白猫がメフィレスに殺されてしまい、レナは悲鳴を上げる。
「レナちゃん!?」
クリスはレナを止めようとするが、メフィレスに影を縛られて動けない状態となっている。クリスは何とか身体を動かそうとするが、自分の影がメフィレスの影とくっついているので足が金縛りにあった様に動けないでいる。
メフィレスは両手を広げて言った。
「お願いです。レナちゃんを止めて下さい!」
「止めるですって……? 残念ですが、もう彼女は私でも止める事が出来ませんよ」
メフィレスはクリスとレナの影を解放させる。すると、レナはクリスに向かって黒い刃を突こうとしてきたので、クリスは後ろに跳んで回避した。
「スター、エンジェルフェザー起動!」
クリスはエンジェルフェザーを起動させて空を飛んだ。レナの攻撃が突きだけだとは思わなかったので、空を飛んで回避しようとしたのだ。そして、それは当たっていた。レナの突きからエクスティンクションを放ったのだ。一瞬でもエンジェルフェザーを起動させるのが遅かったら喰らっていた。
レナの眼球は真っ赤になっていて、頬には赤い線の模様が浮かび上がっている。どうやら前と同じ暴走状態になっているみたいだ。
「任務……魔導師ヲ殺ス……魔力ヲ奪ウ……」
レナは飛んでいるクリスを見上げて、高く飛び上がった。クリスはブレイブスターを向けて魔法陣を出すと、レナの両手足に拘束魔法の光の輪で縛った。
「……拘束魔法……解析完了……コレヨリ解除スル……」
レナは機械染みた声で言って、クリスの拘束魔法を破壊した。解除するのに10秒もかからなかった。だが、その数秒の間、レナを足止め出来た事がクリスにとって良い事であった。
「シューティングスターバースト!」
クリスはレナが拘束魔法を解除しようとしている間に、シューティングスターバーストを唱えていたのだ。そして、解いた瞬間を狙って、クリスはシューティングスターバーストを放った。四つのレーザーと真ん中の極太レーザーがレナに襲い掛かった。
ナイトメア・シャドーの中に閉じ込められているハクトは、メフィレスによって作り出されたカイトとレイと戦っている。レイの01をハクトは同じく01で対抗する。お互いの魔導殺しがぶつかり合い、衝撃波が起こってハクトとレイは吹き飛ぶ。ハクトの後ろからカイトが神槍グングニールで攻撃してくる。ハクトはジャンプして躱した。
「やはり、2対1はきついな……」
息を切らしながらハクトは愚痴った。
「ハクト……お前から俺達と戦いたいと言ってきただろう。なら、2対1での戦闘も少しは考えろ」
「あはは……父さん、レイよ。今から1対1にしませんか?」
「「だめ」」
「やっぱりですか……」
ハクトはがっくりする。
「さぁ、休憩終了。行きますよ!」
「ちっ…流石ハクト。ちゃんと避けたね」
「おまっ!? 今、舌打ちしたなぁ!? 本気で俺を殺す気だっただろう!?」
「何言ってるのよ。だいたい01じゃあハクトを殺す事なんて出来ないでしょう。01は相手の魔力しか喰えないのだから」
「そ、それはそうだけど……やはり刃で襲われたら怖いだろう!?」
もっともな事を言うハクトであったが、レイはジト〜とハクトを見ている。
「まったく……それじゃあ、こっちも……」
カイトがグングニールを振り回して構える。
「参るぞ、ハクト!」
カイトは槍を持って思い切り前に跳んで来た。ハクトはぎりぎりで避けるが、カイトは手早く槍の軌道を変えてきたので、ハクトはシールド魔法で防いだ。
「甘いぞ、ハクト!」
カイトはシールド魔法で守っているハクトをそのまま槍で振り下ろして叩き落した。背中から地面に落ちたハクトはかなりの痛みを受けた。
「いっつ〜……今のは効いた……」
ハクトはゆっくりと立ち上がる。
「ほらほら、ハクト。早く起き上がらないと今度は私が攻撃しますよ」
レイはニヤニヤと笑いながら01を向けている。
「容赦ないな、父さんもレイも……だが、面白い」
ニヤリと笑うハクト。
「防がれている……でも!」
クリスはシューティングスターバーストの威力を上げた。レナは防ぎきれずに吹き飛ばされる。
「ほぉ〜……あれが天空魔法ですか。やはりあの力は素晴らしいですね」
メフィレスは二人の戦いを見て、顎に手を付ける。
