ハクトはベッドから起き上がって、身体を伸ばした。ミントとの魔力供給も終わって、漸く一息吐く事が出来るのだ。
「ミント、そっちはもう大丈夫か?」
「……はい、もう大丈夫なのです」
魔力供給してもらったミントは元気になったみたいだ。高熱も身体のだるさもなくなっている。
「ときに訊くけど、ミント。お前、魔力供給とかした事あるのか?」
ミントがサキュバス化していた事に疑問を持つハクトは、思わずミントに訊いてみた。
「……はい。何度か魔力切れをして高熱を出した事があるのです。その度にお師匠様に魔力供給してもらっていたのです」
「い、いつもって……ちょ、ちょっと待てよ。それって、その……」
ハクトの顔が赤くなっていく。ミントがまさかあんな状態を何度もやっていたと言うのかとハクトは考えてしまう。そんな表情が顔に出ていたのか、ミントはくすっと笑った。
「……お兄ちゃん、何を想像しているのですか? 魔力切れして倒れていたミントに魔力摂取の薬を飲ませてもらっていただけなのですよ」
「……えっ? 薬?」
「……はい。ドクターから魔力摂取のお注射を打ってもらったり、お薬を飲んで抑えていただけなのですよ。ただ、今日はちょっと薬を飲むのを忘れていたので、サキュバス化してしまったのです」
「そ、そうだったのか? 何だ、ビックリした……」
ハクトは安堵の息を吐く。
「……ひょっとしてお兄ちゃん。ミントが淫らな女の子だと思っていたのですか? 魔力供給する度に異性の魔導師といちゃいちゃしていたと思っていたのですか?」
ミントが頬を膨らませてハクトを睨み付ける。
「い、いやいや! 違うんだ! ただ母さんから魔力供給は、その、何と言うか……そう言う方法しかないと言っていたから……何だ、薬でも何とか出来るのか」
「……勘違いしているようですから、言っておくのです。薬や注射はあくまで応急処置なので、完璧に治すにはやはり他人から魔力を貰うしかないのですよ。それにあまり薬や注射ばかりだとサキュバス化しやすくなってしまうので、あまりお薦めではないのですよ」
「うっ……やはりそうなのか?」
「……だから、今度ミントが倒れた時は、またお兄ちゃんの魔力が欲しいのです」
ミントがえへへと笑うけど、ハクトは笑う事が出来ない。またサキュバス化して魔力を根こそぎ奪われてしまうと、今度こそ魔導師生命の命日にされてしまうかも知れないからだ。
「まあ、考えておくよ」
「……うわ〜い! お兄ちゃん、大好きなのです」
ミントがハクトに抱きつく。ハクトはミントの頭を撫でてあげる。
すると、外から大きな音がして、保健室が少し揺れた。
「何だ!?」
「……外からなのです」
「行ってみよう、ミント」
「……はいなのです」
ハクトとミントは保健室を出て、外に向かう。
ハクトとミントが外に出ると、そこにはジン先生がいた。
「ジン先生!」
「嵐山、ウィリアム。もう身体は大丈夫なのか?」
「はい、ミントのおかげで治りましたので。それでこれは一体どう言う事なのでしょうか?」
ハクトが見ているのは蒼いドラゴンが横たわっている姿だった。
「これは王家に仕えている蒼氷竜だ。しかし、何者かにやられて重傷を負っている」
「……ミントが治すのです」
ミントが蒼氷竜に近付くと、蒼氷竜は唸り声を上げて威嚇してくる。大きさもかなりあるので、ミントは近付く事が出来ない。
「待って、ミント。この蒼氷竜、王家以外の人を警戒しているみたいだ」
「ああ。俺もそれで困っていたんだ。それに空を見てみろ」
ジン先生に言われてハクトは空を見上げると、雲の中から何かが見えてきた。
「あ、あれは……浮遊島?」
