「もぐもぐ……んっ?」
黒狐がデラックスジャンボクレープ(普通より2.5倍の大きさ)を食べていると、何かを感じた。
「どうしたの、黒狐?」
隣で試合を見ていたカリムが黒狐の様子に気付いて訊いてくる。
「いや、クリスちゃん本当に遅いなと思ってね。これはもしかすると、不良コースに行ってしまったのでは……」
黒狐の想像する中で、革ジャンを着てサングラスを掛けているクリスを想像する。
「あはははは! 似合わねえ! あははは……いたっ!?」
黒狐が大笑いしている所で、カリムがエクスカリバーの柄で頭を叩いた。
「エクスカリバーの錆びにしてやるわよ」
「すみません、ごめんなさい……」
すると黒狐は立ち上がって逃げようとする。
「黒狐さん、どこに行くのですか? もうすぐ試合が終わりますよ」
「悪いね、レナちゃん。ちょっとカリムの機嫌を取っていてくれるかな。私はちょっとお花を摘んでくるので」
「まったく黒狐は……早く戻ってきなさいよ」
「分かっているって!」
そう言って黒狐はその場から離れた。しかし彼女は校舎には行かず、そのまま校門へ向かっている。そして笑顔だった顔から、一気に怒りの顔へと変わった。
魔法学校グラウンドに作られた特設リングにて、ハクトとライムの戦いも決着が付きそうである。
「行け、我が剣達よ! ソードブレイカー!」
「魔戒神生流奥義『龍神星霊剣』!」
お互いの全力攻撃がぶつかり合う。そして、カンカンとゴングが鳴り響いた。
「試合終了! 長かった様で短かった試合もこれにて終了です!」
実況席に座っているスフレの実況により、ハクトとライムは攻撃を止めた。お互い魔導服を解除して普通の征服に戻る。
「ありがとうございました、会長! やっぱり強かったですよ」
「私も君の強さを認めるよ。今日は良い試合だった」
ハクトとライムはお互い握手をする。お互い全力を出し切った感がある。
「さて、それでは判定の方をミスタージャッジマンに……あれ?」
するとリング上に一人の焼死体があった。姿形からしてあれはどう考えてもミスタージャッジマンである。
「い、一体これはどう言う事でしょうか? さすらいの審判であったミスタージャッジマンが焼死体となって倒れています。嵐山君、ライムちゃん、これはどう言う事でしょうか?」
スフレはリングにいるハクトとライムに何があったのか説明を求めた。
「どう言う事も何も……」
ハクトは気付いていた。ライムもそうだ。あのバカが一体何をしたのかを……
試合終了前にてミスタージャッジマンは何かを考えていた。
(う〜ん…もうすぐ試合が終わってしまうな。あまり目立った事をしていない様な気がするのだけど)
いやいや、色々目立つ事をしていただろう。主にハクトの邪魔を……
(よしっ! ここは試合終了のポーズを決めてカッコよく決めよう!)
何かを閃いたミスタージャッジマンはリングの端に向かう。
(行くぜぇぇぇ! うおぉぉぉぉぉぉぉ〜〜!)
ミスタージャッジマンは走り出して勢いを付ける。
「行くぜ! 側転、バク転、そしてバク宙〜!」
ミスタージャッジマンは体操選手並の側転、バク転、そして二回転のバク宙する。
(ふっ、決まったぜ。今、俺っちは、最高に輝いて……)
「ソードブレイカー!」
「龍神星霊剣!」
(ほへっ?)
すると、ミスタージャッジマンの左右から二人の全力攻撃が向かってきた。
「「あっ…」」
ハクトとライムもミスタージャッジマンが軌道上に急に現れたけど、最早止める事は出来なかった。
(そ、そんにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜!)
