ベルモット・ホークアイ教官の下に始まった実技の授業。ハクトと虎之助との試合も終わり、ここからが本当の授業となるのであった。

「それでは、今から本格的に授業を始めたいと思います。言っておきますけど、私は初等部と同じ様な基礎練習はあまりやらないつもりですから。かなりきついかも知れませんので、体調が悪くなったら、すぐに言うのですよ」

 いきなり怖い事を言うベルモット教官。

「私もいきなり問題を起こしたくはありませんので、本当に体調が悪くなったら言って下さいね。それでは、これよりシミュレーション練習を行う」

 そう言ってベルモット教官は魔法陣を出して、ピピピと操作すると、グラウンド全体が立体映像の森が出現する。周り一体が木で囲まれている。

 

 魔法少女の正しい学び方
第九話 シミュレーション

 

 いきなり森の中に入った生徒達はざわざわと騒ぎ出す。

「一々騒ぐな。静かにしないと、撃つぞこら」

 いつの間にか裏モードになっている。それだけでみんなは静かになって、ちゃんと整列している。

「よし、それで良い。ちゃんと言う事を聞く奴は嫌いじゃねぇぜ」

 ちゃんと聞かないと絶対その二丁のハンドガンで撃つだろうとハクトは思っている。実際、みんなもそう思っている。

「さて、シミュレーションって言っても、簡単な話だ。俺様が今から出すターゲットを全部倒すだけで良い。ただし、クラスごとにタイムは計らせてもらう。先日やったBクラスとDクラスは、まあまあな結果で終わっているから、お前達は俺様の期待を裏切るんじゃねえぞ」

「先生…いえ、教官。それは脅しと言うものではありませんか?」

 勇気を振り絞ってハクトはベルモット教官(裏モード)にツッコミを入れる。

「ふっ、面白い事を言うじゃないか、嵐山。もっとも、これは脅しではない。俺様なりの熱いエールだ。お前達なら良い結果を出してくれると言うものだ」

「は、はあ……それは、ありがとうございます」

「それではAクラスとEクラス、どちらからやる?」

 AクラスとEクラスのみんなはどうするか話す。

「……ここは、Aクラスの人達から先にやって欲しいと思います」

「あら、あなた。わたくし達に先にやらせるなんて、どう言う理由ですの?」

 ハクトがライチ達に先に譲ると言ってきたので、ライチは訊いてきた。

「いえ、自分達Eクラスが、上級魔導師が集っているAクラスの試合を生で見られるなんて、光栄だと思っていまして、やはり、お先にやってもらってAクラスの皆さんの凄さを自分達Eクラスに見せ付けて下さいませんか?」

 真剣な表情でハクトはライチを見つめると、ライチは少し頬を赤く染めて、ぷいっと顔を逸らした。

「ま、まあ、あなた達最下級魔導師しかいないクラスが、わたくしの優雅な姿を見る事なんて、何十年も早い話ですけど、どうしてもと仰るのでした、お先に失礼させてもらいますわ。精々、わたくしの姿に見惚れていなさい」

 ライチは上機嫌な状態でAクラスのみんなに先にやる事を告げている。ライチが背中を向けているのを確認してからハクトは背中を向けて一息吐く。

「ちょっとハクト。あんた何考えているのよ?」

 シャーリーがご機嫌斜めでハクトを睨みつけている。もちろん、クリスやミントも説明してほしい様にハクトを睨んでいる。

「あぁ、あれか……自分からやっておきながらなんだけど、途中で気分が悪くなったよ。馬鹿馬鹿しい演技をした事を」

「演技ですか?」

 あれを演技だなんて思えないほどだとクリスは思った。あれは本当に言っている様に見えていたからだ。

「まだどんな事をするのか詳しく聞いていない状態で先にやってしまったら、みんなも混乱するだろう。タイムを計られるのなら、尚更だ。だから、先にあいつらにやらせて、少しでも情報を手に入れなくてはならないと思ってな」