雲の中から島が浮いている。その島に大きな城が建っていた。
「まさか、あれってデュアルドラグロード魔法学校ですか!?」
「ああ、間違いない。まさか浮遊島を使って学校ごと、こっちにうやってくるなんて予想出来なかった」
誰も学校ごと島を浮かせて、空からこのシャインヴェルガまでやってくるなど誰も想像出来なかった。
「……まずいのです。今ここはかなり手薄になっているはずなのです」
「どう言う事だ?」
「……実はお兄ちゃんが寝ている間に、ライム会長と高等部の部隊でデュアルドラグロードへ向かって行ったのですよ」
ミントの話だと、ライム会長とAクラスの魔導師に高等部の魔導師を合わせて部隊を作り出して、デュアルドラグロードの魔法学校に向かう事になったのだ。もっともメディア山脈があるので航空術が使える魔導師で行っているのだ。
「確かにあれは想定外だ。奴らは最初からこの上で機会を待っていたのかも知れないな」
「ああ、考えられるな……」
「ハクト! ミント!」
すると校舎からシャーリー、ライチ、レナがやってくる。
「ああ、もう大丈夫だ。心配掛けたな」
ハクトは3人に元気な姿を見せてあげる。
「まったく、あんたは私達に心配掛け過ぎなのよ」
「……さっきまで大泣きしていたシャーリーとは思えない言葉なのです」
「〜〜〜っ!?」
シャーリーの顔が真っ赤になっていく。ハクトが眠っている間、ずっと傍で大泣きしていたので、ライチとレナがシャーリーを保健室から追い出したのだ。
「……それはまた心配させてしまったな」
ハクトはシャーリーの頭を撫でてあげる。
「なっ!? ちょっと!? いきなり何するのよ!?」
シャーリーはハクトから離れようとする。
「してほしそうだったから…かな?」
「私は子供かぁぁ!」
シャーリーが拳を握り、ハクトの顔面に向けて殴ろうとする。しかし、ハクトはシャーリーの拳を左手で受け止める。
「何をやっているのかしら?」
「……お兄ちゃんとシャーリーは仲良しさんなのです」
「仲良しなんかじゃない!」
シャーリーは真っ赤になりながらミントに怒鳴る。
「はいはい、この辺にしておいて。3人も空に見えているあの城を見るんだ」
ハクトに言われて、シャーリー達も空に浮いているデュアルドラグロード魔法学校を見上げる。
「お姉様達の部隊はこの事に気付いているのでしょうか?」
「……たとえ気付いても、今からでは間に合わないと思うのです」
すると、デュアルドラグロード魔法学校で何かが動く音が聞こえてくる。
『魔導陽電子砲、発射!』
デュアルドラグロード魔法学校から巨大な大砲が現れて、魔法学校に向かって陽電子砲が発射された。
「な、何っ!?」
「魔法学校が!?」
誰もが魔法学校が壊されると思っていた。しかし、魔導陽電子砲が魔法学校にぶつかる前に、魔法学校を取り囲む大きなシールドが張られた。
「校長先生!?」
屋上を見ると、マーカス校長先生がまたしてもシールドで防ごうとしている。
「言ったはずだ、青二才ね。この学び舎は決して壊させぬと!」
校長が必死で魔導陽電子砲を防ごうとしているが、シールドにひびが入りだしてきた。
「ぐっ…ぐぐぐっ……ぬぉぉぉぉぉ〜〜!」
校長は魔力をさらに使ってシールドを強化させていく。ひびがどんどん広がっていく。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ〜〜!」
校長の叫び声と共にシールドはガラスが割れた音をして破壊されたが、魔導陽電子砲を何とか防ぐ事が出来た。しかし、校長はそのまま屋上で倒れてしまった。
「校長先生!」
