想像して下さい。廊下で透明の布を首に巻かれて引き摺られている男を見かけたら、貴方はどうしますか?

 1悲鳴を上げる 2恐怖で引く 3またかよと呆れる さぁ、貴方はどれを選びますか?

「ちょっと待てぇ〜! せめて、助けると言う選択肢をくれぇ〜!」

 虎之助は引き摺られながら叫んでいる。今廊下に引き摺られているのは虎之助である。前回ハクトに写真を見せたが、間違えて違う写真を見せてしまって動揺していた瞬間、透明の布に首を巻かれて一瞬で引き摺られてしまっているのだ。

「にょわぁぁぁ〜〜! 誰か助けてぇぇぇ〜〜!」

 虎之助はそのまま廊下を引き摺られているが、誰も助けようとしない。

 そして虎之助は引っ張られたまま窓の外に出てしまった。

「ちょっと!? あ〜れ〜!」

 外に落ちていき、地面に叩きつけられてめり込んでいる。

「おせんべいになっちゃったぜ! ぺったんこなので〜す!」

 ぺらぺらになった虎之助だが、透明の布はそのまま近くの木の枝に括りつけて、そのままぐいっと吊るされてしまう。

「フィッシュ!」

 すると、1人の女生徒の声が響き、透明の布をぐいっと引っ張った。

「ぐへっ!」

 首吊りにされた虎之助に、女生徒は布をピンと弾いて、虎之助はがくっとぶらりと静かになった。

「ふっ、またつまらない者を吊るしてしまった」

「と、ととと、虎之助君!? 大丈夫ですか!?」

 布を引っ張っている女生徒の隣に、物凄く慌てている女生徒がいた。

「大丈夫だぜ!」

 首に吊るされながらも虎之助が親指を立てて復活した。普通なら首を吊っていたら声が出せないのに、何故か声を出している虎之助である。

 

魔法少女の正しい学び方
第四十話 虎之助と放送部の皆さん 

 

「おや、この状態で生きているとは。やるね、長谷部隊員」

「いや〜、流石の俺っちもちょっと三途の川が見えてしまい、向こうで死んだおじいちゃんが『コンテニュー?』って訊いてきたんですよ……って、そんな事よりも、下ろしてもらえませんでしょうか? 少々苦しくなってきましたので」

 虎之助の顔がどんどん青くなっていく。

「うむ、分かった」

 女生徒は虎之助を巻いていた透明の布を操って外そうとする。

「って、ちょっと待て!? 今ここで外さず、まずは俺っちを下ろして……って、聞いてねぇぇぇぇ〜〜!」

 吊るされている状態で外した為、虎之助は下に落ちていき、地面に叩きつけられた。またせんべいになったのではないか。

「虎之助君、大丈夫ですか?」

 倒れている虎之助に慌てて駆け寄るもう1人の女生徒は手を差し伸べる。

「あ〜、すまねえな……」

 虎之助は差し伸べてくれた手を掴んだ。その時、それを見ていた女生徒と虎之助は「あっ」と言った。

「ひぃっ!?」

 掴まれた女生徒はまるで超嫌いな物に触れたかの様に身体中に電流が走り、鳥肌がたちまくり身体を震わせている。それを見ていた女生徒は虎之助に向かって十字を切った。

「い、い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜!」

 そして女生徒は虎之助を掴んだまま、まるでハンマー投げをするかの様に大きく振り回して、大きく投げ飛ばした。

「にょわぁぁぁぁぁ〜〜!」

 虎之助はそのまま空の彼方へと消えてしまった。

『親父、俺っちはね、正義の味方になりたかったんだぜ』

 青空に虎之助の姿が映り笑顔で歯を光らせた。

「あ、あわわわわ……ご、ごめんなさい……虎之助君……ま、またやってしまった……」

 投げ飛ばした女生徒は、自分のやってしまった事を後悔して泣きそうな顔をしている。

「いや〜、今日も大きく飛んで行ったな、長谷部特攻隊員(殉職)は」

 それを見ていた女生徒は笑いながら敬礼をしている。

 

