「あ、あの……ミルフィーさん。これはちょっと……」

 クリスは恥ずかしそうな声でミルフィーユ皇女に声を掛ける。

「どうしたのですか? 何か問題ありますか?」

 ミルフィーユ皇女は首を傾げる。

「いえ、問題と言うわけではないですけど……ちょっとこの格好は恥ずかしいです」

 クリスは自分の着ている格好を見る。それはミルフィーユ皇女が着ていたドレスを、今クリスが着ている。髪もウェーブを掛けられていてミルフィーユに見間違えるかの様な姿になっている。もちろんミルフィーユ皇女はクリスの制服を着せてもらって掛けていたウェーブをストレートに伸ばしていた。

「あら、でも結構似合っていますよ。私よりも皇女みたいですよ」

「そ、そうでしょうか……」

「はい。何でしたら一日皇女様になってみませんか?」

「えぇ!? そ、そんな事出来ませんよ!?」

 クリスは慌ててミルフィーユ皇女の提案を却下する。面白いのにとミルフィーユ皇女はガッカリする。

「そう言えば、嵐山ハクト様って、どんな人なんですか?」

「ハクトさんですか? ハクトさんは優しくて頼りになりまして、とても良い人です」

 クリスは嬉しそうにハクトの事をミルフィーユ皇女に話した。

「好きなんですか? クリス、嵐山様の事が」

「ふえっ!? す、すす、好き!?」

 クリスの顔が真っ赤になった。こんなにもストレートに言われた事がなかったのでビックリしたのだ。

「あら、違うのですか?」

「ち、違わないですけど……は、ハクトさんはどうなのか分からないので。それに私の友達もハクトさんの事が好きみたいですから、負けたくはないのですけど……」

「うふふ……クリスはアロエと同じでからかうと面白いですね」

 ミルフィーユ皇女は笑っていると、蒼氷竜が急に止まってしまった。

「どうしたのですか?」

「ミルフィーさん。何かがこっちに来ます」

 クリスは前から四人の黒いマントを被った人達を指した。

「あれはこの間の……」

 ミルフィーユ皇女にはあの黒いローブには見覚えがあった。以前ミルフィーユ皇女を誘拐しようとした連中と同じローブをしている。つまり、彼らはまた皇女を誘拐しようとしているみたいだ。しかし、ミルフィーユ皇女は何故か苦しそうな表情をしている。何故なら、この間の奴らとは桁違いに違うからだ。あの蒼氷竜が威嚇し続けていると言う事は、ただの魔導師ではないみたいだ。

「貴方達、何者ですか? 何が目的ですか?」

 ミルフィーユ皇女は彼らに問い掛ける。しかも自分の声ではなくてクリスの声色を使って。

「お前に用はない。用があるのは、そちらの皇女様だ」

 相手の一人が皇女の格好をしているクリスを指した。ここに来て、クリスは何かに気が付いた。もしかして、ミルフィーユ皇女に身代わりにされていないかと今になって気付いた。

『安心して下さい、クリス。貴女は何も喋らなくても良いですから』

 ミルフィーユ皇女がクリスに念話(テレパシー)で話をする。クリスはただ黙って頷いた。

「皇女に何の御用なのですか?」

 ミルフィーユ皇女は再びクリスの声色で相手に話す。これなら、こっちがミルフィーユ皇女だと気付かれない。

「だから、貴様には用はないと言っている!」

 すると、一人の魔導師が炎属性の魔法を放ってきた。

「蒼氷竜!」

 ミルフィーユ皇女は蒼氷竜に声を掛けると、蒼氷竜は上昇して炎属性の魔法を躱した。

「おい、よせ。あくまでも生け捕りにしないといけないのだから」

「構わないって。多少の痛みを与えておかないと大人しくしてくれそうにないぜ、あの皇女は」

「俺も賛成だ。それにあの女の制服、シャインヴェルガの魔法学校の奴だ」

「本当だ本当だ! 丁度良いじゃないか! 皇女誘拐のついでにあいつをボロ雑巾の様にして、シャインヴェルガに宣戦布告だぜ!」

「……確かにそうだな。まあ、あっちもそろそろ行動に移すだろうし、あの方の命令は魔法学校の魔導師の殲滅もある。ここであの女を倒しておくのも悪くはない」

 相手の四人はバラバラに散開して、蒼氷竜を追いかける。

 

