「時に母さんよ。何故、ここに来ているんだよ?」

 魔法学校の敷地に入ったハクトは、何故か一緒にいる黒狐の存在に疑問を持っていた。

「ひ、酷い! お母さんはいらない子なの!?」

「当たり前だろう」

 ガーンと黒狐はショックを受けて、座り込んでしまった。

「いいもん、いいもん……どうせ、お母さんは除け者ですよ。『の』の獣じゃないけど……」

 そして、ついには地面に『の』の字を書いていじけてしまった。そんな事を気にせずにさっさと行ってしまうハクト。冷たい訳ではない。ただ、黒狐の遊びに付き合っても仕方ないからと思って無視しているだけである。

 実際、もう時間は無いのだ。虎之助との魔法バトルの所為で、遅刻ギリギリの時間帯なのだ。その事もあるのか中等部校舎の前に設置されているクラス表が張り出されている掲示板には、生徒はあまりいないみたいだ。

「あの、ハクトさん。黒狐さんは入学式に来てくれたのだと思わないのですか?」

「それは建て前だ。どうせ本音は、母さんを知っている教師連中をからかいに来たんだろう。知っている教師はたくさんいるみたいだからね」

 王都の魔法学校のパンフレットを見ていた時、黒狐は「あ、この人、まだいるんだ。あはは、変わらないわね」とか、色々言っていた事をハクトは聞いていたからだ。本音をハクトに言ったら、「来るな。そして国に帰れ」と言われるだろうと思って、建て前を使ったのだ。

「……仲が良い親子と言う事ですね」

 ミントが相変わらずの笑顔で言ったが、ハクトにはその笑顔の奥に何か悲しい感情があると思った。だから、つい言ってしまった。

「ミントって、家族とかいないの?」

「……うん、いないよ。三年前の大事故で」

「なっ!? 三年前!?」

 三年前の大事故。それはハクトも関わる事故である。

 

魔法少女の正しい学び方
第五話 入学式

 

「コラ〜! ミントを泣かせるんじゃないわよ!」

 バシンと持っていた鞄で、ハクトの頭を叩くシャーリー。中はかなり詰まっているのか、凄く痛いとハクトは頭を擦る。

「な、何をしやがるんだ!? 痛いだろうが! それに何か教科書とは思えない鉄の感触がしたぞ、今! その中には何が入っているんだ!?」

「えっ? あぁぁぁぁ〜〜!」

 シャーリーは何かに気付き、鞄を開けて中を確かめる。すると、巾着袋の中に入っていた物を取り出す。そこに入っていたのは携帯ゲーム機であった。

「大丈夫かな。まだ動くよね」

 シャーリーは携帯ゲーム機を起動させると、それはちゃんと動いたのを確認してホッとする。そして、ハクトに睨みつける。

「あんたね! 壊れちゃったら、どうするのよ!? ちゃんと弁償してくれるんでしょうね!?」

「ちょっと待て! 何故俺が怒られるんだ!? そもそも、そっちが鞄で殴らなければ良かった話だろう!」

「うるさい、バカァ〜!」

 シャーリーは左足を軸にして一回転してから、右足の回し蹴りをする。攻撃してくると判断したハクトは、咄嗟に左腕でガードする。だが、それがあまりにもパワーがあった為、校舎の壁まで吹っ飛ばされて激突する。

「ハクトさん!? 大丈夫ですか!?」

 クリスはハクトの所まで行って、無事を確認しようとする。幸い強化魔法を施していたので、そんなにダメージを受けなかったが、ハクトの左腕は痺れて動かなくなっている。

「くっ……こ、これって……シールドブレイクか……? いつの間に発動していたんだ……」

 シャーリーはマジカル・ドライブを起動していないから、シールドブレイクを発動する事が出来ないが、この痺れ具合とダメージは、先程の魔法バトルと同じシールドブレイクである。

「シャーリーは格闘技の道場で魔法拳法を習っているのですよ」

「そ、それを早く言ってくれませんか……」

 ちゃんとした格闘技であるなら、普通に強化だけしても、そこから貫かれてしまう。シャーリーを甘く見ていたハクトのミスである。

「しかし、今のパワーは凄かったぞ。これだけのパワーを出せると言うのに、どうしてE級魔法少女なんだ?」

 シャーリーの攻撃を受けたハクトだからこそ、今の攻撃でも充分にE級以上の力を持っている。だが、彼女もクリスと同じE級魔法少女である。それはいくらなんでもおかしいとハクトは疑問に思った。

