「よっと……」
クリスは魔法学校のグラウンドに辿り着いて、レナが来るのを待つ。そして、しばらくすると、レナがやって来た。
「レナちゃん、ここならもう誰にも邪魔はありません。思う存分暴れられます」
クリスはブレイブスターを振り回して構える。
「決着……付けましょう」
クリスがそう言うと、レナは叫び出してクリスに向かって突進してきた。クリスは冷静にレナの動きを読んで躱していく。07は回避して、77にはブレイブスターで受け止める。
「くっ……」
クリスはレナの攻撃を回避と受け止めるだけで攻撃出来ない。反撃のチャンスを窺っているが、レナの攻撃にまったく隙が見えないので、今は防御に徹するしかない。無駄に魔法弾を撃ってもレナの魔導殺し二つに消されるだけである。
『マスター……』
「大丈夫だよ。頑張ろう、スター」
クリスはレナの攻撃を受けながらも笑った。
すると、レナがクリスの首筋に向かって横薙ぎしようとした瞬間、レナの姿が消えた。
『マスター!?』
「うん、スター!」
クリスはこの時を待っていた様に、クリスは足元に魔法陣を出して、上空にも魔法陣を出した。
「ミルキーウェイ!」
クリスは自分を中心にミルキーウェイを発動した。すると、クリスの背後に現れたレナは、クリスのミルキーウェイを喰らう。
「効いている……のでしょうか?」
『分かりません……』
ミルキーウェイを喰らうレナは、07で足元の魔法陣に突きつけた。すると、ミルキーウェイの魔法陣が消滅する。
「くっ、やはりそう簡単にはいきませんか……」
『ですが、頑張りましょう』
クリスとブレイブスターは気合を入れなおす。
ジンはメフィレスにフォトンブレイズを喰らわせる。
「おっと、危ないですね」
メフィレスは地面の影に潜り込んで爆発から回避する。
「さすがは魔狼王様ですね。容赦がありません」
メフィレスの首だけ影から出てくる。ジンはそこに青い炎を放つが、すぐに避けられる。
「しかし、魔狼王様ともあろうお方が、人間に味方するなんて、どうかしていますよ。仮にも魔王である以上、人間から恐れられてほしいものですね」
「ふん、魔王や悪魔が恐れられていた時代はとっくに終わっているんだよ。今は神族も魔族も、手を出し合っていないし、どの世界にも戦争をしない様に努力をしているんだ。お前の様な頭をしている奴はさっさと消えるべきなんだよ」
咥えているタバコを一服するジン。
「たかが百年程度しか生きられない人間は、その百年ぐらいを必死に生きているんだ。前まではガキだった奴がいつの間にか大人になって子供を連れてきて、元気な顔をしてやってくる。俺はそう言うのを見るのが楽しみなんだよ。それにさっきも言ったけどな。あいつらは俺の生徒なんだよ。教師が生徒を守るのは普通だろう」
ジンは人間界に居座る様になって数十年は経っている。その中で黒狐とカリムの教師になったときの事を思い出し、今はその子供であるハクト達の事を思い出す。
「お前が王都で魔神ラグナローグを復活させようとするなら、俺が止めてやるしかないだろう」
「これは、これは……」
メフィレスはニヤニヤと笑って影から姿を現した。
「すっかり俗世に蝕まれているみたいですね。これは最早他の魔王に報告しなければなりませんね。魔狼王は我々魔族の敵となられましたので、魔王の称号を剥奪してほしいと」
「そんなものはもういらん。それに、お前はここで灰になってもらうよ」
ジンはフォトンブレイズを発動させた。右手の親指と中指でパチンと鳴らして、メフィレスを中心に爆発させた。周辺には爆発から守る様にシールド魔法が張られていて、被害が出ないようにしている。
しかし、メフィレスはジンのフォトンブレイズをまともに喰らっているが、ダメージをそんなに受けていないみたいだ。
「魔狼王ジン・アストラル・ローンウルフ。貴方は魔族と敵として殺してあげますよ」
メフィレスは自分の影を広げて、そこから獅子や狼などの獣を次々と出してくる。
「行きなさい、我が影よ」
