王都シャインヴェルガ、タウロスの町にある廃工場。景気の悪さから潰れてしまったそこは、今は誰も住んでいない。しかし、そこの事務室にあるソファーで誰かの苦しんでいる声が聞こえる。

「うっ……くっ……」

 レナは胸を掴んで痛みを我慢している。ここが今の隠れ家である。周りには住宅などもないので、レナがそこに住んでいるなど誰も知らない。

「はぁ・・・はぁ…はぁ……」

 レナは自分の魔導殺しから魔力を喰われ続けているので、今も魔導殺しに自分の魔力を喰われている。

「……嵐山……ハクト……」

 レナは嵐山ハクトの顔を思い出して、苦しみに耐えようとする。

『確かにハクトさんは、レナちゃんと同じ力を使って、人の魔法を喰らった事があります。でもそれは、その人を救う為に使ったのです。その人の暗黒の力を消す為に、ハクトさんは力を使ったのです。ハクトさんがいなかったら、きっと救う事が出来なかったかも知れなかったのです』

 クリスが言った事を思い出す。ハクトは自分とは違うやり方で生きている。だがレナはずっとハクトに復讐する為だけに生きてきた。

「私は……一体…何の為に……」

 レナは傍に置いてあった薬瓶に手を伸ばして掴み、乱暴に薬を取り出して、二つ三つと一気に口の中に入れる。そしてしばらくしてから乱れていた息が安定していった。

 今の薬は人工生命体に魔力を送り込む事が出来る特効薬。それを飲む事で一時的に苦しみを和らげてくれる。

「はぁ…はぁ…はぁ……」

 レナは仰向けになって天井に空いてある月を見る。

 すると、にゃ〜と猫の声が聞こえた。ソファーの傍にあの時の白猫がいた。

「……ほら、おいで」

 レナは白猫にこっちに来る様に手招きをすると、白猫はぴょんとレナの身体の上に乗ると、レナは白猫の頭を撫でてあげる。白猫は嬉しそうに鳴いた。

「ほら……」

 レナは買ってきていた猫缶を開けて、白猫に食べさせる。白猫はむしゃむしゃと猫缶を食べる。

「美味しいか?」

 白猫の頭を撫でながら、嬉しそうに訊く。白猫はにゃ〜と鳴くだけだが、嬉しそうな顔をしている。

「そうか……ほら、まだあるよ」

 レナは猫缶が入っている袋から猫缶を一個取り出す。

 すると、机の上に置いてあった通信端末が震えだした。その音にレナはビクッと身体が震えた。レナの通信端末に掛けてくる相手は一人しかいない。

「……マスター」

 そう。レナの通信端末に掛けてきたのは、3年間レナを育ててくれたマスターである。レナは恐る恐る通信端末を取って、通話ボタンを押した。

「……もしもし」

『こんばんは、07(ゼロセブン)さん。随分電話に出るのが遅かったですね……』

「っ!? も、申し訳ありません、マスター。少し横になっていましたので」

 レナは白猫を外に逃げる様に誘導する。白猫が外に出て行ったのを確認してソファーに座る。

『そうですか……しかし、おかしいですね。貴女、最近魔導師を狩っていないみたいですけど』

「申し訳ありません……少し体調が優れないので……」

『……それは大変ですね。薬はちゃんと飲んでいますか?』

「はい。先程飲みまして落ち着きましたので問題ないと思います。マスターにご心配をお掛けしました」

『そうですか。では早速ですが、魔導師を狩ってもらう。良いかな、07』

 マスターから魔導師を狩ってこいと言われたレナは、少し躊躇っている。ハクトとクリスの事を思い出すとレナは自分の行っている事は間違っているのかと思うと、どうしてか躊躇ってしまう。

『どうしたのだ、07(ゼロセブン)? 何か問題でもあるのか?』

「い、いいえ……」

 レナはマスターに気付かれない様にする。

『なら結構だ。メールでターゲットのデータを送っておいた。いいな、07』

「……はい」

 レナは渋々頷いた。

 

魔法少女の正しい学び方
第二十六話 レナ 

 

 クリスの病室は静かになっている。ハクトの話した3年前の大事故を聞かされて、ハクトが買ってきてくれた飲み物も温くなってきている。

「それが……3年前の大事故なんですか?」

 病室のベッドに座っているクリスは窓際にいるハクトに訊いた。

「あぁ、あれは俺が引き起こしてしまったものなんだ……」

 ハクトは全てを話して少しすっきりとした表情をしている。しかし、すぐに真剣な表情に戻った。

「レナが俺を憎んでいるのは、姉の様に慕っていたレイが俺に殺されたと思っているんだ」

「そんなのただの逆恨みじゃない。ハクトはレイを殺していないのでしょう」

 シャーリーがハクトの胸倉を掴む。

「確かにそうだが、レナにとっては俺がレイを殺して、この右腕を奪っていったのだと思い、この3年間ずっと生きてきたんだ。そう思うと、あいつも被害者なんだよ」

「でも……くっ……」

 掴んでいた手を離すシャーリー。

「……ミントのお父さんとお母さん、死体は見つかっていないのに死んだとお師匠様から聞いたのです」

「あぁ、あそこにいた俺以外の人はみんな消滅したと聞いている。俺の父さんも、みんな……俺は今でも後悔している。自分の未熟さを、魔法を少しでも疑ってしまった事が原因であのような悲劇を起こしてしまった」