ミスタージャッジマンが叫ぶ中、ソードブレイカーと龍神星霊剣がミスタージャッジマンを巻き込んでぶつかり合ったのだ……哀れな……
「……と言う事です。明らかに事故です」
ハクトは溜め息を吐きながら説明を終えた。まったくあのバカはとハクトは、焼死体となったミスタージャッジマンを哀れだと思った。あんな全力攻撃のど真ん中に突っ込んでくるとは、今時芸人でもやらないぞ。
「ふむ、事故だな」
「では、事故として処理しておきましょう。すみません、誰かあの燃えないゴミを捨ててきてもらえませんでしょうか?」
スフレがマイクでゴミ(ミスタージャッジマン)を処理する様に頼む。
「……せ、せめて……萌えるゴミで……お願い致します……」
「うおっ!? 生きてた!?」
焼死体であったミスタージャッジマンが急に喋り出したので、ビクッと身体を震わせて驚くハクト。いくらこいつが不死身と言っても、あんなコゲ肉以上に焦げていた焼死体になっていたら死んでいるなと思っていたからだ。
「あ、あの攻撃でも死なないのか、お前は……」
「ふっ、俺っちを誰だと思っている……俺っちはアホウ鳥アホックスだぜ!」
「それを言うなら、不死鳥フェニックスだろう! それとお前、そんな黒コゲの状態で立ち上がるな! 気持ち悪いわ!」
ミスタージャッジマンは黒コゲになっていながら立ち上がっていた。恐ろしい男だ。
「さて、審判も復活した所で、そろそろ試合の判定致しましょう。それでは嵐山選手とライム選手の試合の結果は……」
みんなが電光掲示板にある二人のポイントを見る。試合終了のゴングが鳴った時、二人の魔力ゲージは消えていて結果発表の時に表示される様になっている。
そして電光掲示板に二人のポイントが表示された。
「ライム選手は150点、嵐山選手149点です」
ハクトは電光掲示板の点数を見て目を見開いた。自分の魔力ゲージを見ても間違いなく149%で止まっている。
「勝負あり! 勝者ライム・シュナイザー!」
ミスタージャッジマンが宣言した時、観客が歓声を上げる。
「ハクトが……負けた……」
「……実技試験で150点を取れていないから、お兄ちゃんは退学……」
Eクラスのみんなは全員落ち込んでいる。せっかくハクトがあんなに頑張ったのに、退学させられるなんて思わなかったからだ。
「悔しいけど、結果が出た以上しかたないな……」
ジンは吸っていたタバコを投げ捨てる。
「……あと1点だったか……」
ハクトは拳を握り締める。
「流石シュナイザー会長だ! あの問題児を退学にさせられたぜ」
「精々するぜ。所詮田舎から来た魔導師だったと言う訳だな」
「E級魔導師がA級魔導師に勝てるわけないだろう。身の程知らずが!」
観客の中でハクトを罵倒する言葉が出始めてきた。中にはハクトに向かって物を投げたり大笑いしている生徒もいる。
「あいつら!」
シャーリーがハクトをバカにした奴らに向かおうとするが、ジンがシャーリーの肩を掴んだ。
「今お前があいつらを殴った所で嵐山が喜ぶと思うか?」
「くっ…でも先生……」
シャーリーの目から涙が零れてくる。
「悔しいよ……」
「……シャーリー、お兄ちゃんの為にも耐えてほしいのです」
ミントもシャーリーを止めようとしていた。シャーリーはミントの顔を見ると必死で涙を流さない様に我慢している。
その時だった。
「今嵐山を笑ったり侮辱した奴らは、全員実技試験0点だ!」
リングにいたライムの一喝で誰もが言葉を失った。
「か、会長……」
「嵐山、お前は私が戦ってきた魔導師の中で最高に良い試合をしてくれた。お前と戦えた事を誇りに思っている。そしてお前は決してこの学校から出て行ってはいけない魔導師だ。よって、お前の退学は無しにしてやる」
「えっ?」
ライムの判断に誰もが驚いた。
「先生方も、嵐山を他の学校に渡してもよろしいと思っているのですか?」
ライムが職員室から魔水晶で見ていた教師達に呼び掛ける。
「そうですね。私も嵐山君の力はきっとこの学校の為になってくれると思いますよ。彼を他の学校に転校させるわけにはいきませんね」
実況席にいたホークアイ教官が言った。
『ですがホークアイ先生、ちょっとよろしいデスか?』
