4年前のプロジェクトS研究所でレイは廊下を歩いていると、途中である部屋からヴァニラとチョコの声が聞こえた。レイはその部屋に入った。
「博士、チョコさん。何をしているのですか?」
その部屋は中心にバイオ液が入ったカプセルがあり、辺りの壁や床には魔法陣や練成陣がいっぱい描かれていた。
「実験?」
チョコの言葉にレイは首を傾げる。レイはバイオ液の中を覗くと、一糸纏わぬ姿をした女の子が眠っている。
「ひょっとして、新しい妹?」
レイは新しい妹が出来る事に喜んでいる。
「それで、何の実験なの? いつもの様に私達を造っているのではないのですか?」
「いや、この子にはある魔法陣を刻んでおくのだ」
「ん?」
「君達魔導殺しは魔法を喰らう事で魔導師と対抗する事が出来る。しかし、逆に魔導師と融合すれば、どんな力が目覚めるのか。少し興味があってね」
ヴァニラは魔導殺し達の違う未来を考えて、新しい魔導殺しに少し手を加えたのだ。それは魔導師との融合である。魔導殺しは魔導師と一体化となり武器として力を使う事が出来る。しかも魔導師はその間、魔導殺しに魔力を喰われなくて済むのだ。ただし、魔導師と魔導殺しとの信頼関係が築かれていないと使う事が出来ないのだ。
「もし、この実験が成功したら、お前達にもそれを使える様にしてやろうと思っている」
「本当ですか!? うわ〜い!」
子供の様に喜んで跳ねるレイ。
ハクトとレナは融合をして新しい力を手に入れた。
ハクトは今まで感じた事がない力が自分の中から流れ込んできているのが分かってくる。魔導殺しを使うときに発生する魔力を喰われる息苦しさもなく、身体が軽くなった様な感じである。
右手の黒い大剣からレナの声が聞こえた。
「うん、問題ない」
ハクトは107を振り回す。01より大きく重い剣であるが、ハクトには手馴れている様に振っている。
「は、ハクトさん……」
クリスはハクトの姿に驚いている。今までの雰囲気とはかなり違う。
「どうしたんだ、クリス」
「い、いいえ。何だか、ハクトさんが大人みたいになった様な感じです」
「俺は何も変わっていないさ」
「そうですよね……」
クリスはハクトの姿に少しドキッとする。
「……お兄ちゃん、何だか格好良いのです」
「そ、そうね。何と言うか……」
「ますます褒めれてしまいますわ」
ミント、シャーリー、ライチもハクトの姿にドキッとなっている。
「これと言って変わっていないと言うのに……まぁ、良いか。とりあえず、あれを何とかしないといけないな」
ハクトは夜空に浮かぶ巨大な扉を見上げる。今にでも魔神ラグナローグが扉の外に出て行こうとしている。
「それじゃあ、行くとするか。レイ、レナ」
『えぇ、ハクト』
ハクトの号令に答えるレイとレナ。ハクトは航空術を使って空を飛んだ。ハクトは魔神ラグナローグの扉から離れた場所に止まった。
「さて、あの扉を破壊する事は出来ないけど、もう一度扉を閉ざす事が出来ると先生が言っていた。だから、今度はもう迷わない」
ハクトは魔導殺しNO107を振り上げて、足元に魔法陣を張った。すると、周りにある魔力素がどんどんハクトの107に魔力が集束されていく。
クリスはハクトがやろうとしている事に気付いた。自分もやった事がある魔法であるからすぐに分かった。先程クリスもレナの時にセレスティアルブラストと言う集束系魔法を放った事がある。ハクトのあれもまるでそんな感じに見える。
ハクトは魔導殺しNO107に魔力をどんどん溜めていく。集ってくる魔力素が刃に纏っていき、力が増幅していく。
すると、魔神ラグナローグが大きく口を開けて息を吸い込んでいった。
「あっちも集束系魔法を使ってくるつもりか?」
『ハクト、私達と一つになって』
