ハクトがメフィレスを吹っ飛ばした。メフィレスは何故吹っ飛ばされたのか理解出来なかった。魔族である彼が人間の技を喰らう事は決してないからだ。アストラル体として身体は肉体と少し違う身体で出来ている。霊体化していると考えても良いだろう。つまり物理攻撃は効かないはずなのだ。現に最初にハクトと戦った時はまったくダメージを喰らっていなかったのに、今ではメフィレスの身体に大きなダメージを与えている。
「ぐっ……ば、バカな……私が人間の技を喰らうなんて……」
あまりにもありえない状況にメフィレスは苦しそうな表情をする。
「立て、メフィレス」
倒れているメフィレスの見下ろして睨むハクト。メフィレスの身体が少しだけ震えだした。
(恐怖? この私が恐れていると言うのか? こんな人間に?)
メフィレスはハクトの顔を見ると、メフィレスにはその顔が嵐山カイトに見えた。
(ば、バカな…どうして奴の顔が……そんなの私は認めません!)
メフィレスは影を使って、影の獣達を呼び出して、ハクトに襲わせた。しかし、ハクトは影の獣達も次々と殴ったり蹴ったりして倒していく。
「死ぬが良い! シャドーエッジ!」
メフィレスは影の剣を数本呼び出して、ハクトに狙いをつけて飛ばしていった。
ハクトは両手を合わせて前方に魔法陣を出して、メフィレスの攻撃を全て防いだ。
「あ、ありえない……魔族の魔力を籠めた魔法を防いだだと?」
メフィレスは先程のシャドーエッジに魔族の魔力を籠めていたのだ。これを籠める事で人間の魔法で防ぐ事は出来ないはずである。しかし、ハクトは両手を合わせたままメフィレスのシャドーエッジを完全に防いでいる。
「さぁ、反撃させてもらうそ、この外道」
ハクトは拳を構えて、メフィレスに向かって跳んだ。
「良いか、ハクト。魔戒神生流は『魔を戒め、神を生かす流儀』じゃ。この技は人の身で神の力を纏い、魔の命を絶たせる事が出来るのじゃ。魔法にはそれぞれ十二属性の他に三つの種類がある。それが何か分かるか?」
「……人と、魔と、神……ですね……先生」
肩で息をしながらハクトは息苦しそうに答えると、先生はニヤッと笑った。
「正解じゃ。魔法には人間と魔族と神族の三種類の魔法が存在する。それぞれの種族によって、その魔法は大きく変化する事がある。例えば、炎の魔法でも人間の炎は赤いが、魔族の炎は青かったり黒かったりして、神族の炎は白くなるのじゃ」
先生は右手に赤い炎を出して、左手には白い炎を出してあげる。
「もう分かるじゃろう? 魔戒神生流は神族の魔法として使う事になる。魔族相手にはうってつけの魔法じゃ。人間、魔族、神族には相性があり、ジャンケンの様になっておる。人間は神族に勝ち、神族は魔族に勝ち、魔族は人間に勝つ。つまり、人間が魔族に勝つには、神の力を使わないといけないのじゃ」
「しかし……どうして人間が神に勝てるのですか?」
ハクトはその事にどうしても疑問を浮かべてしまう。普通神の力が人間に負けるなんてありえない事である。
「神は人によって認められた種族じゃ。仏様も神様も、結局は人に認められないとなる事が出来ない。『新世界の神になる』などと言っておる者も結局は人間で、人々に認められなければただの殺人者となるじゃろう」
「……信仰力がないと力が出ないと言う様な物でしょうか?」
「ふむ……そんな所じゃ。魔戒神生流はそんな意味では最強とも言える武術じゃ。人の身で魔に勝つ事が出来るのじゃからな」
先生は笑う。ハクトもそれにつられて微笑む。
そして今、ハクトはその力で魔族であるメフィレスをぶっ飛ばしている。
「はぁぁぁぁ〜〜!」
ハクトは右手でメフィレスの顎にアッパーを喰らわせる。メフィレスは吹き飛ばされながら、影を使って、ハクトの影をくっつかせた。
「くすくすくす……これでもう動く事は出来ませんね。このまま絞め殺してあげますよ」
メフィレスは影を操ってハクトの身体を上がっていって首を絞める。ハクトは首を絞めている影を掴んで抵抗する。
「…くっ、こんなもの……」
ハクトは魔力を籠めて首を縛っている影を引き千切った。しかし、メフィレスは次の手を打っていた。
「シャドーケルベロス」
