「ハクトさん、起きて下さい。ハクトさん……」

「う、う〜ん……」

 ハクトが目を覚ますと、そこにはクリスが起こしに来てくれたのだ。ハクトはあれと寝惚けている頭を覚まそうとする。

 確か自分は王都の魔法学校に通う為に、クリスの家に下宿する事になっている。そして、こうして自分の部屋にあるベッドで昨日寝ていた。部屋はまだダンボールが山積みになっていて、片付けはされていない。ベッドと机などは用意してくれていたので、とりあえずそこには甘えさせてもらった。

 そして、今の時間は6時。クリスがこの部屋に入ってきてハクトを起こしに来たのだと、漸く気付く。

「おはようございます、ハクトさん。よく眠れましたか?」

「あぁ……おはよう」

 上半身を起こすハクト。寝間着は黒のジャージのままベッドから起き上がる。そのあと、一回欠伸をしてから体を動かしてみるが、昨日の疲れがまだ取れていないようだ。

「あの、ハクトさん。無理しなくても良いですよ。もう少し寝ていてもよろしいですから」

 クリスは少ししょんぼりとする。自分の所為でハクトをこんな早くから起こしてしまって申し訳がないみたいだ。

「だ、大丈夫だって、クリス。それにあれは俺から言った様なものだから、お前が気にする必要は無いって」

 ハクトは慌ててクリスを元気付ける。

 

魔法少女の正しい学び方 
第三話 魔法の教え方

  

 それは昨夜の事であった。自分の部屋に散乱してあったダンボールを積んでいき、明日帰ってきたらダンボールを開けて片付けようと思った時だった。部屋をノックする音が聞こえて、ハクトはドアを開けると、そこには寝間着姿のクリスがいた。薄桃色のフリルのついたパジャマを着ていて、ハクトは一瞬ドキッとした。

「どうしたんだ、クリス?」

「あ、あの……その……」

 クリスは少し頬を赤く染めて、もじもじとしていて落ち着いていない状態である。

「あぁ、そうだ。魔法の練習、いつも何時ぐらいにやっているんだ?」

 とりあえず、こちらから話題を振る事にしたハクトは、公園で魔法を教える事になっていたので、その話をする事にした。

「えっ? えぇと、朝と学校が終わってからですけど。朝は6時ぐらいにやっていまして、7時ぐらいにお渡せています」

「よし。それじゃあ、明日の朝6時に始めようか」

「い、良いのですか? 私なんかの為に……」

 クリスは自分の力にまだ少し自身が無く俯いてしまう。そんなクリスの頭を撫でてあげるハクト。

「ちゃんと約束したのだから当然だろう。どこまで教えられるかは分からないけど、まずは基礎から始めていこうと思っているから、そんなに難しい事はしないからさ」

 基礎をしっかりと磨いていけば、その後の応用も何とかやっていけると、ハクトはある人の言った事を思い出す。

「ありがとうございます。私、頑張ります」

「よし、その意気だ。もういじめられても一人で泣いているんじゃないぞ。何か困った時とかがあったら、俺を頼っても良いからな」

「はい……」

 嬉しくて少し涙を零れてしますクリス。ここに来たのはハクトに魔法の練習を教えてもらう事を、もう一度訊いてみようと思って部屋をノックしてしまったのだが、いざハクトが目の前に現れると訊いてみても良いのかと緊張してしまったのに、ハクトはちゃんと教えてくれる事に嬉しくなってしまう。

「それじゃあ、明日な。お休み」

「はい。お休みなさい」

 

 朝の公園は人気があまり無く、ジョギングしている人や動物の散歩をしている人などがいるぐらいである。

 ハクトとクリスはジャージ姿で公園を軽くジョギングしている。寝間着にしていたジャージとは違う紺色のジャージを着ているハクトと、白のジャージを着ているクリス。体力をしっかりとつける事から始める。もちろん、公園に着いて、最初にストレッチをしてからだ。すぐにやってしまっては怪我をするからだ。ハクトはクリスのペースに合わせているが、普通より少し遅いぐらいであると思っている。

