デュアルドラグロードの魔法学校にある転送機からハクト達が姿を現した。
「な、何だ、こいつ…がはっ!?」
「にゃわっ!?」
転送機の近くにいたデュアルドラグロード魔法学校の魔導師が驚いている間にハクトが虎之助を投げ飛ばした。虎之助の頭がデュアルドラグローグ魔法学校の魔導師の頭に当たって気絶した。
「ちょっとハクト。何やっているのよ」
「いや、宣戦布告」
「……ナイスなのです、お兄ちゃん」
ハクトとミントはグッドと親指を立てる。
「あんた達、いつも以上に仲が良いわね……」
「一体何かあったのでしょうか?」
シャーリーとライチは、ハクトとミントの仲が今まで以上に良くなっている事に疑問を抱く。
「ふ〜、よっこらせっと……いや〜、待たせたな、みんな。俺っちはもう大丈夫だぜ」
「……首が180度に曲がっているのですよ、タイガー」
「……ほへっ? にゃわぁぁぁぁ〜〜! 本当だぜ! 一体何があったんだ!?」
虎之助の顔が180度に逆転していて、顎が天井に向いていて、頭が地面に向いている状態になっている。傍から見たらかなり気持ち悪い光景である。
「普通死ぬか、全身不随になるのに、どうしてそんなに動き回れるんだよ」
首が180度捩れてしまうと頚椎が壊れてしまい、普通の人間なら死んでしまうか全身不随になってしまうのに、虎之助はパニックを起こして走り回っている。
「お前達、そんな所で何をしている!?」
すると、奥の方からデュアルドラグロード魔法学校の生徒達がぞくぞくとやってくる。ハクトとミントはキランと目を光らせて虎之助の後ろに回った。
「行ってこい、特攻隊長!」
ハクトが虎之助を思い切り蹴り飛ばした。
「にょわわわわぁぁぁ〜〜!」
虎之助はハクトに蹴られてしまいデュアルドラグロード魔法学校の生徒達の前に突き出された。顔が逆になったまま……
「な、何だ、あいつは!?」
「ば、バケモノだ!」
デュアルドラグロード魔法学校の生徒達が虎之助にびびって逃げ出そうとする。
「誰がバケモノだぁぁぁ! 俺っちはタイガーだぁぁ!」
虎之助は生徒達に向かって走っていく。顔が逆になったまま……
「「ぎゃぁぁぁぁ〜〜!」」
逃げていく魔法学校の生徒達。
「がおぉぉぉぉ〜〜!」
追いかける虎之助。顔が逆になったまま……
「何をやっているのよ、あいつは……顔を元に戻しなさいよね」
シャーリーが走っていく虎之助を見て呆れる。
「タイガーの気持ちになったのだろうな。ほら、俺達も行くぞ」
ハクト達は虎之助の後を追いかける。
「がおぉぉぉぉ〜〜! あっ!」
すると、走っていた虎之助がこけてしまった。
「何やっているんだ、置いていくぞ!」
ハクトがこけた虎之助を踏みつける。
「そんな所で何こけているのよ」
続いてシャーリーが踏みつける。
「お先に失礼致しますわ」
ライチも虎之助を踏みつける。
「……よいしょっとなのです」
ミントがわざわざ虎之助の頭を思い切り踏みつける。
「……」
レナは無言のまま踏みつける。
「お、お前達……俺っちは踏み絵かぁぁ!?」
全員に踏みつけられた虎之助は起き上がて、ハクト達を追いかける。
「まずは顔を元に戻せ! 怖いわ!」
追いかけてくる虎之助に顔を戻す様に叫ぶハクト。
「おお、そうだったぜ。よいしょっと、ふん!」
虎之助が手で顔を元に戻した。
「それで元に戻せるなんて、どんな身体をしているんだよ」
「タイガー魂だぜ!」
「訳が分からないよ……」
キランと歯を光らせる虎之助を呆れて見るハクト。すると前からまたしてもデュアルドラグロード魔法学校の生徒達が現れた。
