「ここか……」
四神獣の牙の部屋から上がり続けたハクトとレナは大きな扉に差し掛かった。
「はい、ここにサイガの魔力を察知しました」
レナは目を使って、扉の向こうにいるサイガの魔力を見つけた。
「それじゃあ、行くぜ!」
ハクトは扉を思い切り蹴って、中に入る。そこはまるで王が座る玉座の間みたいに広い部屋にとなっている。その奥のステンドガラスに磔にされているクリスを見つけた。クリスの周りに赤、青、緑、黄の魔法陣が張られている。どうやらあれが四神獣の牙に取り付けられている魔水晶と連動しているのだ。
「クリス!?」
「クリスちゃん!?」
ハクトとレナはクリスに向かって叫ぶと、クリスはゆっくりと目を開けた。
「……ハクトさん……レナちゃん……」
クリスはハクトとレナの姿を見て嬉しそうに微笑んだ。クリスはハクト達が必ず助けに来てくれる事を信じて、ずっと待っていたのだ。
すると、パチパチと玉座に座っているサイガが軽く拍手をしている。
「おめでとう、捕らわれの姫を助けに来たナイトさん。だが、ここで姫を助けてハッピーエンドにならないのが残念だね」
サイガは見下す様にハクトを見る。
「サイガ、そんな所に座って、王様にでもなった気分か?」
「その通りだ。俺はこの城の王とも言える存在だ。親父から全てを受け継いで、俺は世界の王になるのさ」
「下らないな。親に復讐の道具の様に使われているとも知らずに」
ハクトはサイガを哀れな目で見ている。その目にサイガはイラついてきた。
「何だ、その目は!? 貴様と俺との力の差は知っているだろう。真の魔戒神生流を使う俺とただの魔戒神生流しか使えないお前とではどちらが強いか」
「あの程度の力で勝ったつもりか? 裏技使っている様な奴が言うな」
レナがハクトに突っ込む。
「ナイスツッコミだ、レナ。まあ、お互いこれ以上言う事はないだろう。俺はお前をぶっ飛ばしてクリスを助ける。ただ、それだけだ」
ハクトは拳を構える。
「……身の程知らずが。ならばもう一度を敗北を与えてやるよ」
玉座から立ち上がったサイガは拳を構える。
「魔導師、私を使って下さい」
「いや、まだ使わないよ。まずあいつとは一対一で決着を着けたいからな。下がっていろ、レナ」
ハクトはレナに下がる様に言うと、レナはしばらく考えてから後ろに下がる。
「今度こそくたばれ、嵐山ハクト」
「来いよ、サイガ・アイリッシュ」
そしてハクトとサイガは前に飛んで拳をぶつけ合った。
白虎の間。
「これでくたばれ! 雷穿!」
ライガが右手に雷を纏わせて、虎之助の腹を突いた。
「にょわ〜!」
雷撃を喰らう虎之助はビリビリと身体を痺れながら、またしても倒れた。
「はぁ…はぁ…はぁ……これでくたばったか……」
ライガは肩で息をするぐらい疲れている。あれから何十発も雷穿を放っているが……
「ふ〜……危なかったぜ!」
倒れていた虎之助が何事もなく立ち上がった。
「こ、こいつ……いい加減くたばれよな!」
ライガは再び右手に雷を纏わせて、虎之助に向かって突きをする。何度もその攻撃をしているが、虎之助は一向に気を失う事はないのだ。
「にゃあははは! タイガーは滅びぬ。何度だって蘇る。それがタイガーの夢だからだ!」
虎之助はボロボロになってもまったく応えてない。
「今度はこっちの番だぜ! 行くぜ、ガオウ!」
虎之助は右手のガオウに叫ぶとガオウはドリルに変形した。
「喰らえ、猛虎螺旋拳!」
虎之助はドリルを回転させて、ライガに向かって攻撃する。
「そんな攻撃なんて……」
ライガは雷を纏って素早く虎之助の攻撃を避けていく。虎之助は何度も攻撃するけど、ライガは避け続ける。