 クリスは息を吐きながら一所懸命走っているが、中々前に進まない。初等部の頃は、クラスでも遅い方であるクリスは、もう限界で止まりそうになる。

「ほら、あと少しだから、頑張れ」

 ハクトに応援されて、また頑張ろうとするクリス。自分の為にこうしてくれているのだから、頑張らないといけないと思ったクリスは止まりそうになった足が再び動きだした。

 そして、最初の所に戻る事が出来て、クリスは膝と手を地面に着いて、息を吐き出す。

「はい、お疲れ様」

 ハクトは持ってきていた水とタオルをクリスに渡してあげる。クリスは水を少し飲んで一息吐いて、タオルで汗を拭き取る。

「こんなに一生懸命走ったのは初めてです」

「まぁ、魔法の練習でも最初に体力をつけておかないと、すぐに魔力切れを起こしてしまうから、まずはそこから始めていこうと思っている。どう、大丈夫か?」

 公園を一周ぐらい何とかなると思っていたハクトだったが、クリスが走るのが苦手であると気付いて、これは間違えたかも知れないと内心申し訳ないと思っている。

「だ、大丈夫です。むしろ、ハクトさんにご迷惑をかけていませんでしたでしょうか……」

 少しずつ体力を回復していっているクリスは、迷惑をかけているのではないかと心配している。

「これからも最初は走る事にするけど、平気か?」

「はい、問題ありません。すごく楽しいですから」

 走るのがこんなに楽しくなるなんて思わなかったクリスは嬉しかった。自分の苦手を克服できるかも知れないと思って、これからも頑張れそうな気がしてきている。そして、そんな風に嬉しそうなクリスに、ハクトは良かったと安心する。

「さてと、まずは魔法に関する事から始めるか。魔法の種類は大きく分けて三つある。それは何か分かるか?」

「えぇと、攻撃系と防御系、あと治癒系の三種類ですね」

「その通りだ。さらに攻撃系と防御系にも、それぞれ種類があるのは知っているね」

「はい。攻撃には打撃系、射撃系、斬撃系の三種類ありまして、防御系にはシールド系、反射系、フィールド系の三種類ありますよね」

 魔法の基礎は初等部の時に習っている。だから、クリスもそこは覚えている。

「よく勉強しているじゃないか」

「はい。ありがとうございます」

「次は魔法陣のついてだけど……」

 ハクトは右手で円形の魔法陣を出す。そして、左手には三角形の魔法陣を出す。

「円形は魔力強化型の魔法陣で、三角形は身体強化系の魔法陣だ。これらを使い分けるとかなり楽なんだ」

 円型の魔法陣は魔法を弾丸や剣を作りだす自分の魔力を具現化させる為の魔法陣であり、三角型の魔法陣は魔法に腕や足、それに道具と組み合わせて打撃を与える体に魔法を付加させるような魔法である。

「私は三角形の方は出せないのです。私の友達は出せるけど……」

「まぁ、人それぞれだからね。出来ない事を教えるつもりは無いよ。クリスが得意とする魔法を優先して教えていくつもりだから」

「私が得意な魔法……天空魔法の事ですか」

「そうだ。それらをまずは基礎から身に付けていく」

 ハクトは空き缶を入れるゴミ箱から、何個か空き缶を取っていくと、それらを横に一列に並べていく。

「まずは、この空き缶を一個ずつ魔法弾で打ち抜いてみてくれないか」

「射撃系の練習ですか?」

「そうだ。射撃の練習は、これが一番だからな」

 空き缶に魔法弾をぶつける事は、命中率と魔法弾の威力を極める事が出来る。だから、射撃系の魔導師は最初、ここから始めるのだ。

「それじゃあ、やってみて」

「はい」

 クリスは右手を前に突き出して、自分の魔力に魔法のイメージを作りだして足元に桃色の魔法陣を出す。そして、右手からキラキラと光る白い魔法弾が現れる。

「よし、そこからあの空き缶に狙うようにして、撃ってみろ」

 ハクトに言われて、クリスは魔法弾を一発撃った。放った魔法弾は空き缶に命中した。空き缶は側面部が貫通して吹き飛ばされて、カランと地面に落ちる。

「当たり…ました……」

 撃ったクリス本人が驚いている。今まで彼女はこんなに上手く当てた事はなかった。

「クリス、次は連続で撃ってみて」

 ハクトは真剣な表情で続きを要求する。クリスはすぐに構える。連続と言う事は残っている空き缶を早く打ち抜く事である。クリスは魔法弾を出して、残っている空き缶目掛けて撃ち続けた。しかし、何発か外していく内に心が安定しなくなってきたのか、完全に外してしまう。