「た、ただいま戻りました……」

 虎之助はボロボロになりながら戻ってきた。

「ごご、ごめんなさい、虎之助君……」

「いや、エクレールちゃんの所為じゃないさ。どっちかと言うと、マドレーヌ先輩の所為ですよ」

「ほぉ〜、私の所為なのか?」

「誰がどう見てもですよ……」

 紹介しておきましょう。まずは涙目になって怯えているクリーム色の長髪に緑色の瞳をしている女生徒は1年Dクラスのエクレール・ミキサー。エクレールが隠れているオレンジの短髪に赤い瞳の女生徒は2年Cクラスのマドレーヌ・コーティング。この2人は放送部の部員である。

 ちなみにマドレーヌが持っている透明の布は『セラフィック』と呼ばれる彼女のマジカル・ドライブであり、普段は彼女の首に巻かれているマフラーになっているが、起動すると大きな布になって操る事が出来る。布なのに鉄や木を斬る事が出来たり炎や水等の魔法を防ぐ事も出来たりする。

「何を文句言っているのだ、長谷部よ。だいたい、あのままだったらお前は変態扱いされていたのかも知れないのだぞ。感謝はされても、文句は言われたくないな」

「いやいや、先輩。先輩が渡してくれた写真。あれ、エクレールちゃんの写真じゃないですか!?」

 虎之助が先程の写真をマドレーヌと後ろに隠れているエクレールに見せてあげた。その写真には女子更衣室で着替え中のエクレールが映し出されている。その写真を見たエクレールは顔を真っ赤にする。

「ど、どどど、どうして私の写真が!?」

「長谷部容疑者が撮った写真よ。怖いの、男って……」

「先輩のでしょうが! だいたい、エクレールちゃんの写真を撮っているのはいつも先輩でしょうが!? この同性愛者が!?」

 虎之助はビシッと指差す。そう、マドレーヌは百合属性であり、エクレールを執拗に狙っているのだ。エクレールは自分が狙われていると感じて、マドレーヌから少し離れた。

「同性愛……結構です! 女が女を愛して何が悪い!」

「開き直ったよ……」

「あ、ああああ、あの、あの! せ、先輩、いつの間に、そ、そそそ、そんな写真を撮ったのですか?」

 写真では天井から撮影されている。つまり、天井に張り付いた状態でシャッターを押したのだ。

「当然、蜘蛛男の様に天井に張り付いていたのさ。貴女があまりにも可愛いからね。それに、その豊満な胸を見て、私はさらに愛を感じました」

 マドレーヌの言葉に、エクレールは両手で胸を隠そうとする。エクレールの胸は中学1年の中ではかなり大きいサイズであり、今もまだ成長中と聞く。

「先輩、それセクハラですよ。部長に言いつけますよ」

「何を!? 長谷部君はあの胸を見て興奮しないのか!? お前のその股間にある物は何の為についているんだ!」

「先輩! 女性がそんな事を言ってはいけません! あと、これは一般向けですかばらっ!?」

 すると、虎之助の頭にマイクがぶつかってきて地面に倒れてしまった。

「まったく、何をしているのだ、お前達は」

 虎之助の後ろから放送部部長のスフレ・ブロードがやってきた。

「ぶ、部長〜!」

 エクレールはスフレに抱きつく。唯一心を許せるのはスフレだけである。

「よしよし、もう怖くないからね」

 スフレは抱きついてきたエクレールの頭を撫でてあげる。

「あぁ〜、お、お姉様〜。いいな、いいな……私も、私もお姉様に抱き締めたい! 頭を撫で撫でされたい! はぁ、はぁ、はぁ……じゅるり」

 息を荒げて涎を拭くマドレーヌ。

「貴女は私に近付かない。それと、エクレール君に対するセクハラも禁止よ」

「そ、そんな〜! お姉様〜、それでは私のライフワークはどうなるのですか!?」

「知りません!」

 スフレは怒鳴りつける。しかし、マドレーヌには効果はなかった……

「あぁ、お姉様の怒号……私の心にストライクしました!」

「ダメだな、こりゃ。部長、全然効果ありませんよ」

 地面に倒れていた虎之助が顔を上げた。

「と、虎之助君……あ、あの、大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だぜ、エクレールちゃん。あと、あまり俺っちには近付かない方が良いぞ。また怖い思いをするのだから」

