シャインヴェルガ城にて一人の兵士が城内を走っている。本来城内を走る事は許されない事であるけど、事が事であるので、そんな事を言ってられない。

「陛下〜! 皇帝陛下〜!」

 そして兵士がアルタイル皇帝陛下がいる玉座の間にやってきた。

「どうしたんだ? そんなに慌てて?」

 アルタイル皇帝陛下は玉座に座って兵士を見る。

「そ、それが……またです」

「……何?」

 またと言う言葉にアルタイル皇帝陛下は頭を抱える。

「はい。またミルフィーユ皇女が脱走しました」

 兵士が敬礼しながら報告して、アルタイル皇帝陛下はやれやれと溜め息を吐く。

「大至急、城門を閉鎖してあの子が出て行かない様にしてくれ。あと、あの子の歌には気を付けろと兵士達に伝えろ」

「はい!」

 兵士はまた走って玉座の間を後にした。

『シャインヴェルガ城内の兵士に通達。ミルフィーユ皇女が脱走しました。至急城門を閉鎖して皇女を捕獲して下さい』

 シャインヴェルガ城の放送が流れていく中、フード付きのマントを被って裏庭を走っている少女がいた。

「……っ!」

 少女は門を閉められた事に驚くが、塀の上に弓などで当てる木の的を発見した。そして懐から何かを出してそれに向かって撃った。鎖が飛び出して先端のフックが木の的に刺さり、少女は刺さった事を確認すると掴んでいる所にあるスイッチを押そうとする。

「見つけましたよ、皇女様」

「……っ!?」

 すると、皇女と呼ばれた少女の背後に10人の兵士がやってきた。

「あれはフックショット。その様な物まで持ち出してどちらに行かれるのですか? お供の妖精も連れて行かないで」

「……」

 皇女は少し歯を噛み締める。

「さあ、我々と一緒に来ていただきましょうか」

 兵士達がゆっくりと皇女に近付いていく。すると、皇女の口元が少し笑って息を吸い込んだ。

「♪〜〜♪」

 皇女は歌い出した。静かなゆっくりとした曲が流れていく。

「っ!? いかん!? 全員耳を塞げ!」

 兵士がそう叫んだが遅かった。皇女の後ろに魔法陣が現れると金髪の女性が出てきて持っているハープを弾き始めた。皇女とハープの奏でる音を聞いた兵士達は次々と眠っていく。

「せ、セレナーデ……眠りの歌…か……」

 そして最後の兵士が倒れて眠ってしまう。皇女が歌い終わると、ハープを弾いていた女性が消えていった。

「ごめんなさい。ですけど、今日も良い歌を歌えました」

 皇女はフードを取って顔を出した。薄い桃色の長髪にウェーブを掛けて、灰色の瞳をした少女。

「さて、それでは王都の町を見に行ってきますね。お夕飯の頃には戻りますので」

 カチッとフックショットのスイッチを押すと鎖が引かれていき、皇女を上に登らせた。

 彼女がシャインヴェルガ城に住む第二皇女『ヴェルガの歌姫』と呼ばれているミルフィーユ・シャインヴェルガ皇女である。

 

魔法少女の正しい学び方
第五十話 ヴェルガの歌姫 

 

 ミルフィーユ皇女はたまにお城を抜け出して、町を見学する事が多い。お城から眺める町よりも直接見た方が何か面白い事が起こるのではないかと思って、よくお城から脱走する事がある。父親のアルタイル皇帝陛下も散々注意をしているけど、ミルフィーユ皇女はまったく聞いていない。

 フードを被って町を見渡すミルフィーユ皇女は目をキラキラさせている。しかし、いくらフードを被っているとはいえ、彼女はかなりの有名人である。この間行われたコンサートでもヴェルガドームが超満員になるほどの人気者である。そんな皇女がこんな所で見つかってしまったら大パニックになる。だからミルフィーユ皇女はもう一つ変装道具を用意している。

