クリスとレナとの戦いは激しさを増していた。
「はぁ!」
「いっけぇ〜!」
クリスの魔法弾をレナの右の魔導殺しNO07で斬った。レナはクリスに向かって跳んで、左の魔導殺しNO77を一振りする。クリスはエンジェルフェザーを出して避け続ける。
「スター!」
『はい、マスター』
ブレイブスターから魔導弾を作りレナに向けて放つクリス。
「クリスちゃん、その攻撃はもう効かない」
レナは07を使って魔導弾を消そうとする。しかし、クリスの魔導弾はレナの前で軌道を変えて、上に曲がった。魔導弾は下に落ちていき、レナにぶつけようとする。レナは瞬時にその魔導弾を避けた。
(魔導弾をコントロールしている……)
クリスが魔導弾の軌道をコントロールしている事にレナは驚く。
だが驚いている場合ではなかった。クリスは空を飛んで大技を出そうとしている。砲撃モードに切り替えてシューティングスターバーストを撃とうとしている。
「させない!」
レナは07を突き出してディストラクションを放とうとしている。砲撃同士のぶつかり合いが起ころうとしている。
すると、クリスはシューティングスターバーストを撃つのを止めた。
「なっ!?」
しかし、レナは既にディストラクションを放ってしまった。クリスはディストラクションを避けてレナに近付く。
「その力、放つと途中で止められないのが欠点だよね。だから今は隙だらけだよね」
クリスは魔導弾を放ってレナにぶつけた。
数日前。病室で寝ていたクリスは、ブレイブスターを握り締める。
「ねぇ、スター……レナちゃんやハクトさんの様な相手なら、どうやって戦ったら良いかな?」
『……マスター』
クリスはずっと考えていた。レナの様な強い相手がこの先も現れるのかも知れない。
「私はまだ弱い……ハクトさんの背中を追っているだけ。それじゃあ、駄目だって分かった……だから、スター、あなたなら何か知っているかな? 私はもう負けたくないから」
『……私はマスターの為に作られたドライブです。ですから、私はマスターに勝利を与えます』
スターは静かにクリスの為に勝利を考える。
『マスター……レナさんとの戦闘スタイル、把握しました。彼女の攻撃は私が何とかします』
レナとの戦闘、クリスとブレイブスターは一緒に戦っている。
「レナちゃん、悪いけど。もう私達は負けないよ」
「クリスちゃん……」
レナはクリスの魔法弾を喰らい続けて、ダメージを受け続けている。
「レナちゃん、まだだよ。まだ戦えるでしょう」
「……えぇ。まだ戦える」
「マスターの命令である以上、私はクリスちゃんでも容赦しない」
「分かっているよ。全力で」
クリスはブレイブスターを天に向けて翳すと、レナの上に魔法陣が現れた。
「七星光波! セブンスターレイ!」
七つの光線がレナに向かって降り注いだ。レナは目を使って、軌道を読み七つ全て避け続けた。すると、クリスがレナの接近してレナの胸に杖を付きつけた。
「なっ!?」
「この距離なら右手は使えないはずだよね」
クリスは杖の先端から魔法弾を放った。レナは魔法弾を喰らって膝をついた。非殺傷設定であったから身体に大怪我する様な事は無いけどダメージはかなり受けている。
「レナちゃんの戦い方はだいぶ分かってきていますので、ここから攻めていく……えっ?」
クリスが攻撃しようとすると、レナの姿が消えた。いや、消えたのではない。クリスの背後に瞬時に回ったのだ。
『後ろ!』
ブレイブスターがクリスに指示を出したおかげで、クリスはレナの一振りを躱した。
「ハクトさんが言っていました人工生命体の癖。レナちゃんも、ちゃんと治さないと駄目だよ」
「……そうだね。この癖はどうしようもないと思っている。私達は敵の死角を攻撃する事は絶対だから」
レナは相手がもっとも仕留められる方法が死角からの攻撃だと分かっているけど、それは死角からの攻撃と読まれてしまったら意味がないと理解はしている。しかし、人工生命体にはそう言う風に作られていたのだ。
「それじゃあ、こっちはどんどん行くよ!」
クリスはレナの足元に魔法陣を作り出す。