 病室が再び重苦しい空気に変わり、静まりかえる。

「ハクトさんはどうしたいのですか? レナちゃんとは戦うのですか?」

「……俺はレナともう一度戦う。いや、戦わないといけないんだ。あいつの為にも……」

 ハクトはレナの闇を受け止める為にもう一度から戦わないといけないと思っている。

「勝てるのですか、ハクト様?」

「勝つ、負けるの問題じゃない。あいつとはもう一度話をしないといけないんだ」

「……お兄ちゃん、レナは話し合ってくれますのですか?」

「分からない。あいつはまだ俺を憎んでいるかも知れないけど、話はするべきだと思うんだ」

 ハクトは病室から出ようとする。

「待って下さい、ハクトさん」

 クリスはベッドから降りる。

「クリス、お前はここで待っていろ」

「嫌です。何だかこのままハクトさんを行かせてはダメだと思います」

「そうよね。一人で勝手に行くんじゃないわよ」

「……お兄ちゃん、ミントはお兄ちゃんと一緒に行きたいのです」

「わたくし達は仲間ではありませんか」

「みんな……っ!?」

 すると、ハクトは何かを感じたのか、右腕を押さえる。

「これは……近くでレナが結界を張ったのかも知れない」

「それって、レナちゃんがまた魔導師を狩り始めたのですか?」

「かも知れない。急がないと」

 ハクトは病室を出ようとしたが、窓を開ける。

「ハクト様!? まさか、そこから出るおつもりですの!?」

「いちいち玄関まで行ってられない!」

 ハクトは窓から外に飛び出した。

「エル!」

 ハクトはエルを起動させて、魔導服(マジックコート)に着替えてから航空術を使って空を飛んだ。

「ハクトさん、私も行きます! ブレイブスター!」

 クリスもハクトに続いてブレイブスターを起動させてエンジェルフェザーを発動させて空を飛んだ。

「ちょ、ちょっと、二人とも!? 私達まだ空を飛べないのだから!」

「……お兄ちゃん達だけずるいのです」

「わたくし達も早く行きますわよ!」

 シャーリー、ミント、ライチは病室を出て行き、ハクト達を追いかける。

 