「そこの君? 少し良いかね?」

 すると、町にいた兵士がミルフィーユ皇女に声を掛ける。幸い後ろからであるので姿は見られていない。

「は、はい〜? 何でしょうか〜?」

 するとミルフィーユ皇女は声色を変えて別の声を出した。詩魔法と言う音属性の魔法を使える彼女にとって声色を変える事など簡単に出来るのだ。

「この辺りでこちらの女性を探しているのですけど、見かけなかったかね?」

 兵士はミルフィーユ皇女の写真を見せる。ミルフィーユは振り返ってその写真を見る。兵士ならこれだけ皇女だと解るはずだが、ミルフィーユ皇女は変装道具である眼鏡を掛けているので全く気付いていない。

「あ〜! その人なら向こうの方を歩いていましたよ〜。早く行かないと列車に乗ってしまうかも知れませんよ〜」

 ミルフィーユ皇女は駅がある方を指差した。兵士達はまさか列車に乗って遠くに逃げるつもりだと考えた。

「ありがとうございます!」

 兵士は一度ミルフィーユ皇女に敬礼をして駅の方へ向かった。

「はい〜、頑張って下さいね〜」

 兵士を手を振って見送ったミルフィーユ皇女。

「ふ〜、何とか誤魔化せました」

 元の声に戻したミルフィーユ皇女は安堵の息を吐く。脱走の名人である彼女にとって、この程度造作もないのだ。

『姫様〜!』

 すると上空からミルフィーユ皇女の頭の中に念話(テレパシー)が聞こえた。ミルフィーユ皇女はあははと苦笑いする。

『やっと見つけました!』

 ミルフィーユ皇女の周りを飛んでいる20cmぐらいの女の子。濃い緑色の短髪に赤い瞳、白い布で作られた服に背中には四枚の羽が生えている。

「おほほ〜、誰の事を仰っておりますの〜? わたくしはお姫様ではありませんわ〜」

 ミルフィーユはまたしても声色を変えて別の声を出した。

『いやいや、姫様。私には通用しませんよ』

「……そうでしたね。妖精であるアロエには通用しませんよね」

 アロエと呼ばれた妖精は北の国ジェノアヴィレッツ王国にある精霊の森に棲んでいたが、ある時怪我をしたアロエをミルフィーユが助けて以来、一緒にいる事になった。妖精には相手を惑わせる魔法の効果は受け付けないのだ。

『も〜、姫様。またお城を抜け出して、皇帝陛下が怒りますよ』

 アロエはミルフィーユ皇女のマントを引っ張ってお城に帰ろうとする。

「まだ良いじゃない。お夕飯の頃に帰りますって、ちゃんとお部屋に書き置きしておきましたので」

 ミルフィーユはお城を出る前に『少しお散歩してきます。お夕飯頃に戻ります。ミルフィーユより』と書き置きしてあるのだ。

『そう言う問題ではありませんよ! こんなところで町の皆さんに姫様だってバレてしまったらどうするのですか!?』

「心配ないですよ。さっきみたいに声色を変えれば良いのですから。それにちゃんと変装道具を付けているのですから。せっかくだからアロエも一緒にお散歩しましょう」

 ミルフィーユ皇女はまったくお城に帰るつもりないみたいだ。

『ダメですよ。一緒に帰りましょう。姫様を狙う者だっているかも知れないのですから!』

 アロエは必死にミルフィーユ皇女をお城に連れて行こうとする。

「あら? 空に何かいますよ」

 ミルフィーユ皇女が空に何か黒いのが見えた。

『鳥でしょうか?』

「いいえ、このままだと……目の前に落ちてきますね」

 ミルフィーユ皇女がそう言った瞬間……

「にょわぁぁぁぁぁ〜〜!」

 叫び声が聞こえてきて、ドカ〜ンと地面に落ちてきた。

『姫様!? ご無事ですか!?』

「大丈夫だけど、この方が……」

 ミルフィーユ皇女の目の前には頭から地面にめり込んで下半身だけ出ている。

「まあ、これは狐神家のあれですね」

『見てはいけません、姫様!? 穢れてしまいます!』

 アロエが身体を張ってミルフィーユ皇女から、謎の下半身を見せない様にする。

 

 た す け て く れ

 

 すると、謎の下半身からメッセージが浮かびだした。

『な、何だ、こいつは!?』

「変わった言葉ですね」

 

 た す け て く れ て も む だ あ し に は な ら な い

 