「私の道場は、魔法拳法専門じゃないだけよ。普通の格闘技を教えている平凡な道場なだけよ」

「あぁ、魔導師じゃなくて一般の道場と言うわけか……それだけで?」

「それだけで私はE級のままなのよ! すごく悔しいのよ!」

 シャーリーは少しだけ涙を零す所を見てしまったハクトは目を逸らす。女の子が泣いている所はあまり見たくないのだ。

「……シャーリーはよく頑張っています。ちょっと暴走が多いけど」

「ミント、余計な事は言わないで」

 ミントの頭をグリグリとするシャーリー。グリグリされて痛がっているけどミントだが、表情は笑ったままである。

「仲の良いお友達だね。私とカリムもこんな感じだったね」

「黒狐が暴走して私が止め役だったよね。よく貴女が問題を起こして、そのとばっちりを私が受けていた。あと、カイト君もそうだったよね」

「んっ? カリムさん、父さんを知っているの?」

「えぇ、そうよ。嵐山カイト君、この魔法学校に通っていた魔導師で、私や黒狐とずっと一緒にいた幼馴染なのよ」

 ハクトは父親であるカイトがカリムと親友と言うのは聞いていなかった。あまり昔の事を話したがらない性格だったし、今となっては聞く事も出来ない。彼は三年前に起きた大事故で亡くなってしまったのだから。

「私や黒狐、カイト君もE級魔導師から始まったけど、卒業の時には私と黒狐がB級、カイト君がA級になったんですよ」

「そうだったのですか……」

 ハクトにとって、父カイトは目標みたいな魔導師であった。魔法戦技の教官をしていた嵐山カイトからハクトは魔法を教えてもらって強くさせてもらっていた。

「さぁ、みんな。クラス表を見ておいたけど、四人ともEクラスみたいよ」

 クラス表を見ると、ハクト、クリス、シャーリー、ミントの四人全員Eクラスの所に名前があった。ついでに長谷部虎之助の名前も載っている。

「まぁ、その方が面白いわよ。どんどん上に上がっていく楽しさもあるからさ。気を落とさないで頑張ってきなさい、若人達よ!」

 はっはっはっと笑う黒狐は、校舎とは別の方向に向かおうとする。

「母さん、どこに行くつもりなんだ? まさか、本当に冷やかしに行くんじゃないだろうな」

「まさか、ちょっとここで頼んでいた物をカリムと一緒に取りに行くだけですよ。入学式はちゃんと見に行ってあげるから、心配しなくてもいいわよ、ハクト」

「べ、別に心配なんてしてないよ! 入学式で何か起こすんじゃないかと思っているだけだ!」

 ハクトは顔を逸らして言った。

「みんな。早く行かないと、本当にまずいですよ」

 クリスの言うとおり、もうすぐチャイムが鳴る時間である。

「ヤバッ、急ごう!」

 シャーリーは急いで校舎の中に入っていく。

「廊下は走るなって! まったく……行こう、クリス、ミント」

「はい」

「……は〜い」

 ハクトとクリス、ミントもシャーリーの後を追いかける。それを見送っていくカリムと黒狐。

「本当に懐かしいわね。こんな日々が、あの時にはずっと起きていたんだよね」

「そうだね。永遠に続けば良いって思っていたもんね。さて、私達もアレを貰いに行きましょう」

「えぇ、あとでメールを打っておきましょう」

 黒狐とカリムは、校舎とは違う別の所に向かっていった。

 

 魔法学校の校舎は、初等部、中等部、高等部の三つの校舎に分かれていて、それぞれの敷地がエリアとなっている。校舎も三つあれば、グラウンドも三つ、体育館も三つもあるのだ。ただ、場所が離れていて、初等部の学校は、少し離れた高地に位置して、高等部の学校は設備がかなり整っている為、少し広く使われている。中等部の学校はその中間に位置していて、初等部や高等部の学校にもすぐに行ける場所になっている。また、生徒がよく利用するであろう食堂や図書館には中等部の北側にあり、高等部には教会まで置いてある。