シューティングスターバーストが終わり、クリスはレナの様子を見ようとするが、そこにはレナがいない。
「レナちゃんは……」
クリスはレナを探す。すると、背後から殺気を感じたクリスは背後に魔法弾を放った。すると、背後からやってきたレナは魔法弾を躱した。
「やっぱり背後からの攻撃でしたか……」
「……背後カラノ奇襲…失敗……」
機械染みた声でレナは無表情にクリスを見る。クリスもレナが次に何を仕掛けてくるのかを待っている。ヘタにこちらから攻撃をするわけにはいかないと考えて、クリスは攻撃しないのだ。
「レナちゃん……大丈夫だよ。私が絶対に助けるから」
クリスは何とかしてレナを助ける方法を考える。
「……攻撃…再開……」
すると、地上から植物の蔓が現れてレナの足に絡みついた。心がなくなっているとは言え、不意の攻撃に反応する。植物によって足を縛られたレナは地上に下ろされる。
「これは……ライチさん!?」
クリスは植物魔法であると解り、ライチが近くにいるのではないかと辺りを見渡すと、少し離れた場所でライチがスカーレットローズを持って魔法を発動させていた。
「ライチさん……それにミントにシャーリーまで」
ライチの近くにミントとシャーリーもいた。
「……シャーリー、気を付けて。レナは様子が変わっているから」
「解っているわよ。それじゃあ、行くよ、ストライク・バスター!」
シャーリーは落ちてくるレナに向かってダッシュする。レナはシャーリーがこっちに向かってくるのを確認してきた。
「……シャーリー・キャラメル……」
地上に落ちていくレナは足を縛っている蔓を77で斬って、07を構える。シャーリーはダッシュしながら右手を構える。そして、二人がぶつかり合おうとする。
レナが07でシャーリーを突こうとすると、シャーリーは右手でフックしてレナの攻撃を防いだ。
「……魔力ガ…0……」
「残念だけど、キャラメル流古武術は魔力を使わなくたって出来るのよ!」
シャーリーは左足に魔力を籠めて、レナのお腹に蹴りを入れた。レナは少し苦しそうな表情をして飛ばされる。何とか地面に身体をぶつける事がなく、足から着地した。
「魔力を吸い取るそっちは、魔力のない技には効果がないのでしょう。だから、私とは少し相性が悪いんじゃないかしら」
シャーリーが使うキャラメル流古武術は魔力を使わない技もある。だからシャーリーは魔力を使わずにレナと戦う事が出来る。
「そう来るよね」
シャーリーはレナの77を身体強化で強化させた右腕でガードする。少しだけ魔力を奪われてしまったけど、しっかりと白い刃を受け止める事が出来た。
すると、レナは07でシャーリーを攻撃しようとしたので、シャーリーは左手で黒い刃を掴んだ。
「くっ……魔力がどんどん……」
シャーリーは黒い刃と白い刃から自分の魔力を吸い取られていくのを感じて苦しむ。
「だけどね……これであんたは動けないでしょう!」
シャーリーは両手を後ろに引いて、レナを前に出した。そして右膝を前に突き出して跳び膝蹴りをする。レナの鳩尾に当たり吹き飛ばされた。今度は背中を地面にぶつけて倒れた。起き上がろうとするが、身体に力が入らないのか起き上がれないレナ。
「流石に鳩尾を2回も受けたら、身体に力が入らないでしょう」
シャーリーは少し息を吐いた。
「シャーリー、どうして?」
クリスが空から降りてきた。
「ごめんね、クリス。でも、私もレナを助けたいからさ。ハクトからは逃げろと言われていたけど、友達を放っておけないでしょう」
「シャーリー……でも、やっぱり無茶はしないで。あんなやり方してたらハクトさんに怒られますよ」
「あはは……それは言えてるね」
シャーリーはこんな無茶をしてと説教するハクトを想像する。
『ミントもライチさんもですよ』
(すみませんですわ……ですが、わたくしもシャーリーさんと同じですわ)
(……クリス、レナを早く正気に戻してあげて。それが出来るのはクリスだけなのです)
『うん。分かった』
クリスは自分のやるべき事は分かっている。暴走しているレナを正気に戻す事。それが出来るのは友達である自分だけである。
『ときにハクトさんは大丈夫なのでしょうか?』