メフィレスが命令すると、影の獣達はジンに向かっていった。
「面倒くせぇが……」
ジンは右手を前に突き出して呪文を唱えると、向かってくる影の獣達を炎の輪で拘束していった。
「邪魔だ!」
ジンは指を鳴らして影の獣を爆発させていく。
一方、クリスとレナの戦いは激しさを増していた。クリスの攻撃をレナは避けていき、クリスの首元を77で薙ぎ払うが、クリスは上手く躱した。
「シュート!」
クリスは数十発の射撃魔法を放つが、レナは魔導殺しNO07とNO77を使って全て斬っていった。魔力を喰っていき、レナはますます力をつけてきた。
「やっぱり、普通の魔法はダメですか……」
クリスはこれまでレナに色々と魔法を放つが、やはり魔導殺しの二つが魔法を消されている。これ以上すると、クリスの魔力が無くなってしまう。クリスもそれを気にし始める。
『マスター、このままですと、魔力が無くなってしまいます』
「大丈夫だよ、スター。まだ、ハクトさんに教えてもらった最後の切り札が残っているけど、その為に時間が……」
クリスはハクトから教わったとっておきの魔法があるけど、それは呪文詠唱がかなり長いため、レナにこの様に接近戦されてしまっていると、魔法が唱えられない。
「……エクスティンクション」
レナは07を前に突き出してエクスティンクションを発動した。クリスは避けようとするが、後ろに魔法学校がある事に気付いた。
「しまった! 間に合って、シューティングスターバースト!」
クリスはブレイブスターを突き出して、シューティングスターバーストを放った。エクスティンクションとシューティングスターバーストがぶつかり合う。
「くっ……」
レナのエクスティンクションに押され出すクリス。魔力を増加させて出力を上げる。
「負ける訳にはいかないのです……」
クリスの背後には自分達が通っている魔法学校がなくしたくないと思っている。だから、ここで負ける訳にはいかないのだ。しかし、レナのエクスティンクションはどんどん強くなってきている。
『マスター! 魔力を吸い取られていっています!』
「っ!? そんな!?」
抑えているシューティングスターバーストの魔力をレナのエクスティンクションが吸い取っているのだ。だから、レナの力が強くなりクリスの魔力が減っているのだ。
「クリス〜〜!」
「ハクトさん!?」
クリスはハクトが来てくれた事に嬉しくて涙を流した。
「すまない。待たせた」
ハクトはクリスの前に降りてくる。
「良かった…ハクトさん、ご無事で……」
「あぁ、お前もよく頑張ったな……」
クリスの姿を見て、ハクトもホッとする。暴走しているレナと必死に頑張っていたクリスとブレイブスターに安心する。
「クリス、もう魔力が殆ど無いじゃないか」
「はい。ですから、あの魔法をやりたいのです。ですから、ハクトさん、お願いしてもよろしいのでしょうか?」
「まさか……ブラスターを撃つつもりか?」
ハクトはクリスのやろうとした事に驚いた。
「大丈夫です。これぐらいでしたら、一発だけは撃てます」
「……分かった。ただし、あれは本当に一発だけにしろよ。あとは俺がレナを説得するから」
「はい。それじゃあ、行くよ、ブレイブスター」
クリスはエンジェルフェザーモードになって、空を飛んだ。レナはクリスの方を見て追いかけようとするけど、ハクトが01でレナを食い止めた。
「レナ。悪いけど選手交代だ」
「……嵐山…ハクトぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜!」
レナはハクトの姿を見て叫び出した。そして、すぐにハクトに向かって07と77で攻撃する。ハクトは01で応戦する。
「ハクト!?」
すると、校門前でシャーリーたちが漸く追いついた。
「……お兄ちゃん、あそこから出られたのですね、良かったのです」
「ですけど、クリスさんは……上ですわ」
ライチが上空にいるクリスを見つける。
「行くよ、スター。ブラスターモード、セット」