「到着!」

 中等部一階にある一年Eクラスの教室にて、シャーリーは教室のドアを開けた。その後に、ハクトやクリスにミントも入ってくる。

「な、何とか間に合いましたね……」

 息を切らしているクリス。全力で走っていたからまだ疲れている。

「あぁ、しかし、なんてスピードなんだ、シャーリーは……」

 ハクトもシャーリーがあれだけ速く走れるなんて思わなかった。だから、ついハクトも本気で走ってしまったのだ。

「よぉ! 待っていたぜ、嵐山」

 すると、教室の中にはいつの間にか長谷部虎之助がいた。生徒会長のライム・シュナイザーにフルボッコされていたのに、もう復活している。

「お前は不死身か……」

「タイガーだからさ!」

 それ関係なんだろうと、ハクトは心の中でツッコミを入れる。どうせ、言っても仕方ないと思ったからだ。

「漸くお前と一緒のクラスになれたんだ。これから、よろしく頼むぜ」

 そう言えば、そうだなとハクトは考える。何だかんだで勝負をしているけど、小学校では一度も同じクラスになったことが無い。だから、校門前に立って勝負をしていたのだ。

「あぁ、そうだな。よろしくな、長谷部」

「好敵手の間では下の名前で呼び合うものだぜ、ハクトよ」

「……ふん、なるほどな。それじゃあ、虎之助と呼ばせてもらうよ」

「いや、俺っちの事は、タイガーと呼んでくれ!」

 下の名前で呼び合うものじゃなかったのかとハクトはまたしても心の中でツッコミを入れる。だからもう言っても仕方ないと諦めているからだ。

「いや、虎之助を呼ばせてもらう。負けた気がするから……」

「そうか。まぁ、良いだろう。時にハクトよ。そちらのお嬢さん達は知り合いか?」

 虎之助は漸くクリス達に気付いた。

「あぁ、王都で知り合った人達だよ」

「はじめまして。クリス・ラズベリーです」

「……ミント・J・ウィリアムです」

「シャーリー・キャラメルよ」

「おぉ、よろしくね。長谷部虎之助だ。気軽にタイガーと呼んでくれ!」

 拘るんだな、そこは……

「い、いいえ。虎之助さんと呼ばせていただきます」

「……ミントはタイガーと呼ぶね」

 ミントは気に入ったみたいだ。

「まぁ、それを置いといて。もうすぐ入学式が始まりそうだから、体育館に向かうべきじゃないのか」

 教室にある大きな黒板には、今日のスケジュールが書かれている。入学式の時間に体育館前に集合しておかなければならない。

「そうですね。皆さんも、もう行こうとしているみたいですし、私達も行きませんと」

 ハクト達はとりあえず黒板に書かれている出席番号の席に鞄を置いて、教室を後にした。

 

 中等部の体育館前では新入生が集っていた。教師達がクラスごとに列に並ぶ様に指導している。

「それじゃあ、俺は一番だから先に行くね」

 嵐山だから出席番号一番となっているハクトは、Eクラスの先頭に並ぶ。クリス達も自分の出席番号順に並んでいく。

 そして、体育館の中から新入生入場と言う声が聞こえて、新入生がAクラスから順に入っていく。Eクラスの順番になり、ハクトは体育館の中に入ると、そこはとても装飾されている上に、ソリットビジョンで天井が桜が映されている。周りには入学式に訪れた保護者や在校生達が拍手で迎えてくれている。

「凝っているな……」

 ハクトは感想を述べながら、新入生用のイスに座る。全員が揃うとソリットビジョンは消えて、入学式が始まった。

「それでは、初めに校長先生でありますジョージ・マーカス先生よりご挨拶を申し上げます」

 進行役の先生の言葉に、舞台に上がっていく白髪の60代ぐらいのご老人が舞台に設置されている教卓の前に立つ。

 ハクトは校長の名前にどこか聞き覚えがあると思ったが、思い出せないまま話が始まった。

 