すると電光掲示板に職員室にいる学年主任が映った。
『彼は我々の学校の評判を悪くしていってマス! それに今回の実技試験では150点以上を取らなければ退学処分を受けると約束してありマス。それを反故されてしまいましたら、他の生徒達がかわいそうデス』
学年主任はニヤッと笑う。
『よって退学処分の免除は認めまセン! 嵐山ハクトには約束どおり退学処分を受けてもらいます』」
学年主任の判決にハクト反対派が歓声を上げる。
「ちっ、ここぞという時に出て来やがって……あいつが聞いていたらどうなっていたか……」
ジンは黒狐がいる方に目を向けるけど、肝心の黒狐がいない。
「しかし学年主任。あれほどの実力を持っている嵐山を退学にするなど、やはり納得はいきません」
『ライム・シュナイザー。何故君がそいつを庇うのか理解出来まセン。だいたいEクラスの生徒が1人いなくなった所で我が校に大きなダメージを受けるとは思えません。いいや、むしろ問題児がいなくなったおかげで秩序が良い方向へ進んでくれると思いマス。これまでどおり、Eクラスには最下層にいてもらえるのデスから』
学年主任がEクラスの方を見て笑い出す。ライムは学年主任のあの態度に苛吐いてきている。
しかし突然電光掲示板にノイズが走り出した。
『しょ……し……われわ……』
「な、何だ、これは?」
「誰かが割り込んできたのですよ。それに会長、さっきからあそこに邪悪な気を出している奴もいるみたいだしね!」
ハクトは上空に向かって魔法弾を放った。すると、そこに1人の男がシールド魔法を唱えてハクトの魔法弾を防いだ。
「ふっふっふっ……俺の気を感じるとは、流石だな、嵐山ハクト」
男がリングに降りてくる。金色の髪に蒼い瞳をした男がハクトを見てニヤッと笑う。
「俺を知っている? 誰だ、お前は?」
「名乗るほどの者ではないさ。お前に復讐するただの魔導師だ!」
「くっ! ソニックバースト!」
ハクトは左手を前に出してソニックバーストを放った。相手の魔法とハクトの魔法がぶつかり合って相殺された。
「嵐山!」
ライムがマジカル・ドライブを起動させると、さらに上空から火の鳥が飛んできた。ライムは火の鳥を魔法剣で斬ると、火の鳥が爆発した。
「お姉様!」
観客席にいたライチが叫ぶ。すると、観客席がパニックを起こして生徒達が逃げようとしている。
「……この魔法は。四神獣の牙か」
「御明察です、シュナイザー」
上空にさらに四人の男達が飛んでいる。
「デュアルドラグロード魔法学校の魔導師達が何故ここにいるんだ?」
ライムは彼らの事は知っている。西にあるデュアルドラグロードにある魔法学校の生徒である。
「これは宣戦布告だよ、シュナイザー」
フーガが前に出てライムの質問に答える。
「我々デュアルドラグロード魔法学校が、お前達シャインヴェルガの魔法学校を潰しに来たのだ」
潰しに来たと言う言葉にハクト達は驚く。
「まあ、既に事は進んでいる。まずはここの生徒を1人仕留めた所だ。あの天空魔法を使う魔導師を」
フーガの言葉にハクトはクリスの顔が浮かんだ。そして、ハクトはマジカル・ドライブを起動させる。
「お前達、クリスに何をした?」
ハクトの怒りで周りの風が荒れてきた。
「ふっ、あの天空魔法の少女は俺の手で潰してやったんだよ」
金髪の男がそう言った瞬間、目の前にハクトが現れて顔面を殴られた。
「貴様…覚悟は出来ているんだろうな。俺達に喧嘩を売った事を後悔させるぞ」
「……話通りだな。口よりも先に手を出すのは母親譲りと言うのは」
金髪の男は立ち上がる。
「だが、お前では俺に勝てないぜ。覚悟するのはお前の方だ」
金髪の男は右の拳を構えると黒い炎を纏わせた。
「っ!? その構えは!?」
ハクトは信じられなかった。何故ならあの構えは。
金髪の男がそう叫んで右の拳を前に突き出すと、黒い炎がハクトに向かってきた。
ハクトも炎魔の剛拳を放った。2つの炎がぶつかり合うが、黒い炎の方がハクトの炎を押していく。
「何っ!?」
「無駄だ! お前の魔戒神生流では俺の魔戒神生流裏秘伝に勝てる訳ないんだよ!」
金髪の男がさらに力を籠めると、ハクトの炎魔の剛拳は完全負けて、金髪の男が放った獄・炎魔の剛拳がハクトに襲い掛かってきた。