「行ってこい、特攻隊長!」
「よっしゃあ〜!」
ハクトに言われてまたしても突撃しようとする虎之助。すると、魔法学校の生徒達が一斉にファイアボールを放ってきた。
「にょわ〜〜!」
突っ込んでいった虎之助がファイアボールをもろに喰らって爆発した。
「やったか?」
魔法学校の生徒達は手応えあったと喜ぶ。しかし、爆煙からハクトとシャーリーが飛び出してきて、魔導師達を2人殴り飛ばした。
「こ、こいつら! っ!?」
魔導師が銃を構えた時、足元から植物の蔓が現れて銃を持った魔導師の身体を縛っていった。
「大人しくしていただきますわよ」
ライチがスカーレットローズを使って植物を操っているのだ。
「……ほいっとなのです」
ミントが錬金術を使って地面から巨大な岩の拳を放った。岩の拳は魔導師達をぶっ飛ばしていく。
「行きます」
「何だか私達って、こんなに強かったっけ?」
「それはあれだけ魔法の練習をしてきたんだ。強くなっていなかったら困る」
ハクトが今までシャーリー達に教えてきた魔法練習によって、シャーリー達はこんなに強くなったのだ。
「さてと、ではハクト様。さっさと参りましょう」
「そうだな。ほら虎之助、いつまで黒焦げになっているんだ。さっさと復活しろ」
ハクトが最強の盾もとい黒焦げの虎之助を見るが、まったく動かなくなっている。それは何度も相手の攻撃の時に盾として使いまくっていたからだ。
「お〜い、虎之助? タイガーさん?」
返事がない。ただの屍のようだ……
「ちょっと使いすぎたか。最近の武器は使いすぎると壊れてしまう物もあるからな」
「物扱いなんだ、こいつ……」
「……こう言う時はミントにお任せなのです」
ミントが手を挙げて虎之助のケガを治そうとする。
「しかし、治癒魔法で元に戻るのか、これ?」
「……大丈夫なのですよ」
するとミントは地面に錬成陣を描いて錬金術を発動すると、大きな釜が出現した。ミントはその中に虎の末kを放り投げる。
「一体何をするつもりなんだ、ミント? まさか人体錬成をするつもりか?」
「……違うのです。ちょっとしたマジックなのです」
ミントが釜の中に色々な物を入れてぐつぐつと煮込み始める。
「にょわ〜……」
釜の中で虎之助の声が聞こえる。ミントは巨大なお玉でかき混ぜていく。すると釜から黒い煙が出てくる。
「お、おい……何だか嫌な予感がしてきたぞ……少し離れたほうが良いかも知れないぞ」
ハクト達は少しだけ離れた瞬間、釜が大爆発を起こした。
「ケホッ、ケホッ! み、ミント!? 失敗か!?」
ハクトは煙で咳き込んでいると、煙からミントが出てくる。そしてその後ろには……
「虎之助、リボーン!」
シャキーンと何事も無かったかのように虎之助が復活していた。
「……これぞ、放魔ジックショーなのです。老いも若きも、男も女も心の淋しい人達の為に楽しませてあげるのですよ」
「何だか、どこかのセールスマンみたいなキャッチフレーズだな……」
ハクトの頭の中で『ふぉ〜ふぉっふぉっふぉ』と笑い声を想像する。
レナが前方の扉を指して報告する。この先に強い魔導師が4人いる。
「4人と言う事は……」
「四神獣の牙、デュアルドラグロード魔法学校のA級魔導師達ですわ」
「皇女様やクリスをさらった奴らね」
「……クリスの反応はないのですか?」
「はい。クリスちゃんの反応はまだ感じません。しかし、ここよりさらに上でもっと強力な魔力反応があります」
レナが天井を指す。恐らくそれはサイガの事である。
「あいつがいるのか……」
ハクトは拳を握り締める。
「よし、みんな!」