「オッケー、もう良いよ、クリス」

 これ以上はもう当たらないと判断したハクトは、クリスを止めさせる。

「すみません……」

「まぁ、最初に当てた事で浮かれてしまった事と、当たらなくなった事で焦りだしたから外していったんだ。これは腕が悪いのではなくて精神面の問題だな」

「精神面ですか?」

「そう。最初当てた時、一寸の狂いも無かった。ちゃんと狙えれば当てられるんだよ。ただ、俺に促された時には、もう心が不安定になってきたから外してしまった。魔法は嘘を吐かないからだ」

 クリスは確かにハクトが見ている中で外したくないという気持ちがあり、外してしまってはハクトに失望されてしまう不安が出てしまった事で、自分の心が不安定になってきてから外しだした。そして焦ってしまい当てられなくなった。魔法がクリスの不安を感じてしまい当たらなくなってしまったのだ。

「クリス、焦らなくていいんだ。射撃系の魔法は自分の魔法弾を決して外さない自身を持つ事なんだ。それと連続で撃てと言った時、クリスは右手しか使わなかっただろう。確かに連射すれば良いかも知れないけど、こういうやり方もあるんだ」

 ハクトは足元に白い魔法陣を張ると、空中に魔法弾が何個か現れた。そして、左手をクイッと曲げると魔法弾が発射されて、残っていた空き缶を次々と倒していった。

「す、凄い……」

 クリスは呆然とする。

「まぁ、これは魔力を多少消費するし、一個一個に制御や操作をしないといけないから、まだ教えないから、頭の片隅に置いといてくれ」

 ハクトはポケットにある通信端末で時間を確認する。時間は7時を過ぎている。

「よし、朝の練習はここまでにしよう。今日の学校が終わったら、続きをやろう」

「はい。ありがとうございます」

 ペコリとお辞儀をするクリス。

「さてと、とりあえずクリスの練習スケジュールを作成しておかないと。あとで端末に送っておいてくれるか」

 ハクトは左腕に赤い勾玉が付いた腕輪にそう伝えると、赤い勾玉が点滅して了解と言っている。

「ハクトさん。それってもしかしてマジカル・ドライブですか?」

 マジカル・ドライブとは、魔導師が使う魔法や術式の手助けをしてくれる、魔導師のパートナーみたいな物で、魔導師と一体となってくれてサポートしてくれる魔法具である。

「そうだ。紹介するね。こいつは『エーテル・マテリアライズ』と言って、俺はいつも『エル』と呼んでいるんだ」

「はじめまして、エル。これからもよろしくね」

 クリスがそう言うと、エルは点滅する。すると、ハクトの通信端末からメール受信の音が鳴った。ハクトはメールを確認すると、『こちらこそよろしくお願いします、お嬢様』と書かれていた。

 彼らにも意思と言うものがあり、魔導師と言葉を交わす際には、通信端末を使って言葉を送るか、念話で魔導師に直接脳に言葉を送ってあげるのだ。ただ、念話での会話は、彼らを起動させなければならない。

「まぁ、次はエルにも協力してもらうから。そう言えば、クリスはまだ魔法具は持ってないの?」

「はい……お母さんに任せてと言われて、まだ……」

「そうなんだ。もうそろそろ専用のドライブを用意しておいた方が良いと思うけどな」

 だいたいマジカル・ドライブを持つ魔導師は、小学生の時に適性判断審査を行って、初めてマジカル・ドライブを貰う事が出来る。ハクトも自分の国で適性判断審査を受けて、とある事情でエルと契約してパートナーとなったのだ。

「もしかして、あの母がこっちに来たのって……」

「どうかされたのですか?」

「あぁ、いや。何でもないよ」

 ハクトもまさかなと思っている。しかし、黒狐の職業を考えるともしかしてと考えてしまう。

 

 