「ぐっ! うわぁぁぁ〜〜!」
ハクトは黒い炎に引き飛ばされて倒れる。
「この程度かよ。魔戒神生流使いと言うのは。まあ、ここに真の魔戒神生流使いがいるのだから、仕方ないか」
金髪の男は倒れているハクトを見下す様に笑う。
「くっ……どうしてお前が……魔戒神生流を……」
「今から死ぬ奴に理由なんていらねえだろう…んっ!?」
金髪の男は何かを察知して後ろに回避すると、さっきまでいた所に数本の剣が突き刺さる。ライムが放った魔法剣である。
「貴様、何者だ?」
ライムはハクトに代わって金髪の男と対峙する。
「だから名乗るほどの者ではないって……それに俺よりも魔法学校を守った方が良いかも知れないぜ」
「どう言う事だ」
「まもなくこの学校が潰れるという事だよ」
金髪の男がそう言うと、電光掲示板に何かが映ろうとしている。そこに金髪に蒼い瞳をした40代ぐらい男性の顔が映った。どことなくリングにいる男に似ている。
その映像を見ていたジンは、そいつが誰かすぐに分かった。
「まさか、ゼーガ・アイリッシュか?」
「間違いありませんよ、教授。あいつはゼーガです」
カリムもあの顔には覚えがある。あの鼻持ちならない独特のオーラは間違いなく奴だとカリムは直感で解った。
「……カリムさん、ご存知なのですか?」
逃げていなかったミントがカリムに訊ねた。傍にはシャーリーとレナもいる。他のみんなは既にここから離れている。
「私と黒狐がこの魔法学校にいた時にいたA級魔導師よ。古くからアイリッシュ家は魔導師の血を受け継ぎ続いた伝統ある家のお坊ちゃま君よ。当時、彼が魔法学校の全ての権限を持っていたのだけど、黒狐が彼を地の底まで突き落としたのよ」
「ど、どんな事をして」
「もちろん勝負でフルボッコにしてあげたのよ。その所為で彼の人気は急降下に落ちたのよ」
『その通りですよ、カリム・ラズベリー。お久し振りですね』
すると電光掲示板に映っていたゼーガがカリムに話しかけてきた。
『まさか、ここで貴女と会うとは思いませんでしたね。あの嵐山はいないみたいですけど』
「っ!? そう言えば、黒狐は一体どこに行ったのかしら?」
カリムは未だに現れない黒狐に気付いて周りを見るけど、黒狐の姿はない。
『あの女は一目散に逃げましたか。所詮田舎の魔導師と言う訳ですね』
「その魔女にぼっこぼこにやられたのは、どこのどいつかしら?」
『……今のは聞き流しておきますよ。次に私を侮辱しましたら、魔法学校を潰します』
ゼーガはカリムを睨みつける。
「それで、貴方がまさかデュアルドラグロードにいるのかしら?」
『ええ、そうですよ。私は今デュアルドラグローグ魔法学校で教師をしている』
「なるほどね。向かったのね、あいつは……」
カリムはもしかしたら黒狐がもう向かっているのではないかと考えた。
『さてシャインヴェルガの皆さん。貴方達が我らデュアルドラグロードより劣っている所をここに証明させて挙げます。そして、我らデュアルドラグロードがこの大陸の頂点になります』
ゼーガの言葉はシャインヴェルガ全土に放送された。
『その第一歩として、これを見るが良い』
ゼーガが電光掲示板に別の映像を映し出した。
「あ、あれは!?」
誰もが驚いた。そこには縛られて気を失っているミルフィーユ皇女が映し出された。
「ミルフィーユ皇女がどうして?」
『我々の方で誘拐させてもらった。これがどう言う意味かお解りいただけましたでしょうか』
「……やってくれるぜ」
ジンはタバコを握り潰して燃やした。
「……ふざけるなよ」
すると今まで話を聞いていたハクトが起き上がった。
「俺達の……大切な学校を潰すだけで、皇女様を誘拐しやがって……この三流魔導師が!」
『……やはり野蛮な東国人には理解出来ない内容でしたね。嵐山カイトと桜崎黒狐の子供なだけありますね。サイガ、お前の実力見せてやるが良い』
「ああ、解っているぜ、親父」
金髪の男――サイガ・アイリッシュが拳を構える。
「親父って……あいつはお前の父親なのか」
「ああ、そうだ。だからお前の事は色々と聞いているぜ。だから、お前を倒して俺達アイリッシュ家が貴様ら田舎の魔導師をぶっ潰してやるのさ」