ハクト達は驚愕する。
『くくくく……だから言ったはずですよ、マーカス校長。お身体に触りますよと』
浮遊城からゼーガの声が響いてきた。
「ゼーガ……お前だけは絶対に許さねえぞ!」
ハクトは浮遊城を睨みつけて叫んだ。
『おやおや、まだご自分達の立場が理解出来ていないみたいですね。でしたら、これを見るが良い』
ゼーガがそう言うと、映像が映し出された。そこには氷漬けにされた黒狐の姿があった。
「か、母さん!?」
「嵐山!?」
ハクトとジンは驚いた。あの黒狐が氷漬けにされるなんて思わなかったからだ。
『奴は我が術中に嵌まり、この様な無様な姿となったのだ。これで理解しただろう。この大魔導師であるわたしに楯突いたらどうなるか』
すると浮遊城にある大砲がまたしても動き出した。
『さあ、今度こそ跡形もなく消えなさい。シャインヴェルガよ!』
魔導陽電子砲が再び放たれようとしていた。
「……黙れ、クソガキが」
すると、ジン先生がタバコを捨てると、自分の上下に魔法陣を出した。すると、ジン先生の姿が変わりだしていった。茶色の髪が赤くなって伸びていき、顔と身体が狼の姿になって大きくなっていく。四足になって眼球が真っ赤になって大きく咆えた。髪と手足に真っ赤な炎が纏っている。
「こ、これが……ジン先生の真の姿……」
魔狼王ジン・アストラル・ローンウルフは空を駆けていき、口から黒い炎を吐き出した。浮遊城も魔導陽電子砲を発射させるが、魔狼王ジンの方が早く大砲ごと焼き尽くして破壊された。
「す、凄い……ジン先生」
「……格好良いのです」
誰もがジン先生の活躍に喜ぶ。
『魔導拡散砲、発射!』
しかし、城から大砲が数本出て来て巨大な魔法弾を発射してきた。そして魔法弾は途中で拡散して魔狼王ジンに襲い掛かってきた。魔狼王ジンは素早く空を駆けて拡散砲を回避していき、城に向かって赤い炎を吐いた。しかし、城はシールドを張って魔狼王ジンの攻撃を防いだ。それに気を取られていた所為で魔法弾が魔狼王ジンの身体に次々と当たっていく。
「先生!」
ハクト達は驚いている間に魔狼王ジンはそのまま地面に落ちていった。身体中に大量の血が流れていて、息も絶え絶えとなっている。そして、変化が解けてジン先生が元の姿に戻るが、その身体もほとんどボロボロとなっている。
「……く、くそ……久し振りだったから……身体が鈍ってやがるぜ……ぐはっ!」
口から血を吐き出すジン先生。ミントが傍によってジン先生の身体を調べる。
「……これはただの出血だけではないのです。ジン先生の身体に猛毒が入っているのです」
「まさか、さっきの魔法弾に猛毒を混ぜていたのか」
「……かなり危険なのです。パラケルスス、すぐに解毒魔法をお願いなのです」
『Ja』
ミントは魔導服を装着すると、すぐにジン先生の解毒を始める。
『ふはははは! マーカス校長、ジン・ローンウルフ教授と古株の教師も我が校の力に敗北しましたか』
ゼーガが嬉しそうに大笑いする。
『これで邪魔する者はいなくなりましたね。魔導陽電子砲で消してあげたかったのですけど、拡散砲でなぶり殺しにしてあげましょう!』
城の大砲から魔法弾が発射されて、拡散した。広範囲の魔法弾が魔法学校に襲い掛かってきた。
「シャーリー! ライチ! レナ! 絶対に魔法学校を傷付けさせるな!」
「うりゃぁぁぁぁぁ〜〜! 行くよ、ストライク・バスター!」
シャーリーは魔法学校にぶつかろうとする魔法弾を、拳をぶつけて止めていく。
「スカーレットローズ、お願いですわ。シードマシンガン!」