メフィレスは影から三つの首を持った魔犬を呼び出した。シャドーケルベロスは遠吠えを上げる。
「行け、シャドーケルベロスよ。奴の肉を食い千切ってくるが良い!」
メフィレスに命令されて、シャドーケルベロスは物凄い速さでハクトに向かっていく。
(レイ、エル……力を貸してくれ)
『はい、マスター』
『分かったよ、ハクト』
二つのマジカル・ドライブを起動させる事は、かなりの魔力を使うが、ハクトはそんな事を考えていない。魔力がなくなっても、目の前にいる敵を倒す為に全力で戦うしかないのだ。
シャドーケルベロスは三つの首とも大きく口を開けてハクトを喰らおうとしている。ハクトは後ろに下がって回避して左手を前に突き出して魔法陣を出すと、シャドーケルベロスの胴体に光の輪で拘束する。
「消滅せよ。エクスティンクション!」
ハクトは01を前に突き出してエクスティンクションを発動した。白い極太の光線はシャドーケルベロスを完全に消滅させた。
「な、い、一撃ですか!? 今までより威力が上がっているだと!?」
「狩りの時間だ、メフィレス。お前を狩ってやるよ」
「あぁ、いる。俺の中であいつは生きている」
「……なるほど。やはりお前は私の手で殺すしかありませんね」
メフィレスは今までの雰囲気を消して、黒いオーラを出した。もう遊ぶ気はないみたいだ。
「我が計画を潰してくれただけでなく、今回も貴方にここまで邪魔されてしまうとは思いませんでした。やはりあの嵐山カイトの息子ですね。彼も正義の為に私に挑みましたので。親子とは似る者なのですね」
「当然だ。俺は嵐山カイトの息子、嵐山ハクトだ」
「そうですね。では死になさい!」
メフィレスは両手を前に付き出すと影の弾丸を撃ちまくった。
ハクトとメフィレスが戦っている後ろでレナの傷を治そうとしているミントだが、全く効果が出ていない。
「……どうして、どうしてなのですか?」
ミントの頭の中で治癒魔法の構図は出来ている。どこを治せば良いのか、既に理解して治癒魔法を掛けているのに全くレナは意識を取り戻さない。
「ミント……頑張って」
レナの頭を膝に乗せて座っているクリスは必死に治癒魔法をしているミントを応援する。こう言う時に何も出来ない自分が許せなかった。
「……ダメなのです。傷が全く治らないのです」
ミントはレナの傷を調べるが、どうも何か別な力が働いている。メフィレスに貫かれた傷が全く塞がらない。
「ミントさん」
「ミント、ファイトよ!」
ライチとシャーリーも応援してくれているが、ミントはどうしたら治せるのか分からなくなってきた。
(……クリスも、お兄ちゃんも頑張っていたのです。だから、ミントも頑張らないといけないのに、結局ミントは何も出来ないのです。どうしたら良いのですか。お父さん、お母さん……)
ミントが諦めかけたその時、ミントの頭に何かが閃いた。
(……そうだ。レナはお父さんとお母さんが作った人工生命体。錬金術で言うのならホムンクルスを造ったのです。でしたら、レナの身体は錬金術で造られた者……普通に治癒魔法だとダメなのです。もっと、レナの身体を調べてみないと)
ミントは治癒魔法を止めて、レナの身体に手を置いた。
「……行くのです」
ミントは目を閉じて、頭の中でレナの人工生命体の設計図を構築していく。
(……ホムンクルスの本はたくさん読んだのです。だから、レナの壊れた場所を確認して、そこを修理するのです)
ミントは錬金術師としてお師匠からたくさんの本を読まされた。そこには人工生命体もといホムンクルスの本をたくさん読んで知識を得ている。
(……レナの傷……やはり心臓とも言うべきエーテルナノを溜める場所に相当なダメージを受けているのです。ここをまずは修復しないとです)
ミントは漸くレナの傷の原因を見つけると、錬金術でそこを治していく。
(……エーテルナノに魔力がなくなっているのです。恐らく、メフィレスに溜めていた魔力を全部抜き取られたみたいなのです。だったら、07にミントの魔力を与えてあげれば……)
レナの右手にある魔導殺しNO07にミントは触れて、ミントの身体から魔力を放出する。すると、07は反応して魔力を吸収していった。
