスの顔が青ざめていった。今クリスの目の前には怪物とは比べ物にならない全長3メートルの巨大肉食竜が獲物を狙ってきょろきょろと真っ赤な瞳を動かしている。
「こ、ここに来て森のヌシと出くわすなんて……最悪だ……」
鬼ヶ島にはある場所の王とも呼ぶべきヌシが存在する。森のヌシ、空のヌシ、海のヌシ、火山のヌシと四体の大型獣がいて、どんなに頑張ってもクリス達は勝てない相手である。
「くっ……あいつを仕留められる絶好のチャンスでしたけど、ここはもう逃げるしかない!」
クリスは踵を返して一目散に逃げていった。ついでに採石場に置いていった鉱石を忘れずに持って帰った。
漸く結界内に入る事が出来て、クリスは息を吐いた。ここまで全力疾走で走っていたのでもう限界みたいでその場で座り込んだ。
「はあ…はあ…はあ……何とか逃げ切れたみたいだね」
いくら森のヌシと言っても、結界内に入ってくる事はないので安心である。
「クリス、そんな所で何やっているの?」
すると、シャーリーがクリスを発見した。
「ああ、シャーリー。ちょっと森のヌシと遭遇してしまって走って逃げてきたの」
「大丈夫だったの!?」
「うん、ほらこうして鉱石もちゃんと持ってきたから」
クリスは持っていた袋の中にある鉱石をシャーリーに見せてあげる。
「おお、結構採ってきたのね。これならミントも喜ぶと思うよ」
「そうだよね。早くミントに届けてあげないと」
クリスは立ち上がって袋を持ち上げた。
「お帰りなさいませ、クリスさん」
「お帰り、クリスちゃん」
「ただいま、みんな。ごめんね、遅くなっちゃって」
「……ううん、クリスは頑張ってくれているのです」
「それにしてはかなり遅かったみたいでしたけど、何か遭ったのですか?」
「ちょっとね……」
クリスは先程遭った事を説明した。話をしている内にみんなが怒りに燃えだしていき、クリスもだんだんと怒りが再浮上してきた。
「許すまじ、あの変態怪物め! 今度会ったら完膚なきまで叩きのめしてやるんだから!」
自分達の水着の末路を知り、ますますあの怪物をぶちのめしたくなったシャーリー。
「わたくしの水着……結構高かったのですのよ。絶対に許しませんわ」
「……乙女の心を穢した罰は、死あるのみなのです」
ライチもミントも拳を握りしめて決意を固めた。うんうんとレナは首を縦に振った。
「とりあえず、これで材料は揃ったんだよね、ミント」
クリスは話を変えてさっき採ってきた鉱石を出した。
「……うん、これなら出来るかも知れないのです」
ミントは練成陣を描いていき、その上にサバイバルナイフや草食動物の角、鉄鉱石と素材を置いていった。
「……よし、これで」
ミントは精神を集中して自分が作ろうとする道具をイメージする。そして、練成陣に力を入れると練成陣は光りだして、中心に置いてある道具がどんどん形を変えていった。
「頑張って、ミント」
そばでクリス達が見守っている。ミントはクリス達の頑張りを無駄にしたくないと自分の力を精一杯使っていく。
そしてボンと爆発してそこには長さ1メートルぐらいの長剣が出来上がった。
「……出来たのです」
「ありがとうございますわ、ミントさん!」
ライチはミントを抱きしめた。ライチの武器である長剣を作る為に、色々素材を集めてくれたのだ。ライチは出来上がった剣を持って一振りする。
「うん、重くもありませんし刃こぼれもしませんから、問題ありませんわ」
「……喜んでもらえて良かったのです」
「ええ、この剣であの憎き怪物を倒せるかも知れませんからね。首を洗って待っていなさい」
ライチがにやにやと笑いながら問題発言を言っている。
「まあこれでライチの戦力も上がったし、あとはヌシや変態怪物を倒す事だね」
「でもまだ油断出来ないよ。ここは私達の予想を遙かに超える出来事が起こる島だから気を抜かない様にしないと」
「レナちゃんの言うとおりだよ。まだまだ初めの内だからね。全員で必ず強くなってこの島を出ようね」
クリス達の団結力はどんどん固まっていき、そして強くなっていく。
クリス達の鬼ヶ島サバイバル生活終了まで、あと27日
(続く)