 再び言葉が浮かび上がってきた。

『せめてセリフで言いなさいよ!』

 アロエがツッコミを入れる。

「まあ、それは大変ですね。今、助けますね」

 ミルフィーユ皇女が謎の下半身を助けようとする。

『ダメですよ、姫様!? 関わってはいけませんよ!』

「でも王族として、困っている民を助けないといけませんので」

 ミルフィーユ皇女が謎の下半身に近付く。

「♪〜」

 ミルフィーユ皇女は歌い出した。先程とは違って少しテンポ良く歌う。すると、魔法陣が現れて水色の髪をした女性が出てきて、持っているストローで大きな泡を作り出した。そして出来た大きな泡が謎の下半身を包み込んで引っ張っていった。そしてすぽっと顔が出てきた。

「ぷは〜、助かったぜ」

 大きな泡によって救われたのは、虎之助だった。また放送部で何か遭ったのだろうな。

『な、何だ、こいつは?』

 アロエはこの黒髪の男を睨む。こんな奴の為にミルフィーユ皇女が歌ったのだからだ。

「大丈夫ですか? 今、出しますので」

 ミルフィーユ皇女が歌い終わると女性は消えて、虎之助を包んでいた泡が消えた。

「え、ちょっと、まっ!?」

 すると、まだ頭が下になっていた虎之助が大きな泡がなくなったので浮遊もなくなって地面に逆らえずそのまま地面に落ちて頭を打った。

「ぐきりっと!?」

 そんな音が鳴った様に、虎之助の首が曲がって、そのまま倒れた。

『死んだな』

 アロエは手を合わせて合掌する。

「あ、あの……大丈夫ですか?」

 ミルフィーユ皇女は倒れている虎之助を気遣う。

「おぉ! 大丈夫だぜ!」

 虎之助は元気良く復活した。

「いや〜、すまなかったぜ、そこのお嬢さん。まさに九死に一生を遂げた感じだぜ」

「いえいえ、お元気そうで何よりです」

『いやいや! 首っ!? 首が曲がっているぞ!?』

 アロエの言うとおり、虎之助は首が右に曲がっている状態である。さっきのぐきりと言う音は首が折れた音だったみたいだ。

「ほへっ? にょわぁ〜、本当だぜ!?」

『気付けよ!』

「いや〜、俺っちが地面に埋まっている間に、世界がこう斜に構えたのかなあと思ってビックリしたぜ」

「ああ、ありますね、そう言う事」

『ありませんから!?』

 このボケボケコンビにアロエはツッコミを入れるしかなかった。

「ちょっと待ってろ。今、曲がった首を治すから」

 虎之助は両手で首を持って力を籠めて反対に曲げさせた。ぐきりと音が鳴って首は元に戻ったみたいだ。

「よし、これでオッケーだぜ」

『逆っ! 今度は逆に曲がっているぞ!』

 そう、虎之助の首はさっきとは逆の方向に曲がっているのだ。

「NYOWAAAAAAA〜〜!」

 それから、何回かして漸く首が元に戻った。

「ふ〜、漸く首に戻ったぜ」

 首を回してどこにも異常がないか確認する虎之助。

「面白い方ですね」

「おお、俺っちは面白い奴だぜ。俺っちは全世界の面白人間だぜ」

 キラーンと歯を輝かせる虎之助。

『訳が分からないって……』

「んっ? そう言えば、そこの肩に乗っているのって、妖精か?」

 虎之助はミルフィーユ皇女の肩に乗っているアロエを見る。

『そうだよ。何か文句でもあるの?』

 アロエは虎之助を睨みつける。

「いやいや、懐かしいって思ってな。昔、俺っちも妖精を連れていたんだけどな。寿命で亡くなってしまってよ」

『……そうなんだ』

「それはお気の毒に。何だか申し訳ありませんね」

「ああ、良いんだ。それはもう立ち直る事が出来たからよ。それより、俺っちを地面から助けてくれてありがとうな、お嬢さん」

「まあ、お嬢さんだなんて、ありがとうです」

 ミルフィーユ皇女は嬉しそうに喜ぶ。

「ああ、そうだった。まだ自己紹介がまだだったな。俺っちは長谷部虎之助だ。タイガーと呼んでくれても良いんだぜ」

「長谷部様ですね。良い名前ですね」

 虎之助のボケをスルーしたミルフィーユ皇女。

「よろしければ、お嬢さんの名前を教えてもらえませんか?」

「はい、私の名前は……」

 ミルフィーユ皇女が自分の名前を言おうとした瞬間……

 

 パーン!