魔法少女の正しい学び方
第五十五話 デュアルドラグロード 

 

 蒼氷竜を追い掛けてくる四人を見下ろすミルフィーユ皇女とクリス。

『ミルフィーさん、どうするのですか?』

 クリスは念話(テレパシー)でミルフィーユ皇女に声を掛ける。

『まずは彼らを撒く事が先決です。蒼氷竜、お願い』

 ミルフィーユ皇女は蒼氷竜に指示を出すと、蒼氷竜は大きく息を吸い込んでアイスブレスを吐いた。相手はアイスブレスを躱した。

「へっ、その程度の攻撃など! フレイムバード!」

 相手の一人が炎属性の魔法を使った。その魔法は火の鳥となって蒼氷竜に襲い掛かってくる。蒼氷竜は歩の鳥を避けていく。

「今度は俺の番だ! サンダーフレア!」

 次に雷属性の魔法を放ってきた。蒼氷竜の周りに雷撃の球体が出て来て、蒼氷竜や乗っているクリスとミルフィーユ皇女に雷撃が当たった。

『ぐっ、大丈夫ですか、クリス?』

『はい……』

 クリスもミルフィーユ皇女も雷撃を少し喰らったけど、あまりダメージを受けていない。

「おらおら! まだくたばるんじゃねえぞ! アイスクラッシュ!」

 水属性の魔法がやってきた。上から氷塊が落ちてくる。

「危ない!」

 クリスは魔法弾を放って氷塊を破壊させた。

『クリス、魔法を使って大丈夫なのですか?』

『大丈夫ですよ。相手は私達を見ていないみたいですから、私が魔法を使っている所を見られていませんから、それよりもミルフィーさん、蒼氷竜にもっと上昇してもらう様に指示して下さい』

