ハクトがエルと魔導殺しNO01を同時に起動させたシンクロドライブ、エーテルスレイヤー。ハクトは一振りして構える。
「シンクロドライブ……2つのドライブを同時に起動させる荒業。どちらともシンクロ率を100%にしないと出来ないが、彼はそれを簡単にしてしまうのだから」
「ですがホークアイ教官。あれでは余計に魔力を減らしてしまうのではないでしょうか。2つのマジカル・ドライブの魔力を使うのですから」
「いいえ、あの状態になると魔力は一向に減らないのですよ。見て下さい。彼の魔力ゲージは全然減っていないでしょう」
見るとハクトの魔力ゲージは160%から全く減っていない。
「2つのドライブとのシンクロは100%を超えている。ですので、彼から魔力を奪う様な事をしないのでしょう。それにしてもこんな芸当はプロでも出来るかどうか分からないやり方なんですけどね」
ホークアイ教官の解説通り、あんな事普通なら考えられない。2つのドライブとのシンクロ率を100%にする事など誰にでも出来る事ではないのだ。
「まったく、あいつはどこまで強くなろうとしているんだ」
「どこまでって……それはカイト君の様な魔導師を目指しているのだからあれぐらいやってくれないと困る事だよ」
ジン先生は隣を見ると、黒狐が屋台で買ってきたホットドッグを食べている。その隣ではカリムとレナがフライドポテトを食べている。
「……レナ。お兄ちゃんの応援なのですか?」
「えっ? そう言えば……」
シャーリーがキョロキョロと辺りを見るがクリスの姿が見えない。
「と言う事は、レナも一緒じゃなかったの?」
「朝起きた時からもういなかったから、先に行ったのかなと思った」
レナが目を覚ましてクリスの部屋を見ると誰もいなかったので、クリスはもう先に魔法学校に行ってしまったのだと思っていたレナ。
「あれ〜? ひょっとして家出……ひゃっ!?」
黒狐がぷぷっと笑った瞬間、黒狐の首にカリムの聖剣が突きつけられた。
「黒狐。あの子は貴女と違うのよ」
「分かった! 分かったからエクスカリバーを仕舞って!」
慌てて謝る黒狐。カリムはエクスカリバーを鞘に納める。
「それじゃあ、一体どこに行っちゃったんでしょうね……」
黒狐は目を空に向けた。
「うわぁぁん! もう試合が始まっちゃっているよ!」
クリスはエンジェルフェザーを使って急いで魔法学校に向かっている。クルックス山でハクトのそばで寝ていたけど、目を覚ますとハクトはいなくなっていて、ブレイブスターに時間を教えてもらったら、もうハクトとライムの試合が始まる時間だった。
『申し訳ありません、マスター。ハクト様からそのまま寝かせてあげてくれと頼まれていたのです』
ブレイブスターはハクトが目を覚ましてクリスがまだ寝ていたので、そのまま寝かせておいてとハクトに頼まれていた。だから、クリスが目を覚ますまで黙っていたのだ。
「とにかく急いで魔法学校に行きましょう」
『了解です、マスター』
クリスが急いで魔法学校に向かおうとスピードを上げる。
『マスター! 左からこちらに迫ってきます』
「えっ!?」
クリスは左の方を見ると蒼いドラゴンが飛んできていた。クリスは急ブレーキを掛けるけど遅かった。
「「きゃあ〜〜!」」
クリスとドラゴンに乗っていた少女がぶつかり、少女の方はドラゴンから落ちてしまった。
「大変!」
クリスは羽を広げて急いで落ちていく少女を助けた。
「すみません、周りを見ていなくてぶつかってしまいまして。大丈夫ですか?」
「いいえ、こちらこそ周りを見ていなくて申し訳ありません」
少女はクリスを見ると、クリスは驚いた。それは薄い桃色の髪に灰色の瞳をしてクリスと同じ顔の少女だった。自分と同じ顔だけでも驚くけど、クリスが驚いたのはそれだけではなかった。
「も、もしかして……ミルフィーユ皇女様!?」
「はい。私はミルフィーユ・シャインヴェルガですけど」
ミルフィーユ皇女はニッコリ笑った。
「あ、あわわわ! も、申し訳ありません! 皇女様とぶつかってしまいまして!」
クリスは慌てて謝る。王族の方とぶつかってしまったのだから大問題である。
「謝らなくて良いのですよ。さっきも言いましたけど私も周りを見ていなかったのでぶつかってしまったのですから。それにまさか私と同じ顔の可愛い天使とぶつかったのだから」