ライチはスカーレットローズを横に一振りすると、地面から植物の蔓を出して花を咲かせると、その花達から次々と種を飛ばしていき、魔法弾にぶつけて相殺していく。ライチの植物魔法『シードマシンガン』は花を咲かせてその種をマシンガンの様に飛ばして攻撃する魔法である。
「行くぞ、レナ」
「「デュアルエクスティンクション!」」
ハクトとレナはお互いの剣先から白い極太光線を放って、魔法弾を次々と消していった。
「よし! そっちは大丈夫か!?」
ハクトが遠くにいるシャーリーとライチに声を掛ける。
「こっちは大丈夫よ〜!」
「こちらも問題ありませんわ〜!」
シャーリーとライチも声を大きく上げて返事をする。魔法弾は一発も魔法学校に当たっていない。
「しかし、このままじゃあ……そうだ」
ハクトはグラウンドに倒れている蒼氷竜に近付く。蒼氷竜はハクトが近付いてくると察知して威嚇してくる。
「頼む、お前の力が必要なんだ。まずはお前のケガを治してやるから大人しくしてくれないか?」
ハクトは蒼氷竜に説得するけど、蒼氷竜は全く警戒を解いてくれない。そして蒼氷竜は口を開けてハクトに向けてアイスブレスを吐き出した。
レナは蒼氷竜に刃を向けようとする。
「大丈夫だ、レナ! 手を出すな!」
ハクトは右手を前に突き出していた。魔導殺しNO01の刃を消しているけど、アイスブレスを魔導殺し自体で防いだのだ。
「大丈夫だよ。怖がらなくて良いからな」
ハクトはゆっくりと蒼氷竜に近付く。蒼氷竜は唸ったままハクトを睨み付けている。
「お前のご主人を助けに行きたいんだ。だから、頼む。力を貸してくれ」
ハクトは両手を広げて笑った。蒼氷竜はその姿にハウト皇子の姿が浮かび上がった。
『僕の代わりに、ミルフィーを守ってくれるか?』
ハウト皇子から頼まれた言葉。それから蒼氷竜はミルフィーユ皇女と一緒にいる事が多く、彼女に危害を加えた連中を許せなかった。だから、皇女を傷付けた人間を許せなくなって、ハクト達に牙を向けていた。しかし、ハクトの姿と言葉にはハウト皇子と同じ感じがした蒼氷竜はゆっくりと顔をハクトに近づけて舌でハクトの顔を舐めた。
「ちょっ! ちょっと!? あはは! くすぐったいって!」
ハクトは蒼氷竜の舌がくすぐったくて笑い続ける。どうやら警戒を解いてくれたみたいだ。
「ほら、今治療するから、ちょっと待っていろ」
ハクトは蒼氷竜の傷を治癒魔法で治してあげる。
「お〜い! 誰か〜! 助けてくれぇぇぇ〜!」
「んっ?」
すると、ハクトの近くで誰かの声が聞こえた。ハクトは辺りを見渡すが誰もいない。
「気のせいか?」
「ここだ〜! 出してくれ〜! へるぷみ〜!」
「あれ? 声はするけど姿が見えないな……」
やはり辺りを見ても誰もいない。幻聴なのかとハクトは首を傾げる。
「……見下げてご覧♪」
声の言うとおりにハクトは下を向くと、蒼氷竜の下にある男の顔だけが出ていた。
「うおっ!? お、お前は……犬之助か!?」
「虎之助だ! ちなみに犬之助は俺っちの従兄弟の名前だ!」
「ちっ、いるのかよ……」
舌打ちするハクト。
「時にお前、本当に虎之助か? ミスタータイガーマンはどうしたんだ?」
「何を言っておるのだ、ハクトよ。ミスタータイガーマンは次の試合のジャッジをするために旅に出て行ったはずだぞ。俺っちはお前の試合を陰からこっそり見ておった」
嘘付けとハクトは心の中で突っ込んだ。言ってもどうせ何も答えてくれないと思ったからだ。
「そんな事より、このドラゴンを早くどかしてくれないか? 俺っち、このままではお煎餅になっちまうぜ」
「もうなっているだろう、お前の場合は……ごめんね、ちょっと身体浮かせてくれるか?」