「これは……」
「逃がさないよ」
次にクリスはレナの上にも同じ魔法陣を作り出す。クリスは二つの魔法陣に力を与える。
「天上の光、地上の星よ。繋げ。ミルキーウェイ!」
クリスは魔法を発動させると、二つの魔法陣から光の柱が出てきて繋がりあい、中にいるレナにダメージを与えていく。天空魔法ミルキーウェイは二つの魔法陣を繋げて中にいる相手にダメージを与える魔法である。中に閉じ込められた相手は逃げる事が出来ないのだ。
レナは07を使って、ミルキーウェイの足元の魔法陣を刺した。すると、ミルキーウェイは消滅した。しかし、レナの身体を光の輪で縛られた。
「レナちゃんが次に行動するとしたら、ミルキーウェイを魔導殺しで消して、すぐに私の所に来ると思っていたからね。レナちゃんがミルキーウェイを消す時にこっちは拘束系魔法を唱えていたのだよ」
クリスはレナが魔導殺しで魔法を消す事を読んでいて、次の行動に移っていた。
(凄い……クリスちゃんは常に相手の一手二手を読んで先手を取っている。これでE級魔法少女だなんて思えない……)
最初の時もそうだったけど、クリスは相手の行動を読むのが早いとレナは思った。だが、それはある意味才能と言うべきなのだろうか。ハクトもクリスのこの才能に気付いて、そこを伸ばしているのだ。
「でもレナちゃんなら、多分すぐに解けると思うよ」
「うん、そうだね。簡単な物だから」
レナは目を閉じると、クリスが張った拘束系魔法の術式を解析して解こうとする。クリスは目を閉じて向こう側にいるハクトと念話で連絡を取ろうとする。
(ハクトさん、そっちは大丈夫ですか……ハクトさん?)
念話を取ろうとしたが、ハクトと連絡が取れない。
(ハクトさん? どうしたのですか、ハクトさん?)
『……クリスか?』
すると、向こうから苦しそうなハクトの声が聞こえた。
(ハクトさん、大丈夫ですか?)
『……そうか……俺……レナは……』
(レナちゃんは大丈夫だよ。私が何とかしています)
『……良かった。それだけ聞ければ十分だ……』
ハクトの苦しそうな声を聞いて、クリスは心配になってきた。
(ハクトさん、頑張って下さい。私はハクトさんを信じています。ですから……)
『……あぁ、お前が無事で何よりだ。レナを頼むぞ』
その時、レナが拘束系魔法を解除した。クリスは戦いに集中する為に念話を切ろうとする。
『……じゃあな』
(えっ?)
ハクトの今の言葉が聞こえて、クリスは目を見開いた。その迷いがレナの攻撃を許してしまった。遅れて防御を取ったクリスはそのまま吹き飛ばされて地面に倒れる。
『マスター、大丈夫ですか?』
「……大丈夫だよ、スター」
「今、嵐山ハクトと話していたのか?」
レナはクリスが誰かと念話をしていた事に気付いていた。その相手がハクトである事も。
「……うん。でも、ハクトさんが危ない様な気がするの」
「マスターと戦っている。嵐山ハクトには魔族との戦闘経験がないはず」
「えっ? 魔族って……レナちゃんのマスターは魔族なの?」
レナは首を縦に振る。
「マスターが魔族であろうと人間であろうと構わなかった。私が生きられる方法を知っていたマスターの為に私は魔導師を狩っていた。でも、クリスちゃんとは……」
レナの身体が震えだしている。
「嵐山ハクトに復讐する……漸く見つけたのに……どうしてクリスちゃんは、あいつを庇うの?」
「……私はハクトさんを庇ってなんかいないよ。レナちゃんと同じなのかも知れない。レナちゃんがマスターと出会えた様に、私もハクトさんと出会えた事と同じなのかも知れない」
クリスは魔導殺しを突きつけられているのに、笑顔でレナを見つめる。
「ハクトさんは3年前の大事故で大切な人レイさんを失ったショックが、今になっても消えていないのかも知れないのです。だからハクトさんはきっとレイさんの様に誰かを失うのが嫌なのかも知れないのです。その中にはレナちゃんも入っていると思うよ」
「私も……」
「そうだよ。どんな時でも私達を助けてくれる。きっとレナちゃんが助けてと言ってくれたら、助けに来てくれると思うよ。私はそんなハクトさんが好きなんです」