 虎之助は自分に近付いてくるエクレールを止める。エクレールは理解したのか、身体が震え始めた。

「そ、そうでした。虎之助君は男の人、男の人なんですよね……」

 ここまで来れば理解出来るであろうか。エクレールは男性恐怖症で男が全く苦手である。男の人がエクレールの身体に触れてしまうと、先程の虎之助の様に投げ飛ばされたりするのだ。投げ飛ばされるのは良いとして、殴ったり蹴ったりして吹き飛ばす事が多い。放送部ではよく虎之助が不意にエクレールに触れてしまって、何回飛ばされた事か……

「くっ、長谷部め……やはり、私のハーレムルートの邪魔者になるみたいね」

 マドレーヌが虎之助を睨みつける。

「だが、負けないぞ。部長とエクレールを手に入れて、ハーレム女王(クイーン)になるのは、この私だ!」

 マドレーヌの背中に真っ赤な炎が燃えている。

「いやいや……そう言うハーレムルートなど、恋愛関係で問題が起こるのは、本編主人公のハクトだけで充分だって!」

 

「へっくしゅん!」

 1年Eクラスの教室で、ハクトがくしゃみをする。

「どうしたのですか、ハクトさん? 風邪でも引いたのですか?」

「大丈夫だよ、クリス。多分、どこかで俺の噂をした奴がいる。まぁ、誰なのかは言わないけど……」

 鼻を啜るハクト。

「ですが、本当に風邪かも知れませんわ。わたくしが保健室までご一緒いたしますわ」

 するとライチがハクトの左腕を掴んで保健室まで連れて行こうとする。しかし、反対の右腕をシャーリーが掴んだ。

「ちょっと待ちなさい、ライチ。あんた保健委員じゃないでしょう。Eクラスの保健委員は私なのよ。だから、ハクトを保健室に連れて行くのは、私の仕事よ」

 シャーリーが笑顔でハクトの腕を引っ張った。

「いででででぇ〜! ちょっと待て!? 人間綱引きは勘弁してくれ! 腕が、腕がちぎれる!」

 ハクトは漫画やゲームの様に両側から綱引きの様に腕を引っ張られて痛がっている。

「ハクト様が痛がっているではないですか!? ほら、シャーリーさん、早くその手を離しなさいませ!」

「バカ言わないでよ! ここであんたに負ける訳にはいかないのよ! あんたの方こそ、さっさとハクトを離しなさい!」

「2人とも、止めてくれぇぇ〜! クリス、ミント、何とかしてくれ!」

 ハクトはクリスとミントに助けを求める。

「……ハクトさんの風邪は、私が治します!」

 クリスがハクトの前に立ち、治癒魔法を唱えようとする。少し前にハクトから治癒魔法を教えてもらったので、早速実行に移したのだ。助けるどころか、勝負に参戦してきた。

「……大丈夫なのです。お兄ちゃんの風邪はミントが治すのです」

 すると、後方からミントがアゾット剣を取り出して治癒魔法を唱えようとしている。

「ちょっと待て、お前らぁぁ〜〜!」

 ハクトの中心に、前方のクリス、後方のミント、左方のライチ、右方のシャーリー、今ここにハクトグランドクロスが完成された。

「完成しなくて良いから、誰か助けてくれぇぇぇぇ〜〜!」

 

「っと、こうなるだろう」

 虎之助が今1年Eクラスの教室で何が起きているのかと言う予想を言った。

「残念だが先輩、攻略対象が2人だけと言うのはハーレムではない。ただのコンビルートと言うのだ。もっと攻略対象を増やさない限り、先輩はハーレム女王にはなれないのだ!」

 力説する虎之助であるが、マドレーヌには効果抜群である。ががーんと言う効果音が出るかの様にショックを受けている。

「そ、そうなのか……お姉様とエクレールだけではハーレム女王になれないのか……ならば、放送部にもっと私好みの女の子を集めて、私は攻略してみせる!」

 使命に燃えるマドレーヌ。

「タイガー君、マドレーヌ君、あとでお話があります。それよりも、タイガー君。嵐山ハクト君からゲスト出演の了承は取れたかしら?」

 真面目な話に戻すスフレ。

「いや、すみません、部長。どうもハクトは魔導師襲撃事件について話してくれそうにないのですよ。それにあいつは目立つ事が、かなり嫌みたいですので」

 虎之助もゲスト出演の話を断った時のハクトの表情を思い出す。あれはもっと深い何かがあるのではないかと虎之助は理解した。伊達に何年もハクトを追いかけていた男である。

「そうか。それなら仕方ないか。ゲスト出演者が放送事故を起こされてしまっては問題だ。では、今日のラジオでは魔導師襲撃事件のテーマを無しにして、違うテーマで盛り上げてくれ。今日のパーソナリティーはタイガー君とエクレール君であったな」