ハクトの号令にみんなは首を頷く。
「今から別の階段を探しに行くぞ!」
「「「えぇぇ〜〜〜!?」」」
ハクトの言葉に全員バタバタとこけていった。
「ちょっとハクト! この先に中ボスがいるんだから、そこを突破しないといけないでしょう!?」
「シャーリーさん、中ボスを仰ってはいけませんわよ……」
ライチが一応ツッコミを入れる。
「だってさ、ここは元々お城だったんだから、別のルートで上に行ける階段ぐらいあるだろう。一々あんな奴らと戦うなんて体力の無駄遣いじゃないか」
「だからって避けたらダメでしょう。きっとあいつらもこけているはずよ」
「魔導師、この城を分析しましたが、どうやら上に行ける階段はこの部屋の先にしかありません。この城に大きな結界魔法を掛けていまして、城の中を迷宮にさせているのだと思います」
レナが目を使ってデュアルドラグロード魔法学校の全ての部屋をマッピングし終わったみたいだ。そしてこの学校の中を誰かが迷宮にしたみたいで階段は1つしかないみたいだ。
「そうか。だったら仕方がない。窓の外に出て飛んでいくぞ!」
ハクトが窓の方を指して言った。
「あんた以外飛べないでしょう! 私達にロッククライムさせるつもりか!? それこそ体力の無駄遣いじゃないの!?」
「おお、見事な三段ツッコミ」
「誰の所為よ!?」
「ハクト様、ご冗談はそこまでにしていただきませんか? 外に出たとしても、上に行けるとは思えませんわ。ここはレナさんの仰った通り迷宮となっておられますから、恐らく……」
ライチが一個の植物の種を窓に向かって指で飛ばした。すると、別の窓から飛んできた種が戻ってきた。
「にょへっ!」
そして虎之助の頭に命中した。
「この様に別の窓へ移動されてしまうと言う事ですわ」
「まあ、そうだろうな……って、虎之助の頭から何かが咲いたぞ!?」
虎之助の頭から赤い花が咲いた。白の水玉模様に口があり、緑の葉が出ている。
「HEY! 俺っちはパックンタイガー! スーパービューティフルセクシーフラワーDAZE! DAZE!DAZE!」
虎之助の頭に生えた奇妙な花が変なラップ口調で喋り出した。
「ちょっとライチ!? あんた何変な花の種を持っているのよ!?」
「わ、わたくし、あんな奇天烈な花の種なんて持っておりませんわ!」
「OH! そこのお嬢さん達。俺っちの取り合いで喧嘩はダメダメよ。俺っちは心は広いんだ。ここは二人同時にLOVEしてあげるから、俺っちと一緒にティータイムでも如何DAZE!」
「「結構です!」」
シャーリーとライチは同時に断った。
「OH、SIT! 俺っちのガラスのハートが粉々に砕け散ったZE!」
「だったら今度はお前の命も粉々に砕け散れ、レナ!」
「OH、NO〜〜!」
虎之助の頭から切り落とされたパックンタイガーは断末魔を上げる。
「今日は俺っちの為に集ってくれて、THANK YOUだぜ。だが、これだけは言っておくぜ。パックンタイガーは永遠に不滅DAZE……」
そう言って歯を光らせて、パックンタイガーは消滅した。
「ほへっ? 俺っちは一体どうしたんだ?」
すると今まで黙っていた虎之助が目を覚ました。どうやらライチに種をぶつけられてから記憶がないみたいだ。
「とにかくハクト。いつまでもバカな事をしてないで」
「そうだな。よし、だったら……」
「天井をぶち壊して、ミントに階段を錬金してもらうなんて言わないでね」
「天井をぶち壊して、ミントに階段を……って、先言われた!」
ハクトはシャーリーに先に言われてしまって驚いた。
「あんたが次に考えそうな事じゃない。いい加減にしなさいよね」