ハクトは蒼氷竜にそう言ってあげると、蒼氷竜はゆっくりと身体を浮かせた。
「ふ〜……やっと脱出出来るぜ……あ、あれ? 身体が動かないぞ。にゃあははは! こりゃあ本当にお煎餅になっちゃったのかな?」
「違うわ、阿呆! お前の身体、絵では表現出来ないほどのグロテスクになっているぞ! 骨とか内臓が飛び散ってめちゃくちゃになっているじゃないか!? と言うより、お前そんな状況でよく生きていられるな! 普通死んでいるだろう!」
虎之助の身体はモザイクを掛けなければならないほど悲惨な姿となっている。それは何十kgもある蒼氷竜に下敷きにされていたのだから、普通そうなるだろうけど、何故か首だけ動いて、こうして喋っているのだ。
「ちょっと3分間待っていてくれないか? あの呪文を教えてもらいたいから」
「ラピ●タか!? ●ルスでも唱えるつもりか!?」
とりあえず3分待ってあげると、本当に虎之助の身体が元に戻っていった。
「長谷部虎之助、恥ずかしながら帰って参りました!」
「本当、お前の身体はどうなっているんだよ……」
ハクトは虎之助の異常な身体に呆れるしかなかった。
「……お兄ちゃん、校門から魔導師が来るのです」
ミントが校門の方を見ると、うおぉぉぉと叫び声が聞こえてきた。もしかしてとハクト達も見てみると魔導師達が何十人もやって来た。
「まさかあれってデュアルドラグロード魔法学校の魔導師か!?」
「そんな……でも一体どこから来たのよ!?」
他の国の魔導師達が攻めてくると分かったら、警報が鳴るはずだと言われていたのに、それがまったく発生していなかった。
「くっ、確かに数が多いけど、やるしかないか」
ハクトは拳を構える。シャーリーやミントにライチも武器を構える。すると蒼氷竜が身体を動かしてアイスブレスを吐き出した。蒼氷竜の突然の攻撃にデュアルドラグロード魔法学校の魔導師達は氷漬けになっていく。
「蒼氷竜……力を貸してくれるのか」
ハクトがそう言うと蒼氷竜はこくんと首を縦に振って身体を起こした。蒼氷竜は大きく咆えて魔導師達の動きを止めた。
「あれは蒼氷竜!?」
「嘘だろう!? あんなのがここにいるなんて聞いてねえぞ!」
蒼氷竜はハクトの方を向いて笑う。
「ありがとう……さて、あとはあの城からの攻撃だけど、どうしたら……」
ハクトは上空に浮いている城を見上げると、城から何発の魔法弾が魔法学校に襲い掛かってくる。
「エクスカリバー!」
屋上から光の光線が空に向かって放たれて、魔法弾を全て消していった。
「あれは、カリムさんか?」
『ハクト君、聞こえる?』
するとハクトの頭の中にカリムの念話が入ってきた。屋上にいるカリムは銀の鎧に青いロングスカートに穿いている。
『魔法学校は私が何とか食い止めるから、ハクト君達はミルフィー皇女とクリスを助けに行って』
『カリムさん、しかしどうやってあの城に行けば……』
『彼らの行動からして、恐らく王都の外からではなく、中からやって来た可能性がある。それが出来るのは……』
『……転送機なのです』
するとミントが念話に入ってきた。
『転送機って、あの魔科学国リヴァイバル帝国が作った人や物を瞬間に転送する事が出来る機械の事か』
ハクトは見た事がないけれど、昔カイトから聞いた事がある。荷物を離れた国に送る為に作られた転送機と呼ばれる機械があり、それが実用化されると人も転送出来ると話してくれた。確かにそれがあればメディア山脈を越えなくても、デュアルドラグロードからシャインヴェルガまで一気に潜入する事が出来るとハクトは思った。
『そうなりますと、彼らがいきなりここに攻めてきた事も納得出来ますわね』