「……つまり、犠牲になってもらうと言う事ですか?」

「そう言う事だ。それに、先日やっていたBクラスとDクラスの様子からして、かなり危険な事かも知れない。あの疲れきった表情は絶対きつい奴だと思うよ」

 ハクトはBクラスとDクラスが実技の授業を終えたのを確認していたから、多分きついのは間違いないだろう。だからこそハクトはみんなの為に慎重になっているのだ。

「クリスとシャーリーは、ホークアイ教官の動きとシミュレーション中の映像などもしっかり見ておいてくれ。ミントはEクラスの生徒全員を集めてAクラスのシミュレーションを見させてあげてくれないか?」

「そんな事して良いの? 教官に怒られても知らないよ」

「嵐山に命令されたとでも言って良いから。俺は別に悪者でもオッケーだからさ」

 ハクトは親指を立ててグッドのサインをする。

「ハクトさんはどうするのですか?」

「俺は自分なりに見させてもらうさ。Aクラスの動き等を観察したいからね。その間は一人にさせてくれないか。人がいるとちょっと集中出来ないからさ」

「……分かりました。私はハクトさんを信じています」

「そうね。あんたは私達Eクラスの希望の星みたいなものだからね。みんな、あんたの言う事ならきっと聞いてくれると思うよ」

「……お兄ちゃん、頑張りましょう」

「あぁ。それじゃあ、頼むよ」

 オーと言って、クリス達はハクトに言われた事をする。クリスとシャーリーはベルモット教官の傍でシミュレーションを観戦させてもらい、ミントはEクラスのみんなと一緒に見る事にする。

 

「それじゃあ、Aクラスの諸君。所定の位置に着いたか?」

 ベルモット教官の指示に従ったAクラスの生徒達は最初の位置である森の中央に集っている。Eクラスは少し離れた場所で待機している。

「では、シミュレーションのターゲットを出すぞ」

 魔法陣を操作するベルモット教官。そして、Aクラスの前に魔法陣が出現して、そこから何かが現れた。銀色の狼が何匹も現れた。

「これって、バウンティウルフか。まさかターゲットって、こいつらか」

 少し離れた位置でハクトは一人で映像を見ている。

 王都の外にはモンスターが棲みついていて、冒険者などに襲い掛かったりする。もっとも、王都にはモンスターが襲い掛かって来ない様に強力な魔法陣を張っている為安全である。バウンティウルフは冒険者に襲い掛かり、食料などを盗んでいくハイエナみたいなモンスターである。さらにシミュレーションの舞台が森であるから、彼らにとって好都合である。

「安心しろ。こいつらは俺様が作った立体映像だ。だが、ダメージはちゃんと受けるから気を付ける事だな」

 シミュレーションで出したモンスターはもちろん本物ではないが、本物と実践している様に出来ている。

「こいつらを10匹用意する。10匹全部倒す事が目的だ。クラスが一丸となって奴らを撃退して見せろ。それではミッション、スタート!」

 ベルモット教官の合図と共に、バウンティウルフは散開する。

「始まったか。エル、サーチモード、オン」

 ハクトはエルに指示を出すと、ハクトの周りにデータが次々と表示されていく。Aクラスのシミュレーション状況にAクラス全員のデータ、さらにタイムまで表示されている。

「やはりライチが先頭か……」

 あの目立ちたがり屋のライチは、クラス全員を率いてバウンティウルフの捜索に出ている。見つけて全員で撃退するつもりなのだろう。そしてバウンティウルフを次々と見つけては撃退し始める。最上級魔導師が集っているだけの事がある。連携を上手く取って、相手を追い詰めて最後はライチがトドメをさしている。

 