(ハクトは今あいつの魔法で閉じ込められているのよ。だから脱出するのに相当時間がかかるかも知れないから、ここは私達で何とかするしかないよ)
シャーリーがハクトの状況を説明する。だが、クリスにはハクトのあの別れの言葉がどうしても気なってしまっている。あれはまるで何か遠くに行ってしまうのかも知れないと思ってしまう。
(……お兄ちゃんなら大丈夫なのです。きっとミント達のもとに来てくれるのです)
『……うん。そうだね』
クリスはハクトを信じてレナと後ろにいるメフィレスを見る。
「う〜ん、それにしても……あの07とまともに戦おうとするなんて、あの魔法少女達、チームとして良いですね。だが、経験が足りませんね」
メフィレスはニヤリと笑って、自分の影を伸ばして、シャーリーとクリスの影を縛ろうとする。クリスとシャーリーはそれに全く気付いていない。
しかし、クリスとシャーリーを襲おうとしたメフィレスの背後から炎が飛んできて、メフィレスを焼き出した。不意の攻撃にメフィレスは驚き、影が元に戻り身体を燃やそうとしている炎を消している。
「な、何っ!? どうしたの!?」
「今、私達ピンチだったのかな?」
クリスとシャーリーは自分達が狙われていた事に気付いた。
「くっ……あちちち〜!」
「そんなに熱くないだろう。人間界の炎がお前に効くわけないだろう。ヘタな芝居をしているんじゃねえよ」
メフィレスの背後から声がした。クリスとシャーリー、遠くで見ていたライチとミントはその声と姿に驚く。
「じ、ジン先生!? ど、どうしてこちら?」
そこにいたのはクリス達の担任教師であるジン・ローンウルフ先生である。タバコを咥えてライターで火を点けて一服する。
メフィレスはすぐに炎を消してジンがいる方に振り向いた。
「おやおや……こんな所までお出でなさるとは思いませんでしたね。貴方みたいな方は傍観するのが基本ではありませんか?」
「俺は前に言ったはずだぞ。俺の生徒に手を出したら、地獄の業火で焼き尽くしてやるよと。だから、貴様を骨の髄まで燃やし尽くしてやるよ。メフィレス」
ジンは右手から青い炎を出した。さっきの赤い炎とは違い、こっちの青い炎がジンの魔法である。
「くすくすくす……貴方が生徒を助けるですって? 笑わせてくれますね。人間を助けようなどと、魔狼王とも呼ばれた貴方が……そうですよね。ジン・ローンウルフ。いいえ、もう隠す必要はありませんか。魔界に住む十二人の魔王の一人、魔狼王ジン・アストラル・ローンウルフ」
メフィレスの言葉にクリス達は驚いた。
「そ、そんな……嘘ですよね!? 先生が魔族で、しかも魔王だったなんて!?」
クリスは信じたくなかった。自分達に魔法を教えてくれた人が実は魔王だったなんて。
「……悪いが、そこにいるメフィレスと俺は同じ世界に住んでいた事があったんだ。そいつの言うとおり、俺は魔族。しかも十二人の魔王の一人でもある」
タバコを吸いながらジンはあっさりと自分の正体をバラした。
「それにお前と嵐山の母親は俺の正体を知っているし、あと俺の事を知っているのは校長ぐらいだ。それに、俺が魔王だろうと、お前達の担任に代わりはないだろう」
「先生……はい!」
クリスは笑った。確かにその通りである。たとえ魔王であっても、クリス達の先生に代わりはないのだ。
「ほぉ〜、やはり私と戦うと言うのですか? 人間の為に戦うなど、魔狼王の名が泣きますよ」
「悪いけど、ここでは俺は教師だ。生徒を守るのが仕事なんだよ」
ジンはタバコを捨てて青い炎をメフィレスに向けて放った。
「面白い。少し相手をしてあげましょう。我が同胞よ。何せもうすぐ始まるかも知れませんので」
メフィレスは影の壁を作って防いだ。
「先生……はっ! レナちゃん!?」
クリスは光の輪を立ち上がろうとするレナの両手足に縛って拘束する。嫌な予感がして、クリスはレナを縛ったのだ。しかし、レナは必死に暴れた上にエクスティンクションを空に向かって放った。そして、『エンド・オブ・ザ・タイム』が消滅した。
「結界が……」
結界の外に出てしまったクリス達。そして暴走しているレナはクリスの拘束魔法を解除すると、周りにいる人達を見て襲い掛かろうとした。
「だ、ダメぇぇぇぇ〜〜!」
クリスはレナを止めようとブレイブスターを構えた。
(続く)