ライチもまた念話に入ってくる。
『だからハクト君達は、彼らが使っている転送機を使えばあの城に行く事が出来ると思うの』
カリムの言葉にハクト達はそうかと納得する。
『本当なら私や黒狐が行くべきなんだけど、黒狐はあの通りだし、私が黒狐を何とかするしかないの。だから、私も一旦ここから離れなければならないの。だから、貴方達にクリスを助けて欲しい……お願い出来るかしら、ハクト君……』
『……分かりました、カリムさん。俺達で必ずクリスを助け出す』
『ありがとう……ここは任せて、行ってきて』
カリムの念話が切れる。そして再び屋上から光の光線が放たれた。
「みんな、一緒に来てくれるか?」
「もちろんよ、ハクト」
「……はい、お兄ちゃん」
「行きましょう、ハクト様」
「俺っちも行くぜ」
ハクトの言葉に、シャーリー、ミント、ライチ、レナ、虎之助は喜んで頷いた。
「さてと、まずは……」
ハクトは蒼氷竜と戦っているデュアルドラグロード魔法学校の魔導師の1人を捕まえると、左手で思い切り殴った。
「な、何をする、貴さ……ま!?」
「お前に訊きたい事がある。転送機はどこにある?」
「……だ、誰が話すか……シャインヴェルガの魔導師に……」
「ほお、答えないと言うのならそれでも良いさ。ただし、答えなかった場合は今日がお前の魔導師生命の命日になるかも知れないぞ。この刃は相手の魔力を喰う事が出来るのだ。こんな風にね」
ハクトは魔導殺しNO01を使うと、相手の魔力を奪い始めた。魔導師は急に自分の魔力が喰われていく事に苦しみだす。
「が、がはっ! ま、待ってくれ! 話す! 話すから!」
「まったく、最初から話せば苦しまずに済んだのに」
「ハクト……あんた悪役みたいな事をやるわね」
シャーリーは呆れながら言った。
「クリスの助ける為だ。さあ、教えてもらおうか。転送機はどこにある?」
「……し、城の近くにある町の空き倉庫に……」
「ほへっ? それってこの間、皇女を誘拐しようとした場所か?」
虎之助は今の言葉に何か思い当たる事があった。
「どう言う事だ、虎之助?」
「いや〜。前にちょっとしたアクシデントで空の旅をしていて、落ちた場所で皇女様に会ったんだよ。その時急に皇女を誘拐しようとした黒い集団が現れやがったんだ。今思えばあの黒い集団はこいつらと同じデュアルドラグロードの連中だったみたいだったぜ」
虎之助から事情を聞いたハクトは考える。なるほど、その時から皇女を誘拐しようとしたけど虎之助に邪魔されたと言うわけか。
「とにかく情報ありがとうな」
「そ、それじゃあ、俺はこれで……」
「……お休みなさい」
ハクトは魔導師の首にチョップをして気絶させる。それからミントに縛る様に言うと、ミントは錬金術で縄を作って縛った。
「場所も分かった事だし、行くとするか。蒼氷竜、ここは任せたぞ!」
ハクトは蒼氷竜にそう言ってから、シャーリー達と一緒に校門を抜けて転送機がある倉庫に向かっていった。
虎之助の案内で前に皇女が誘拐された場所までやってきた。
「この近くに空き倉庫なんてあるのかしら?」
シャーリーが辺りを見渡しながら呟く。町はがらんとしていて人一人もいない。
「とにかくここにあるかも知れないんだ。何としても探すしかないんだ」
レナが目を使って魔導師の魔力を察知した。魔導殺しとして作られた人工生命体であるレナの目には魔導師の力と魔力数値を調べる事が出来る。当然、どこに魔導師がいるのかも見つける事が出来る。
「ありがとう、レナ。どっちか分かるか?」
「はい、こっちです。ついてきてください、みなさん」