 体育館で入学式が始まっている中で、校舎から少し離れているある研究所に、誰かがパソコンのキーボードを叩いている。茶色の短髪に緑色の瞳に黒斑の眼鏡を掛けていて、紺のスーツに白衣を着た男性である。

「やっほ〜! お久しぶりです、教授!」

 すると、バンと黒狐がドアを開けた。その音にキーボードを叩くのを止めて、ハァと溜め息を吐く。

「桜崎……いや、今は嵐山だったか……ラズベリーも来ているのか」

「はい、お久しぶりです、教授」

 カリムは教授に挨拶する。

 彼は魔法学校の魔法論の教師をしているジン・ローンウルフ教授で、黒狐やカリムが魔法学校の生徒だった頃も教師をしていた人である。

「研究中と表の表札が読めなかったのか、嵐山」

「いやいや、読めたからこそ入ったに決まっているじゃないですか。それより聞きましたよ。久しぶりに担任を受け持ったのですね。しかも、うちの息子やカリムの娘がいるEクラスを」

 黒狐はひらひらとクラス表を見せる。そこにはEクラスの担任に、彼の名前が書かれている。

「校長の指示でな。俺は却下したのだが、俺の却下をさらに却下をされてしまった」

「まぁまぁ、教授は私の知っている中で、一番教え上手じゃないですか。それに私達の子供がいると聞いて、しゃあないなと思ってくれたのでしょう」

「ふん……」

 ジンはタバコに火を点けて一服する。灰皿には何本もの吸殻が入ってある。かなりのヘビースモーカーである。

「最近の生徒どもは、どうも好まない。才能でクラスを分け始めてからと言うもの、そこで起こる問題を何故解らないんだろうな。だから担任を持ちたくなかったんだよ」

「変わり者の教師と言ったら、教授と校長ぐらいですからね」

「いや、今年からの魔法戦技の教師も俺並みの変わり者らしいぞ。教導隊から派遣された魔導師らしいぞ」

「教導隊から? 珍しいね。カリムは知ってた?」

 黒狐の質問にカリムは首を横に振って知らないと言う。教導隊はシャインヴェルガの魔法軍隊で作られた軍人育成のエキスパート達の部隊である。これは面白いわねと黒狐は微笑む。

「まぁ、私達の子供をよろしくね。特にハクトは色々問題を起こしてしまうかも知れないけど、そこは私と同じだから」

「今朝のどんちゃん騒ぎは見させてもらったけど、嵐山の息子なだけある。お前らの血を、完全に受け継いでやがる。他の教師連中はあいつを問題児と見ているが」

「ハクトが悪いんじゃない。今の不景気である世間が悪いのです!」

 やはり、言いましたよ。ハクトは小学校の時でも、こんな事を言って先生達を困らせていたから。

「そうでした。教授、あれはもう完成していますか?」

 カリムがここに来た本来の話に入った。ジンは今吸っているタバコを灰皿に入れた。

「あぁ、あれか。既に完成していて、今はメンテナンスをしている所だ」

 ジンはボタンを押すと、奥の部屋が開いた。そこにはたくさんの魔法陣が描かれていて、色々な文字が浮かび上がっている。その中心に一本の柱が立っていて、その中に何かが入ってある。それはマジカル・ドライブである。透明の結晶だけであるが、これがドライブのコアとも言える。

「流石ドライブエンジニア。速い完成でしたね」

 黒狐は拍手する。ジンには教師の他にマジカル・ドライブのメンテナンスなどが出来るエンジニアでもある。

「これでも結構苦労させられたぜ。システムがかなり複雑だったし、資料だけでどうにか出来る物でもなかったよ。だが、少し楽しめたよ」

 実際、これを作っている時のジンは、表面には出さなかったが楽しみながら作っていた。

「無理な注文を言って、申し訳ありませんでした。そして、本当にありがとうございます」

 カリムは頭を下げてお礼を言った。

「構わないさ。教え子の頼みだったし」

 そして、メンテナンスが終了したみたいで魔法陣が消えて柱の中が開いて、ドライブが取れる様になった。そのドライブは、ゆっくりとカリムの所に向かっていく。

「よろしくね……」

 カリムはドライブにそう言うと、キランとドライブは光った。

 