 そうしていく内に、Aクラスのシミュレーションは終わった。タイムも22分とBクラスやDクラスのタイムを遥かに抜いている。

「流石Aクラスと言った所だな。それでなくては困るが、少しは期待通りにやってくれたみたいだ」

 ベルモット教官はうんうんと頷きながら、データを書き込んでいる。

「ただ、シュナイザーに撃退させるのは、どうかと思うぞ。他のみんなにも撃退出来るチャンスはあったはずなのに、それらを棒にしてまでシュナイザーに回す必要はなかったはずだ。そうすれば、もう少しタイムを縮められたはずだ。そこだけは覚えておけ」

「申し訳ありませんでしたわ」

 ライチもまさか20分を切ろうと思っていたが、急に相手の動きが変わったので、タイムロスなどをしてしまったのだ。もちろんそれはベルモット教官がそう言う風にプログラムしていたのだ。

「さて、では次はEクラスの番だ。準備をしろ」

 Eクラスの番となり、みんな戸惑っている。Aクラスがこんなにも早く終わらせてしまうなんて思っていなかったし、上手すぎると思っているからだ。そんな状態で自分達の番になるなんて緊張するなと言っても無駄である。実際、ガチガチに身体を震わせている生徒も居る。

「んっ? 嵐山はどうした?」

 Eクラスを見ると、ハクトの姿がない。これもみんなが不安になっている理由の一つである。まさか怖気づいて逃げ出してしまったのではないかとAクラスの生徒達はクスクスと笑っている。

「すみません、教官! 遅れてしまいました!」

 すると、森の奥からハクトが清々しい笑顔で走ってくる。

「一体何を考えている?」

「申し訳ありません、教官。ちょっとデータの確認をしていました」

 あははと笑いながら謝るハクト。

「……まあ、良いだろう。早くEクラスの連中を連れて行け。5分後に開始するからな」

「了解です。ほら、みんな、行くよ」

 ハクトの号令にEクラスは森の中に入っていく。

「それでハクト。何か作戦はあるんでしょうね。あいつらに勝てる方法を」

 シャーリーがハクトに訊いてきた。みんなもハクトが何か考えているのではないかと不安になっている。

「はっきり言わせてもらう。今のままじゃあ、どんなに頑張ってもAクラスには勝てない。魔力値に、魔法の使い方、連携等も本当に上手かった。ちょっと侮っていたよ。まさかライチがここまでやるとは思わなかったよ」

 勝てないと言う言葉に、みんなしょんぼりする。

「ちょっと! それじゃああいつらにバカにされちゃうじゃない!? 何とかしてくれるんじゃなかったの!?」

 シャーリーはハクトなら何とかしてくれると信じていたのに、相手を褒める上に勝てないと言ったから期待を裏切られた事に怒りが爆発してハクトの胸倉を掴む。

「あぁ、そうだ。あいつらに勝てない以上、タイムは気にするな。自分達の出来るだけの事を精一杯やれば良いんだ。そうすれば、教官だって認めてくれるさ」

「……分かったわよ! もとより、そのつもりよ! 私がガンガンあいつらもぶっ飛ばしてやるんだから!」

 バシンと右手を左の手の平にぶつけて気合を入れる。

「解れば、よろしい。それじゃあ、作戦会議と行きますか」

「…………は?」

 シャーリーを筆頭にみんな首を傾げる。

「あいつらには勝てないけど、それなりに作戦は出来ている。さっきみんなからドライブのデータを貰って、二人一組のチームを作ってみんなに転送したから見てくれるかな」

 ハクトに言われてみんなドライブを出して確認する。するとそれぞれにアルファベットがAからSまで、一つずつ表示されている。

「俺なりにみんなのコンビを作ってみたんだ。とりあえず同じアルファベットを持っている人と組んでくれ」

 ハクトに言われて、みんな同じアルファベットを持っている人と組み始めた。Aにはクリスと虎之助、Eにはシャーリーとミントがコンビになっている。そしてハクト以外のコンビ19組が作られた。

「あの、ハクトさんには誰もいませんけど」

「それはそうだろう。俺達のクラスは39人だから一人余るからな。それに俺はみんなに指示をする指揮官をやるからな」

「まさか、私達にバウンティウルフを追わせて、あんたは高みの見物をするつもりかしら?」

「指揮官や大将が一人で先に突っ走ったりしても、効率が悪いからな。それに19組全部を見ないといけないからな。こっちも大変なんだよ。まぁ、近くに敵が来たら対処するから」