「か、可愛い天使って?」
「だって、綺麗な天使の羽を持っているのですから」
ミルフィーユ皇女はクリスの背中に生えているエンジェルフェザーを指している。すると、上から蒼氷竜が下りてきた。
「すみませんね。あのドラゴンの背中に乗せてもらえませんか?」
「は、はい!」
クリスはミルフィーユ皇女を蒼氷竜の背中に乗せてあげた。
「さて、急いで魔法学校に行きませんと」
「えっ? 魔法学校って、どう言う事ですか?」
クリスはミルフィーユ皇女が魔法学校に向かおうとしている事に疑問に思って訊いてみた。
「何だかお祭りみたいなのがやっているみたいですので、ちょっと行ってみたいのです。天使ちゃんはどちらへ向かわれるのですか?」
「わ、私は魔法学校の生徒です。名前はクリス・ラズベリーって言います!」
クリスは慌てて名乗った。ミルフィーユ皇女はラズベリーと言う名前に心当たりがあって考える。
「ラズベリー……カリム様の娘様ですね!?」
ミルフィーユ皇女はキラキラと目を輝かせる。
「お、お母さんをご存知なんですか、皇女様?」
そう言えば、前お城に呼ばれたとカリムから聞いていたクリスは苦笑いする。確か黒狐が町で大暴れしたからお城に連行されたと聞いている。
「あの、よろしければご一緒に行きませんか、クリス様」
ミルフィーユ皇女がそう言うとクリスは顔を真っ赤にする。
「さ、様と言うのは止めて下さい、皇女様!」
「あら、それでしたらその皇女様と言うのは止めてくださいませんか? 私の事はミルフィーと呼んで下さい」
「そ、そんな! 王族の方にそんな事!」
「私が許可します!」
えっへんと胸を張るミルフィーユ皇女。
「さあ、クリス。私の事をミルフィーと呼んで下さい」
唖然とするクリス。よくテレビなどで映っている凛々しい皇女様ではなく、黒狐の様なナチュラルな感じに思えてしまう。しかもあっさりと自分の事を呼び捨てしている。
「み、ミルフィー……さん」
クリスは恥ずかしそうにミルフィーユ皇女の名前を言った。さん付けであるけど……
「う〜ん……今はそれで妥協しましょう。早く魔法学校に行きませんといけませんからね」
「そ、そうでした。ハクトさんの試合がもう始まっているのでした!」
クリスはエンジェルフェザーを広げて急いで魔法学校に向かおうとする。
「では一緒に行きましょうか。お願いね、蒼氷竜」
ミルフィーユ皇女は蒼氷竜に指示すると蒼氷竜も魔法学校へ向かう。
ハクトとライムの試合では、ハクトがシンクロドライブを発動させてからまだお互い一歩も動いていない。
「……ふっ、お前は本当に楽しませてくれる。では、その力、確かめさせてもらうぞ」
ライムは前に跳んでハクトに一振りする。ハクトはエーテルスレイヤーで受け止める。ぶつかり合う剣圧に二人は反動で後ろに下がるけど、ハクトは左腕を引いている。
ハクトは左腕を前に突き出すと炎の剛拳を放った。ライムは驚き、ハクトの炎に包まれた。
「な、何と!? 嵐山選手、炎属性の魔法を放った。しかし、彼は主に風属性の魔法を使っていたはずですが、これは一体どう言う事でしょうか?」
「嵐山君は決まった属性はないみたいですね。一つの属性を特化して伸ばす魔導師は多いですけど、彼の様な万能型な魔導師も珍しくありませんよ」
「なるほど。それにしても嵐山選手が言った『まかいしんせいりゅう』とは一体何なのでしょうか?」
「これは私もよく解りませんが、東の国の武術であるのは間違いないでしょうね」
実況席にいるスフレとホークアイ教官の言葉に誰もが驚いている。ハクトも魔戒神生流を見せるのはこれが初めてであるからだ。ハクトは右手で持っていたエーテルスレイヤーを一振りして構えている。さっきのカグツチの攻撃はまともに喰らったと思うけど、それほど手応えを感じていない。
すると、ライムを包んでいた炎が急に吸い込まれる様に消えていく。そしてライムの手には紅い剣に変わっていた。
ライムはハクトのカグツチを爆炎の剣で炎を防いだのだ。
「なかなか面白い剣を持っていますね。カグツチの炎を防ぐなんて」
「私もだ。今の魔法は見事だった。ライチから色々聞かせてもらっていたけど、こうして目をするのとは違うな」