 クリスの家に着いた頃、家にはクリスの母カリムと黒狐は起きていて、雑談をしながら朝食の準備をしていた。

「あら、お帰りなさい」

「お帰り。朝から大体…おぉと!?」

 黒狐がニヤニヤと言った瞬間、ハクトは黒狐に向かって右足のハイキックの攻撃をする。

「卑猥な発言は止めてくれるかな……バカ母」

「朝のちょっとした冗談を、本気蹴りをしなくても良いじゃない……」

 ブーブーと口を尖らせながら呟く黒狐。

「クリス、先にシャワー浴びてきて良いよ」

「えっ? ですけど……」

 お互い汗をかいているから、シャワーを浴びなければ流石に初日から汗の匂いを残したまま行くのは良くないと思っていたけど、自分はハクトのあとで良いと思っていた。

「俺は後で入るからさ。行ってこいよ」

「そ、それじゃあ……お先に失礼します」

 クリスは浴室に向かっていくのを見送るハクトの後ろに、またしてもニヤニヤしている黒狐に気付く。

「何が言いたい……発言次第ではどうなるか、覚悟は出来ているだろうな」

「シロウサギも男だなあと思ってね」

 うんうんと頷きながら、ハクトの肩を掴んだ。

「今こそ、更なる男を磨きに行くチャンスよ!」

「あのな! 死亡フラグを立たせる様な事をさせるな! あと、その母親が後ろにいる事も忘れるな!」

 黒狐の考えなど、ハクトは充分に理解している。シャワーを浴びているクリスの所に向かいなさいと言っているのだ。そんな事をしたら、確実に死亡フラグのバットエンドコース決定である。

 しかも、よくカリムの傍で言えるなとハクトはカリムを見る。

「あ、ハクト君。申し訳ありませんけど、これを浴室まで持っていってくれませんか?」

「……はい?」

 呆然としているハクトにお構い無しに、カリムはバスタオルとクリスの制服をハクトに渡してあげる。

「グッドラック!」

 黒狐は親指を立てて応援する。今こそハクトは理解した。この二人、絶対楽しんでいるのだと……

 

 

 ラズベリー家の浴室は曇りガラス張りのドアで外からも中からもあまり見えない様になっている。浴槽は二人分入れるぐらいの大きさで、洗い場にはシャワーやイスに洗面器が置いてある。

 クリスは最初シャワーで体を濡らしてから、タオルで体を洗い、今は浴槽に浸かっている。

「ハクトさん……本当に優しい人ですね」

 あそこまで自分に魔法を教えてくれる事が嬉しかった。今まで自分の魔法は役に立たないとか、使えないとか色々悪く言われてきたクリスは、魔法少女になる事を諦めかけていた。

 クリスは右手の人差し指に魔力を籠めると、小さい魔法弾が現れる。ここで撃つつもりは無いけれど、こうして魔法を出すのが楽しくなってきたので、クスッと笑う。

 その時、洗面所のドアからノックの音が聞こえた。誰かが入ろうとしているのだろうかとクリスは思った。

「く、クリス、す、少し良いか?」

 ドアの向こうからハクトの声が聞こえて、クリスは慌てて浴槽に深く入る。いくら、ドアが曇りガラスであっても、それでも見えないと言うわけではないのだ。

「は、ははは、はい! な、何でしょうか?」

 顔を赤くして恥ずかしそうに答えるクリス。

「あ、あのさ……その、えぇと……た、タオルと着替え、持ってきたのだけど……今、大丈夫か?」

 そう言えばとクリスは思った。シャワーを浴びようとする時、バスタオルと着替えの事をすっかり忘れていた。気が付かなかったら、一糸纏わぬ姿でどうしたら良いのか困っていた。

「あ、はい! まだ湯船に入っていますので、その、ありがとうございます……」

「じゃあ、今入っても大丈夫なんだな? 入るぞ……」

 そう言って、ハクトが洗面所のドアを開けて入ってきた。クリスは恥ずかしくて、身を縮ませる。ハクトの方もなるべく浴室の中を見ない様に、浴室を背中にカニ歩きで移動する。