「……お兄ちゃん、それで作戦はどうするの?」

「まず俺が指示をするから、みんなはその通りに動いてくれ。あと、敵と遭遇したらちゃんと報告する事。それはしっかり守ってね。それとさっきも言ったけど、タイムは絶対気にするな。一々タイムなんて気にしていたら敵に逃げられてしまう。相手は数が少なくなってくる急激に動きが変わってくるから、焦らず撃退する事。良いね、みんな、自分達はちゃんと出来るのだと、Aクラスの奴らに見せつけてやろうじゃないか!」

 ハクトの説明を聞いていくうちに、みんなの不安が消えてくる。これがハクトの狙いである。Aクラスの実力を見せられて不安になっている所を元気つけていく。そして自分のやれる事を精一杯やる様にと言われると、自分なりに頑張ろうとする。実際、チームを組んでいる者同士で自分の得意な事を話し合っている。

『おい、聞こえているか、Eクラスの諸君。5分が経ったぞ。そろそろ始めるぞ』

 Eクラスが集っている場所で魔法陣が現れて、そこからベルモット教官の顔が映った。

「はい。こっちは準備オッケーです」

 ハクトがそう答えると、ベルモット教官はバウンティウルフを呼び出した。銀色の狼はハクトに向かって睨みながら唸っている。

「それでは、Eクラスの諸君、ミッション、スタート!」

 ベルモット教官の号令にバウンティウルフはさっきと同じ様に散開する。

「それじゃあ、みんな。あいつらが逃げていった方向を、とにかく追うんだ!」

「はい!」

「やってやるわ!」

「……うん!」

「行くぜぇぇ〜!」

 ハクト以外のみんなはバウンティウルフを追いかける。残ったハクトはエルを呼び出してガントレットを装備する。

「さてと、エル。早速始めるぜ」

 ハクトの足元に魔法陣を出して、魔法弾を何個も出していく。そしてハクトの前にシミュレーションで出した森全体のマップが表示される。そこにはAからSまでのアルファベットが動き回っている。これはクリス達のマークである。さらに黒いマークも10個動いている。これはバウンティウルフである。中心に旗印があり、これはハクト自身である。

「準備完了と。さてと、まずは……」

 ハクトはマップを確認すると、CとNが一個の黒いマークに近付いていく。

「そこから行くか、エル。シュート!」

 ハクトは出していた魔法弾を一個発射させた。マップに白いマークが動き出して、どんどん黒いマークに向かっていく。

 そして、Cのコンビの後ろに、ハクトの魔法弾が飛んでくるのを確認した。

『チームC、そのまま真っ直ぐ進んで。そこに敵が居る』

 すると、魔法弾に当たったバウンティウルフがCの前に現れた。

「あの、嵐山さん、敵がこっちに来ました」

『大丈夫だ。さっきのでダメージを受けて混乱しているから、攻撃をして。そっちにチームNがやってくるから一緒に戦うんだ』

「は、はい!」

 チームCがバウンティウルフに攻撃すると、バウンティウルフは逃げようとすると、そこからチームNの二人が攻撃してきた。挟み撃ちにされたバウンティウルフは二組の攻撃を受け続けて、やがて倒れて消滅した。