 

 銃声が鳴って、虎之助が仰向けに倒れた。彼の額から穴が開いて血が垂れてきた。

『なっ!?』

「長谷部様!?」

 ミルフィーユ皇女とアロエは倒れた虎之助を見て驚く。近くにいた町の人達も悲鳴を上げて逃げていく。

『姫様! 逃げて下さい!』

「いいえ、もう囲まれていますね」

 ミルフィーユ皇女は周りの気配を察知すると、この辺りに殺気を感知している。そして次々と彼女の周りに黒いローブを被った集団がやってきた。

『ミルフィーユ・シャインヴェルガ皇女ですね?』

 すると、ミルフィーユ皇女の頭に念話(テレパシー)が聞こえてきた。どこからか聞こえたのか解らない様にしている。

「私に何か用ですか?」

『我々と一緒に来ていただきます』

 黒い集団がミルフィーユ皇女に近付こうとする。

『姫様、お逃げ下さい。ここは、私が』

 アロエが身を挺してミルフィーユ皇女を守ろうとする。

「大丈夫よ、アロエ」

 ミルフィーユはアロエの前に出る。

『姫様!?』

 ミルフィーユ皇女は息を吸い込み、詩魔法を唱えようとする。黒い集団は持っていた銃を構え出した。詩魔法を歌い出したら、銃を撃つつもりでいるみたいだ。

『さあ』

 黒い集団がミルフィーユ皇女を連れていこうとした時だった。

「危ねえじゃねえか! 本当に死ぬかも知れなかったじゃないか!」

 撃たれたはずの虎之助が起き上がった。

「な、何っ!?」

 黒い集団が念話(テレパシー)でなく声を出して驚いた。

「バカな!? ちゃんと魔法弾が当たっているはずだ!」

「ああん? そんなもの、紙一重で躱したって。俺っちはタイガーの様に素早いのでね」

 額から血を垂れ流しながら笑っている。誰もがこいつおかしいのではないかと思っている。

『おい、お前……紙一重で躱したと言うけど、完全に額に当たっているから』

「ほへっ?」

 アロエに言われて、虎之助はゆっくりと自分の額を触る。すると、額の所にぬちょっと湿った感触がして触った手を確認するとそこにべっとりと血が付いていた。

「にょわぁぁぁ〜〜! 何じゃ、こりゃぁぁぁ〜〜! 何で額から血が出ているんだ!?」

 どたっと黒い集団はコントの様にこけてしまう。

『そんなの撃たれたからに決まっているでしょう! 他に何があると言うのだ!?』

 アロエが虎之助の前に出て叫んだ。

「何っ!? そうなのか!? どうりで額から風がす〜す〜と入ってくると思ったら、風穴が開いていたのか。ひょっとして俺っち、結構危なかったのか?」

『普通なら死んでいるよ。額に風穴が開いていたら死んでるからね。と言うより、何でお前は死んでないのよ!?』

「ふん、そんなもの、紙一重で躱したって。俺っちはタイガーの様に素早いのでね」

『だから! 完全に額に当たっているって言っているでしょう!』

「ほへっ? にょわぁぁぁ〜〜! 何じゃ、こりゃぁぁぁぁ〜〜! 何で額から血が出ているんだ!?」

『さっき言ったでしょう!? 何、同じ事を繰り返しているんだよ!?』

「繰り返しのギャグは基本だろう?」

『ギャグなのか!? ギャグで死なないのか、お前は!? お前のせいで姫様の見せ場をぶち壊しやがって! このシリアスブレイカーが!』

「シリアスブレイカーだと!? ふん、良い響きじゃねえか。お前のそのシリアスをぶち壊してやる。略してそシぶだぜ! ちなみにシをカタカナにする所がポイントだぜ」

『褒めてねえよ! 略すな! 完全にそれパクリじゃねえか!? もう何から突っ込んで良いのか分からなくなってきたじゃないか!』

