「ぐ、ぐわぁぁぁぁぁ〜〜!」
メフィレスはジンの青い炎に包まれる。あれほど仕掛けた影の攻撃をジンは全て倒して、メフィレスに青い炎を放った。メフィレスは避ける事が出来ず喰らってしまった。
ジンはタバコを一服する。そして、トドメの指をパチンと鳴らしてフォトンブレイズを放つ。メフィレスを中心に大爆発が起きて、炎に包まれるメフィレスは断末魔を上げる。
「こ、この…私が……ぐわぁぁぁぁ〜〜!」
黒焦げとなって倒れるメフィレス。ジンはさらに指を鳴らして炎を出して黒焦げのメフィレスを灰にする。
「……くそっ、あの野郎」
じかし、ジンの表情はまだ勝ったと言うより、まるで負けた様に悔しそうな表情をしている。
「まさか囮の影ごときに、ここまでてこずってしまうとは……俺とした事が」
そう、今までジンと戦っていたメフィレスは影で作った偽者である。本物はすでに別の所にいて、ジンから撤退していたのだ。さっきまでのメフィレスの攻撃パターンがあまりにも単調な攻撃ばかりであった為、偽者だとすぐに見破ったが、作り出す影の魔獣に少々てこずってしまったのだ。
「ちっ」
ジンは吸っていたタバコを捨てる。
「教師がタバコのポイ捨てをするなんて、いっけないんだ〜」
すると、後ろから黒狐がひょこっと現れた。
「見ていたのなら、少しは戦え」
「偽者相手に黒狐ちゃんが出るわけにはいかないわよ。私が壊したいのは本物だけだから」
黒狐はニコニコと笑いながらポップコーンを食べているけど、実はかなり怒っているのだ。ハクトだけではなく、奴はカイトの仇でもあるから、黒狐はさっきのがメフィレスの偽者だとすぐに気付いて傍観していたのだ。
「いや〜、それにしても教授のあれは格好良かったですよ。『教師が生徒を守るのは普通だろう』って……きゃ〜☆ ちょっと惚れちゃいそうでした」
「黒狐……貴女はまたお菓子を食べて」
カリムが黒狐の持っているポップコーンを取り上げる。
「わわぁ〜!? 返して、カリム!?」
「お菓子ばっかり食べるんじゃないわよ」
黒狐とカリムはポップコーンの取り合いをしている。
「まったく……お前達二人は何も変わっていないな……」
ジンは新しいタバコに火を点ける。
白い空間の中、レナは目を開ける。
「ここは……」
レナは辺りを見渡す。周りに何もなく、ただ自分だけが立っているだけである。
「だ〜れだ!」
すると、レナの後ろから誰かが目を塞いだ。レナはその声の正体を知っている。だけど、それが信じられなかった。何故なら、その声の正体はずっと会いたかった人だから。
「……姉さん」
「あったり〜! 久し振りね、レナ」
目を塞いでいた手を外してあげると、レナは後ろに振り返ると、そこにレイがいた。
「姉さん、ここは?」
「ドライブの精神世界と言うのかな。ハクトが私達を会わせてくれたみたい」
「そ、そんな事……」
「ちなみにこの空間もそんなに長くないからね。せっかく会えたのにね」
「姉さんは、嵐山ハクトに……」
「私は今ハクトの右腕の中にいるのよ。だから、もう復讐なんて止めてね」
「うん……でも、私は止まらない……止められないの……」
今のレナは完全に暴走している状態で自ら止める事が出来ない。
「貴女の友達が何とかしてくれるよ。大丈夫よ」
レイはニッコリと笑う。レナは少し驚く。
「ハクトもクリスちゃんを信じて。私はいつでもハクトの傍にいるから」
「……うん」
「それとね。レナちゃん、私達人工生命体はウィリアム博士の希望でもあるの。それはね」
レイはレナの耳元で何かを話すと、レナは目を見開いた。
ハクトはレナを掴んで、ドライブに力を入れて魔法陣で囲んで動けなくなっている。掴まれているレナは暴れているが、何とか動かない様に強く握り締める。
(……レイ、もう良いか)
『うん! 解除して良いよ』
ハクトは01ことレイと念話で会話をして、魔法陣を解除した。そして、握っていた手を離すと、レナは瞬時にハクトに攻撃しようとしたので、ハクトは01で攻撃を受け止める。
(クリス、そっちはどうだ)
(もう少しです……)
上空でブラスターの準備をしているクリス。すでに集った魔力はかなり大きくなっている。
『カウントダウン10…9……8……』
ブレイブスターがカウントダウンを始めた。
(よし、俺がレナを上に飛ばすから、そこを撃て。地上だとかなり被害が出てしまうから)
(わ、分かりました!)