「嵐山さん、敵を一匹倒しました!」

『よくやった。チームCはそのまま七時の方角に向かって、チームNは三時の方角に向かって』

「「はい!」」

 元気良く返事をしてそれぞれ散っていく。

 それを確認するハクトは他の所も見ていく。

『ハクトさん、こちらチームA。敵と遭遇しました。今、虎之助さんが敵と戦っています』

 クリスから連絡を受ける。

『ハクト。チームEも敵と遭遇したよ。今やっつけるから』

 別の所でシャーリーから連絡が来た。二つとも別々に離れていて、別のチームとも距離が離れている。

「チームAはそのまま敵の撃退。チームK、五時の方角に向かってチームEの援護に回って。チームEは敵をその場から逃がさない様にしろ」

 ハクトの指示にそれぞれ了承して対処していく。そして数分もしないうちに二匹撃退する事が出来た。

「よし、良いよ、みんな。その調子だ」

『こちらチームD、敵がそっちに向かっています!』

 チームDからの報告を受けて、ハクトの前にバウンティウルフが一匹向かってきている。その後ろにチームDが追いかけている。

「大丈夫だ。こっちも見えた。そのまま追いかけて」

 ハクトは魔法弾を二発発射させると、一発は敵の足元に当たって敵は後ろに飛んだ。

「今だ! 攻撃しろ!」

 ハクトの声にチームDはそれぞれ魔法攻撃をする。背中にクリティカルヒットしてバウンティウルフは倒れて消滅した。

「よくやったよ、チームD。引き続き敵の迎撃に向かってくれ」

『了解です』

 こうしていくうちに、どんどん敵を倒していく。

 その光景を見ているベルモット教官は嬉しそうな顔をしている。

「やるじゃないか、嵐山め。軍隊並みの指揮能力じゃないか」

 ハクトのやり方に気付く。ハクトは二人一組と言うチームで連携を取り合いながら、指揮官であるハクトの指示をしっかり聞いてその通り動いてくれている。しかも相性が良い同士であるから連携ミスは一切無い。そして、誰かに譲る事も無く自分達で倒そうとするから敵に逃げられる事もないし、逃げる方向には別のチームを向かわせているから、そっちと鉢合わせをしてしまい結局倒されてしまう。みんなの行動力、コンビネーション、ハクトの指揮能力が一体となって、敵を殲滅していく。

 ハクトは次々とみんなに指示を出していく。時には自分が出した魔法弾で支援をしたりしてみんなのサポートをしている。

「残り三匹だ。そろそろ奴らの動きが変わってくるから、気をしっかり持ってくれ!」

 マップに表示されている黒いマークはあと三つとなっている。

『よっしゃあ〜! 一匹倒したぜぇ!』

 すると、チームAと交戦していた黒いマークが消えた。

「よし、良いぞ。チームAは四時の方向に居るチームIと合流して。チームD、F、Tはそのまま十二時の方角に向かって。チームB、M、Oは十時の方角に」

 それぞれ指示を受けたチームが移動すると、黒いマークはそこに敵が向かっているのを知るかの様に別の方向へ向かっていく。

「そっちに向かうか。だが、甘いぜ。チームG、Q射撃魔法発射!」

 チームG、Qは真っ直ぐ魔法弾を撃ち出すと、バウンティウルフはまさかと驚く様に魔法弾を避けていくが、数が多過ぎる為、ダメージを受けていき、別の方向に逃げる。

「射撃ストップ。そっちに行ったぞ、チームE!」

「待ってました!」

 待機させていたシャーリーが逃げてきたバウンティウルフに向かって右のストレートをぶつけた。完全に決まり、バウンティウルフは消滅する。シャーリーはガッツポーズを取る。