「ちっ……やはり気付かれたか」
「……お兄ちゃん、魔力回復薬の調合完了なのです」
「よし、やっと出来たか。それじゃあ、みんな薬飲んで回復する様に」
「えっ? 調合って?」
「ミントにみんなの魔力を回復させる為に薬を錬金術で調合してもらっていたんだ。お前すぐにでもあの部屋に行こうとしていたからな。だからお前達を止める為に一芝居をしていたのだ」
ミントがさっきから錬金釜で何かをやっていたけど、魔力回復の薬を調合していたみたいだ。ハクトはその為の時間稼ぎでボケをし続けていたのだ。
「……はい、シャーリー」
ミントがコップに錬金した魔力回復薬を淹れて、シャーリーに渡す。紫色をしたいかにも不味そうな飲み物をシャーリーは覚悟を決めて飲み干した。
「ぐっ、げほっ、げほっ! うぅ〜……何て苦さなの……」
「……良薬は苦しなのです」
「ぷはぁ〜! 不味い、もう一杯!」
虎之助が一気に飲み干すとおかわりを言い出した。ミントは虎之助のジョッキに溢れるほど淹れてあげると、虎之助は空いている手を腰に当ててごくごくと魔力回復薬を一気飲みする。
「不味い! もう一杯!」
「まだ飲むの!? と言うより、何であんたのはジョッキなのよ!?」
そんなこんなでみんなの魔力は見事に全快となった。
「さてとそろそろ待たせて奴らの所に行きますか。せ〜の! ふんっ!」
ハクトは四神獣の牙達がいる部屋の扉を思い切り足蹴りしてドアを壊した。
「やっぱりあんたはそう言う開け方しかしないのね……」
前にシャーリーの道場にて同じ様な開け方をしていた事があった。あの時は足蹴りはしなかったけど思い切り引き戸を開けて道場破り宣言をしていた。
部屋は広くその中心に四神獣の牙が立っていた。
「待っていたぞ、シャインヴェルガの魔導師達よ」
青龍のフーガがハクト達に言った。
「おお、待たせて悪かったな。こっちの準備は完了しているぜ」
「そうでなくては困る。正直弱っているお前達を倒してもつまらなかったからな。正々堂々戦ってこそ真の勝利と言う物を味わう事が出来るのだからな」
フーガはふふふと笑っている。
「中々話の出来る奴がいるじゃねえか。ついでに皇女様とクリスの居場所を教えてくれたりしてくれないかな?」
ハクトがフーガに訊ねた。
「皇女は地下に幽閉してあり、あの天空の魔法少女はこの先の階段を上った先にある玉座の間にて捕らえてある」
「……教えてくれるんだ。随分ぺらぺらと話してくれるけど良いのかよ?」
「私は隠し事などではしない。皇女と天空の魔法少女の安否を心配したまま戦われても全力を出し切ってくれるとは思えない。ならば安否の確認して少しでも全力で戦ってくれた方が良いのだ」
フーガの言葉に嘘はないとハクトは確信する。こいつは真っ向から勝負をしたがるタイプだ。
「さらに言えば、嵐山ハクト。お前はこの先にいるサイガと戦いと言うのならば止めはしない。先に行きたまえ」
「なっ!? そこまでサービスしてくれるのかよ!?」
まさか敵から先に進ませてくれるなんて思わなかったので、ハクト達は少しだけ驚いた。それはフーガだけではなかった。
「おいおい、良いのかよ、フーガ!? あんな奴ら、俺様達だけで倒しまおうぜ!」
朱雀のエンガがフーガに食いかかってきた。それは他の白虎のライガや玄武のヒョウガもそうだった。
「構わん。サイガも嵐山ハクトがここにやってきた事を喜んでいる。ならば、彼が全力の状態で戦わせてやる事も、また面白いではないか」
「フーガがそう言うのなら、俺は賛成だ」
ヒョウガがフーガの意見に賛成した。