「いや〜……ウブだね」

 それを遠くで観察している黒狐とカリムはニヤニヤとウフフと笑っている。

「クリスはきっとチラチラとハクト君を見ているでしょうね」

 正解です。クリスはチラチラとハクトの方を見ては頭から煙が出ている。顔ものぼせたかの様に真っ赤になっていっている。

「それにしても、子供達の、この様なシチュエーションを見るのも、親の楽しみみたいなものね」

「クリスも異性の子と、あんなに仲良くなれない性格だからね。ハクト君が優しい子で、クリスも安心しているのでしょうね」

「うちのシロウサギも、女の子とあまり話さない子だったからね。まぁ、一人はいたんだけど……クリスちゃんみたいな素直で可愛い子に魔法を教えてあげるなんて、やっぱり主人の血を引いているみたいね」

 今は亡き黒狐の愛した夫とハクトを思い浮かべる。ハクトの父は魔導師の教育をしていた先生で、子供達にも人気があった有名な魔導師であった。しかし、三年前の大事故で亡くなったのだ。それからはハクトを一人で育ててきた黒狐。ハクトも口には出さないけど、黒狐の事はかなり感謝している。

「そこ! いつまでニヤニヤしてやがる!」

 漸く洗面所から出てきたハクトは覗いていた親二人に怒鳴る。

 

 

「それじゃあ、お母さん。行ってきます」

 朝食を食べ終わって、支度を終えて家を出るクリス。ハクトと同じ濃い紺色のブレザーを着て、灰色のチェック柄のスカートを穿いて、茶色の革靴を履いている。黒いマントを羽織り、その後ろには白い円形の魔法陣が描かれている。ハクトと少し違うのは、男子はシャツに赤いネクタイを着けているけど、女子はピンクのリボンを着けている。

「はい、行ってらっしゃい。ハクト君、クリスの事、よろしくお願いしますね」

「あ、はい。分かりました」

「ほら、ハクト。あんたも言いなさい」

 黒狐に言われると何だか反抗してしまうハクトであったが、流石にカリムの前で何も言わずに行くのは無粋だと思った。

「それでは、行ってきますよ、母さん」

「ほいほい、行ってらっしゃい」

 手を振りながら見送る親を背に、ハクトとクリスは魔法学校へ向かった。

 通学路は昨日教えてもらったし、クリスと一緒だから間違える事は無かった。ただ、お互い何を話していいのか分からず、十分ぐらい無言で学校に向かって歩いていると、ハクトの通信端末からバイブが鳴った。ハクトは通信端末の画面にはこう書かれていた。

『クリス嬢と、何か話しかけるべきだと思いますよ』

 その文字に左腕に付けているエルを見る。マジカル・ドライブから、まさかマスターにこういう事を言うとは思わなかった。エルもどうやらクリスの事は気に入っているみたいだ。エルにここまで言われた以上、何かしないといけないとハクトは考える。

「あのさ、クリスって、他に友達とかいないのか?」

「友達ですか? はい、いますよ。初等部一年の時、ずっと友達でいてくれた女の子が二人います」

 訊いた時、ヤバいと思っていたハクトだったが、何とか話が進みそうで安心できた。

「その二人もクリスと同じE級魔法少女なのか?」

「はい……落ちこぼれの魔法少女と他のクラスから言われていまして……」

「最初にも言ったけど、クリスは才能があるんだから、自信を持てって」

「私はそうなのかも知れないですけど、他の二人はどうなのでしょうか? 私だけが二人より先に行ってしまったら、きっと嫌われてしまうかも知れません」

 どうもクリスは、ハクトとこうして魔法の練習をして自分に自信がつけてきた反面、友達と差が出来てしまった事への申し訳なさが出ているのだ。そこは困ったなとハクトは頭を掻く。

「初等部一年の時からずっと一緒にいた友達だろう。分かってくれると思うし、今日久しぶりに会うのだから、きっと相手もそれなりに努力してきたんじゃないかな」

「そうでしょうか?」

「俺も小学校の時に、何故だか俺と張り合っていた魔法少年がいてな。そいつ、夏休みや冬休みなどの長期休暇の間、山に篭って修行して、始業式の日に俺と勝負を挑んで来るんだ。休みの間に魔法の練習をして、自分はここまで頑張ったんだぞと相手を驚かせようとするのも友達じゃないかな」