 入学式が終わり、それぞれの教室に戻っていった。ハクト達Eクラスも入学式が終わると、担任の先生が来るまで待っている。

 教室の中はわいわいと騒いでいる。もちろん、ハクトの席を中心にクリスやミントにシャーリー、虎之助と話しているハクトもその内の一組である。

「やっぱりそうだったんだ。あの校長先生は」

 ハクトは入学式の時に思い出せなかった校長先生の事をクリス達から聞いて思い出した。ジョージ・マーカスとは、かつて50年前に起きた魔法大戦にて活躍した五大魔導師の一人である。ハクトはそれを歴史の本などで聞いた事があった。

「今は私達の様な魔導師を育てる為に、この魔法学校の校長をしているのですよ。しかも、初等部、中等部、高等部の三つ全てやっているのですよ」

 普通は三つの学校に一人の校長がいるはずだが、校長先生は全て一人でやっているのだ。

「偉大な大魔導師はやる事も凄いな……一体いくつなんだ?」

「……それはトップシークレットです」

「そうそう、知ったら最後。その翌日から行方不明になるかもしれないみたいよ」

「シャーリー、脅かしたらダメですよ」

 そんな話をしながら過ごしていると、一人の男性が教室に入ってきた。

「あぁ、全員座れ」

 そう言われてクラスの生徒達は自分の席に座っていく。全員が座るのを確認すると、黒板に自分の名前を書いていく。

「えぇ、君達。今日からこのEクラスの担任を受ける事になったジン・ロールウルフだ。まぁ、適当に教授と呼んでくれても構わんから。授業では魔法論について教える。それと、ドライブエンジニアの資格もあるから、ドライブの事についての相談があれば、校舎の離れにある研究所に来い。見てやるから」

 ジンの挨拶が済んだ。変わった先生だなとハクトは思った。すると、ジンはハクトを見て、その後クリスの方を見る。この二人があいつらの子供かとジンは内心喜んでいる。

「まぁ、各々自己紹介したい所かもしれないが、それは自分達でやる事だ。初等部から上がってきた者や、外部入学してきた者もいるが、壁を作らず気楽に友を作っていけ。またEクラスだからって落ち込む所かもしれないけど、そこで諦めたら終わりだ。上の奴らに何言われようと気にするな。以上、これで解散だ。明日のスケジュールはここに書いてあるとおりだから、各自ちゃんと読んでおく様に」

 ジンはそう言って、教室を後にした。時間にすれば5分も経たずに終わってしまった。クラスも終わったと思い、各々帰る仕度などしている。

「……おい、良いのか? あんなので」

 ハクトは何ていい加減な教師なんだと思ってしまった。しかし、こっちを見た時、何か言いたそうな顔をしていた様に見えた。

「ハクトさん、これからどうしましょうか?」

 クリス達がハクトの席に来た。鞄を持っている辺り、すでに帰る仕度は出来ているみたいだ。

「そうだな。明日のスケジュールは、あの様子だし」

 黒板に書かれている明日のスケジュールを見ようと生徒達が群がっている。ハクトは後で見れば良いと思って行かなかったのだ。

「明日も午前中で終わるみたいだから、これからどこかで遊びに行こうよ」

 シャーリーは授業が無い事に喜んでもう遊ぶ気でいる。ハクトもそれも良いかもなと思った時だった。

「あ、ちょっと待って下さい」

 すると、クリスは自分の通信端末からメールが受信されたみたいで端末を取り出してメールの中身を見ている。

「お母さんからだ。学校が終わったら、真っ直ぐ家に帰ってきてほしいみたいです」

「そうなの? せっかくみんなで遊べると思ったのに」

「……何か用事なの?」

 シャーリーやミントは、せっかく三人揃ってどこかに遊びに行きたがったみたいで、凄く残念そうな顔をする。

「ごめんね、二人とも。何でも、入学祝に渡したい物があるみたいだから、早めに帰ってきてほしいみたいなの」

「まぁ、しょうがないか。私も道場で、こいつと練習しないとね」

 シャーリーはポケットから金色の三角形に中心に赤い結晶が付いた物を取り出した。

「それはシャーリーのドライブか?」

「そうだよ。私の専用マジカル・ドライブ『ストライク・バスター』! カッコいいでしょう!? 形状はあんたと同じ格闘技ガントレット。パワーとスピードは超一流なのよ」

 シャーリーはえっへんと胸を張る。ハクトはシャーリーの格闘技をあの時に見たから、シャーリーの魔法にも気になる。

「お〜ほっほっほっほ! それのどこが一流なのかしら?」

 すると、教室の外から高笑いが聞こえた。その声にシャーリーはムカッと怒る。そこには赤い髪をポニーテールにして、赤い瞳をしたクリスやシャーリーと同じぐらいの背をした女子が、右手の甲を顎に当てている。