 はぁはぁとアロエは激しく息を吐いている。虎之助の相手をするのがこんなにも疲れるとは思わなかったからだ。

「アロエ、大丈夫?」

 ミルフィーユ皇女はどこから出したのか、お茶を飲んで寛いでいた。さっきまでのシリアスが台無しである。

『姫様も何のんびりとお茶を飲んでいるのですか!?』

「まあまあ、そんなに激しくツッコミを入れていたら疲れるだけですよ。お茶でも飲んで休まないと」

『姫様!? 今の状況解っています!? 解っていますか!?』

 もうこの状況、グダグダです。

「はっ! き、貴様!?」

 黒い集団の一人が虎之助に向けて銃を構えて撃った。

「遅い!」

 すると、虎之助は意図も簡単に銃弾を躱した。

「撃て撃てぇ!」

 黒い集団は次々と銃で撃っていくが、虎之助は避け続ける。正面から来る銃弾を虎之助は上半身を後ろから倒れる様にして銃弾を躱していく。昔ある黒いスーツにサングラスをした男が銃弾を躱した様な躱し方をしている。

「な、何だ、こいつは!?」

「貴様、ただの兵士ではないな!? 何なんだ、お前は!?」

 黒い集団も虎之助がただのバカではないと解った。

「何だかんだと訊かれたら、答えてあげようホトトギス、ほ〜ほけきょっ!」

 虎之助がホトトギスとなって鳴いた。

「世界の中心で愛を叫ぶ為、世界の平和を守る為、愛と美と技を貫く、スーパーな聖戦士。長谷部虎之助、又の名をタイガーと呼ぶ。東の国からやって来た俺っちには、ミラクルフューチャー、奇跡の未来が待っているぜ!」

 きゅぴーんと右の人差し指で天を指すと、虎之助の背後でどかーんと爆発した。ここまでやるとどこから突っ込んで良いのか分からなくなってくる。当然黒い集団もアロエもポカーンと呆然としている。唯一なのはミルフィーユ皇女がパチパチと拍手をしてくれている。ハクト組なら完全にドン引きしていただろう。

「と言う訳で、お前達の悪事はこの俺っちが許さないぜ。覚悟するが良い」

 カッコよくポーズを取りながら黒い集団に向かって指を指す虎之助。

「出でよ、我が相棒ガオウよ!」

 虎之助は懐からマジカル・ドライブ『ガオウ』を取り出して起動させた。学ランの姿に白い鉢巻を巻いて、黄色と黒の縞々ガントレットを装備している。

「己、我らの怖さを思い知らせてやる。野郎ども、やっちまえ!」

 お〜と黒い集団は虎之助に襲い掛かってきた。

「貴様らなど、ハクトの攻撃に比べれば、ウサギとカメの勝負だぜ。カメの様なお前達の攻撃などウサギである俺っちに効くものか…って、誰がウサギだ! 俺っちはタイガーだ!」

 そう叫んで虎之助は数人をアッパーで吹き飛ばした。

『自分で言ってて、キレてるんじゃないよ!』

 アロエのツッコミを入れている間も虎之助は次々と黒い集団をぶっ飛ばしていく。ハクトにはあんなに簡単にやられている様に見えるけど、実は虎之助もそれなりに強い方なのだ。

「この野郎、喰らえ。ファイアボール!」

 黒い集団の一人が手から炎の球を虎之助に向けて放った。すると、虎之助は近くに落ちてあった木の棒を掴んで野球のバッターの様に構えた。

「漢なら、炎の球など打ち返す者なり! ど根性だぜぇぇぇ〜〜!」

 虎之助は木の棒でファイアボールを打ち返した。

「嘘だぁぁぁ〜!」

 ファイアボールを放った者に返ってきたファイアボールは爆発した。流石魔球式野球で鍛えているだけの事はある。しかし、普通は魔球式野球用のバットじゃないと魔法弾は打ち返せないと思うのですけど……