 そう言えば、あいつ。俺が王都の魔法学校に通う事を知らないから、今頃中学校の前で待っているのではないだろうかとハクトはふと思い出す。

「素敵ですね、男の子の友情と言うのは」

「女の子だって、きっとそうだと思うぞ」

「そうですね。私も何だか早く二人に会いたいな。休みの間はあまり会わなかったから楽しみです」

 クリスが笑顔になるとハクトは安心する。

「あっ、ハクトさん。急がないと、列車が発車してしまいますよ」

 クリスは腕時計を確認してから、ハクトに言った。クリスの家から魔法学校に行くには魔導列車に乗らなければならない。魔導列車は魔法を動力として動いている列車で、王都をグルッと1周する様になっている。一時間に3、4本が一つの駅にやってきて、時計回りと反時計回りと2本のレールの上を走っている。

 クリスとハクトはそれぞれ魔法学校の生徒手帳を改札口のスキャン装置の上に乗せると、改札口が開いた。生徒手帳には、切符を一々買わなくても、スキャン装置の上に乗せるだけで開けてくれる。

 ホームで待っていると、魔導列車がやってきた。汽車の様な形をしていて、先頭の運転車両には動力なっているマジカル・ドライブが付いていて、その力によって列車が動いているのだ。

 列車に乗って、二人で窓の外に映る景色を見る。王都の中を走る魔導列車に、ハクトより小さい子供達がわいわいと騒いでいる。

「もう少ししましたら、城が見えてきますよ」

 クリスが窓の外に映る一際大きい城を指す。そここそが王都の城シャインヴェルガ城である。王都の中心に位置して、中には皇帝陛下が住んでいる。

 そして、しばらくして駅に降りると、魔法学校の生徒達がたくさんいる。初等部の生徒や、中等部、高等部の生徒が続々と魔法学校を目指していた。

 クリスはキョロキョロと辺りを見渡す。

「どうしたんだ?」

 とりあえず、ハクトは訊いてみた。

「いつもここで友達と待ち合わせをしているのだけど……あっ、いました! シャーリー、ミント〜!」

 探していた二人を見つけて手を振るクリス。それに気が付いた一人の女の子が同じく手を振る。金色の髪をポニーテールにして、青い瞳をしている。背はクリスと同じぐらいで、同じ制服を着ている。

「クリス、久しぶり! 元気だった!?」

「えぇ、元気だったよ、シャーリー。ミントも久しぶりだね」

「……お久しぶりです、クリス。おはようございます」

 ペコリと挨拶をするライトグリーンの髪を左右に赤いリボンで結って白い帽子を被って、灰色の瞳をして、クリスやシャーリーより少し背が低い。まだ小学生みたいな幼い体をしていて、制服も少し大きいのか、マントが少し地面を擦っている。

「今日から中等部だね。今年こそ最下級から脱出しようね」

「うん、そうだね」

 シャーリーが色々と言っている事を、クリスはうんうんと聞いている。やはり女の子同士だと止まる事を知らないぐらい、色々話をするみたいだ。その中で、ハクトだけが置いてきぼりである。