「この白虎のライガは、四神獣の牙の中で一番のスピードを持つ魔導師。お前の攻撃なんて当たらないんだよ」
ライガは雷を纏ったまま、虎之助に体当たりする。速過ぎるスピードに追いつけず攻撃を喰らう続ける虎之助。
「にょへっ! にょわっ! にょわわわっ!」
虎之助はライガの攻撃を受けてクルクル回る。
「これで終わりにしてやるよ。サンダーフレア!」
ライガが虎之助の周りに魔法陣を出すと、雷の魔法を放った。
「にょわぁぁぁぁぁ〜〜!」
虎之助はサンダーフレアをまともに喰らった。
「によへ〜〜……」
口から煙を上げて、ちりちり頭となった。
「NO〜〜! 俺っちの髪がちりちりになっちまったぜ! 今度はアフロヘアーにならなかったぜ!」
「……何故だ。何故倒れないんだ!? いい加減にくたばりやがれ!」
ライガは歯を噛み締めて虎之助を睨み付けて、虎之助の身体を掴んだ。
「いくら頑丈の身体でも、この距離からの雷撃を受ければくたばるはずだ! ミリオンヴォルテッカー!」
ライガは今までにないぐらいの雷撃を虎之助に喰らわせた。
「にょわわわわわわ〜〜〜!」
虎之助の身体は顔が表情がなくなるぐらい黒焦げになった。あるのは人の形のした焼死体だけになった。
「はぁ…はぁ…はぁ……俺とした事が…少々本気になってしまったぜ」
ライガはこれで漸く終わったと思い、黒焦げになった虎之助を捨てて、その場から離れようとする。
「っ!?」
ライガは何かに驚き、振り返ると、黒焦げになった焼死体の背中がパカッと縦に切れて、そこから何かが出てきた。
「虎之助、変態!」
シャキーンと虎之助は黒焦げになった焼死体から姿を現した……全裸で。
「へ、変態だぁぁぁ〜〜!」
ライガは驚いて叫んだ。
「にゃぁははは! 流石は今のは効いたぜ。だが、ウェットスーツを着ていて正解だったぜ」
「ウェットスーツだと!? どんな身体をしているんだよ、お前は!?」
「それは俺っちはタイガーだからだ!」
決めポーズを取ってライガに指差す虎之助……全裸で。
「とりあえず、何か着やがれ、変態!」
「ほへっ? いや〜ん! これはヴィーナスの誕生だぜ!」
気持ち悪い事を言うな……
「……ぐっ」
ライガは最早我慢の限界が来たみたい。
「もう完全にキレたぜ……」
ライガの足元に黒い魔法陣が現れて、ライガの身体が変わりだしていく。
「な、何だ? 何が起こると言うんだ?」
虎之助は驚いている間に、ライガは人の姿から大きな白い虎の姿に変わっていった。身体からは雷を発している。
「俺を本気で怒らせたんだ。覚悟するが良い」
「た、タイガーに変身しただと!? ふざけるな! タイガーに変身して良いのは、この俺っちだけだぜ!」
こんな時ぐらい空気を読めよな。
「別にタイガーになりたくてこんな姿になったんじゃねえよ。さっきまで手加減してやったけど、ここからは本気で相手をしてやる。その首を噛み千切ってやるよ!」
ライガは口を大きく開けて、虎之助の頭を狙う。
「にょわ〜〜! それってあれですか!? 某魔法少女みたいになってしまうじゃないですか!?」
虎之助は何とかライガの攻撃を躱して、全速力で逃げ出した。
「逃げ切れると思っているのか? さっきも言ったけど、このライガは四神獣の牙で一番スピードが速いってな!」
ライガは電光石火の如く速く走り出して、虎之助の前に回りこんだ。
「今度こそ、噛み千切ってやる!」
ライガは再び口を開けて、虎之助の頭を狙う。虎之助は頭を下げて何とか躱すが、ライガは前足で薙ぎ払い、虎之助は吹き飛ばされた。倒れた虎之助の身体を前足で押さえるライガ。
「これで終わりだ。いくら不死身だろうと首を食い千切られたら一溜まりもない。覚悟しろ!」
今度こそライガは貰ったと思い、虎之助の頭を食おうとする。
「よっと!」
すると虎之助は手で頭を掴んでびよーんと首を伸ばして回避した。まるで某ゴム人間の様に……だから、どんな身体をしているんだよ、お前は……
頭を狙っていたライガの狙いが外れて地面に激突する。そして本来の白虎の姿になっているライガのパワーで地面に亀裂が入り、そのまま地割れして虎之助とライガは落ちていく。
「にょわ〜〜! 落ちるぜ〜〜! いや、ここで諦めてどうする!? そう、人間だって空を飛ぶ事が出来る様になる。つまり、I・CAN・FLY〜〜!」
虎之助は両手をバタバタと羽ばたかせると、落ちずにその場で止まった。こいつの事だ。このまま飛べるのではないだろうか。
「うおぉぉぉぉぉ〜……は〜、もうダメだ……」
体力切れ……そして、そのまま下に落ちていった。
下の落ちてしまった虎之助は、まるで漫画の様に地面にめり込んでいる。
「いたたた……ふ〜、今回ばかりは本当に死ぬかと思ったぜ」
めり込んだ地面から虎之助が無傷で出てきた。やはりこの男バケモノだ。
「はて、ここは一体どこなんだ? さっきの結界とは違う様な……」
虎之助は辺りをキョロキョロと見渡す。さっきまでの洞窟とは違って、城の中になっている。どうやら、下に落ちてしまった事で結界から抜け出してしまったのかも知れない。
「う〜ん、さて、どうしようか……とりあえず、どう行動すれば良いのか考えてみるか」
そう言って虎之助は頭で倒立をして胡坐をかいで考え出す。何故その体制でやるのか分からないけど……
「ちんちんちん…ぱーん!」
あるお坊さんのとんちの様な音が鳴って、何かが閃いたみたいだ。
「とりあえず、寝るか……」
そう言ってそのままの体制で寝た……どうやって寝れるんだよ、その状態で……
「寝てるんじゃねえよ!」
すると、上からライガがやってきて、虎之助に向かって雷撃を放った。
「痺れびれぇぇぇ〜〜!」
ビリビリとアニメの様に骸骨が見える様な雷撃を喰らっている虎之助。
「散々俺をこけにしやがって。おかげで結界から出てしまったではないか」
「いやいや、あれは貴方の所為ではないですか。そんな大きな身体に変身したら、床が抜けて落ちてしまったじゃないですか。まあ、ちょっとはダイエットするべきだと思いますけどにゃ」
「……ぶち殺す」
ライガの身体から青白い光がバチバチとなっている。どうやら、今のは言ってはいけない言葉であったみたいだ。
「覚悟しやがれ!」
「にょわ!? ダッシュ!」
虎之助は猛スピードで逃げ出した。それを追いかけるライガである。
「うぉぉぉぉぉぉ〜〜!」
ライガの攻撃を避けながら逃げ続ける虎之助。
「待ちやがれ!」
虎之助を追いかけるライガは口を開けると、口から電磁砲を放った。
「にょわわぁ〜〜! 口から電磁砲なんて、どこの怪獣なんだ!? うおっと!」
虎之助はライガの電磁砲を避ける。ライガは雷光の速さで虎之助に追いつく。
「逃しはしないぞ。ここがお前の墓場だ!」
ライガはもう一度口から電磁砲を放った。
「ガオウ!」
虎之助は咄嗟にシールド魔法を放って電磁砲を防ごうとする。しかし、虎之助のシールドは簡単に破壊されてしまった。
「バカめ。雷属性は貫通効果があって、シールド魔法では防げないのさ」
「そうだったぁぁぁぁ〜〜!」
虎之助は電磁砲を喰らって吹き飛ばされた。そしてまたしても地面が割れて虎之助はさらに下に落ちていった。
「ちっ、また下に落ちたか……んっ、待てよ。この下は確か……」
ライガは虎之助が落ちた場所を考えると、舌打ちをしてすぐに別のルートから虎之助が落ちた場所まで向かっていった。
そして落ちていった虎之助は瓦礫に下敷きにされていた。
「うおぉぉぉ〜〜!」
その瓦礫をゆっくりと持ち上げる虎之助はそのまま横に落とした。
「危なかった……本当に死ぬかと思ったぜ」
ボロボロになりながらもまだ生きている虎之助。しぶといな、本当に……
「それで、一体どこなんだ、ここは?」
虎之助は辺りを見渡すと鉄格子をはめてある部屋がいくつかある。どうやらここは牢獄の部屋みたいだ。
「う〜ん、どうやってここから出れば良いんだ……んっ?」
すると虎之助の耳に何か音が聞こえた。
「これは、歌か? でも、この歌は……」
虎之助は音がする方向へ向かうと、大きな牢屋の中に誰かが両手を鎖で吊るされて衣服がボロボロの状態の少女がいた。その少女が枯れた声で歌っていたみたいだ。
「……まさか、皇女様か?」
虎之助はその少女に見覚えがあった。以前町で会ったシャインヴェルガの皇女ミルフィーユ。シャインヴェルガ皇女である。
虎之助の声が聞こえたのか、ミルフィーユ皇女は目を開けてゆっくりと顔を上げて虎之助を見上げる。
「……長谷部様……どうして、こちらに……」
声が枯れていて、小さな声になっているミルフィーユ皇女だが、虎之助の姿を見て少しだけ笑顔になる。
「待っていろ、今助けてやるぜ!」
虎之助は鉄格子を掴んで思い切り力を入れると、鉄格子がぐにゃっと曲がっていき、人が入れるぐらい広がった。
「……凄い力持ちなのですね……」
「何しろ俺っちはタイガーだからな。このぐらい、朝飯前だぜ。本当に朝飯も食っていないけど」
虎之助はミルフィーユ皇女の両手を吊るしている鎖を調べると魔法を無力化させる鎖に見える。だからミルフィーユ皇女の詩魔法も使えないし、虎之助が魔力で鎖を切ろうとしても切れないのだ。
「くそっ、それにしても酷いぜ」
虎之助は改めてミルフィーユ皇女の身体を見ると、痣や切り傷の痕が残っている。
「……私がずっとあの方達の要求を飲まなかったので……こうしてここに……それにクリスを早くに助けに行きませんと……」
「要求だと?」
「私をデュアルドラグロードの為に歌い続けろと……私の詩魔法は魔導師の力を上げる事が出来ますので……それで彼らの力を……ですが、私は断り続けまして、彼らに声を出せなくなるぐらい酷い目に……」
ミルフィーユ皇女はこの城に誘拐されてから、ゼーガやサイガに我らの歌姫となり、シャインヴェルガを潰す様に言われてきた。しかし、ミルフィーユ皇女はそんな事を絶対にしませんと断り続けるとゼーガにいたぶられてしまい、しまいには薬を使って声を出せなくなる様にして、この牢屋に閉じ込めたのだ。
その事を聞いた虎之助は歯を噛み締めて拳を握り締める。
「……許せねえぜ。皇女様にそんな事をするなんて……」
「……長谷部様」
すると、奥からドーンと言う音が聞こえた。虎之助は牢屋を出ると、そこには白虎のライガが顔を出していた。
「ちっ、やはり皇女を見つけたか。まあ良いだろう。ここで行き止まりだから、もう逃げ場はないぜ。皇女の前でお前をボロ雑巾の様にぐしゃぐしゃにしてやるぜ」
ライガはにやっと笑って皇女を見る。皇女はきっと睨む様に見る。
「悪いけど、ここからは少し本気で相手になってやるぜ」
虎之助はライガの前に立って拳を構える。
「はぁ!? さっきまで逃げていた弱者が!? この本気の俺に勝てると思っているのか!?」
ライガは虎之助に向かっていく。虎之助はガオウをドリルに変えて構える。
「うおぉぉぉぉ〜〜!」
虎之助はライガに向かって拳をