「……むむ!」

 ピキーンと何かが走ったミントの髪がピーンと上に伸びた。

「ど、どうしたの、ミント?」

「……今何かミント以外にお兄ちゃんの妹キャラが出てきて、ミントの妹株が落ちてきている様な気がするのです」

「何言ってるのよ、ミント?」

「……こ、このままではミントは妹キャラではなくなってしまうのです! こうなったら、お兄ちゃんにミントの呪い(おもい)を送るのです」

 そう言ってミントは両手で円を描く様に動かしながらぶつぶつと何か呟いている。

「……お兄ちゃんの妹はミントだけなのです~~……お兄ちゃんの妹はミントだけなのです~~……」

「ちょっとミント!? 何しているの!?」

 ミントの奇怪な反応に戸惑いながらも鬼ヶ島で生活をしていっているクリス達であった。

 

 魔法少女の正しい学び方

第八十七話 鬼ヶ島での火山のヌシ

 

 鬼ヶ島での生活十日目。

「はあ~~!」

「てや~~!」

 クリスとシャーリーが拳をぶつかり合う。

「せいや~~!」

「とりゃあ~~!」

 突き出した拳が離れた瞬間、足がぶつかり合った。お互い一歩も引かずにぶつかり合っている。そして拳をもう一度ぶつかり合おうとした瞬間、じりりと時計が鳴り響いた。

「……そこまでなのです」

 ミントの言葉にクリスもシャーリーも拳を止めた。クリスはシャーリーの左頬に、シャーリーはクリスの鼻に拳をぶつける前に止まっている。そして拳を引いてお互い深呼吸をしてからお辞儀をする。

「やるわね、クリス」

「ううん、まだまだだよ。今の一撃はシャーリーの方が速かったよ。あのままだったら私の方が負けていたよ」

 クリスは苦笑いしながら言った。だがシャーリーはクリスの成長に少し驚いていて、さっきのもクリスの拳が頬を少し掠めていたから、もう少しずれていたら直撃していただろう。

「それよりもあっちの方は大丈夫なのかな」

 クリスはここにいないライチとレナの心配をする。二人は今ミントの錬金術に必要な素材集めの為、火山付近を探索している。

「ただいま戻りましたわ」

 するとライチとレナが戻って来た。

「お帰りなさい、ライチさん、レナちゃん」

「どうだったの? ちゃんと採って来たんでしょうね?」

「失礼しますわね。この通りですわ」

 ライチは持っていたバッグの中に大量の鉱石を出した。ミントはそれらの鉱石を見ていく。

「……うん、結構良い鉱石を見つけてくれたのです。助かるのです」

「いえいえ、どういたしましてですわ」

「ヌシや奴には遭わなかったの?」

「いいえ、今日はまだ遭っていない」

 シャーリーが島にいる四頭のヌシと散々クリス達を苦しめている怪物について訊くが、レナが首を横に振って遭わなかったと答える。

「ミント、これでまだ武器とか練成出来る?」

「……正直に言うと難しいのです。やはりジルコニス鉱石がないともっと強力な武器が出来ないのです」

 ジルコニス鉱石は翡翠の魔晶石で、武器を作る為の芯として使われる。それがあればライチの剣やクリスの棒も強化する事が出来る。

「でも、そんな物この島にあるの?」

「……火山の中にあるのですが、火山のヌシが守っているのです。結構難しいのです」

 ミントの話では、鬼ヶ島にある火山の中にジルコニス鉱石を見つけたのだけど、火山のヌシがそれを守る様にそこに住み着いているのだ。

「……ミント、今の武器と道具でどうにか出来ないかな。例えば、火山のヌシと戦っている間、何とかジルコニス鉱石を採る事は?」

「……難しいのですけど、やれない事はないのです。クリスは出来ると思っているのですか?」

「出来ると思うよ。ただ結構無茶をしないとこの中の誰かは重傷になってしまうかも知れない」

 クリスはみんなで火山のヌシからジルコニス鉱石を採る作戦を考えているけど、成功する確率は低く、失敗すればただでは済まないと思っている。

「大丈夫だって! みんなでやれば何とかなるって! そうでしょう!」

 シャーリーが考え事をしていたクリスの肩を叩いて元気付ける。

「そうですわね。この島に来て十日目ですわ。そろそろヌシとも相手をしてもよろしいのではないでしょうか」

「ヌシ達の動きは私が覚えています。必ず私が勝利へと導いてみせます」

 ライチもレナも笑顔で答える。

「……クリス、やりましょうなのです」

「そうだね。みんな、火山のヌシと戦いましょう!」

 クリスは決断した。この島で強くなるにはやはりあのヌシ達を倒すしかないと、ヌシ達に勝つ為に己を鍛えてきたのだから。

 こうして、クリス達はそれぞれ準備を終えて、火山のヌシがいる火山へと向かった。

 

 鬼ヶ島にある火山は中に入る空洞があり、そこはまるでダンジョンの様に作られていた。仕掛けや火山の中に棲む魔物もいて、クリス達はそれらを突破していく。

 そしてクリス達は巨大な扉の前までやって来た。

「この先にヌシがいるんだよね」

 シャーリーはごくりと喉を鳴らす。彼女はよくここまでは来ているけど、中にいるヌシと相手をしても勝つ事が出来ずに敗走しているのだ。

「……その奥にジルコニス鉱石があるのです」

「そうですわね。今回は退くわけにはいきませんですわね」

「クリスちゃん、行きましょう」

「うん……みんな、準備はいいね?」

 クリスはみんなの顔を伺い、扉を開ける。扉の奥では大きな円形の広場があり、その周りは溶岩になっている。

「暑いね……」

「……なのです」

 ここは火山の中心部に当たるので、かなりの温度になっている。

「ヌシは何処に?」

 レナが魔導殺しNO07(マジックスレイヤーナンバーゼロセブン)を構えて周りを見渡す。

「っ!? 来るわよ!」

 シャーリーがそう叫ぶと、ゴゴゴと地鳴りが起きた。そして溶岩が噴き出して、そこからキラーンと目みたいなのが光りだして、上がってきた溶岩から全長50メートルの紅い龍が姿を現した。

「出てきたわね、火山のヌシ。相変わらずでかいわね」

「言っている場合ではありませんわ。来ますわよ!」

 ライチがそう言うと、火山のヌシは口を大きく開いて火を吹きだした。クリス達は散開して火の息吹を躱す。

「まずは飛んでいるヌシの所まで行くわよ。ミント!」

「……了解なのです」

 ミントは両手を叩いてから地面を触れて錬金術を発動させて地面を柱の様に伸びていく。クリス達は柱を跳んでいき、火山のヌシまで届いた。

「喰らえ!」

 シャーリーが拳をぶつけるが、火山のヌシにまったく効いていない。

「クリスさん!」

「はい!」

 クリスとライチは背後から剣と棒で攻撃する。しかし、この攻撃も火山のヌシにはまったく効いていないみたいだ。そもそも龍の鱗は鋼よりも硬いので、普通の攻撃ではまったくダメージを与える事が出来ない。

「本当に頑丈な身体ですわね」

「でもいくら龍の鱗でも、何度も攻撃を繰り返していたら必ず通るはずです。それにミントなら」

 クリスは地上にいるミントを見ると、ミントはぶつぶつと何かを呟きながらクリス達の戦いを観察している。レナもいつでも出られる様に見ている。

「とにかく突破口はミントが作ってくれる。それまで私達でヌシに攻撃しましょう」

「分かりましたわ。シャーリー、貴女はボロボロになるまで攻撃をしなさい」

「言われなくたって解っているわよ!」

 クリスとシャーリーとライチの3人は、ミントが作ってくれた柱を跳び回って火山のヌシの攻撃を避けながら何度も攻撃をする。

「ミントちゃん、ヌシの動きがだいぶ読めてきたよ」

「……合図はそっちに任せるのです」

 レナとミントは火山のヌシの動きを観察する。そしてミント達の上を火山のヌシの顎が通り過ぎようとした瞬間……

「今よ!」

「……いっけぇぇなのです!」

 ミントは地面から大きな岩の拳を練成して飛ばした。それが火山のヌシの顎に命中する。火山のヌシはバラ数の崩す様に大ダメージを受けた。そこをクリスは逃さなかった。クリスは火山のヌシの背中に飛び乗って顔の所まで走っていく。火山のヌシの頭までやってきて、クリスは棒で脳天に一撃を加えた。火山のヌシは大きく声を上げて暴れだす。

「うわわっ!?」

 クリスはバランスを崩して落ちそうになったけど、何とか踏み止まった。その間、シャーリーとライチが火山のヌシの顎に攻撃する。

「だいぶ効いてきたみたいね」

「ええ、このまま責めますわよ」

 シャーリーとライチはもう一度攻撃しようとするが、火山のヌシはさらに上昇して攻撃を躱した。

「おっと!?」

 頭に乗っていたクリスは上昇する火山のヌシに攻撃する。しかし怯むどころか身体から熱を出してきて、クリスの足がどんどん熱くなってくる。

「ミント、もっと柱を伸ばして!」

「……む、無理なのです。これ以上柱を伸ばすと支え切れなくなって崩れてしまうのです」

 ミントの錬金術は必ず対価が必要である。今錬成している柱も地面の物質を使っているから、これ以上使いすぎると支えている地面が抉られて最後には支えきれなくなって崩れてしまうのだ。ミントはそれらを計算して錬金術を使っているので、これが限界なのだ。

「そんな、あんな高さじゃ、クリスも降りられないじゃない」

 火山のヌシは火山から出そうなぐらい上昇していき、クリスは棒を使って何とか落ちない様に踏ん張っている。

「……どうしたら良いのです」

 ミントはあらゆる手段を瞬時に考える。しかし、どんなに考えた手段でもパラケルススがない状態ではすぐに実行させる事が出来ないと判断して別のプランを考える。

 そしてクリスも頭から背中の所まで落ちていく。

「くっ、このままじゃあ落ちてしまう。その前に!」

 クリスはもう一度火山のヌシの背中を走り出して頭までやってきて渾身の一撃を与える。

「まだまだ!」

 さらにクリスは連続で攻撃をする。火山のヌシは攻撃を耐えているけど、上昇していた動きが止まり、今度は火山の中に向かって急降下しようとしている。

「えっ? ちょ、ちょっと待って!?」

 まさか急降下するとは思わなかったクリスはバランスを崩してしまい、火山のヌシの背中から離れてしまって落ちてしまう。

「クリスが落ちていくよ!?」

「あのままじゃあ、危険ですわ! ミントさん!?」

「……ダメなのです。あそこでは届かないのです」

「クリスちゃん!?」

 シャーリーたちもクリスが落ちていくのを見ているしかなかった。そしてクリスも自分がもうダメだと思い、目を瞑ってしまう。

『諦めると言うのか、魔を極めし者よ』

(えっ?)

 目を閉じていたクリスに誰かの声が頭の中に入ってくる。目を開けると目の前には火山のヌシがいた。

「っ!?」

 クリスはびくっと身体を震わせた。まさか目の前に来るとは思わなかった。

(た、食べられる……)

 これまでかと思ったクリスだが、火山のヌシは全く攻撃しようとしない。落ちていくクリスはどうしたのかずっと火山のヌシを見ている事しか出来ない。

『魔を極めし者よ。ここで諦めると言うのか』

(えっ? やっぱりこれって火山のヌシの念話(テレパシー)? でも、ここでは魔法は使えないのじゃあ……)

『我に挑戦してきた以上、敗走は許さぬ。証明せよ。そなたらの力を。そして感じるが良い。ここは魔を極める為の島。魔の力をイメージするが良い』

 火山のヌシの言葉にクリスは目を閉じてイメージを作る。すると、感じなかった自然の気配と魔力を少しずつ感じ始めた。

(これってこの島の魔力……そうだ。この島では魔法を使えないと私達が勝手に勘違いをしていただけ……思い出して……魔法を使う時のイメージを……今この状況を何とかするには……)

 クリスは力強くイメージしていくと、風がクリスに纏いだして、少しずつ落ちていくスピードが減速していく。

「あ、あれって……?」

「クリスさんが……飛んでいますわ」

 シャーリーたちもクリスが空を飛んでいくのに驚いている。

『さあ、魔を極めし者よ。我に真の力で挑むが良い。我もここから手を抜かぬぞ』

(火山のヌシさん、その前に訊かせて下さい。貴方達は何者なのですか?)

『我らヌシと呼ばれる者は、この島に挑む者達の試練と試験官。この島で魔を極めし者が更なる可能性を見つけ出す為に召喚された者達』

(それじゃあ、他の三体のヌシもそうなのですか?)