「ちっ、しょうがねえぜ。でも、残りの奴らはぶっ倒して良いんだよな?」
ライガが髪の掻きながら賛同してシャーリー達を見て笑いながらフーガに訊いた。
「ああ、他の奴らは我々の敵だ」
「よっしゃあ〜! それなら俺様も賛成してやるぜ!」
エンガも漸く意図が解った様で納得してくれたみたいだ。
「そう言うわけだ。嵐山ハクト、お前は先に行って良いけど、他の者は我々の相手になってもらうぞ」
「正直言って、あまり戦いたくないんだけどな。戦わずにここから先に行ってはダメなのか?」
「それは出来ない。それにそんな事をしたら、天空の魔法少女は助ける事は出来ないぞ」
「どう言う意味だ」
すると、フーガは上着を脱ぐと彼の胸に魔水晶を付けたベルトが取り付けられている。
「この魔水晶は天空の魔法少女を捕らえている魔法陣と連動している。我ら四神獣の牙を倒さない限りあの少女を助け出す事は出来ないのさ」
「なるほどな。面白いゲームだね。どうする、みんな? このゲーム乗るか?」
「もちろんよ、ハクト。そもそも私はあいつらをぶっ飛ばしたいから、あんたは先に行きなさい」
「……ミントも賛成なのです。だからお兄ちゃんはクリスを助けに行ってほしいのです」
「わたくしも賛成ですわ。あのような奴ら、わたくし達だけで充分ですわ」
「俺っちも奴には因縁があるのだ。ここは俺っち達に任せて、お前は先に行け」
全員ハクトに賛同する。
「みんな……そのセリフはどう考えても死亡フラグにしか聞こえないのだけど」
「それを言うな!」
ハクトが目頭を押さえて涙を拭きながら言ってシャーリーは一番言われたくない事を言われたので突っ込んだ。
「あいや、待たれ、ハクトよ。死亡フラグも立て続ければ生存フラグになるのだぞ!」
「その言葉自体も死亡フラグになるだろう! まあ、お前達を信じるよ。そのゲームは乗るけど、俺とレナだけは先に行かせてもらうぞ。そっちも四人なら、こっちも四人で戦ってやるよ」
ハクトは隣にいるレナの肩に手を置いて、フーガに言った。フーガは笑みを浮かべて首を縦に振った。
「それじゃあ、俺とレナは先に行くけど、お前達、絶対に負けるんじゃねえぞ。いざとなったら、最強の盾を使いまくれ」
「ほへっ?」
「そうね。こっちには最強の盾がいるのだから」
「……最強の盾がいるのだから、問題ないのです」
「頼りにしておりますわよ。最強の盾」
「にょわぁぁ〜〜! 俺っち道具扱いですか!?」
虎之助が頭を抱えて驚く。
「それじゃあ、行ってくるぜ」
「みんな、頑張ってね」
ハクトとレナは前に走っていき、部屋の奥にある階段を上っていった。部屋に残っているのはシャーリー、ミント、ライチ、フーガ、エンガ、ライガ、ヒョウガ、最強の盾だけとなった。
「ほへっ? 俺っちの名前がなくなっているぞ!?」
「一々突っ込まなくて良いわよ……で、このまま四対四で戦うの?」
シャーリーが拳をぶつけて構えて、ライチは腰に付けているスカーレットローズを鞘から抜いて構えて、ミントは後ろに下がって放魔で双剣を創り出して構える。
「いいや。お前達が残ってくれた事は光栄だよ。おかげで我々の勝利は確定となったのですから」
フーガが今までとは違って不気味なほどにニヤリと笑った。さっきまでの笑いとは違う、まるで計画通りといった感じの笑みである。
「どう言う事よ?」
シャーリーがどうしてフーガがあんな風に笑っているのか理解出来なかった。
「分からないのか? お前達最下級魔導師だけを残して先に行ったあのバカを思って笑っているんだよ」