「あぁ、分かっているさ」
「行くぜ! 魔戒神生流奥義『龍神星霊剣』!」
ハクトは魔導殺しNO107を大きく振り落とした。それにより大きな光の刃が斬撃となって飛んだ。魔神ラグナローグも吸い込んだ力を吐き出して大きな光線を出した。
ぶつかり合う二つの力だが、ハクトはさらに魔力を増幅させて押し出していった。そして、ハクトの魔法が魔神ラグナローグの扉にぶつかり閉まっていこうとする。魔神ラグナローグは必死に出ようとするが、ハクトの力に押し負けていき、最後には扉の中に入っていった。
「これで終わりだ!」
ハクトは最後に渾身の力でまたしても大きく振り上げて魔力を溜めて振り下ろした。ハクトは奥義をもう一度使って扉を完全に閉まった。そして、扉は夜空から姿を消えていった。
「はぁ…はぁ…はぁ……」
肩で息をして振り下ろしたまま残心するハクト。
『やったね、ハクト』
「あぁ……でも……もう……限界……だ」
ハクトは力を抜ける様に空から一気に落ちていった。
すると、融合していたレナが元の姿になって、落ちていくハクトの手を掴んでゆっくりと降下していく。
「レナちゃん、こっちだよ!」
降りてくるレナにクリスは誘導する。ライチが植物の種を地面に蒔いて、巨大な蔓を呼び出した。その巨大な蔓にハクトを担いでいるレナは着地する。
「よし、ゆっくりと降ろして下さい」
ライチは植物に指示を出して、二人を地面に下ろしてあげた。しかし、ハクトは全く力が入らずレナに担がれたままである。
「ハクトさん、大丈夫ですか!? しっかりして下さい!」
クリスはハクトの心配をして少し悲しそうな顔をする。
「……ちょっと……本気で……疲れたぜ……」
ハクトは顔を上げて笑顔で答えると、クリスは心の底から嬉しそうに喜ぶ。
「魔神ラグナローグは、もう出てこないの? これで本当に終わったんだよね」
シャーリーは腰が抜けた様に膝から座り込んだ。
「……あぁ……もう大丈夫だと思う……」
覇気がないハクトの言葉にみんなはさっきまでの喜びがなくなった。
「……あぁ……今回は本気でヤバいかもしれない……」
息も絶え絶えの状態であるハクト。さらに言えば魔力切れによる高熱も出始めている。かなり危険な所まで行っているみたいだ。
「わ、悪いけど……レナ、このまま病院まで運んでいってくれないか……正直言って……もう動けない所まで来ているんだ」
「分かりました。その前に結界を解いておきませんと」
レナは『END・OF・THE・TIME』を解除して時間を進ませた。中であんなに派手な戦闘が行われていたのに、外ではそんな事が起こっていないかの様に静まっている。
「ハクトさん、私も病院まで一緒に行きます」
「私も行くに決まっているよ。レナ、疲れたなら私と代わって良いからね」
「……ミントも行くのです」
「わたくしも行きますわ。この時間ですので、魔法病院まではわたくしの車で行った方がよろしいですわ。すぐに迎えの車を用意致します」
ライチは通信端末を取り出して、迎えの車を呼んだ。
「……すまない……」
「いえいえ、ハクトさんは一番頑張ってくれましたから、これぐらいの事は……っ!?」
すると、クリスは何かに気付いて空を見上げる。すると、空から何か黒い塊がべちょっと落ちてきた。
「な、何よ、あれは……」
「……気を付けるのです。何か邪悪な気を感じるのです」
ミントの言うとおり、その黒い塊からは怨念みたいなのが感じられる。クリス達は武器を構えて相手の出方を待った。すると、黒い塊はどんどん形を変えていった。
「……アラシヤマ……ハクトぉぉぉぉ〜!」
黒い塊は断末魔の叫びの如く叫び出した。そしてその姿は命を捨てて魔神ラブナローグの扉を開けようとしたメフィレスであった。