『何か策があるのですか?』

『とりあえず上昇しながらで良いので、服を戻して下さい!』

 クリスはドレスを脱ごうとする。

『あらあら、そのままで良いと思いましたけど、仕方ありませんね。蒼氷竜、ミスト!』

 ミルフィーユ皇女も制服を脱ごうとする前に蒼氷竜に命令する。蒼氷竜は白い霧を吐いた。周りは霧に包まれてお互いの姿が見えなくなってきた。

「ちっ、姑息な事を……」

 相手はクリス達の姿が見えなくなった事で止まった。

『よし、今の内に! ブレイブスター、起動!』

 クリスはドレスを脱いでブレイブスターに魔導服を起動させる。魔導服に着替えたクリスはブレイブスターの杖を構える。相手の魔力を探って魔法弾を作り出す。

スターシュート!」

 クリスは天空属性の魔法弾を放った。蒼氷竜の白い霧によってクリスの魔法弾が向かって来る事に少し遅れてしまった相手達はクリスの魔法弾を喰らう。

「あの野郎……やってくれやがって」

「許さねえぜ!」

 相手の二人が霧の中に突っ込んでいく。クリスは二人が来ると解っていたのか、蒼氷竜から降りてエンジェルフェザーで相手の後ろに周った。

ミルキーウェイ!」

 クリスは上下に魔法陣を作り出して相手を包み込んだ。包まれた二人は魔力ダメージを受けている。

「おのれ、小癪な真似をしてくれやがって!」

 相手の一人が火の鳥の魔法を放った。クリスはシールド魔法で防いで魔法弾を放つ。

「……あの魔導師、やるな」

 すると傍観していた魔導師が右手を突き出して魔法陣を出した。

「だが、我々の敵ではない。喰らうが良い! サイクロン!」

 魔法陣から竜巻が出現してクリスに襲い掛かる。クリスは背中の翼を広げてスピードアップさせて竜巻を避ける。

「何っ!?」

 まさか避けられるとは思わなかったのか、風属性の魔導師は驚いた。

「全員捉えました」

 クリスは杖の先端を前に突き出すと、四つの魔法陣を前方の上下左右に展開させて真ん中に大きな魔法陣を出した。

「行きます! シャイニングスターバースト!」

 クリスは天空属性の砲撃魔法(バースト)を放った。五つの極太光線が四人の魔導師に向かって相手の身体を貫かれた。

「す、素晴らしい!」

 上空から見ていたミルフィーユ皇女はクリスの戦いに驚いている。

「……スター、敵はまだ動いている?」

『はい、魔力に大きなダメージを与える事は出来ましたが、まだ動けるみたいです』

 ブレイブスターの言うとおり、相手はダメージを受けているけどまだ航空術を使っている。

「さあ、もう一度お聞きします。貴方達は何者ですか? どうして皇女を誘拐しようとしたのか答えてもらいますよ」

 クリスは杖を突き出して相手に問いかける。

「……良いだろう。我々の正体を明かそう」

 すると、一人の魔導師が黒いローブに付いたフードを外して顔をさらした。青い髪に黄色の瞳をした男、白い髪に赤い瞳をした男、緑の髪に紫の瞳をした男、赤い髪に青い瞳をした男で、左の頬に双頭竜に杖を刺した紋章が刻まれている。

「我々はデュアルドラグロード魔法学校の魔導師、四神獣の牙。私は青龍のフーガだ」

 青い髪の男が名乗った。

「俺は白虎のライガ」

 白い髪の男が名乗る。

「玄武のヒョウガ」

 緑色の髪の男が名乗る。

「そして俺様が朱雀のエンガだ」

 赤い髪の男が名乗る。

「デュアルドラグロードと言ったら、西にある帝都の名前ですよね。どうやってシャインヴェルガに来たのですか?」

 クリスは頭の中で地図を広げる。シャインヴェルガを中心に東西南北には大きな国があり、西にある国がデュアルドラグロードと呼ばれる帝都である。あまり評判は悪く、何かと他国と戦争したがっている国である。だが、あそこからここに行くにはメディア山脈があり、容易にここには来れないとクリスは思った。

「それは言えないな。さて、我々は名乗った。次は君の名前を訊かせてもらおうではないか」

「私はシャインヴェルガの魔法学校中等部1年、クリス・ラズベリーです」

 クリスは自分の名前を名乗ると、フーガは驚いた。

「なるほど、噂に聞く天空魔法を使う魔導師は君の事であったか……お前達、予定変更だ。彼女も皇女と同じく誘拐するぞ」

 フーガがそう言うと、クリスだけでなく他の3人も驚いた。

「どう言う事だ。こいつは俺様がぶっ飛ばせろよ!」

 エンガが前に出ようとするとフーガが手で塞いで止めた。

「エンガ。あの方が魔法学校を襲撃しろと言ったのは、天空魔法を使う魔導師を見つける事だ。その相手がここにいるのだ」

「なるほど。ここであの女を捕まえて皇女も誘拐か。面白い」

 ライガが身体から電気を発した。

「それじゃあ魔法学校は襲わないのか?」

「いや、そっちは予定通り襲撃する。目障りだからな」

 フーガの言葉に三人はニヤッと笑った。

『……ミルフィーさん。ここから離れた方が良いかも知れません』

 クリスはミルフィーユ皇女に念話(テレパシー)で言った。

『どうして? ここで倒さないのですか?』

『彼らの話からしまして、魔法学校が狙われています。この事を一刻も早く伝えなければなりません。私達が戦って捕まってしまったら、魔法学校にいるみんなが危ないのです』

 今魔法学校はハクトとライムの試合で完全に無防備な状態になっている。そんな所に他国の魔法学校が襲撃してきたら大惨事になってしまう。

『そうですね。では、彼らを撒きましょう。蒼氷竜』

 ミルフィーユ皇女は蒼氷竜に指示をして白い霧を吐かせた。

「ちっ、そう何度も同じ攻撃が効くと思ったか!」

 フーガが風を起こして霧払いをする。霧が払われて、クリスとミルフィーユ皇女が逃げようとしているのに気付いた。

「な、何て速さだ!」

 フーガ達は追おうとするが、エンジェルフェザーを使っているクリスと蒼氷竜に乗っているミルフィーユ皇女の速さには航空術では追い付けない。

(早くこの事を魔法学校にいるみんなに…ハクトさんに伝えないと……)