「……お兄ちゃん、シャーリーが倒したよ」

 ミントから報告を受けるハクト。残り一つとなった黒いマークはうろうろと動き回り、ハクトが居る所に向かっている。

「さて、そろそろ終わらせるか。全チーム、中央に集合。こっちでラスト一匹を仕留める」

 ハクトはマップを消して迎撃体勢に入る。

「悪いな。これでチェックメイトだ!」

 ハクトは残っている魔法弾を全弾発射させる。全弾喰らったバウンティウルフはよろよろと倒れて消滅する。

「よし、10匹目撃破と……終わったか」

 ハクトは一息吐いて、みんなが戻ってくるのを待つ。

「ハクト! お疲れ!」

「……お兄ちゃん、お疲れ様」

 最初に戻ってきたのはシャーリーとミントである。その後ろに他のチームも続々とやってくる。

「みんなもお疲れ様。よく頑張っていたよ」

「いえ、嵐山さんのおかげです」

「私達、こんなに出来たんだね」

 クラスのみんなも自分達の頑張りに嬉しそうにしている。

「あれ? クリスと虎之助は?」

 まだ、チームAの二人が戻ってきていない事に気付く。

「すみません、遅れました……」

 すると、クリスがやってきた。虎之助に肩を貸しながらゆっくりとハクト達と合流する。

「どうしたんだ、虎之助?」

「ちょっと足を挫いてしまったらしいのです。ミント、治療お願い」

「……うん、任せて」

 ミントが虎之助の足に手を出して、治癒魔法を掛けてあげる。クリスの話だと、さっき虎之助が倒したバウンティウルフの攻撃を受けて足を挫いてしまったらしい。

「面目ないぜ」

「気にするなって。お前もよくやったよ」

「そうか。それにしてもクリスちゃんから良い匂いがしたぜ……ぷぎゃっ!?」

 クリスに肩を貸してもらっていた時の事を思い出してうっとりとしていた虎之助の顔面に蹴りを入れるハクト。

「褒めた途端に、これか……」

 ハクトはどうしてか、いらっと頭に来て、本気で虎之助を蹴ってしまった。

『Eクラスの諸君。お疲れ様』

 すると、先程と同じ魔法陣からベルモット教官が映った。

『中々やるじゃないか。とりあえず、こっちに戻って……』

 ベルモット教官がこっちに戻ってくる様に言おうとした瞬間、ハクトは何かに気が付いて魔法弾を出す。

「ハクトさん?」

 ハクトの行動にみんな疑問を抱く。

『マスター! 二時の方角にこちらに向かって急速接近中です!』

「そっちか!」

 ハクトは魔法弾を二時の方角に向かって放った。するとその何かは魔法弾を躱してハクトに向かってきた。

「バウンティウルフ…じゃないな」

 ハクトは前に跳んで左のストレートをぶつけようとするが、相手は速過ぎて躱されてしまい、相手の攻撃を受ける。

「ハクトさん!?」

「ちょっと!? これもシミュレーションの続きなの!?」

 クリスやシャーリーがハクトに向かおうとする。すると、相手はそっちに攻撃を仕掛けてくる。速過ぎる攻撃にクリスもシャーリーも攻撃を受ける。

『バカな!? あれはブラックウルフだ。お前、全員そこから逃げろ! バウンティウルフとは比べほどにも無いほど強いモンスターだ!』

 ブラックウルフはその名の通り黒い狼であり、ウルフの中でかなり強いモンスターである。中学一年の魔導師では勝てない相手である。

 ベルモットはシミュレーションを止めようとするが、システムが受け付けない。

「くそっ! 誰かが外部から操作してやがるのか!?」

 後ろに居るAクラスの見ると、誰も魔法を使っている生徒はいない。

 ハクトは相手の動きを目ではなく気配で追い、魔法弾を放つ。すると、ブラックウルフはジャンプして躱した。

「クリス!」

「はい! シュート!」

 杖を構えていたクリスが魔法弾を撃った。すると、ブラックウルフは空中でさらに跳んで躱した。

「二段ジャンプだって!?」

 二段ジャンプだけではなかった。ブラックウルフはそのままハクトに向かって跳んでタックルを喰らわせた。

「がはっ!」

 タックルを喰らって吹き飛ぶハクト。そして、地面に倒れるハクトの上に乗っかってきたブラックウルフは大きく口を開けて喉を噛み付こうとする。

「させるかぁ! 獅子豪砲波!」

 虎之助が両手の手首をつけながら大きな魔法弾を作り出して、そのまま前に突き出して砲撃魔法(バースト)を放った。

 ブラックウルフは虎之助の獅子豪砲波を喰らって吹き飛ばされた。

「……お兄ちゃんを傷付けるのは許さない。パラケルスス」

『Ja!』

 ミントは両手に装備している手の甲にピンクの宝石が付いた黒いグローブを広げると、そこから二本の短剣を出して投げつける。ブラックウルフはそれを避けるのを見ると、ミントは手を合わせて地面を触ると、地面から鉄の鎖が出てきて、ブラックウルフを拘束した。縛られたブラックウルフはじたばたと抵抗しようとする。