サイガが前に跳んできてハクトに攻撃してくる。ハクトはシールド魔法でサイガの攻撃を防ぐ。
「お前な! そんな理由で魔導師を目指しているんじゃねえ! それに、お前の使っているその魔戒神生流裏秘伝、どこで手に入れたんだ!」
ハクトは紫子から聞かされた神を殺し二代目が初代を殺す為に作られた魔戒神生流裏秘伝がどうしてサイガが使えるのか聞き出そうとする。
「それを聞きたかったら、俺に勝ってからにしな!」
サイガは拳に黒い雷を纏いだした。
黒い雷を纏った拳がハクトのシールド魔法をブレイクさせて、ハクトのお腹に直撃する。
「ぐっ! な、何だ……痛みが…現実に……」
「ああ、知らなかったのか? 裏秘伝の魔戒神生流には相手の身体を直接攻撃する事が出来るという事だ。つまり、俺達は今さっきまでの試合ではなく、殺し合いをしていると言う事になっているさ」
本来魔導師との勝負では相手を殺さない様にする為の非殺傷設定をされているが、魔戒神生流裏秘伝にはその設定はされていないのだ。だから、サイガの攻撃はハクトの身体にダメージを与えているのだ。
「さっきまでのぬるい試合よりも、こっちの方が燃えるんだよ!」
サイガは連続でハクトのお腹に拳をぶつける。ハクトは口から血が噴き出して苦しみだす。
『良いぞ、サイガ。その調子だ。もっと、もっとそいつを苦しませるが良い』
「分かっているぜ、親父!」
サイガはハクトの顎にアッパーを喰らわせる。ハクトは吹き飛ばされて倒れてしまう。
「ハクト!」
「……お兄ちゃん!」
「ハクト様!」
シャーリー、ミント、ライチ、レナがリングに向かう。
「呆気ないな……」
上空にいたフーガが溜め息を吐く。
「おいおい、くたばるなよ。まだ俺様達が暴れていないんだからよ!」
するとエンガが火の鳥を放ってきた。
「……させないのです!」
ミントが錬金術を使って周りに巨大な壁を出現させて、火の鳥を防いだ。
「ほお、錬金術か? 珍しい奴もいる様だな」
「だが、我々の敵ではないな。奴らE級の魔導師ばかりだ」
「と言う事はただの雑魚かよ! ふざけやがって」
「身の程知らずどもが、我々の力をまだ分からないみたいだな」
『お前達、それぞれの力を合わせて魔法学校を滅ぼせ』
「畏まりました。行くぞ、お前達!」
フーガ達四神獣の牙が、それぞれの力を合わせる。
「滅びるが良い。シャインヴェルガの魔法学校よ!」
四神獣の牙達の合体魔法が魔法学校を襲おうとしている。しかし、魔法学校に何か特別なシールドが張られて四神獣の牙の合体魔法を防ぎきった。
「バカな、我々の合体魔法が防がれただと!?」
「どこのどいつだ!?」
フーガ達が魔法学校を見ると、屋上に1人の老人がいた。
「あれは、ジョージ・マーカス!?」
「まさか五大魔導師の1人か!?」
そう、今の合体攻撃を防いだのはジョージ・マーカス校長先生である。
「ここは子供達の学び舎だ。勝手に壊させる事など出来ると思っているのか、ガキどもが!」
マーカス校長の凄まじい魔力に、誰もが驚いている。
『マーカス校長、お身体に障りますよ。辞めておいた方がよろしいですよ』
「黙れ、青二才が。わしがおる限りこの学び舎は壊させはせんぞ!」
『そうですか……では、皇女がどうなっても良いと言う事でよろしいのですね』
「っ!?」
マーカス校長はミルフィーユ皇女を見て力を抑えた。
『皇女の身体に我らデュアルドラグロードの紋章を刻み込んであげますよ。そうなればもう皇女はシャインヴェルガの者ではなくなりますね』
「おのれ…卑劣な……」
マーカス校長は歯軋りをする。
「ふざけやがって……あの野郎は……」
ハクトは立ち上がる。
レナは魔導殺しNO107を使う様にハクトにお願いする。
「……悪いけど、もう魔力がなくなりそうなんだ。さっきのシンクロドライブの影響で魔力が低下しているんだ」
シンクロドライブは発動している間は魔力ゲージも減らないけれど、効果が切れてしまうとその反動で魔りょ気ゲージが一気に減ってしまうのだ。ハクトの魔力ゲージはもう15%を切っている。魔導殺しNO107を使う事が出来ないのだ。
「無様だな、嵐山ハクト。今楽にしてやるよ。魔戒神生流で殺されれば本望だろう!」