エンガは大笑いしながら言った。つまり、今までフーガはハクトを騙す為に演技をしていたのだ。
「我々に一番厄介な相手であるあの嵐山ハクトはサイガが倒すだろう。そしてお前達の実力など高が知れているのだ。だが、奴は私の芝居に何の疑いもなく先に行ってしまった。仲間が危険な状況だと知らずにな」
「……残念なのですけど、お兄ちゃんは貴方の演技などとっくに見切っているのですよ」
するとミントが笑う。
「何だと?」
「ええ、あんたの三文芝居に付き合ってあげていたのよ、ハクトは。その上で私達はここに残ってあげたのよ」
「所詮上しか見ていない方々って足元を見ないのですから、騙していると思っておられるのは貴方方だけですわ」
「……そして貴方達に勝利はないのです。ミント達が貴方達に勝利するのですから」
「バカな!? そうだとしても何の打ち合わせもしてなかっただろう!?」
「喋らなくても、ここで会話をしていただけよ」
シャーリーは頭を軽く叩く。シャーリー達はハクトから、奴らの芝居に乗ってやるかと念話で話をしていたのだ。それに聞いてシャーリー達も相手の言葉に乗っていただけである。
「くくく……ふははははは! やはり面白いな、お前達は!」
フーガが大笑いする。あの男に一杯食わされたと本当に参ったみたいだ。
「だが、我々四神獣の牙はデュアルドラグロード魔法学校のA級魔導師にあたる魔導師達だ。お前達E級の最下級魔導師が我々に本気で勝てると思っているのか?」
「正義は必ず勝つのだぜ!」
虎之助がずびしっと指した。
「その通りよ。それにハクトから負けるなと言われているんでね」
「そうか、では始めようではないか。我々のフィールドで!」
フーガがそう言うと部屋が光り出した。シャーリー達は眩しくて目を閉じる。
「ぎゃぁぁぁ〜〜! 目が、目がぁぁ〜〜!」
虎之助はずっと目を開けていたので、光の眩しさに目をやられてしまった。そして、そのまま虎之助の叫び声が聞こえなくなった。
「う、うぅ……こ、ここは?」
シャーリーが目を開けると、さっきとは部屋とは違って辺り一面溶岩と火山の世界となっている。
「これは結界?」
「その通りだ」
するとシャーリーの背後に朱雀のエンガが立っている。
「ここは朱雀の間。この俺様のフィールドだ。そしてお前の墓場となる所さ」
「っ!? 他のみんなは!?」
エンガは笑っていると、シャーリーはくすっと笑った。
「つまり、あんたが私の相手と言う事で良いんだね」
「この俺様に勝てるとでも思っているのか? この世は全て弱肉強食なんだよ。弱者のお前なんて強者である俺様に喰われるのがオチなんだよ」
「口の減らねえ女だ。俺様の炎で燃え散りやがれ!」
エンガが火の鳥を出してシャーリーに向かって放った。
そしてライチは目を開けた場所は、霧が掛かっていて、足元は水溜りとなっている。
「皆さんと連絡を取れませんわね……」
念話でみんなと連絡を取ろうとしているけど応答がない。恐らく、この結界の所為で連絡出来ない様にされているみたいだ。
「いるのでしょう! 隠れてないで出てきなさい!」
ライチは大きな声で叫んだ。すると、ぱしゃっと誰かが水溜りを踏んだ音が聞こえた。
「ようこそ。玄武の間へ。僕が貴女の相手をする事になった玄武のヒョウガです」
玄武のヒョウガはニヤッと笑って挨拶をする。
「シャインヴェルガ魔法学校1年Eクラス、ライチ・シュナイザーですわ」
相手が名乗ってきた以上、自分の名乗る事にしたライチ。
「存じております。Aクラスから落とされたかわいそうな魔導師さん」
「よくご存知ですわね。ですがわたくしは落とされたのではなくて、自ら落ちたのですわ」