「……お兄ちゃん。大丈夫?」

「あ、あぁ……助かった、虎之助、ミント」

 立ち上がって、胸を押さえる。さっきの攻撃であばらの何本かやられてみたいだ。

「みんなの避難は出来たか?」

「おう。今、ここに居るのは俺達だけだぜ」

「……もうすぐ教官が来るみたいです」

「そうか……くっ」

 立つのもやっとの状態であるハクト。クリスやシャーリー、ミントも虎之助も息を上げている。さっきの字ミュレーションで走っていたから体力が無くなっているのだろう。

 そして、縛られていたブラックウルフが雄叫びを上げる。あまりの五月蝿さに全員耳を手で塞ぐ。すると、縛っていた鎖が切れてしまった。

「どうすれば良いんだ……」

 ハクトは何とかしてこいつをここで止めなくてはならないと考えている。こんなのが外に出てしまっては学校内でパニックが起こってしまう。だからここで食い止めないといけなかったが、ハクトの身体もさっきのダメージがかなり応えているみたいだ。

 ブラックウルフは真っ直ぐハクトに向かってくる。それを見てハクトは確信した。こいつの狙いが最初から自分である事に。

「くっ……」

 ハクトは身体を浮かせて後ろに後退していく。そのあとを追いかけてくるブラックウルフ。

「思ったとおりだ……みんなはそこにいろ! こいつは俺が何とかするから!」

 ハクトはそのまま森の奥に向かっていく。

「ハクトさん!?」

 クリスはクリス達を助ける為に自分が囮になるのだと解った。だから、クリスはそのあとを追うとする。

「ちょっとクリス!? どこに行くつもりなの!?」

 ハクトの後を追うとするクリスの腕を、シャーリーは掴む。

「シャーリー、離して! ハクトさんが危ないかも知れないんだよ! 助けに行かないと!」

「あいつなら大丈夫よ。ハクトは強いのだから、きっと何とかするよ」

 シャーリーもハクトが危険で助けに行きたいと言うクリスの気持ちは解っているけど、ハクトが何の為にここから遠ざかったのか理解している。ハクトは自分の事よりもクリス達を守ろうとして、一人でブラックウルフを引きつけたと言う事も解っている。

「あのバカ……かっこつけて死んだら許さないからね」

 シャーリーは小さく呟いた。

「みんな、無事か!?」

 するとベルモット教官がやってきた。

「……はい、ミント達は。ですけど……」

「ハクトの奴が、一人でブラックウルフを引きつけて森の奥に」

 状況を説明するミントと虎之助に、ベルモット教官は溜め息一つ吐く。

「ガキの癖に勝手な事をしやがって。今他の教師達にも応援を向かわせている」

「このシミュレーションは消せないのですか?」

「出来ていたらとっくにやっている。誰かがシステムに干渉して操作しているんだ。しかも、ご丁寧に本物のブラックウルフを召喚しやがって」

「ちょっと待って下さい! あれは本物なんですか!?」

 シャーリーは驚いた。てっきりシミュレーションで作った立体映像であるかと思っていたからだ。それにはクリスやミント、虎之助も驚く。

「あぁ、そもそも立体映像だったらダメージはそんなに受けないし、こっちが設定したとおりしか動かないはずだ。なのに、あいつは自立で行動してやがる」

 ベルモット教官は頭を押さえる。自分が受けもつ授業でこんなアクシデントを侵してしまうなんて思わなかったからだ。

「くそっ、教官失格だ。とりあえず、これで俺様の頭を撃ってくれ!」

 すると、ベルモット教官は一丁の拳銃を出して頭を撃てと言ってきた。いやいやとシャーリー達は当然断る。

「教官の所為ではありませんから! そんな事で死のうとしないで下さい!」

 シャーリーと虎之助は死のうとするベルモット教官を止めようとする。

「……クリス?」

 すると、ミントはクリスがいなくなっている事に気付いた。

「……シャーリー、タイガー。クリスがいない」

「何っ!? まさか、ハクトを助けに行ったんじゃ!」

 シャーリーはしまったと後悔する。

 