『そなた等がより成長させる為の試練。かつてここにやってきた少年も我らヌシと戦い魔を極めた。そなた等もあの少年の様に強くなりたいと言う思いがあるはず』

(……そうでした。私達は強くなりたい。ハクトさんに守られてばかりではダメだと。だから強くなると決めたんだ。だったら、こんな所で諦めるわけにはいかないじゃないですか!)

 クリスの決意が魔法へと変わり、クリスは空中で止まった。クリスの周りに風が纏わせて白銀の粒子は出ている。

「みんな! 魔法を使うイメージを作って! ここでは魔法は使えるから! 強い思いがあればきっとできるから!」

 クリスがシャーリー達に向かって叫んだ。シャーリー達は顔を見合わせてから、目を閉じてイメージをする。

「……これって」

 シャーリーの右腕がどんどん熱くなっていき、炎が纏いだした。いつもの様に魔法を使えるようになっている事に少し驚いている。

『魔を極めし者達よ。我を倒してみろ』

「言われなくても分かっているよ。行くよ、みんな!」

 クリスは空中を飛んでいき、掌に魔力を集める。

「もっと力を溜めて……そして相手の動きをよく見て……」

 クリスは火山のヌシを観察して、掌で集めた魔法弾を放った。火山のヌシの尾に当たるが、あまありダメージを与えられなかった。

「もっと相手の動きを見ないと……」

 クリスは火山のヌシの動きをもう一度確認すると、スピードが上がっている事に気付く。どうやら火山のヌシも本気を出してきたのだろうとクリスは思った。

「……クリス、一旦戻ってほしいのです」

「分かったわ」

 クリスは一旦ミント達の所に下りていく。

「クリス、どうしてここでは魔法が使えるの?」

「分からない。けど、ヌシの声が聞こえたの」

 クリスはさっきまで火山のヌシと話をした事をシャーリー達に話した。

「この島にいるヌシは私達を試しているか……面白いじゃない」

「みんな、私達は勝つ。それだけは絶対に忘れてはいけない。私達はハクトさんに追いつくのではなく、追い越すぐらいの想いが必要だと思うから」

「そうですわね。今更退くなんて御免ですわ」

「……ジルコニス鉱石も手に入れたいのです」

「やろう、クリスちゃん」

 シャーリー、ミント、ライチ、レナは微笑む。クリスも微笑んでから火山のヌシに振り返る。

「それじゃあ、行こう、みんな。ドライブがないから魔力消費が激しく回復は遅いから、一気に終わらせるよ!」

 クリスは号令をかけると、シャーリー達も動き出す。彼女たちの動きに火山のヌシも本気で動き出した。さっきまで動きが遅かったのが、急激にスピードを上げて火山の中を飛び回っている。