クリスが頬を赤く染めてニッコリ笑う。レナは呆然とクリスを見ている。
「レナちゃん、ハクトさんはレイさんを殺してなんかいない。レイさんはハクトさんを助ける為に命を使ったのです」
「……知っているよ。嵐山ハクトを助ける為に姉さんが魔法を使った事を」
「えっ? 知っていたの?」
「うん……それでも私は嵐山ハクトを憎み続けなければならない……そうでなければ、私の3年間が無駄になってしまうから」
3年前の大事故から、レナはマスターと出会うまでずっと一人だった。生きる為に魔導師の魔力を喰らい、いつか嵐山ハクトに復讐する為に生きてきた彼女にとって、それを捨てる事は出来なかった。
「ねぇ、クリスちゃん……私はどうしたら良いの? このままクリスちゃんの魔力をもう一度奪って良いのかな? 友達だと言ってくれた人を悲しませて良いの? お願い、教えて……」
レナの目から涙が零れる。クリスはレナの魔導殺しに触れる。
「それは……自分で考えるべきだと思う。マスターの為でも、ハクトさんを憎んでいる為とかではない。レナちゃん自身、それを決めないといけないのだと思うよ。だって、レナちゃんは機械なんかじゃない。ちゃんと心を持っているのだから」
「……私は……友達を傷付けたくない……今まで、魔導師が苦しんでいても、何とも思わなかった。でも、クリスちゃんを苦しめていた時、胸がちくりと何かに刺された様な感じがした。この感情が何かよく分からないけど、クリスちゃんが苦しんでいると、私も苦しくなる」
「それじゃあ、もう魔導師を襲わないんだね」
クリスは立ち上がって、レナの肩を掴んだ。
「うん。私はもう誰も傷付けない……でも、これから先はどうしたら良いのか、分からない」
「ハクトさんなら、きっと何とかしてくれると思うよ。その……えっと……魔力供給してもらえば……えぇと……何とか……」
クリスはハクトと魔力供給してもらった時の事を思い出して、顔が真っ赤になる。
「やれやれ……何をしているのかと思えば」
その時、クリスとレナの影に影がくっついた。クリスとレナは動こうとするが、身体が自由に動けなくなった。
「マスター……」
レナはこの魔法がマスターの物だと解り辺りを見渡す。すると、空からメフィレスが降りてきた。
(ハクトさん、ハクトさん!? 返事をして下さい!?)
「無駄ですよ。嵐山ハクトには私の魔法で閉じ込めておきましたので、すぐには出られません。それよりも、07。マスターである私の命令が聞けないなんて、恩を仇で返すとは、この事ですね」
「……申し訳ありません、マスター。ですけど、私は友達を傷付けたくないのです。そして、もう私は魔導師から魔力を喰らいません」
「……良いですよ。どうぞ、お好きにして下さい。ただし、貴女はもう心なんて入りません。これからは心なしの殺人鬼として生きて下さい」
メフィレスは醜い笑顔でレナに言った。
「私はもう……」
「では、マスターとして貴女に最後のプレゼントを用意してあげましょう」
メフィレスは影を使って何かを掴んでいた。その掴んでいた物を見て、レナは目を見開いた。それは、レナが逃がしたあの白猫であるからだ。
「な、何をする気ですか、マスター?」
メフィレスは白猫を掴んでいた影の手を強く握り締める。白猫は苦しみだして鳴き続ける。
「くっ!」
クリスは魔法弾を作り出して、白猫を助けようと魔法弾を放とうとする。しかし、メフィレスはニヤリと笑って、大きな影の手で白猫を包み込んだ。クリスが魔法弾を放つがびくともしない。
「止めて……止めて……」
「受け取って下さいね。君への最後のプレゼントを」
メフィレスは指を鳴らした瞬間、包み込んでいた影の手を強く握り締めた。そして、その手のスキマから大量の血が噴き出した。見えなくても、あの白猫は握り潰されて死んでしまったのを見たレナは身体を震わせた。
「あ、あぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜!」
レナは悲痛の叫びが木霊する。
(続く)