「う、うう〜ん……」
ハクトはゆっくりと目を覚ます。そこは保健室の天井が見えた。
「ここは、保健室か……」
ハクトはどうしてここにいるのか思い出す。デュアルドラグロード魔法学校のサイガ・アイリッシュとその父ゼーガ・アイリッシュが魔法学校に攻めてきて、自分はサイガの奥義に対して真紅邪王炎滅破で対抗して、そのまま魔力が切れて気を失ったはずだった。
「……お兄ちゃん、気が付いたのですね」
すると、ハクトの視線にミントの姿が見えた。
「ミント……お前が傷を治してくれたのか?」
「……はいなのです。結構大変だったのです」
ミントはニッコリと笑う。
「ありがとう……あれ?」
ハクトは身体を起こして自分の身体を見る。傷はミントに治してもらったから問題ないけど、自分の魔力に違和感を感じた。
「……おかしいな。魔力まで回復している」
ハクトはあれほど魔力を消耗しているのに高熱が身体のだるさもない。ハクトは自分の身体の魔力を確認すると、完全に回復していた。
「ミント、お前、魔力まで回復してくれたのか?」
「……ううん、ミントはそんな事出来ないのです。お兄ちゃんの魔力はミントが傷を治す前に元に戻っていたのです」
ミントが保健室で眠っているハクトの傷を治そうとやって来た時、ハクトの魔力はもう回復してあったのだ。
「寝ている間に魔力が自然回復してしまったのかな。でも、そんなに長い事寝ていないはずだけど」
「……お兄ちゃん、もう夕方なのです」
「……えっ?」
ハクトは窓の外を見ると、オレンジ色の景色からもうすぐ夜に変わろうとしている。
「俺、何時間寝ていたんだ?」
「……かなり眠っていたのです。多分今日のだけでなくこれまで溜まっていた疲れから眠りについてしまったのです」
「そうか。確かに先生との修行の時もあまり寝ていなかったからな。昨日も痛い思いをしたまま叫び疲れて眠っただけだと思うし」
ハクトはここ最近寝ていない事を思い出した。紫子の修行の時、夜も修行をしていたので中々眠る事がなかったのだ。
「そうだ。あれからどうなったんだ?」
ハクトはミントに状況を求める。
「……えっ?」
ミントはハクトの話を聞いていなかったのか、首を傾げる。少し頬が赤くなっていて息も荒々しく吐いている。
「んっ? どうしたんだ、ミント?」
「……な、何でもないので……あっ」
ミントは笑顔で何でもないと答えるけど、ハクトは誤魔化されなかった。ハクトはミントの額に自分の額を当てる。
「熱い……ミント、お前魔力が切れかかっているんじゃないか」
「……だ、大丈夫なのです。本当に大丈夫なのです」
「大丈夫なわけないだろう。まったく……無茶をするんだから」
「……はぁ…はぁ……お、お兄ちゃん……」
ミントが虚ろな目になってきて、ハクトをじっと見ている。
「ミント? ど、どうしたんだ?」
ミントの様子が少しおかしくなっている事に、ハクトは少々戸惑っている。しかし、その所為で判断が遅れてしまった。ミントがハクトを押してベッドに横たわらせた。
「な、ななっ!? えっ!?」
ハクトは起き上がろうとするが、ミントに肩を押さえられているので身動きが取れなくなってしまった。
「……はぁ…はぁ…はぁ……お兄ちゃん……」
ミントはハクトの身体の上に跨ってハクトを押さえながら笑っている。しかし、いつもの笑顔ではなくて、色気のある笑みを浮かべているのだ。
「お、おい、ミント!? な、なんて力なんだ!?」
ハクトは力を入れて起き上がろうとするがびくともしない。ミントにこんな力があるなんて知らなかった白とだが、ミントの顔を見て気付いた。真っ赤になっている頬に息が荒く、目が虚ろになっている状態。
「お、お前…まさか……」
「……ねえ、お兄ちゃん。ミントと一緒に…しよ……」
ミントがハクトの上に跨って、自分の服を脱ごうとしている。
「ちょっ!? ちょっと待て、ミント!?」
ハクトは手でミントが服を脱ごうとするのを止める。
「……? どうしたのですか、お兄ちゃん?」
「どうしたのじゃないだろう!? お前、何しようとしているんだよ!?」
「……何って……魔力供給してほしいのです」
「ま、魔力供給って……それは確かに今のお前には魔力供給する必要があるけど……お前、魔力供給の意味知っているのか?」