「……クリス。こちらの人は、知り合いですか?」

 ミントがハクトに気付くと、シャーリーも話を止めてハクトを見る。

「うん、そうだよ。ハクトさん、紹介しますね。初等部一年の時からのお友達で、シャーリー・キャラメルと、ミント・()・ウィリアムです」

「よろしくね。俺は嵐山ハクトだ」

「……よろしくお願いします。ミントはミント・J・ウィリアムと申します。ミントと呼んで下さい」

 ニコニコと自己紹介するミント。その姿にドキッと来てしまうハクトだが、何とか理性を戻そうとする。

「ねぇ、クリス。こいつといつ知り合ったの?」

 シャーリーの方はハクトをジト〜と見て、クリスに訊いた。いきなりこいつ呼ばわれされて、ちょっとカチンと頭に来たけど、クリスの手前、怒らない様にする。

「昨日、私が他のクラスの子達にいじめられている所を助けてくれた人ですよ」

「ふ〜ん…名前からして東の国から来た奴よね。はっ! もしかしてクリスを狙って、そいつらに演技をするように頼んだんじゃないの!? お金を使って」

「するかよ、そんな事! 俺はそんな面倒くさい事はしないって」

 それでも、シャーリーはまだハクトの事を完全に信じていない。

「ほら、クリス。あんな奴、放っておいて、早く行きましょう。どうせ、あいつも上から目線して花で笑っているのよ。クリスはあんな奴と関わっちゃダメなんだよ」

 シャーリーはクリスの手を引っ張っていく。

「ちょ、ちょっと、シャーリー!?」

 引っ張られているクリスは申し訳なさそうにハクトの方を見る。取り残されたハクトは一息吐いてから、二人の後を追う。

「まぁ、今すぐ信じろと言う方がまだ早いか……別に上から目線なんてしていないけど」

「……シャーリーはやきもち屋さんです。きっと、お兄ちゃんにクリスを取られたくないだけなんだよ」

 隣にいたミントがとてとてとついてくる。

「なるほどな……んっ? お兄ちゃん?」

「……どうしたの、お兄ちゃん?」

 幻聴ではなかった。ミントはハクトの事をお兄ちゃんと呼んでいるのだ。

「ミント。一応、俺達同い年なんだけど……」

「……ダメ? お兄ちゃん」

 瞳をウルウルとして、ハクトを凝視するミント。そんなミントにハクトは目を逸らそうとする。

「わ、分かったから……」

「……わ〜い! お兄ちゃん!」

 渋々了承してしまうハクトなど知らずに、ミントは嬉しそうにハクトに抱きつく。背が低いのでハクトの胸部分に顔を沈ませる。抱きつかれた事にハクトは驚く。前で歩いているクリスやシャーリーも後ろを振り向く。

「ちょっと、ミント。ハクトさん、困っているでしょう」

「ちょっと、あんた! クリスだけでなく、ミントまで狙おうとしているのか!?」

「何故そうなる〜!」

 魔法学校に着く前から大変な事に巻き込まれるハクト。

 

 

 魔法学校の校門には続々と生徒が入っていく。今日は入学式だけだが、初等部、中等部、高等部すべて行われる。初等部に入学する生徒には、保護者と一緒に来たりしている為、そこはかなり賑やかになっている。

 ハクトはここまで着くのにかなりの体力を使われてしまった。主に精神的に……

「ごめんなさい、ハクトさん」

 シャーリーやミントの事で謝るクリス。今はクリスと歩いていて、ミントとシャーリーは後ろにいる。

「まぁ、でも良かったよ。あんな騒がしい奴と一緒なら、それなりに楽しんでいるのだろう」

 最初ハクトは、クリスに友達はいるけど、それは教室で話をするぐらいの友達かと思っていたけど、実際はこの様に一緒に登校して、騒いだりするなんて思わなかった。

「そうですね。シャーリーやミントがいなかったら、私、学校は本当に楽しくないと思っていましたから、二人には感謝しているのです。も、もちろん、ハクトさんもですよ」

「それはこっちもだよ。俺は外部入学だから、知っている奴なんていないからさ。クリスがいてくれて感謝しているよ」

「あ、ありがとうございます……」

 自分のおかげでハクトが喜んでいる事にクリスは嬉しそうにお礼を言う。そんな二人を後ろから見ているシャーリーは、漸く笑みを浮かべる。

「本当にクリス、嬉しそうね。男子とあんなに仲良く話すなんてしなかったのに」

「……クリス、嬉しそう。クリスが笑っているとミントも嬉しいよ」

「悔しいけど、あいつのおかげなんだよね。でも、クラス一緒になるのかな」

 どんなに仲良くなっても、自分達の定位置は変わらないと思うけど、ハクトの方はまだ知らない。ハクト自身も、まだどのクラスに入る事になっているのか知らないからだ。今日クラス発表があるからそれで確認出来るだろう。

「……ミント、お兄ちゃんと一緒が良いな」

「クリスもそう願っているでしょうね。まぁ、あんたやクリスを悲しませたくないから、私も出来るだけ応援しておこうかしら」

 言葉ではハクトを嫌っているけど、半々はハクトの事を気にしているシャーリー。それにクリスと話していた時、今クリスはハクトに魔法を教えてもらっているみたいだ。自分の魔法の事や今朝の練習なども、嬉しそうに話していた。あんなに楽しそうに話していたクリスはシャーリーが知る中では初めてだった。