「あっちも本気になったみたいね。面白いじゃない」

 シャーリーはミントが練成した土の柱を上っていき、火山のヌシの前までやってくる。

「喰らえ!」

 シャーリーが炎を纏った拳で火山のヌシの顎を狙った。しかし、火山のヌシは顔を上に向けてシャーリーの攻撃を躱した。

「甘いわよ!」

 だけどそれを予見していたシャーリーは身体を回転させて雷を纏わせた足でかかと落としを火山のヌシの頭にぶつける。火山のヌシはそのまま下へと落ちていく。

「そっちに行ったわよ、ライチ、ミント!」

「了解ですわ、ミントさんお願いしますわ」

「……任せるのです」

 ミントは錬金術を使って地面がやわらかい土へと変わった。その土にライチは種を蒔くとそこから植物が芽を出すと真っ赤に燃える花が咲きだした。

「行きますわよ。レッドフラワー

 燃えている花が破裂すると、花弁が火山のヌシへと向かっていった。火山のヌシに触れいく花弁が爆発していった。

「……次はこっちの番なのです」

 ミントは錬金術で使って地面から拳の形をした岩を練成してミサイルの様に発射させる。しかし、火山のヌシは尻尾で岩の拳を弾き飛ばした。

「ちょっと!?」

「冗談ではありませんわ!?」

 弾き飛ばされた岩の拳はシャーリーの土台になっていた柱を壊して、シャーリーを落とし、ライチのレッドフラワーを押し潰した。

「……ごめんなのです」

 ミントは自分でやってしまった事に慌てて岩の壁を作って防御する。その間に火山のヌシは再び上空へと飛び上がる。そして大きく息を吸い込むと炎のブレス攻撃をしてくる。

「させない!」

 レナが前に出て魔導殺しNO07で炎のブレス攻撃を斬った。

「クリスちゃん!」

「ええ、行くよ! セブンスターレイ!」

 クリスは空を飛んでいて、セブンスターレイを発動させた。七つの光線が上空から落ちてきて、火山のヌシの身体を貫く。火山のヌシはクリスの攻撃に大ダメージを受ける。

「よし、だいぶ効いている。このまま攻撃を続ければ……」

 クリスはもう一度セブンスターレイを撃つ準備をするが、火山のヌシは溶岩の中に戻っていった。

「な、これじゃあ何処を狙ったら……」

 クリスはセブンスターレイを解除して地面に下りる。

「……みんな、背中合わせにしてどこから来るのか見るのです」

 ミントの言う通りに5人とも背中合わせになって360度どこから来ても良いように構える。するとゴゴゴと地鳴りが起きる。

「みんな、来るよ!」

 クリスが叫んだ瞬間、火山のヌシが溶岩の中から出てきた。

「あつ、あつつ!?」

 溶岩の暑さに戸惑うクリス達だが、すぐに体勢を立て直す。上って来た溶岩が落ちてくるのを確認して、当たらない様に避け続ける。そして火山のヌシが顔を出してきた。

「みんな、大丈夫!?」

 クリスはみんなの無事を確認すると、4人全員グッドサインを出す。どうやら溶岩を全部避けられたみたいだ。

「それにしても空を飛ばれると厄介ね。この中で空を飛ぶ事が出来るのはクリスだけだから」

「……やってみないと分からないのです。ミント達もクリスと一緒に空を飛ぶないとダメなのです。そうでないと他のヌシとも戦えないのです」

 ミントの言う事はもっともな事である。これから先、航空術があるかないかで戦況は大きく変わっていく。それに地面を柱の様に伸ばす錬金術を使うミントの体力がだいぶ消耗している。

「そうですわね。魔法は諦めたら出来ないのですわ。やってやりますわよ」

「そうだね。弱気になるなんて私らしくないわね。やってやろうじゃないの!」

 ライチとシャーリーが航空術をどうにかしようとする。しかし、世の中そんなに甘くはない。どんなにイメージをしても飛ぶ事が出来ない。そもそもいくらヌシと対峙していて魔法が使えても鬼ヶ島にはもともと魔法が使えない島である以上、慣れているクリスでも一瞬の緩みを見せてしまっては落ちてしまうみたいで、常に意識をしていないといけないのだ。

「ああん、もう! 何とかなると思ったのに!」

「まだまだ修行が足りませんわね」

 とにかく航空術をするのを止めた2人。

「だったら、前みたいに大ジャンプが出来れば!」

 シャーリーは足に魔力を籠めて大爆発を起こして大ジャンプする。

「ちょっと!? どれだけ魔力があるのよ!?」

 いくら何でもシャーリーの魔力は今まででかなり上がっている。魔力切れが早くなっているこの状況でも全く魔力切れの傾向が出ていない。ライチやミントもだいぶ息が上がっているのに、シャーリーはまったく息を上げていない。

「シャーリーが一番魔力を消耗しているのに、まだ戦えるなんて。やっぱりシャーリーは凄いよ」

「シャーリーの魔力数値が一気に上がっている。私の中で一番魔力が上がっているみたい」

 空を飛んでいるクリスと魔導殺しの目で数値を図るレナは、シャーリーの成長に驚いている。

「私が真っ先に倒れるわけにはいかないからね。クリス、レナ、フォローは任せたからね」

「ええ、分かった。レナちゃん」

「了解」

 シャーリーは火山のヌシに背中に乗ろうとするが、勘付いた火山のヌシはすかさず身体を動かしてシャーリーを乗せない様にする。

「シャーリー、捕まって!」

 クリスがシャーリーに手を伸ばす。シャーリーもクリスの手に捕まる。そしてクリスは回転をしてシャーリーを火山のヌシに向けて投げ飛ばした。

キャラメル流古武術『烈火迅雷脚』!」

 シャーリーは回転を利用して炎と雷を纏わせた蹴りを火山のヌシの身体にぶつけた。炎の後に雷のダメージを受ける火山のヌシは火山の壁まで吹き飛ばされた。技を決めたシャーリーはクリスに捕まる。