 クリスは急いで魔法学校に向かおうとする。しかし……

「えっ?」

 クリス達の前に突然黒い炎が襲い掛かってきた。

「「きゃあぁぁぁぁぁぁ〜〜!」」

 不意の攻撃に防御出来なかったクリスとミルフィーユ皇女は黒い炎にまともに喰らって下に落ちていった。蒼氷竜は落ちていったミルフィーユ皇女を追おうとするけど、上手く空を飛ぶ事が出来ずどこかに行ってしまった。

「な、お前は!?」

「おいおい、何故お前がここにいるんだ!?」

 追い付いたフーガ達は、黒い炎を放った相手を見て驚いた。

「そんなの今はどうでも良い。皇女とあの女は下にいる奴らに任せて、俺達は魔法学校へ行くぞ」

 相手はそのまま魔法学校の方へ向かった。

「……行くぞ」

「へへへ、燃えてきたぜ」

「おおよ、暴れてやろうじゃないか!」

「やってやるぜ」

 フーガ達も後を追う様に魔法学校へ向かった。しかしハクト達はまだ気付いていない。魔法学校が今デュアルドラグロードの魔法学校に襲撃を受けようとしている事に。そしてクリスとミルフィーユ皇女はどうなってしまうのか。

 

(続く)

 

 前の話へ 次の話へ


 
ハクト「皆さん、はじめまして」
クリス「本日は『魔法少女の正しい学び方』を読んでいただき、誠にありがとうございます」
レナ「皆さんに喜んでいただけましたら幸いです」
シャーリー「お疲れ様ね」
ミント「……お疲れ様です」
ライチ「皆様、本当にお疲れ様でしたわ」
ハクト「今回はクリスと皇女様の話でしたけど、如何だったでしょうか?」
ミント「……クリス、一杯頑張ったのです。最後はやられちゃったけど」
クリス「あはは……不意打ちの上に、ちょっと気になった事があったからやられちゃった」
シャーリー「デュアルドラグロード、あいつらまた私達にちょっかいをかけてきて」
レナ「よくあるの?」
ライチ「ええ、デュアルドラグロードの魔法学校はあまり評判が良くない学校ですの。力が全て。強い者が生きて弱い者は死ぬと言う弱肉強食みたいな考え方ですの」
ハクト「でも、あそことはメディア山脈と言う大きな山脈があるんだよな」
ミント「……凄く大きいのです。山越えをするにしても早くても一週間は掛かるのです」
ハクト「と言う事は、奴らはシャインヴェルガを襲撃する計画を前々から決行していたと言う事になるのかな。でも、どうして皇女を誘拐しようとしていたのだろう」
シャーリー「皇女様はヴェルガの歌姫と呼ばれているアイドルだよ。彼女を誘拐すれば、シャインヴェルガは大きなダメージを受けてしまうのよ」
クリス「それに王族の方が誘拐されたと知ったら国のみんなも大パニックになってしまいますし、今度のミルフィーさんのライブが出来なくなってしまいます」
レナ「皇女の誘拐はライブ中止の為。許せない連中です。王都を襲撃しようとするなんて」
ハクト「ついこの間、王都の魔導師を襲撃していたお前が言うな」
レナ「あ……」
ミント「……そう言えばそうだったと言う顔をしているのです」
シャーリー「とにかく、クリスを傷付けた連中は私がぶっ飛ばしてやるんだから」
ライチ「それに関しましては同意致しますわ」
クリス「それでハクトさんとライム会長の試合はどうなったのですか?」
ハクト「クリスと皇女が襲われている時はまだ試合中だったからな。次はこっちサイドに戻って、奴らが襲撃してくるのだろうな」
レナ「戦争の幕開けですね。ただ、クリスちゃんを傷付けた黒い炎。あれは一体……」
ハクト「ああ、何だか嫌な予感がするんだ。それに俺はあれが何か解る様な気がするんだ」 
ミント「……お兄ちゃん、そろそろ時間なのです」
ハクト「そうだな。それじゃあ本日はここまで」
クリス「これかも『魔法少女の正しい学び方』を応援して下さい」
レナ「下の拍手ボタンを押して下さると嬉しいです」
ライチ「では、また次回お会い致しましょう」
シャーリー「それじゃあ、みんな」
ミント「……バイバイ」
 
 
 
この話に関して感想や批評がありました、こちらまで
 
 
web拍手 by FC2
 
 
TOPに戻る
 

 

inserted by FC2 system