「何しに来たのよ!? あんたはここのクラスじゃないでしょう!」

 シャーリーは怒鳴って、その女子を指す。

「ちょっとした暇潰しですわ。この魔法学校最弱のクラスであるEクラスの教室でも見に来てみれば、それのさらに下である最下級魔法少女三人組がいらっしゃるみたいじゃない。よくこの魔法学校にい続けますわね。貴女達なら普通の学校に通った方が百倍もマシですわよ」

 お〜ほっほっほっほっと女王様みたいな高笑いをする。そう言われたシャーリーはカチンと頭に来る。

 状況が飲み込めないハクトはクリスに訊いてみた。

「誰なんだ? そこの昔ながらの女王様みたいな馬鹿笑いをしている奴は?」

「えぇと……あの人はライチ・シュナイザーさんです。ライム会長の妹さんで、私達と同じ今年入学した魔法少女です」

「あの人の妹さん!? ありえねぇ……」

 校門前で会ったライム・シュナイザーは一目見ただけでも強い魔法少女であるハクトは思ったが、その妹からは全くと言ってそんなのは感じられない。

「そこのあなた! さっきから聞こえていますわよ! 馬鹿笑いとは何ですか!? 馬鹿笑いとは!?」

「あぁ、そうですよ。聞こえている様に言ってあげましたので。そんな笑い方をするのは、昔に出てくる縦ロールの髪をした時代遅れの女王様がしそうな笑い方なんだよ。今時流行るか、そんな物なんて」

 へっと鼻で笑ってやるハクト。それを聞いていたシャーリーは笑いを堪えている。

「くくく……ハクト。あんたとは少し気が合うわね……今時流行らないよね、あんなのは……くくく」

 形勢が逆転されているみたいでライチは拳を震わせている。

「そこの最下級魔法少女! 貴女、わたくしを誰だと思っているのですの。このシュナイザー家の魔法少女を敵に回したら、貴女の道場なんて一捻りなんですのよ」

「なっ!? 私の家は関係ないでしょう! 今日こそ、ぶっ飛ばしてあげるんだから!」

 怒りが爆発しかけたシャーリーをクリスは止める。

「駄目だよ、シャーリー。この前、ボロボロに負けたでしょう」

 初等部の時に、ライチにバカにされたシャーリーが勝負をして、ボロ負けしてしまったのだ。その事を思い出したシャーリーは力が抜けていく。

「身の程を弁えなさい、庶民が。最下級魔法少女が最上級魔法少女であるわたくしに挑むなんて、百年早いですわ。ま、百年経っても無理でしょうね」

「ぐぐぐ……」

 歯を噛み締めて悔しがるシャーリー。

「貴女達三人組がこの魔法学校の低下に繋がっている事に気が付いていないのかしら? 一人はパワーバカの頭がパーな魔法少女。もう一人のチビは何も考えていないダメダメ魔法少女。そしてそこにいる貴女は論外、専用ドライブすら持っていない最低魔法少女。そんなのがここにいてもらってもクラスの迷惑になるだけですわ。普通の学校に転校する事をお薦めいたしますわ」

 シャーリー、ミント、そしてクリスに色々言いたい放題言って高笑いするライチ。言い返せたら言い返したいが、三人とも言い返す事が出来ない。

「それと、そこのあなた! あなた、校門前でやりあっていた人ですわね。東の国からの魔導師って野蛮のお猿さんですわね。田舎者は自分の国に帰って農業でもしておきなさい」