レナが魔導師がいる場所に向かい、ハクト達はレナについていく。すると、そこは長年使われていない空き倉庫だった。
「よくやった。偉いぞ、レナ」
ハクトはレナの頭を撫でてあげると、レナは嬉しそうに喜ぶ。
「ここに奴等の転送機があるんだね。乗り込む、ハクト」
シャーリーはハクトに訊く。
「ああ、ただし、中に魔導師が5、6人いるから気を引き締めて一気に制圧するぞ。シャーリー、この扉をぶち壊せるか?」
「ええ、やってやるわよ」
シャーリーはストライク・バスターに魔力を籠めて拳を構えて、正拳突きを放った。倉庫の扉はシャーリーのパワーで見事吹き飛んだ。
「待っていたぜ、シャインヴェルガのクソ魔導師達よ! 撃てぇぇぇ〜〜!」
すると、倉庫の中から砲撃魔法が飛んできた。まさか、ハクト達の行動がバレていたのか。
「避け切れませんわ!」
「大丈夫だ。俺達には最強の盾がある! 行ってこい、最強の盾!」
ハクトはそう言うと、虎之助の背中に回って思い切り蹴り飛ばした。
「にゃわぁ〜〜〜!」
最強の盾もとい虎之助は砲撃魔法を全て喰らった。砲撃魔法を放ったデュアルドラグロード魔法学校の魔導師達はやったと思った。
「お前らぁぁ〜〜! 死んだら、どうするんだ!」
やっぱり虎之助は生きていた。普通砲撃魔法をまともに喰らったらただではすまないのだけど、虎之助にはまったく応えていなかった。
「ハクト様、鬼ですわよ」
「あいつはあの程度では死なないって知っているだろう。もう終わったみたいだしな」
ハクトがそう言うと、デュアルドラグロード魔法学校の魔導師達が次々と倒れていった。
「な、何だ、何が起こったんだ!?」
ただ1人残された魔導師はどうなったのか理解出来なかった。すると、砂塵の中からレナが魔導殺しNO07を一振りする。
「よくやった、レナ」
ハクトが虎之助を蹴り飛ばした時、近くにいたレナに魔導師を倒してきてと言ったのだ。レナは砲撃魔法の爆発の中に入っていき、魔導殺しNO07で魔導師達を斬っていったのだ。
「くっ!」
残された魔導師が逃げていこうとするけど、割れたコンクリートの中から植物の蔓が現れて、魔導師の身体を縛っていった。ライチがスカーレットローズを使って、ここにある雑草を使ったのだ。
「ハクト、あったよ」
シャーリーは倉庫の中にあった大きな円柱型の機械を見つけた。これが転送機みたいだ。
「でも変なの。これ、まったく動いていないの」
「何?」
ハクトは転送機を調べると、確かにまったく反応していない。そしてよく見ると、所々壊されている。
「残念だったな。お前達がここに来ると分かったから、壊させてもらったのさ。これで俺達の魔法学校には行ける手段はなくなったみたいだな。ざまあみやがれ! あはははは……がはっ!」
魔導師が大笑いすると、シャーリーが思い切り顔面を殴った。魔導師はそのまま気を失ってしまった。
「くそっ! せっかく、ここまで来たと言うのに……」
ハクトはどうしたら良いか考えていると、ミントが転送機に触れる。
「……これなら問題ないのです。ミントの錬金術に不可能はないのです」
ミントは両手を合わせてから転送機に触れて錬金術を発動させた。すると、壊れていた箇所が元に戻っていき、転送機が起動し始めた。
「ミント、あんた本当に凄いわ!」
シャーリーがミントに抱き付く。ミントはハクトに向かって笑顔を向けると、ハクトも笑った。
「よし、それじゃあみんな、行くぞ!」
「「「お〜!」」」
ハクトは転送機を起動させると、転送機が動き出して、ハクト達の姿が消えていった。向かう先は浮遊城デュアルドラグロード魔法学校である。ハクト達とサイガ達の戦いが、始まろうとしている。
(続く)