 クリスは一人で森の奥に行ったハクトを追いかけている。

「スター、ハクトさんの魔力はこっちで間違いないんだよね」

『はい。ハクト様の魔力は確かにこっちで合っています』

 ブレイブスターでハクトの魔力を探知するクリス。ハクトから他の魔導師や魔法少女を探す時は、相手の魔力を心から感じると探知する事が出来る。ドライブを使えばさらに探知能力が上がると教えてもらっていた。まさか、それがこんな形で役に立つとは思わなかった。

「待っていて下さい、ハクトさん」

 クリスは単身でハクトの後を追いかける。

 

「はぁ…はぉ…はぁ……」

 森の奥に逃げていたハクトは木に背もたれする。

「ここなら誰にも迷惑をかけなくてすむな……」

『マスター、敵が接近してきます』

 エルがブラックウルフを察知する。肩で息をするハクトは少しだけ笑った。

「本当はこれを使いたくはなかったけど、今はやるしかないか」

 そう言って、ハクトは右腕を見る。ハクト自身、これだけは使いたくは無かったけど、あのブラックウルフを倒すにはこれしか方法はないと判断した。

「それじゃあ、ちょっとばかり悪魔に魂を売ってやるか……」

 ハクトは右腕に力を入れる。そしてハクトの足元から黒い魔法陣が現れる。

 

 願わくは誰もここに来ないでくれとハクトは願った。クリスがこっちに近付いて来る事を知らずに……

 

(続く)

 
 

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ハクト「はじめまして。この度は『魔法少女の正しい学び方』を読んでいただき、誠にありがとうございます」
クリス「皆さんに喜んでいただけましたら幸いです」
シャーリー「お疲れ様ね」
ミント「……お疲れ様です」
ハクト「はぁ……今回はしんどかった……」
クリス「そうですね。いきなりシミュレーションを使ってモンスターと実践ですからね」
ミント「……前回の最後に書いてあった地獄とはこの事だったみたいです」
シャーリー「そっちはまだマシよ。その後に起きたアクシデントの方が地獄じゃない。あれは一体どう言う事なの?」
ハクト「俺だって知らないさ。いきなりブラックウルフが現れるなんて思わなかったのだから」
ミント「……しかも、狙いはお兄ちゃんみたいです」
クリス「もしかして、ハクトさんを狙った誰かの仕業でしょうか?」
シャーリー「そうなってくると、やっぱりあいつの仕業だよ! ライチの奴が犯人だよ!」
クリス「でも、Aクラスの人は誰もしていないみたいですよ」
ミント「……そこに犯人が居ないとは書いていませんから、きっと誰かの仕業です」
ハクト「まぁ、それは次回分かる事だ」
シャーリー「次回と言えば、ハクト。あんた最後のあれは一体なんなの? これだけは使いたくなかった切り札みたいなセリフだったけど」
ハクト「これは初期設定の時に考えていたものらしいよ。むしろそれが俺の魔法でもあったみたい」
クリス「何だか危ない魔法みたいですよね。黒い魔法陣という所が」 
ミント「……使ったらダーク化するみたいな魔法ですか?」
ハクト「それも次回のお楽しみと言う事にして下さい」
ミント「……お兄ちゃん。もう時間」
ハクト「そうだな。それじゃあ、今回はここまで」
クリス「はい。また次回お会いしましょう」
シャーリー「それじゃあ、みんな」
ミント「……バイバイ」
 
 
 
 
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