「……怨霊になってもしぶとい奴だ……」
ハクトも戦おうとするが、最早身体に力がまったく入らない。レナに担がれたままである。
「……逃ガシハシナイ……貴様ラハ私ト共ニ……滅ビルノダ!」
メフィレスは最後の力を使ってハクト達に迫ってきた。クリス達も魔法を使おうとする。
しかし、次の瞬間、メフィレスの周りに強力な魔法陣に閉じ込められて身動きが取れなくなった。
「ナ、何ダ……コレハ……?」
メフィレスも驚いているが、クリス達も驚いている。こんな魔法、誰も使っていないのだ。すると、シャンとまるで鈴がいくつも鳴ったかの様な音が聞こえた。
「マ、マサカ……」
「これ以上、子供達に手を出す事は、この私が許しません」
すると、誰かがこっちにやって来た。赤いローブを着て黒いマントを羽織、白髪の男性で手には先程のいくつかの鈴が付いた杖を持っている。
「う、嘘……?」
「どうして……」
クリスやシャーリー、ミントとライチはその男性の姿を見て驚いた。ハクトとレナは初対面であるので一体何者なのか理解出来ず驚く事もなかった。
「ソ、ソンナバカナ……」
「……消え去るが良い。光の大審判『ジャッジメント』!」
男性がメフィレスにジャッジメントを発動した。光魔法による審判魔法、その者に判決を与え、悪と裁かれた時、人間、神族、魔族であろうとも消滅させる事が出来る超魔法である。
ジャッジメントを喰らわされたメフィレスは断末魔を上げる。
「ナ、何故デスカ……ドウシテ……」
メフィレスは光に包まれて完全に消滅してしまった。3年前から今までずっとプロジェクトSに関わっていた魔族の最後にしては呆気なく終わってしまった。
ジャッジメントの光が消えて、シャンと鈴が鳴った。そして、男性はクリス達に向かっていった。
「皆さん、本当にご苦労様でした。君達の活躍は多くの者達に認められるでしょう。王都代表としてお礼を申しあげます。本当にありがとうございます」
男性は深々と頭を下げる。
「い、いいえ! 滅相もございません! 大賢者様のお助けがありませんでしたら、どうなっていましたか」
クリスは慌てて頭を下げる。
「……大賢者様……って……」
「あんた、本気で知らないの!? シャインヴェルガ城に仕えている魔導師のさらに上の称号を持っている大賢者様、ゾフィー・シルフィード様だよ!」
シャーリーに言われてもいまいちピンと来ないハクト。そう言えば、そんな人が雑誌やテレビで見た様な見なかった様なとハクトは考える。
「おや、君は随分とお疲れの様ですね。どうやら、魔力切れを起こしているみたいですね」
ゾフィーはハクトの様子を見て(目を閉じているので見えているのかどうかは不明である)、ゾフィーはハクトに向けて杖を向けて呪文を唱えた。すると、ハクトの足元に魔法陣が現れて、ハクトの身体を包み込んだ。
「……こ、これは?」
ハクトはさっきまでの魔力切れによる高熱は完全に下がりだして、気だるかった身体も元に戻っていった。
「まさか、魔力を回復していっているのか?」
ハクトは信じられない様に自分の身体を見渡す。魔力を回復させる事は、自然回復か魔力供給の儀式をしないといけない。なのに、このゾフィーはいとも簡単に魔力回復の魔法を使ってきたのだ。
「これで大丈夫でしょう。ですか、あくまで応急処置程度ぐらいですので、皆さんも病院には行った方が良いでしょう」
「あ、ありがとうございます……」
ハクトは素直にお礼を言った。
「気にしないで下さい。君達のおかげで王都は救われたのですから。では私はこれで失礼します。またどこかの天の導きでお会いしましょう」
そう言って、ゾフィーはその場から立ち去っていった。
こうして魔導師襲撃事件や魔神ラグナローグの復活は終わったのであった。
(続く)