「何てでたらめな奴なんだ。一体、何なんだ、あいつは?」

 黒い集団がそう言った瞬間、そのセリフを待っていましたと言わんばかりに虎之助の目が光った。

「何だかんだと訊かれたら、答えてあげよう……」

『もう良いから! またさっきの繰り返しじゃないか!?』

 アロエが虎之助の前に出て止めさせた。

「繰り返しのギャグは基本だぜ」

『もう良いから! あんまりやりすぎるとグダグダになってしまうでしょう!?』

「うむ、そうだな。では戦闘再開だぜ」

 そう言って、虎之助は再び黒い集団をぶっ飛ばしてきた。

「くっ、う、動くな!」

 黒い集団の一人がミルフィーユ皇女に向けて銃を突きつけた。

「ほへっ?」

「動くと皇女様の命がないぞ」

『姫様!?』

「何っ、皇女だと? どこどこ!? どこにいるんだ!?」

 キョロキョロと辺りを見渡す虎之助の姿に誰もが唖然とする。唯一ミルフィーユ皇女だけはくすくすと笑っている。

『お前の目の前だよ!』

「ほへっ? あの子が? そんな訳ないじゃないか。だいたい皇女様を誘拐しようとしている奴らが、皇女様の命を奪う様な事するわけないじゃないか」

「そうですよね。そんな事したら意味がありませんからね」

「はっ! そう言えば、そうだった!」

『お前も人質を取ろうとするなら気付けよ!』

 最早敵にまでツッコミを入れてしまうアロエ。

「隙あり!」

 そんな事している間にミルフィーユ皇女を人質にしようとした奴を蹴り飛ばした虎之助。

「これでトドメだぜ!」

 虎之助はガオウの牙を合体させてドリルにした。

「喰らえ! 爆裂螺旋拳! わたたたたたたたぁ〜〜!」

 回転させたドリルを使って連続パンチをする虎之助。黒い集団は空の彼方に吹き飛ばした。

「ふっ、この俺っちと出会っちまった事を不運に思いな」

 キラーンと格闘ゲームなどで勝利した時のポーズを取りながら言う虎之助。

『結局、あいつらは一体何者だったのでしょうか?』

「さあ、私のファンだったのでしょうか?」

『その為にあんな格好をして誘拐しようとしませんよ!』

「まあ、そんな事よりも、助けていただいてありがとうございます、長谷部様」

 ミルフィーユ皇女が虎之助に頭を下げてお礼を言う。

「礼なんていらないぜ。さっき俺っちを助けてくれたんだ。それに俺っちは正義の味方だからな。困っているお嬢さんを助けるのは当然だ…ぜ……」

 虎之助はポーズを取りながら言っていると、急にバタリと倒れた。そしてが〜ご〜といびきを掻いて眠ってしまった。

『何だ、こいつ? 急に眠ってしまいましたよ』

「これは眠りの魔法に掛けられたのですね。こんな事をする人は、もしかして」

「皇女様、探しましたよ」

 すると、背後に誰かが現れた。ミルフィーユ皇女はやれやれと苦笑いして振り返った。

「ゾフィー、どうしてこちらに?」

 背後にいたのは大賢者ゾフィー・シルフィードである。

「皇帝陛下から命を受けてやってきました。それに、あれだけの大騒ぎをすれば誰だって気付きますよ」

「そうですか。ですが、何も私を助けていただいた方を眠らさなくても良かったじゃないですか」

「お散歩の時間は終わりです。お城にお帰り申しあげます」

 ゾフィーはミルフィーユ皇女の言葉を無視して城に帰る様に言った。

「……分かりました。もうすぐお夕飯のお時間ですし、戻りましょう、アロエ」

『はい、姫様』

 アロエはやっとミルフィーユ皇女が帰る決心をしてくれた事に大喜びをする。ミルフィーユ皇女は少し表情を曇らせる。本当の目的はまだ達成していなかったのだ。

(まあ、良いでしょう。それに、私には多分あの人より、この人の方が良いのかも知れませんね)

 ミルフィーユ皇女は眠っている虎之助を建物の壁に背中を預けさせて、そのまま寝かせてあげる。

「本当にありがとうございますね。東の国からやってきました騎士(ナイト)様」

 そう言って、ミルフィーユ皇女は虎之助の頬に口づけをする。

「まだ名前を言っていませんでしたね。私はミルフィーユ・シャインヴェルガです。どうか、覚えていて下さいね」

 ミルフィーユ皇女は虎之助の耳元で自分の名前を言った。

『姫様、早く戻りましょう』

 アロエがミルフィーユ皇女の近くに来た。さっきのミルフィーユ皇女の行動は見られていないみたいだ。

「はい、分かりました。それでは行きましょうか」

 ミルフィーユ皇女はゾフィーとアロエと一緒にシャインヴェルガ城に帰っていった。その帰り道、彼女は小さく歌を歌った。

「♪〜私と貴方が出会った時、光と闇が交わる。天を切り裂く剣の戦士と、詩を歌う姫君の物語〜♪」

 ミルフィーユ皇女は嬉しそうにその歌を歌った。

 