「倒せたかな?」

「分からない。でもまだ……」

 クリスはシャーリーの攻撃は決まったと思っているけど、まだ倒せたとは思っていない。ヌシと呼ばれる以上、まだ何か仕掛けて来るかも知れないからだ。

 壁に激突していた火山のヌシはギョロッとクリス達を見ると、一瞬でクリスとシャーリーの背後に回っていた。

「なっ!?」

「いつの間に!?」

 2人が驚いている間に、火山のヌシは尻尾でクリスを叩きつけた。クリスとシャーリーは地面に叩き落されて仰向けに倒れている。

「お二人とも、大丈夫ですの?」

 ライチとミントとレナが、クリスとシャーリーの所へ向かう。

「いたた……今のは効いたわ」

「急にスピードを上げるなんて……まだまだ本気じゃなかったと言うのかしら……」

 ボロボロとなったクリスとシャーリーだが、まだ何とか身体が動かす事が出来る。しかし火山のヌシは待ってくれなかった。火山のヌシは溶岩を口に含んでそれを吐き出した。

「まずいですわよ。避けられませんわ」

「……壁も間に合わないのです」

 溶岩がクリス達に襲い掛かろうとする。

「魔導殺しNO07!」

 レナが右手の魔導殺しNO07を大きな刃にして溶岩に向かって振り落した。

「レナちゃん、無茶しないで!」

「大丈夫……私だって、魔導師(マスター)の力になる為にここに来たんだ。だから諦めない!」

 レナはさらに刃を大きくして溶岩を真っ二つに斬った。それによりクリス達は溶岩を受けなくて済んだ。しかし、レナは刃が消えた瞬間バタリと倒れた。

「レナちゃん!?」

 クリスは倒れたレナに抱き起す。かすかに息をしているけど、完全に魔力が切れてしまったみたいだ。

「……く、クリスちゃん。あとはお願い……それとやっと見つけたよ……あのヌシの弱点……」

「えっ? 弱点?」

「……あのヌシの口の中にありったけの魔法を飲ませれば……勝てるから……」

 それだけを言ってレナは気を失った。

「ありがとう、レナちゃん。レナちゃんの頑張り、無駄にはしないよ。ミント、ライチさんはレナちゃんをお願い。シャーリーは私に魔力を送って」

 クリスはそう言って呪文を唱えると上下左右四つの魔法陣と中央に大きな魔法陣を出す。

「分かった。頼むからね、クリス」

 シャーリーはクリスの肩に手を置いて魔力を送る。火山のヌシは大きく息を吸い込みだした。これが最後の攻撃。失敗したらここまでだとクリスは考える。

(でも大丈夫。みんなと一緒だから、頑張れる。だからこの一撃に全てを賭ける!)

 クリスはもう迷わないと決めて集中する。そして火山のヌシが炎のブレス攻撃を仕掛けてきた。

シューティングスターバースト!」

 クリスは五つの魔法陣から砲撃魔法を放った。火山のヌシの攻撃とクリスの攻撃がぶつかり合った。

「頑張れ、クリス!」

 シャーリーはどんどんクリスに魔力を送っていく。それによってクリスのシューティングスターバーストはさらに威力を増していき、ついには炎のブレス攻撃を押し退けていき、最後には口の中まで入っていった。クリスのシューティングスターバーストを飲み込んだ火山のヌシは大暴れして飛び回る。そしてついには飛ぶ力も失ってそのまま溶岩の中へと落ちていった。