サイガがそう言って力を溜めると、足元に黒い魔法陣が現れてそこから八つの首を持つ大蛇が現れた。
サイガが大蛇を放った。
「逃げろ、お前ら!」
ハクトはここにいる全員に逃げる様に叫ぶ。
「でも、ハクト!」
「心配するな。こっちも手はある!」
ハクトはもうあの魔法で対抗するしかないと思い呪文を唱える。
「紅の瞳を持ちし王の魂よ。黄昏に寄り添い、日と月が重なり合う時、我はここに汝と誓う。我らの前に立ちはだかりし全ての愚者に、滅びの詩を唱え、全てを滅びへと与えよ!」
ハクトが呪文を唱えていると、挙げていた両手に真紅と黒い炎の球が大きく作り出される。
ハクトが残り全ての魔力を使って真紅邪王炎滅破を放った。八岐大蛇とぶつかりあって大爆発が起きた。リングにいた人達だけでなく上空にいた四神獣の牙達も吹き飛ばれてしまう。
爆発が収まると、リングのあったグラウンドが大きなクレータとなっていた。
「……す、凄い爆発だったね」
「ええ、奴らはどこに行ったのですの?」
「……もういないのです。逃げていきましたのです」
レナはハクトを探すと、ハクトはグラウンドで倒れていた。魔導服も解除されて制服状態でうつぶせになっている。
「ハクト!?」
「しっかしして下さい、ハクト様!?」
「……お兄ちゃん!」
シャーリー達がハクトに集まる。ハクトはゆっくりと目を開ける。
「……あ、あいつらは……どこに行った……」
「あいつらならさっきの爆発で逃げて行ったよ」
「……ふ、ふざけるな……」
ハクトはゆっくりと身体を起こして立ち上がろうとしている。
「無茶ですわ、ハクト様。その身体でどこに向かうおつもりですか!?」
「決まっているじゃないか……あいつらをぶっ飛ばしに行くんだよ……」
足を震わせながらゆっくりと歩き出すハクト。そんなハクトに驚くシャーリーだったが、すぐにハクトの前に立ちふさがる。
「ライチの言うとおりよ、ハクト。そんな身体であいつらを追うなんて無茶よ」
「……無茶でも良い…あいつらは絶対許せねえ……俺達の……魔導師の誇りを踏み躙りやがって……だから、俺があいつらをぶっ飛ばす……」
シャーリーを押しのけて一歩一歩と進んでいくハクトだが、ついに力尽きたのか、そのまま前に倒れてしまった。
「くそ……動け……動いてくれ……」
「……お兄ちゃん、今は眠るのです」
するとミントがハクトの頭にピコピコハンマーをぶつけて、ハクトを気絶させた。
「ミント、あんた容赦ないわね」
「……あのままにしていたら本当に死んでいたのです。見て下さい、お兄ちゃんの身体を」
ミントがハクトのシャツを捲ると、お腹に痣が数個出来ている。サイガの魔戒神生流裏秘伝をもろに受けていたのだ。相当ダメージを受けていたのだろう。
「……とにかくお兄ちゃんの傷はミントが何とかするのです。とりあえずお兄ちゃんを保健室に運ぶのです」
「分かったわ。私がやるわ」
「わたくしもやりますわ」
シャーリーとライチがハクトの肩を掴んで持ち上げる。
「落としてはいけませんですからね」
「それはこっちのセリフよ」
シャーリーとライチが口喧嘩をしながら校舎にある保健室へ向かっていった。
「……レナも一緒に来るのです」
「うん、分かった」
ミントとレナもシャーリー達の後を追う。
「ライチ」
するとシャーリー達の前にライムは立つ。
「お姉様、すみません。わたくしはハクト様を助けたいのです」
「分かっている。そっちは任せた。私は少し行ってくるわ」
「行ってくるって、まさか今からですか!?」
ライチは姉が考えそうな事がすぐに理解出来た。今からデュアルドラグロードに向かおうとしているのだ。
「大丈夫だ。準備が出来たら向かう。それまでに嵐山の傷を治しておいてくれ」
「えっ、それって……」
「ああ、奴らと戦争をするのなら、彼の力は必要だ」
ライムはそう言って校舎の中に入っていく。
「……ライチ、早く保健室に」
「ええ、分かりましたわ」
ミント達も校舎の中に入っていく。
「あの……俺っちの事は……忘れないでくれませんかね……って、誰もいないぜ……むなしい!」
リング跡にて、またしても黒コゲになってミスタージャッジマンが倒れていた。
(続く)