「虎之助さん、虎之助さん!」

「にょわ〜!? ほへっ? ここは?」

 虎之助は誰かに呼ばれて目を覚ました。すると、目の前にはエクレールがおずおずと虎之助を見ている。

「エクレールちゃん……」

「あ、あの……すみません! また虎之助君をご迷惑を掛けてしまいまして」

 エクレールは頭を上げて謝る。そう、何故最初虎之助が空から降ってきたのは、エクレールに吹っ飛ばされてしまったからだ。不注意で虎之助がエクレールの身体に触れてしまって男性恐怖症+怪力が発動して吹っ飛ばされてしまったのだ。

「いやいや、別に気にしてないから。俺っちでよければ男性恐怖症を克服する為にいつでも身体を張ってやるからよ」

「……あ、ありがとうございまず」

 エクレールは虎之助にそう言われて嬉しそうに頬を赤く染める。

 

 そして一方とある場所にて。

「も、申し訳ありません……皇女の誘拐に失敗してしまいました」

 先程の黒い集団がどこかと連絡をしている。

『まさか皇女にやられたのか?』

「い、いいえ……その、変な奴に。恐らくここの魔法学校の生徒だと思います」

『ほお、奴らが皇女を守っているのか。ならば、やはりあの日に変更がした方が良いかも知れないな。お前達はそこで待機しておけ』

「はっ! 必ず皇女誘拐は成功してみせます」

『期待していますよ。これは奴らへの宣戦布告なのだ。そして、王都シャインヴェルガの魔法学校を潰す為のな』

「はい! 我々デュアルドラグロード魔法学校の魔導師がいかに最強なのか、見せてやります」

『頼みましたよ』

 こうして通信は切れてしまった。

 

(続く)

 
 

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ハクト「皆さん、はじめまして」 
クリス「本日は『魔法少女の正しい学び方』を読んでいただき、誠にありがとうございます」
レナ「皆さんに喜んでいただけましたら幸いです」
シャーリー「お疲れ様ね」
ミント「……お疲れ様です」
ライチ「皆様、本当にお疲れ様でしたわ」
ハクト「五十話突入記念が虎之助の話かよ」
クリス「実は実技試験前の話を書こうとしたのですけど、その前にミルフィーユ皇女を早く出さないといけないと思って先に書く事になったみたいですよ」
シャーリー「しかも、今回完全に私達の出番が無かったみたいだし」
ミント「……セリフの一つもなかったのです」
ライチ「完全に蚊帳の外ではありませんの、わたくし達」
レナ「ZZZ……」
クリス「レナちゃん、寝ちゃダメだよ!!」
シャーリー「それよりもミルフィーユ皇女様って、コンサートで見るのとは違って、結構天然なんだね。しかも、クリスと瓜二つみたいだし、唯一違うのはウェーブを掛けて、瞳の色が違うだけでしょう」
ライチ「ハウト皇子はハクト様、ミルフィーユ皇女はクリスさんと同じだなんて、一体どう言う事なのかしら?」
クリス「私にも分かりませんよ。私、皇女様とは一度も会った事がないのですから」
ハクト「これは何かフラグがびんびんと立っているな。絶対何か起こるぞ」
ミント「……皇女様とクリスを間違えて誘拐するなんて事になるかも知れないのです」
シャーリー「いくら何でもクリスと皇女様を間違えるわけないでしょう」
レナ「そのセリフもまたフラグになると思います」
ハクト「これ以上、この話をするのは止めよう……何か嫌な予感がした」
ミント「……お兄ちゃん、そろそろ時間なのです」
ハクト「そうだな。それじゃあ、今回はここまで」
クリス「これからも『魔法少女の正しい学び方』を応援して下さい」
ライチ「では、また次回お会い致しましょう」
シャーリー「それじゃあ、みんな」
ミント「……バイバイ」
 
 
 
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