ハクトとクリスはお互いのやる事を確認しあい、ハクトはレナと激突する。01と07,77がぶつかり合い、レナは苦しそうに叫び出す。
そして、レナの77の横薙ぎを躱したハクトはレナの懐に入り、足に魔力を籠めて蹴り上げた。お腹にぶつけられたレナはそのまま上空に飛ばされる。飛ばされたレナは近くに巨大な魔力反応を感知してクリスを見つけた。クリスは飛んできたレナを照準する。
『カウント……0』
そして、カウントが0になり、力が入ってくる。レナは危険だと判断して、07と77を前に突き出すと、二つの剣先から魔法陣が二つ現れた。
「……デュアルエクスティンクション……発射」
レナがそう言うと、魔法陣からエクスティンクションが二発同時に発射された。クリスは巨大な魔力の玉をレナに向けて、ブレイブスターを大きく振り上げた。
「頼むぞ、クリス……」
地上にいるハクトは今から01のエクスティンクションを撃っても、間に合わないし、まさか両方の魔導殺しからエクスティンクションを撃ってくるなんて思わなかった。恐らく、あれはかなりの威力があるから、ハクトのエクスティンクションでは防ぐ事は出来ない。だから、クリスを信じて見上げているしかなかった。
クリスは向かってくるエクスティンクションに恐怖を感じていたけど、初めてレナと会った事を思い出すと、恐怖をふっ切れた。
「セレスティアルブラストぉぉぉぉ〜〜!」
クリスはブラスターの名前を叫んでブレイブスターを大きく振り下ろした。そして、巨大な魔力の玉は一気に発射されて、レナのデュアルエクスティンクションとぶつかりあい。すぐにクリスのセレスティアルブラストがレナのデュアルエクスティンクションを競り勝って消滅させた。障害物がなくなったセレスティアルブラストはレナに向かっていった。レナは77を振り下ろしてセレスティアルブラストを斬ろうとするが、力に押し負けている。そしてピキッと77からひびが入りだして、ついにドライブこと魔導殺しNO77は壊れてしまった。そして、レナはセレスティアルブラストに直撃を喰らった。
セレスティアルブラストはそのまま夜の空に向かっていった。撃ち終わったクリスは肩で息をしながら構えたままでいる。すると、レナが落ちていくのが見えて、クリスはすぐに落ちていくレナの所に向かって飛んでいく。
「レナちゃん! よっと!」
クリスはレナをお姫様抱っこして、落ちるのを止めた。すると、レナがゆっくりと目を開ける。そこには狂気は完全に消えて、目も元に戻って、頬にあった赤い線も消えていた。
「レナちゃん、良かった。元に戻ったのね」
「……クリスちゃん、ごめんなさい。私は貴女を一杯傷付けた……」
「ううん、もう良いんだよ。レナちゃんが無事で凄く嬉しいから」
クリスは漸くレナを救う事が出来て嬉しくて涙が零れる。レナも、それに共感したのか、同じく涙を零す。
「下でハクトさんが待っていますよ。行きましょう」
「うん……」
クリスはレナを抱っこしながら地上に降りていく。
ハクトはクリス達が降りてくるのを嬉しそうな顔で待っている。すると、ハクトの肩をシャーリーが叩いた。ハクトは振り返ると、シャーリー、ミント、ライチは嬉しそうに笑っていた。
「良かったね、ハクト」
「……あぁ」
そして、クリスが地上に足を着けると、レナをゆっくりと下ろしてあげた。
「ほら、レナちゃん」
「ちょっと、ハクト、行きなさいよ」
レナはクリスに押されて、ハクトはシャーリーに押されて、二人は距離を詰めた。
「……レナ、おかえり」
「……た、ただいま、ハクト」
「レイとちゃんと話出来たか?」
「うん…姉さんはこれからも貴方の右腕の中で生きているのですよね」
「あぁ、俺も正直驚いているよ。だから、これからはずっと一緒にいられるよ。もちろん、レナもだよ」
「……ごめんなさい、ハクト。私は……」
レナは俯いて泣きそうになる。ハクトはレナの頭を撫でてあげる。
「謝るのは俺の方だ。3年間一人にしてごめん。だから、これからは一緒にいような」
「……うん!」