「え、えぇぇぇ〜〜!? わ、私と、ととと、虎之助君が!?」

 エクレールはまさか虎之助と一緒にラジオをやる事になって驚いた。

「すまないけど、君の男性恐怖症を治すには、彼と一緒にラジオのパーソナリティーをやらないといけないと思ってな。タイガー君、君も分かっているけど」

「まぁ、分かっていますよ。別にエクレールちゃんから俺っちに何か言う必要はないぜ。俺っちがメインになって、エクレールちゃんは俺っちの言葉に相槌を打ったり答えたりしてくれれば良いから」

「ほ、本当に、それだけで良いのですか?」

「もちろんだぜ。少しずつで良いから、男性恐怖症を克服出来る様に力を貸してやるぜ」

「あ、ありがとうございます!」

 エクレールは虎之助の言葉が嬉しくて手を握ったもとい、握ってしまった。

「あ……」

 虎之助もまさかと思ってエクレールを見ると、エクレールは身体を震わせて、さっきまで嬉しそうだった顔から一気に涙目で怖がっている顔に変わった。

「い、い、いやぁぁぁぁぁ〜〜! 男の人、嫌〜〜〜い!」

 そして、そのまま虎之助を思い切り投げ飛ばしてしまった。

『前略、お袋様。梅干おにぎり、おいしゅうございました』

 虎之助は本日二度目のお星様になった。

「あ、ああ〜、虎之助君、ごめんなさ〜い……」

 またやってしまったと後悔して泣き出すエクレール。

「部長、あの2人で大丈夫でしょうか?」

「さぁ……面白いから良いけど」

 薄情な部長と先輩である。

 

(続く)

 
 

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クリス「皆さん、はじめまして。本日は『魔法少女の正しい学び方』を読んでいただき、誠にありがとうございます」
レナ「皆さんに喜んでいただけましたら幸いです」
シャーリー「お疲れ様ね」
ミント「……お疲れ様です」
ライチ「皆様、本当にお疲れ様でしたわ」
ミント「……みんな。もう時間なのです」
クリス「魔法少女の正しい学び方も、今回で四十話目に突入しました。これも皆さんのおかげです。ありがとうございます」
シャーリー「これは目標の五十話ももうすぐだね」
ミント「……次の目標は百話達成なのです」
ライチ「作者様は大丈夫なのでしょうか?」
レナ「ここまで来たのだから、目標は大きくした方が良いと思います」
クリス「そうです。さて、今回は虎之助さんの話ですけど、何だか放送部の皆さんも個性的なキャラばかりですね」
シャーリー「個性ありすぎでしょう。男性恐怖症で男に触られたら怪力が発動するエクレールに」
ライチ「百合属性で女にしか興味がありませんマドレーヌ先輩ですもの」
ミント「……タイガーも個性の塊なのです」
レナ「でも、部長はどうなのでしょうか? 何か個性があるのでしょうか?」
クリス「それはまた後であるみたいですけど、虎之助さんと放送部の皆さんの話にはまだあと1人ヒロインがいるみたいです」
ライチ「あら、そうですの?」
シャーリー「これじゃあ、虎之助がハーレム状態じゃない」
ミント「……お兄ちゃんもそうなのですよ」
レナ魔導師(マスター)を中心にグランドクロスが完成したと言いますけど、そうなりますと私が魔導師(マスター)のお傍になると言う事ですね
クリス「それは聞き捨てなりませんよ、レナちゃん」
シャーリー「うわっ、前回ハクトとレナの関係は気にしないと言っていたクリスが嫉妬の炎を出している」
ミント「……それはそれ、これはこれなのです」
ライチ「そうですわね。わたくしもレナさんにハクト様をお渡しするわけにはいきませんわ」
5人「ふっふっふっふっふ……」バチバチと火花を散らしている。
ミント「……皆さん、そろそろ時間なのです」
レナ「そうですね。それじゃあ、今回はここまで」
クリス「これからも『魔法少女の正しい学び方』を応援して下さい」
ライチ「では、また次回お会い致しましょう」
シャーリー「それじゃあ、みんな」
ミント「……バイバイ」
 
 
 
 
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