「……はい、知っているのですよ。異性同士がこう身体と身体を合わせるのです」
ミントが捕まれていた手を動きして、ハクトの手を自分の胸に触らせようとする。
「違〜う! それは確かに合っているかも知れないけど、ここでは違うから!」
ハクトはミントの胸に触れる前に何とか手を引いて逃れようとする。
「……? どこが違うのですか?」
「……それはだな」
ハクトはとりあえずミントに魔力供給の説明をする。お互い身体を握り合わせて、ハクトの魔力をミントの中に分けてあげると言う変わった魔力供給である。
「……ミントは別にあっちでも良いのですよ」
「流石にそれはダメだろう……と、とにかく、魔力供給はしてやるから、ここを退いてくれないか?」
ハクトはミントに退いてほしいと言う。
「……別にお兄ちゃんが上にならなくて良いのですよ。要は二人の気持ちが一緒になれば良いのです。だから、このままで良いのです」
ミントは顔を近づける。ハクトはミントの笑顔にドキドキするしかなかった。
「……お兄ちゃん……じっとしていてほしいのです」
ミントは息がハクトの顔に掛かる。
(これって魔力切れの影響なのか……ミントがちょっと大人っぽく感じるんだけど……)
ハクトはミントの顔を見ているしかなかった。
「くっ! み、ミント……」
するとハクトの身体が熱くなった。どうやらミントがハクトの魔力を無理矢理ミントの中に入れようとしているのだ。
「……あぁん、お兄ちゃん……すごい……お兄ちゃんの魔力……うう…あぁん!」
ミントが身体を震わせてハクトの魔力を感じている。
「み、ミント……少し抑えろ……そんないきなり魔力を入れたら、こっちの魔力が保たない……」
「……う、うん……ミントも……ちょっと……危なかったのです……」
「ミント……俺が魔力を送るからじっとしていてくれないか?」
「……ダメなのです。ミントが上を取っているのだから、ミントがリードするのです」
ミントはハクトの胸に手を置く。
「……お兄ちゃん、今度はゆっくりやるのです。うう……くっ……」
ミントが今度はハクトから魔力をゆっくりと入れる。
「くっ……ミント……」
「……あ…ああ……うっ……んっ…はぁ……」
「ミント……少し動くぞ」
ハクトは身体を動かす。
「……きゃっ!? お、お兄ちゃん……動いたら…ダメ……なのです……ああ!」
ミントがびくんと身体を浮かせる。
「……うぅん! あっ、あっ……お兄ちゃん、ゆっくりお願いなのです」
「ああ、ゆっくり動くから、起き上がるぞ」
ハクトは上半身を起こした。ミントはハクトのひざに乗って、ハクトはミントの背中に手を回してミントが倒れない様にする。
「……お、お兄ちゃん……」
「ミント、今から本気で入れるからな」
「……うん、来て、お兄ちゃん……」
ミントは頷いたので、ハクトは自分の魔力をミントに入れる様に意識を集中する。
「……う、ううん……あぁん!」
びくんとミントは身体を動く。
「……良いよ、お兄ちゃん……お兄ちゃんの魔力がミントの中に入ってくるのです」
「ああ、ミントの中、とても温かいよ」
「……お兄ちゃんのも温かいのです」
ミントはうっとりとした笑顔でハクトを見る。いつも幼い少女の笑顔であったけど、この時だけ女性の様な笑顔を見せているのでハクトはドキドキしている。
「……ああん…うぅん……はぁ…はぁ……す、すごいのです……お兄ちゃんのがミントの奥に入ってくるのです……」
ミントは腕をハクトの首の回して顔を近づける。
「み、ミント……」
ハクトは間近で見るミントの顔を見る。ミントの息の匂いが鼻にかかり、口と口が今にもぶつかりそうな所まで来ている。
「ちょっ、み、ミント!?」
「……お兄ちゃん……はぁん……きゃうん……ミントがしてあげるのです」
そして、ミントは再び自分からハクトの魔力を入れようとする。ハクトは目を瞑りミントに魔力を与えていくのを感じている。
「み、ミント……そんなにしたら……」
「……うん、ミントも我慢出来ないのです……いっぱい、いっぱい欲しいのです……」
ミントの甘い声がハクトの耳からだけでなく頭の中に直接入ってくる様に感じたハクトは、何とか自分が先に果てない様に我慢し続ける。
「……ああん……お兄ちゃん……我慢しなくて良いのです……ミントに全部委ねて欲しいのです……」