 そして、その矛先はハクトに来た。ハクトはハァと溜め息を吐いてからクリス達の前に出て言ってやった。

「……言いたい事はそれだけか? なら、早くお家に帰って、一人でおままごとでもして遊んでおけ。もしくは、この三人の魔導師としての資質を見る事の出来ない、その目を新しい目に交換してもらいな。そんな節穴だらけの目なんて盲目の人より視力が悪いみたいだから、良い医者に診てもらえ」

「な、なんですってぇぇ〜〜!? わたくしを侮辱するとどうなるのか解っているのですの!? 覚悟は出来ているのですね!」

「悪いな。俺は弱い者いじめはしない主義なんだ。お前をフルボッコしてやるのも良いかも知れないけど、それじゃあ、この三人の為にはならないからな」

「は、ハクトさん……」

「ハクト……」

「……お兄ちゃん」

 自分の味方となってくれているハクトを見て、頬を赤く染めて嬉しく思う三人。

「どうやら……言葉を理解する事が出来ないお猿さんみたいですね。でしたら……」

 ライチはとうとう我慢の限界が来たみたいで、実力を見せてやろうとドライブを取り出そうとする。しかし、その手を誰かに掴まれた。

「何をやっているの、ライチ」

「お、お姉様!?」

 いつの間にかライチの後ろに生徒会長のライムがいた。ライムは掴んだ手を強く握ると、ライチは激痛を受ける。

「いたたたたぁ〜〜! お、お姉様、い、痛いです! ど、どうしてお姉様が、こ、ここにぃ〜!?」

「それはこちらのセリフよ。ここの教室を見に来てみれば、どうして貴女がいるのですか? ちゃんと説明してくれるのでしょうね」

 顔は無表情だが完全に怒っているライムに気付いたライチ。

「こ、これはですね……ちょっとした、激励を送ってあげただけですわ……さ、最上級魔法少女として、と、当然の事を……いたっ!?」

 言い訳と嘘を交えた説明をしようとすると、掴まれていた手をさらに強く握りだされた。指先がどんどん青くなっていく。

「あれのどこが激励なのか、教えてほしいわね」

「お、お姉様……き、聞いていたのですか? ど、どこから……」

「さてね。ちょっとした暇潰しと言う所かしら……」

 殆ど最初からじゃないですかとライチが言おうとしたら、またさらに強く握られてしまう。このままだと取れてしまうのではないのかと思う。

「あまり私や家の名に恥をかかせないでくれるかしら。この事は父上と母上に報告させてもらいますからね」

 それだけ言うと、ライムは漸く手を離してあげた。そして、ライチは脱兎の如く逃げていった。

「まったく……嵐山、それにラズベリー、キャラメル、ウィリアム。妹が迷惑を掛けた。許してくれ」

 頭を下げるライムに、ハクトとクリスは慌てて頭を上げてくれる様に言った。

「いや、自分だって、妹さんに色んな事を言ってしまいまして、申し訳ありませんと思っていますので」

 ハクトもあれは少し言い過ぎてしまったと思っている。

「良いのだ、嵐山。お前はそこの三人の為に言ってあげただけだろう。それは良い事だ。あいつにはあとでまた言っておくと言いたいが、あまり聞かないと思う。またちょっかいを出してくるかもしれないから気にしないでやってくれ。三人にも酷い事を言っていたみたいだけど、許してほしい」

「いいえ、会長さん。私も別に気にしていませんから」

「そうですよ。悪いのはあいつで会長が謝る必要はないですよ」

「……ミントは会長さんが悲しそうな顔をしないでほしいのです」

 クリス達ももう大丈夫だとライムに言ってあげると、ライムは微笑む。

「そうか。本当はお前達の事が心配で来てみたが、大丈夫そうだな。嵐山がいるなら、心配ないみたいだな」

 ライムはクリス達の事を聞いていたので、心配してEクラスの教室に来てみれば、案の定ライチが三人に言いたい事を言いまくっていた。今すぐに止めに行こうと思ったら、ハクトがライチと言い合いし始めた。ハクトの言葉には自分の事よりクリス達三人の事で怒っていた様に聞こえていた。だがライチがドライブを使おうとしたので止めに入ったのだ。