レナは涙を拭いて嬉しそうに笑った。二人を見ていたシャーリーやライチは少し涙を浮かべていて。ミントとクリスは嬉しそうに笑い合った。
すると、どこからかあの声が聞こえた。
「っ!?」
すると、レナの背中からお腹にかけて、影の手が貫いた。レナは口から血を吐き出して、ゆっくりと自分のお腹を見ると、影の手がレナの身体を貫いているのが見えた。
目の前で見ていたハクトは目を見開いて驚いていた。一体、何が起こっているのか理解出来ず、頭が真っ白になっていた。それはクリス、シャーリー、ミント、ライチもそうである。
「れ、レナぁぁぁぁぁぁ〜〜!」
そして、漸く理解したハクトはレナの名前を叫んだ。
「いやいや、まさか本当に倒されてしまうとは思いませんでした。ですが、やはりこういう感情が入っている道具は使い物にはなりませんね。やはり道具は心なんて物は必要ありませんね」
レナの影からメフィレスがレナの背後から現れた。そして、影の手を思い切り引くと、レナはそのままハクトの方に倒れていった。ハクトはレナを強く抱き締める。
「レナ!? おい、しっかりしろ!?」
「……ハクト……私は……」
レナはハクトの顔を見上げる。
「喋るな! 今治療してやるから!」
「……ありがとう」
ハクトは治癒魔法を唱えようとするが、レナはそのままゆっくりと瞼を閉じて身体の力を抜いていった。ハクトはレナの呼吸が止まってしまった事を知って、抱き締めていた手に力が入って、涙を零した。ハクトの涙はレナの頬に落ちて、ハクトは歯を噛み締める。
「そ、そんな……レナちゃん……」
クリスは腰が抜けていった。それはシャーリーやミント、ライチも最早言葉を出せず、ただただ涙を流している。
「やはり人間と言う物は愚かですね。たかが作り物一つでそこまで弱るなんて」
メフィレスはハクト達の様子を見て、ニヤニヤと笑っている。
「……大丈夫だ、レナ。俺達が必ずお前を救ってやる」
ハクトはレナを抱き上げる。
「ミント……頼めるか」
「……はいなのです」
涙を拭いて、ミントはレナの傷を治そうとする。
「無駄ですよ。すでにその作り物は壊れていますよ。直す事なんて出来ませんよ」
「……黙れ。お前だけは絶対に許さない」
ハクトはレナをミントに預けて立ち上がり、後ろにいるメフィレスの方に振り向いて睨みつける。
「許さない? ふははははぁ〜! 許さないから何ですか? 貴方の攻撃は私には通用しないのは知っているはずですよね」
ハクトはそのままゆっくりとメフィレスに向かっていき、そして走り出した。
「人間風情は逆上するとすぐにこれですよ」
メフィレスは影の槍を使ってハクトを刺そうとするが、ハクトはそれらを避けていき、メフィレスとの距離を詰めた。しかし、メフィレスは慌てる様子もなかった。ビルの屋上で戦った時、ハクトの攻撃は魔族であるメフィレスには通用しなかったから、メフィレスは今回もそんな攻撃をわざわざ避ける必要はなかった。攻撃を喰らった瞬間にカウンターで串刺しにしようとしているのだ。
ハクトは右腕に炎の魔法を纏わせて、渾身の一撃をメフィレスの腹にぶつけた。
「がはっ!」
メフィレスは今までにないぐらい大きなダメージを受けて吹き飛ばされた。地面に倒れたメフィレスは腹に大火傷をして苦しむ。
「ぐ、ぐわぁぁ! な、何故だ!? 何故、人間の拳が!?」
火傷の痛さで転がっているメフィレスに向かっていくハクト。
「立てよ! まだこんなものじゃねえよ!」
ハクトは右手に炎の魔法を纏わせている。
「ぐっ!」
メフィレスは何とか立ち上がるが、今の一撃がかなり効いているみたいでふらふらとふらついている。それをハクトは待つ事無く向かっていった。
「シールドブレイク!」
すると、ハクトは左手のエルにシールドブレイクを発動させて拳をぶつけた。影の壁はガラスが割れる様な音をして壊れた。影の壁を失ったメフィレスに、再びハクトは右の拳で顔面を殴った。メフィレスは再び地面に倒された。
「……覚悟しろよ、メフィレス。お前のそのくだらない野望など、俺がぶち壊してやるよ!」
倒れているメフィレスにハクトは叫んだ。反撃開始となるのか?
(続く)