「うっ……くっ……み、ミント……はぁ…はぁ……」
ハクトの息が荒くなり、目を開けてミントの目を見る。すると、今までミントの灰色の瞳が真っ赤な瞳に変わっている事に気付いた。
「お、お前……やっぱり……サキュバスになっていないか……くっ……」
ハクトは必死にミントの瞳から逸らそうとするが、身体が動けない様にミントの瞳から逸らす事が出来なくなっている。いや、瞳に魅了されてしまいハクトの身体がミントをさらに抱き締めようとしている。
「……はぁ…はぁ……うん……ミント…魔力が切れてしまうと……発情してサキュバスになってしまうのです……」
サキュバスとは淫魔。つまり異性を自分の虜にして精気を奪う夢魔の事である。魔力切れを何度も起こしてしまい魔力供給を何度も受けている魔導師による禁断症状みたいなもので、一度それが発動してしまうと、相手の魔力を全部奪いきるか、相手が命を果てるまでずっと魔力を奪い続けてしまうと言う。サキュバスになった魔導師の瞳は真っ赤になり、その目を見てしまった相手はその者の虜になってしまい、魔力を与え続けてしまう。
「……お兄ちゃんの魔力……美味しいのです……はあん……ううん……やあん……ああ、ああ……」
「はぁ…はぁ……ミント……ミント……」
サキュバスの魅了に支配されてきたハクトは、ミントに魔力をどんどん入れていっている。このままではせっかく戻った魔力がまたなくなってしまうかも知れない。
「……お兄ちゃん……はぁ…はぁ……ダメ……もう……もうダメなのです……あぁ…ううん……」
するとサキュバス化しているミントが首に回していた腕をハクトの肩を掴んで離れようとする。だが、ハクトが離さないとミントの身体を強く抱き締める。
「……ミント……お兄ちゃんを死なせたくないのです……」
ミントの瞳から一粒の涙が零れてハクトの腕に落ちた。その時、ハクトの背中に刻まれていた魔法陣が光り出した。
「……な、何なのです……お兄ちゃんの魔力が……また……」
ミントはハクトの魔力がどんどん戻っていく事に驚く。そしてミントの抱き締めていたハクトがゆっくりと緩めていく。
「……み、ミント? 俺……あれ?」
ハクトが正気を取り戻した。ミントも自分がサキュバス化から解放されているみたいに瞳が灰色に戻っていた。
「……お兄ちゃん……ふあっ!」
すると、ミントの中にハクトの魔力が今までにないぐらいたくさん入ってきて、びくんと身体が跳ねた。
「ミント……もう……」
「……お兄ちゃん……ミントも……もう……くっ……」
二人はぎゅっと身体を抱き締め合い、最後の魔力をミントの中に入れていった。
「ミント! くっ!」
「……お兄ちゃん、お兄ちゃん! あっ、あっ…くっ、うっ……あぁぁぁぁぁぁぁん!」
ハクトの魔力がドクンドクンとミントの中に入っていく。
「……はぁ…はぁ……お、お兄ちゃん……」
「はぁ…はぁ…はぁ……も、もう……限界だ……」
ハクトは身体の力が抜けていき、ばたんとベッドに倒れた。その上にミントがのしかかる様に倒れる。
「……お兄ちゃん……はぁ…はぁ……すごかったのです……」
ミントはハクトの上で嬉しそうな顔をしている。
「それは良かった……それで、渇きは何とか潤ったのか?」
ハクトはミントがサキュバス化している事をまだ警戒している。今の状態でまた魔力を奪われる事は本当に命に関わる事になるから、いつでも警戒出来る様にしている。
「……うん、もう大丈夫なのです。魔力を欲する気持ちもなくなっているのです」
ミントはハクトの顔を覗き込む。ミントの瞳が元の灰色に戻っている事に気付いたハクトはほっとする。
「そうか……良かったよ。正直これ以上魔力を分ける事なんて出来ないからさ」
「……でも、お兄ちゃんの魔力。あんまり下がっていないのですよ」
「……なぬ?」
ハクトは自分の魔力を確認すると、あまり減っていない事に少し驚いた。サキュバス化していたミントにかなり魔力を奪われていたのを感じていたのから、またカラになりかけているのではないかと思っていたが、実際は10分の1ぐらいしか減っていない。
「ど、どうなっているんだ?」
ハクトは首を傾げる。そんな中、ハクトの背中に刻まれている魔法陣が静かに光っている事に誰も気付いていなかった。
(続く)