 ハクトとクリスも、ハクトのクラスの事を話している。

「私はハクトさんが別のクラスになっても、その、大丈夫ですから……」

 本音はハクトと一緒のクラスになりたいと願っているけど、やはりそれではハクトがかわいそうだと思って、そう言うと、ハクトはクリスの頭を撫でてあげる。

「あのな、クリス。大丈夫ではなさそうな顔をして大丈夫と言われても、余計心配するだけだぞ。それに、あくまで俺の予想だけど、外部からの入学生、しかも東の国から来た奴だ。自分達が上だと思っている王都の魔導師達が、田舎からやってきた魔法少年を上のクラスに入れると思うか?」

 ハクトは先日の男子三人組の事を思い出す。あいつらは王都出身の魔導師で、自分達が上のクラスだから、最下級の魔法少女であるクリスをいじめていたのだ。なら、東の国から来たハクトも同様、田舎から来た魔導師と言う事で上のクラスに入れるとはハクトも考えられない。

「だから、俺も下のクラスに入れられると思うよ。何だったら、何か問題でも起こして、下のクラスに落ちる事だって考えているけど」

「それは止めておいた方が良いですよ」

 クリスもそこは止めるべきであった。ハクトも流石に問題を起こすような事をしたら、黒狐が黙っていないはずだ。『うちの子が悪いのではなくて、今の世情が悪いのだと思います』など言って、更なる問題を起こしそうで怖くなってきた。前に一回あったからまたしそうだとハクトは思って、問題だけは起こさないようにしないと改めて思った。

 その時だった。

「漸く現れたなぁぁ〜〜! 嵐山ハクトぉぉぉ〜〜!」

 その叫び声に、ハクトは顔をしかめる。ありえない、何故あいつの声が聞こえたんだ。幻聴? 夢? まさかなとハクトは考える。何故なら、奴は東の国にいるはずだ。ここにいるなんて考えられない。

 しかし、もう二度と会わないだろうと思っていた相手は、校門前で腕を組んで立っている。

「ふっふっふっふっふ〜……さぁ、この俺っちと、決闘(デュエル)だぁぁぁ〜〜!」

 (続く)

 

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ハクト「はじめまして。この度は『魔法少女の正しい学び方』を読んでいただき、誠にありがとうございます」
クリス「皆さんに喜んでいただけましたら幸いです」
シャーリー「やっと私達の出番が来たよ!! 遅くなりましたけど、メインヒロイン登場だよ!!」
ミント「……メインヒロインその2とその3です」
クリス「シャーリー、ミント。お疲れ様です。やっと揃いましたね」
ハクト「四人は多くないか?」
シャーリー「なら、あんたが消えなさい」
ハクト「主役が消えてどうする」
シャーリー「私達が主役!! あんたは脇役!!」
ハクト「誰が脇役だ!? 完全に主役ポジションだろう、俺は!!」
ミント「……主人公は大抵痛い目に遭うものなのですよ」
ハクト「ミント、さらっと怖い事を言わないでくれないか」
クリス「さて、後書きコーナーも賑やかになりましたけど、今回は長かったですね」
ハクト「作者曰く『今まではプロローグです。ここからが本編です』みたいな事を言ってたな。一話、二話の二倍ぐらいはあるみたいだ。最初からそれぐらい書けよなと思うけど」
ミント「……大人の事情と言うものですね」
シャーリー「遊んでばかりだからでしょう」
クリス「今回も短くするつもりですけど、中途半端で終わりそうだったし、早くミントやシャーリーを出してあげたかったみたいで、気が付いたら、ここまで行ったみたいですよ」 
ハクト「勢いで書くからだろう。再来週分のプロットまで考えてから執筆しろよなと思うよ」
ミント「……大人は大変なのです。ミントは子供でよかった」
クリス「ですけど、こっちばかり気にしていましたら、東方SSやイベント用の原稿も書けていないみたいですよ」
ハクト「掛け持ちするからだろう。ちゃんとやらないと、またこっちが短く書かれてしまう」
シャーリー「そうならない様に激を飛ばしておいた方が良いかも知れないね。ミント、作者に向かって一言」
 
ミント「……頑張ってね、お兄ちゃん☆」
 
ハクト「はい。作者、頑張れよ」
クリス「それでは、本日はここまで。また次回お会いしましょう」
シャーリー「見ないとおしおきだぞ」
ミント「……バイバイ」
 
 
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