 時が止める結界魔法『エンド・オブ・ザ・タイム』。

 そこで一人の魔導師が必死で逃げていた。

「はぁ…はぁ…はぁ……」

 魔導師はいきなり時が止まって、急に現れた少女に襲われた。魔法で対抗するが、少女には通じないと分かった途端、走って逃げるしかなかった。

「無駄です。貴方はここから出られません」

 レナは魔導師を追い詰めていく。すぐに魔力を奪わず、じわじわと少しずつ奪っていっている。

「くそっ! 俺はA級魔導師なんだぞ! その俺がこんな小娘に!」

 魔導師はもう一度魔法を放つが、レナは右手の黒い刃で魔法を喰った。

「ひぃ!? ば、バケモノ!」

 魔導師はもう無駄な抵抗などせず、逃げる事だけを考える。

「……」

 レナは抵抗する魔導師を見て、少し曇った表情をする。早く諦めてほしいと思っている。自分はこんな事で時間を潰したくないのだ。

「早くあいつを見つけないといけないのだから……しかたない」

 レナは魔導師の逃げる咆哮を計算し先回りをして、魔導師の逃げ場所をなくした。魔導師は腰を抜かして動けなくなった。

「さぁ、狩りの時間です。貴方の魔力、頂かせてもらいます」

 レナは魔導殺しNO07(マジックスレイヤーナンバーゼロセブン)を前に突き出して、魔導師の魔力を奪いだした。魔力を奪われる事に苦しむ魔導師。

 しかし、その瞬間レナの結界に誰かがやってくるのに気付いたレナは魔力を奪うのを止めた。魔導殺しNO07が疼き出したのを見て、まさかと思った。

「止めろぉぉぉぉ〜〜! レナぁぁぁぁぁぁ〜〜!」

 空からやってきたハクトは、魔導殺しNO01(マジックスレイヤーナンバーゼロワン)を起動して大きく振り下ろした。

 レナは魔導師から離れて、ハクトは魔導師の前に立って構える。

「大丈夫ですか?」

 あとからやってきたクリスは魔導師に声を掛ける。

「き、君達は……?」

「話はあとだ。クリス、その人と一緒にここを脱出しろ!」

 ハクトはレナと対峙しながら後ろにいる二人に言った。

「分かりました。すぐに戻ります」

 クリスは肩を貸して、背中の羽を広げてやってきた所から脱出した。結界に切れ目が出来ている事から、ハクトが01を使ったのだ。

「嵐山ハクト……」

 目の前に立っている復讐したい相手を見て、レナは睨みつける。

「レナ……まだこんな事をしているのか?」

「うるさい! お前は私に死ねと言うのか!? お前とは違って、私は魔導師から魔力を奪わないと生きていけないんだ!」

「……そうか。お前、ここ数日魔導師を襲わなかったのは、俺の様に魔導師を襲わない事をやってみたかったのか」

「っ!? ち、違う……」

「いや、レイの言うとおり、お前は良い奴だ。だから、こんな事をするのは間違っていると、もう解っているはずだ」

「うるさい、うるさい、うるさい! お前に私の何が解る!? 何だ、その全てを悟った顔は!?」

 ハクトの少し微笑んでいる顔にレナは激怒する。どうして、そんな顔が出来るのか、レナには理解出来なかった。

「嵐山ハクト! お前は、私が殺す! 姉さんの仇!」

「……なら、来いよ。お前の怒りと憎しみを全て俺にぶつけてこい」

 ハクトとレナは魔導殺しを構える。そして、いざ前に出ようとした時……

「ダ〜メ〜で〜す〜!」

 空から天空魔法セブンスターレイが降ってきた。ハクトとレナは当たらない様に躱していく。

「く、クリス!? 何しやがる!」

 ハクトは空を飛んでいるクリスに向けて叫ぶ。すると、クリスはハクトの所までやってくる。

「ダメですよ! 二人が争うなんて、やっぱりダメ! そんな事をしたって、何も変わらないよ! それにハクトさんだって、レナちゃんを殺すなんて出来ないよ! レナちゃんだって、もうこんな事はしたくないはずだよね!?」

「クリスちゃん……」

 レナは少し歯を噛み締める。確かに、自分はもうこんな事はしたくないと言う感情が出ている。だけど、マスターの命令である以上、あとには引けなくない。

「私は魔導師を狩る者……この魔法世界を終わらせる為に、魔導師を殺す」

「……だったら、もう一度私の魔力を奪ってみて下さい! 私も本気でレナちゃんと戦う!」

 クリスはブレイブスターの杖を持って構える。

「クリス……お前……」

「お願いします、ハクトさん。私は友達を自分の手で助けたいのです。その為に戦わないといけないのでしたら、私は戦います。レナちゃんの本気を、そして私の本気をレナちゃんにも知ってもらうためにも!」

 クリスの目は本気である。これが始めて会った時、怯えていたクリスの顔だったのかとハクトは思った。

「……そうか、ならば最後まで頑張ってみろ、クリス」

「ありがとうございます、ハクトさん」

 今のクリスを止める事は出来ないと理解したハクトは、レナと戦わせる事を承認した。それに、ハクトはもう一つ気になる事があった。それを探し終わるまで、クリスにはレナの注意を惹いていてくれれば良いと考える。

「クリスちゃん、もう身体は大丈夫なの?」

「うん、ハクトさんのおかげで。あの時は私の勝手なことをしてごめんなさ。だから、今度は本気で勝負だよ、レナちゃん。私が勝ったら、もうこんな事はしないと約束してくれる」

「……解った。クリスちゃんが万が一勝ったら、私はもう魔導師を襲わない」

「うん! それじゃあ……」

「行くよ、クリスちゃん」

 クリスは魔法陣を出して魔法弾を出す準備をすると、レナはまっすぐクリスに向かって跳んできた。

「「勝負!」」

 クリスとレナの勝負が始まった。

 

(続く)

 
 

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ハクト「はじめまして。この度は『魔法少女の正しい学び方』を読んでいただき、誠にありがとうございます」
クリス「皆さんに喜んでいただけましたら幸いです」
シャーリー「お疲れ様ね」
ミント「……お疲れ様です」
ライチ「皆様、本当にお疲れ様でしたわ」
クリス「ちょっと短くなりましたけど、ついに第二クールまで行きましたね」
ハクト「まさかここまで行くとは思わなかったな」
シャーリー「半年なんだね。これが連載されて」
ミント「……このまま一年はやってほしいのです」
ライチ「まだレナさんの話が終わっておりませんから、まだまだ続きますわよ」
ハクト「これが終わってもまだ話が考えているみたいだから、まだまだ続くよ」
シャーリー「今回レナに掛けてきたマスターと言う奴が、またレナに魔導師を襲わせようとしていたね」
ライチ「レナさん、辛そうでしたわね」
クリス「魔導師を襲わなかったみたいだから、かなり苦しんでいたよね」
ハクト「俺とは違って人工生命体には魔力がないから、魔導殺しにかなり苦しむみたいだ」
ミント「……もし魔導師の魔力を喰わなかったらどうなるのですか?」
ハクト「機能停止、つまり死ぬと言う事だ」
シャーリー「そんな……」
ハクト「それまでに決着をつけなくてはならなんだ。次回はクリスが頑張ってレナを救ってくれよ」
クリス「はい!!」
ミント「……お兄ちゃん。もう時間」
ハクト「そうだな。それじゃあ、今回はここまで」
クリス「これからも『魔法少女の正しい学び方』を応援して下さい」
ライチ「では、また次回お会い致しましょう」
シャーリー「それじゃあ、みんな」
ミント「……バイバイ」
 
 
 
 
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