そして全ての作業を終えたミントは一息吐いた。
『よく頑張ったな、ミント』
『ミント、貴女は立派な錬金術師になれたんだね』
すると、ミントの頭に誰かの声が聞こえて前を見ると、そこにはミントの父親ヴァニラ・J・ウィリアムと母親のチョコ・J・ウィリアムがいた。ミントはこれが幻であっても、お父さんとお母さんに会えて嬉しくて涙を流した。ヴァニラとチョコは微笑むと、そのまま消えていった。
「ミント? どうしたの?」
クリスは突然ミントが涙を流して、少し驚いている。
「……大丈夫なのです。レナは何とかなりましたのです」
ミントがクリスとシャーリー、ライチにそう言うと、三人とも喜んだ。
『……お兄ちゃん、レナはもう大丈夫なのです。だから、メフィレスを倒してほしいのです』
『分かった。ありがとう、ミント』
メフィレスが影の弾丸を飛ばしてくるので、ハクトはそれらを全て躱していきメフィレスに近付く。メフィレスは影の剣を取り出し、ハクトの01とぶつかりあう。
「おのれ、嵐山ハクト! 私の計画を、魔神ラグナローグ様の復活をまた邪魔すると言うのですか!?」
「当たり前だ。この世界に魔神なんて呼ばせはしない」
ぶつかり合う二人の刃。ハクトの肩を掠り、メフィレスの腕を掠り、二人の身体には切り傷がかなり出来ている。
「お前こそ、どうして魔神をこの世界に呼ぶ出す。何の為に魔神を復活させようとしているんだ!?」
「貴様ら人間に、我ら魔族の存在を恐れてもらう為だ。平和? 共存? そんな下らない物に我々魔族が何故従わないといけないのですか? 我々魔族は人々に恐れられてこその存在だ。それを否定され、牙を抜かれた獅子など、何の意味があると言うのですか? だからこそ、私は世界政府から魔法世界をぶち壊す為に魔神ラグナローグ様を復活させる為に、プロジェクトSを作り上げた。全ては順調であった。嵐山カイトの部隊が現れた時も計画の内だった。だがしかし!」
メフィレスはハクトを吹き飛ばして、影の弾丸を撃ちまくった。
「貴様と言うたった一つのイレギュラー、そして感情を持ってしまった魔導殺し達。貴様らの所為で計画はぶち壊しだ。だからこそ、この3年間、私は貴様に復讐する為に、同じ境遇を持った07を使った。更なる強さを与えて」
「それが、レナがお前をマスターだと言う理由か」
「彼女はよく育った。だが、結局ウィリアムが造った人工生命体には感情をプログラムしておるから、感情に流されて結果はこうなった。なら、私はさらに強力な人間兵器を作るしかありませんね」
「人間兵器?」
「そうだ。それらが世界政府がお前たち魔法世界の者を滅ぼすだろう」
「そんな事はさせない。俺達魔導師の明日をお前達に滅ぼされはしない」
「滅ぶさ。お前はここで私に殺されるのだから」
メフィレスは周りに影の魔物を呼び出した。
「これで終わりにしてやる。ナイトメア・シャドーカーニバル」
メフィレスは影の魔物をハクトの周りに配置させて巨大な魔法陣の形を作り出した。そして、ハクト中心にドーム状の結界を作ろうとしている。
「今度のはさっきとは違い肉も骨も残さずに苦しんで死ぬが良い」
ナイトメア・シャドーカーニバルは残酷な魔法。中に入れられた者は肉体も魂もずたずたにされて、命を落とす禁断の魔法である。
ハクトは包まれそうになるが、01を大きく振り上げて足元に魔法陣を出す。そして、01の刃に魔力を籠める。
「魔戒神生流剣技『草薙』!」
ハクトは大きく振り下ろすと、包み込もうとした結界を一刀両断して破壊した。そして、メフィレスの右腕を切り落とした。
「な、何だと!? あ、あの距離から剣術で我が腕を……」
メフィレスとハクトと距離では剣で届かない場所にいたのに、ハクトは魔力を籠めた剣技草薙で、01の刃の長さをさらに伸ばしたのだ。それにより、メフィレスにまで届き腕を切り落としたのだ。
「さぁ、次で終わらしてやる。メフィレス」
「……っ!? くすくすくす……どうやら時間切れのようですね」
「何だと? どう言う意味だ」
「空を見るが良い」
ハクトは空を見上げると、目を見開いて驚いた。
「あれは……」
(続く)