「理解出来ません。最下級に落ちた所で貴女にどんなメリットがあるのですか?」
「貴方方の学校では理解出来ませんわよ。下からでなければ見えない何かを見つける事など」
ライチはスカーレットローズを一振りすると、地面から植物が出て来てバラが咲きだした。
「では早速始めましょうか。このヒョウガの実力、見せてあげますよ」
ヒョウガが周りの冷気を操ろうとしている。ライチはスカーレットローズを構える。
「やっほ〜〜!」
虎之助が洞窟の中で大きく叫んだ。すると、奥から山彦が返ってきた。
「おお! 面白いな、ここは!」
今自分がどんな状況なのか、本当に理解しているのか。すると、虎之助の背後にバチバチと青白い光が出てきた。
「喰らえ、雷穿!」
白虎のライガが右手に雷撃の爪を出して虎之助の胸を貫いた。
「あびばびばいびいびびびび!」
雷撃で感電した虎之助は黒焦げになって、そのままうつぶせに倒れた。
「この白虎の間に着やがった奴が、こんな弱い奴だなんて、つまらねえぜ。もう終わっちまったじゃねえか」
ライガは拍子抜けした様に息を吐いて、その場から離れようとした時……
「危ねえな! 死んだらどうするんだよ!?」
黒焦げになっている虎之助が起き上がって叫んだ。ライガはまさかと振り返ると、本当に立っていた。
「……髪がものすごくちりちりになっているぞ」
「ほへっ? こ、これは!? 貴方だけのアフロヘアーだぜ!」
虎之助はアフロヘアーとなった事に大層喜んでいる。
「貴様、不意打ちとはやってくれるぜ。だがな、俺っちもお前に因縁があるんだ」
「その髪型で何を言ってやがる……俺とお前は今日初めて会っているはずだぞ」
「それはだな……白虎などと言う名前を使っている事だ! 虎と言う文字を使って良いのは、世界にただ1人! このタイガー事長谷部虎之助だけなんだぜ! ここで真のタイガーの名にふさわしいのはどっちか決着を着け様じゃねえか!」
ドカーンと虎之助の背後で爆発が起きた。
(こ、こいつはひょっとしてバカなのか!? 俺はとんでもない貧乏くじを引いてしまったのではないか!?)
ライガは本気でそう思った。
ミントがいる場所は、風が吹き荒れる大きな谷である。そしてミントの前には青龍のフーガが立っている。
「……ここが貴方のフィールドなのですか?」
「その通りだ。ここは青龍の間。私のフィールドですよ、錬金術師殿」
たまに風が吹き出すこの谷で、フーガは両腕を組んだままである。
「……他のみんなも別の間にいるのですね?」
「そうです。我々四神獣の牙の間にて、貴方達を1人ずつ連れて行きました。この結界を消すには我々四神獣の牙全員を倒さない限り出る事は出来ません」
つまり、ここでフーガを倒しても、他の間にいるシャーリー達が四神獣の牙を倒さない限り、ミントもここから出る事が出来ないと言う事である。
「……ミントを選んだ理由は何なのですか?」
「貴女が四人の中で一番強いからですよ。私は一番強い相手と戦いたいのですから」
「……それは光栄なのです。ですけど、その驕りが命取りになるのですよ」
ミントは放魔で双剣を創り出して構える。
「驕りかどうか、試してみてください。この青龍のフーガに錬金術師殿の力、見せていただきましょうか」
「……ミントの名前はミント・J・ウィリアムなのです」
ミントとフーガは同時に前に飛んで拳と双剣がぶつかり合った。
シャーリーVS朱雀のエンガ、ライチVS玄武のヒョウガ、虎之助VS白虎のライガ、ミントVS青龍のフーガ。
今、それぞれの戦いが始まった。
(続く)