『オッケー。ブラスターモード』
クリスはブラスターモードにセットすると、クリスはブレイブスターをレナに向けて構えて、巨大な魔法陣を作り出す。すると、大気中にある魔力素がクリスの元に集まっていく。
それは少し前になる。いつもの公園で魔法の練習をしていた時である。
「よし。そこまでだ」
ハクトはクリスのシューティングスターバーストを見て、そこまでと言った。
「だいぶ形になってきたな。あとは魔力の減少スピードを減らして、何度でも撃てる様にしないとな」
「……はい。ありがとうございます」
クリスは息を吐きながら返事をする。ずっと、射撃魔法と砲撃魔法の繰り返しだったので魔力と体力が限界に来ていた。
「さてと、今日はここまでにして。家に帰るか」
ハクトがシミュレーションとしていた結界を解こうとした時、クリスはハクトに言った。
「あの、ハクトさん……少しよろしいでしょうか?」
「んっ? 何だ?」
「あの、スターから聞いたのですけど、射撃魔法、砲撃魔法の他にもっと強力な射撃魔法があると聞いたのですけど、本当なのですか?」
クリスは興味本位で聞いてきたのかは分からないけど、ハクトはかなり難しい顔をしていた。
「……確かにあるけど、それはまだ教えられないな」
「どうしてですか? やっぱり、私には才能がないからですか?」
「そうじゃない。ただ、この上となると危険になってくるんだ。いくら強力な魔法が使えるようになったからって、クリスの魔力から考えれば、それが出来たとしても、あとあと魔力不足となって大変な事が起きてしまう。出来る事なら、もう少しあとにしたいんだよ」
「ですけど、教えてほしいのです!」
クリスは必要以上にハクトに喰らいつく。そして、ハクトは一回溜め息を吐いてやれやれと諦めた。
「分かったよ。ただし、無理に覚えようとするなよ」
「ありがとうございます」
クリスは嬉しそうに返事をする。ハクトは左手を前に突き出す。
「まずは今クリスや俺が使った魔力がこの大気中に散乱している。それらは自然の中に消えていくけど、それを集めるイメージを作る」
ハクトは左手に魔法陣を出すと、そこに大気中にある魔力素を集めていった。
「大気中にある魔力素を自分の魔力に変換して集めて大きくしていく。そしてそれを撃つイメージへと変換して放つ!」
ハクトは溜まった魔法弾を放った。するとシミュレーションとして作られていた木々達が次々と倒されていった。それを見ていたクリスは驚いて声を出せなかった。普通にサッカーボールぐらいのサイズの魔法弾だったのに、威力は桁違いである。
「そうだ。しかし、これはあくまでも最後の技だ。使って散らばった魔力素を集める必要があるから、終盤に仕える魔法だ。ただし、消費する魔力もかなり高いから、今のクリスにはあまりお薦めしたくないけどな」
「いえ! 私、マスターしたいです! お願いします、ハクトさん!」
クリスは真剣な表情で頭を下げる。
「……分かったよ。ただし、出来ても一発限りの大勝負の時にしか使わない事。それと、これはかなり大きな被害を出してしまうから、なるべく町の中で使わない事。これらを約束出来るか」
「はい!」
こうして、クリスはハクトからブラスターを教えてもらったのだ。
そして今、クリスは大気中にある魔力素を集めていく。
「ハクトさん、お願いします。呪文詠唱が完了するまで耐えて下さい」
クリスがブラスターの準備をしている間、ハクトはレナと交戦している。
「レナ!」
ハクトはレナに呼びかけるが、レナはまったく聞こうとしない。レナはハクトの名前を叫びながら攻撃している。
「悪いけど、ちょっと失礼するよ」
すると、ハクトはレナの07に左手で掴んだ。そして魔法陣を足元に張ってそこから光の輪をレナの足を拘束した。
「レナ……もう大丈夫だ……」
「……嵐山……」
レナの意識が少しずつ取り戻そうとしている。
「今から会わせてやるよ。レイに」
そしてハクトは魔法陣を発動させて二人は光の中に包まれた。
(続く)