ライムはハクトの使う魔戒神生流の事をライチから聞いていた。しかし、実際に聞いていたのと見たのとは違うみたいだとライムは思った。
「魔戒神生流、良い武術だ。良い師に教えてもらったみたいだな」
「当たり前だ。この世で一番恐ろしい先生に教わったんだからぎゃあっ!?」
するとハクトの目の前に槍が飛んできた。槍にはビリビリと雷撃が施されている。ハクトにはこの槍が誰の物なのか解っている。
「い、一番素晴らしい先生に教わったんだ……」
苦笑いしながら訂正するハクト。
「さすが母様、容赦ないね」
観客席で焼きとうもろこしを食べている黒狐。
「でも、一体どこから来たのかしら?」
「それは天からでしょう。母様、耳だけは良いからね」
黒狐は飲み物を飲みながら空を指す。神界に行っているのと言いたいのだ。
「おい、大丈夫か嵐山?」
突然降って来た槍に驚くライム。このリングには特殊なバリアを張っているので外からの攻撃は出来ないはずである。
「ああ、俺は問題ない。問題ないけど……てめえ! 何、頭から刺さっているんだよ!?」
ハクトは紫子の槍を見ると、ミスタージャッジマンが頭から突き刺さっていた。
「ほへっ? 何の話ですか?」
ミスタージャッジマンはキョロキョロと辺りを見渡す。あれがワザとギャグをしているのではないかと疑い始めるハクト。もうこれ以上突っ込んでも意味ないかと思い、ライムに集中する。
「行きますよ、会長」
「ああ、来るが良い。嵐山」
ハクトとライムは前に突っ込んで行き剣をぶつけ合う。交じり合う剣と剣に、観客席は盛り上がっていく。
ハクトが雷属性を拳をぶつけようとすると、ライムは爆炎の剣から雷帝の剣に換装させた。ぶつかりあった攻撃から雷が周りに飛び回る。リングの結界がなかったら観客席にも被害が出ていただろう。
「……ミスタージャッジマンはもろに喰らっているのです」
ミントの言うとおり、リングにいるハクトとライムを除いてミスタージャッジマンに防ぐ術はないので雷をもろに喰らっていた。
「それにあの槍が避雷針代わりになってしまっている所為で逃げても雷が追いかけているみたいね」
シャーリーの言うとおり、ミスタージャッジマンはパフォーマンスの様な避け方をしているけど、頭に刺さっている雷槍の所為で雷が追いかけてきてしまい、結局喰らってしまう。しかも、ミスタージャッジマンがそんな事になっているのにハクトとライムは気付いていない。
(まずい……早く決めないとそろそろ時間が来てしまう)
ハクトは急いでライムを倒す為に攻め続ける。シンクロドライブには制限時間があり、時間が来てしまうとシンクロドライブは解除されて魔力を一気に減らしてしまう。
ハクトは一度間合いから離れて、エーテルスレイヤーを振り上げる。そしてハクトの足元に魔法陣が現れると、リングの周りに光の玉が現れて、それらがハクトのエーテルスレイヤーの刃に吸い込まれていく。
ホークアイ教官はハクトが何をしようとしたのか気付いたみたいだ。
「集束魔法と言いますと、大気中に散らばった魔力素を集めて自分の魔力に変換して放つ射撃魔法最高ランクの大技ですね」
「ええ、そうです。試合時間もそろそろ終わろうとしていますので、ここで最後の賭けに出たみたいですね」
制限時間はあと2分を切った。リングに散らばった魔力素もかなりあるので、ハクトのエーテルすらイヤーの刃がどんどん大きくなっていく。
「最後の勝負か……もう10分経ってしまったと思うと淋しい物だ。ならば、私も取って置きの切り札で勝負してやるよ」
ライムは雷帝の剣を宙に浮かせた。そしてライムの周りにさっきの爆炎の剣を合わせて10本の剣が現れた。
「これは……会長の目、本気で俺を切り刻むつもりみたいですね。だけど、こっちも負ける訳にはいかないのですよ。今度負けてしまったら、先生にどんなきつい拷問をされてしまうか分かりませんからね」
エーテルスレイヤーのチャージが完了した。
「「勝負!」」
ハクトとライムは全ての魔力を解放した。
「行け、我が剣達よ! ソード・ブレイカー!」
「魔戒神生流奥義『龍神星霊剣』!」
ハクトとライムの最後の攻撃が今ぶつかろうとする。
(続く)