「ありがとうございます、会長さん。ですが、私達の事は私達自身が一番知っていますので、心配しないで下さい。それに、私達にはハクトさんがいますので」

「うん、そうだね。さっきのハクトはカッコよかったよ」

「……ありがとう、お兄ちゃん」

 三人に感謝されて、ハクトは今更とんでもない事を言ってしまったのではないかと頬を赤くして照れてしまう。

「うん、これなら大丈夫だな。嵐山、この三人の事はよろしく頼むぞ」

「あ、はい!」

「それでは、私はこれで失礼する。生徒会の仕事もあるから。気を付けて帰るのだぞ」

 ライムはそう言って教室を後にした。

「ふ〜……やはり会長は凄い人だな。みんなの事を気にしてくれているなんてね」

 ライムがいなくなってから、ハクトは一息吐いて言った。

「会長さん、いつも他の生徒さん達には優しくしてくれるのです」

「……みんなの憧れなのです。シュナイザーの跡取りでもあるのです」

「そう言えば、シュナイザーの家って、そんなに凄いのか? こっちでは聞かなかったけど」

 東の国ではシュナイザーの事は聞いた事が無いハクトに、クリス達は驚いた。

「シュナイザーの家は王都では有名な魔導師の家なんです。この学校もシュナイザーのお金で建てられたのです」

「お城にも呼ばれるぐらいの大金持ちの家なのよ。それをあいつは自慢ばかりして鼻を高くしてさ」

「……王都で知らない人は居ないのに、お兄ちゃんがいたんだね」

「あははは……すみませんね。知らなくて……」

「あぁ、良いのですよ。他の国では知らないだけなのかも知れませんので。それよりも、早く帰らないとお母さんが心配するわ」

 すでに教室には誰もいなくなっている。時間もかなり経っている。

「そうだね。それじゃあ、帰るとするか」

「……お〜」

 シャーリーとミントは走る様に教室を出て行く。

「ハクトさんも」

「あぁ、そうだな……」

 ハクトは鞄を持ってクリスと一緒に教室を出る。

 

 長かった入学式が終わり、これからが大変になってくるなとハクトは思う。

 

 (続く)

 

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ハクト「はじめまして。この度は『魔法少女の正しい学び方』を読んでいただき、誠にありがとうございます」
クリス「皆さんに喜んでいただけましたら幸いです」
シャーリー「お疲れ様ね」
ミント「……お疲れ様です。次回はミントとシャーリーの出番が無いみたいです」
シャーリー「な、なんだってぇぇ〜〜!?」
ハクト「だって、学校が終わったのだから、次はまた俺とクリスの話になるだろう」
クリス「ごめんね、シャーリー。きっとシャーリーの話もちゃんとあるから。もちろんミントも」
ミント「……気長に待たせてもらいます」
シャーリー「まぁ、メインヒロインの一番はクリスだもんね。そこは仕方ないわ。でも、変な事をしたら許さないからね」
ハクト「あのな……一応このサイトは健全だから、そんな事はならないって」
ミント「……第三話のお風呂の話は?」
ハクト「問題起こしていないから大丈夫だ!!」
クリス「あぅ〜、恥ずかしいです……」
ハクト「えぇと、と、とりあえず……今回はないのか? 何か訊きたい事とか?」
ミント「……では、ミントが質問します。魔法学校は初等部、中等部、高等部の三つの校舎があるのですけど、具体的にどこにあるのですか?」
ハクト「うん、資料によれば、まず校門があり、そこを潜ると前庭が存在します。そこから三つの道に分かれていまして、左の道を行くと階段を上っていくと初等部の校舎があります。右の道は大きなグラウンドや体育館が見えてきて、その後ろに高等部の校舎があります。真ん中の道は噴水や凱旋門みたいな門がありそこを潜ると中等部の校舎があります。他にも本文に書いてある様に食堂や図書館、教会などもありますが、こういうのは絵で何とか説明したいのですけど、基本作者は描けないので、描ける様になったら用語の所にでも入れてくれると思います。分かったかな?」
ミント「……説明ありがとうございます」
ハクト「よし、それじゃあ、今回はここまで」
クリス「はい。また次回お会いしましょう」
シャーリー「それじゃあ、みんな」
ミント「……バイバイ」
 
 
 
 
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