「はあ…はあ…はあ……勝ったの……?」

 肩で息をするクリス。

「勝った……勝ったんだ、私達!」

 シャーリーがクリスに抱き付く。クリスはシャーリーにされるままとなっていたが、漸く自分達が勝ったことに喜びだす。

「……やったのです」

「やりましたわね!」

 ミントとライチもクリスに抱き付いてくる。

「うん、勝ったんだよね、私達……やったんだよね!」

「もちろんですわ、クリスさんのおかげですわ」

「ううん、私一人だけじゃないよ。みんなのおかげだよ。そうだ、レナちゃんは?」

「……魔力切れで倒れているのです。大丈夫なのですよ」

「そうか、良かった……」

 レナの無事に安堵するクリス。しかし喜びも束の間、溶岩から火山のヌシが現れた。

「そ、そんな……まだ動けるなんて……」

 クリス達は絶望する。もう体力も魔力もない状態で戦う事なんて出来ない。

『よくぞ我に打ち勝った、魔を極めし者達よ』

 すると火山のヌシが念話でクリス達に話しかけてきた。

「火山のヌシさん……それじゃあ……」

『そなた等の勝ちだ。良き魔を見せてもらった。その強き心を持ち続ければ必ず他のヌシとも渡り合えるだろう。そしてこれが我の試練を合格した証だ』

 火山のヌシの目の前で何かが光りだすと、赤い宝石が落ちてきた。クリスはそれを受け取る。

「これが試練を合格した証……」

『そうだ。それとこの先にある鉱石を好きなだけ持って行くが良い』

「……ありがとうございますなのです。これでもっと強力な武器が出来るのです」

 ミントはジルコニス鉱石が手に入る事に喜ぶ。

『では我は眠りにつく事にする。他のヌシは我とは違い本気で向かってくる。心してかかる様に。ではさらばだ。魔を極めし者達よ』

 そう言って火山のヌシは溶岩の中に入っていった。

「ありがとうございます、火山のヌシさん」

 クリスは火山のヌシが溶岩の中に入っていくのを見送った。

「よし、早速ジルコニス鉱石を採りに行きましょう」

「「「おお!」」」

 クリス達は先の扉を開けると、そこにはジルコニス鉱石と呼ばれる翡翠石がたくさんあった。

「どう、ミント?」

「……これだけあれば何でも出来るのです」

「良かったね、ミント」

「わたくしの剣ももっと強く出来るのですね」

 シャーリーもライチも自分の事の様に喜んでいる。クリスの背中でおんぶされているレナもかすかに微笑んでいる。

「とにかくヌシの一角に勝ったんだよね、私達。これでハクトさんに少しは近付く事が出来たかな」

 クリスは空を見上げる。この島に来て、自分達が強くなっていく事に希望を持ち始めてきた。

 

 

 鬼ヶ島でのサバイバル生活終了まで、あと20日

 

(続く)

 

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クリス「皆さん、はじめまして。本日は『魔法少女の正しい学び方』を読んでいただきまして、本当にありがとうございます」
レナ「皆さん、如何だったでしょうか?」
シャーリー「お疲れ様」
ミント「……お疲れ様なのです」
ライチ「お疲れ様ですわ」
クリス「長い間本当に待たせてごめんなさい」
シャーリー「どれだけ長く書いていなかった?」
ミント「……半年以上なのです」
ライチ「作者の怠慢にはほとほと呆れますわ」
レナ「あとでやっちゃいます?」
クリス「そうだね。あとでみんなでぶっ飛ばしに行きましょうか?」
シャーリー「クリスが本気になっている」
ライチ「これは血の雨が降りますわね」
ミント「……それよりも今は今回の話なのですよ」
クリス「そうだったね。今回は四体のヌシの一体である火山のヌシとの死闘の話でしたが、みんなどうでしたか?」
レナ「普通なら死んでいたよね」
シャーリー「そうだよね。火山のヌシが最初手加減してくれていたから、あそこまでやれたんだよね」
ライチ「それに魔法が使えるなんて思いませんでしたわ」
ミント「……本来鬼ヶ島は魔法が使えない何かがあるとは思っていたのです。ですが、別に魔法が全部使えないと言うわけではないのですね」
クリス「うん、鬼ヶ島で魔法は使えないと思っていた時点で魔法は使えなかったんだよね。だけど魔法が使えるとイメージすれば使えるようになるんだよね」
レナ「そして私達は強くなっていく。鬼ヶ島での精神修行で魔力もかなり高くなっていっている」
シャーリー「そして火山のヌシに勝つ事が出来た。残った三体のヌシも倒してもっともっと強くなるわよ」
ライチ「まだまだですわよ。ヌシだけではなく、あの怪物も倒しませんとね」 
ミント「……みんな、そろそろ時間なのです」
クリス「そうですね。さて次回ですが、火山のヌシとの戦いで力尽きたレナちゃん。その原因は魔力切れによるものである。魔導殺しは魔力がなくなると暴走して魔導師を狩ってしまう。このままではレナちゃんがピンチです。私達は一体どうなってしまうのか。そんな話です。楽しみにしてください」
レナ「下の拍手ボタンを押して下さると嬉しいです」
ライチ「では、また次回お会いしましょう」
シャーリー「それじゃあ、みんな」
ミント「……バイバイ」
 
 
 
 
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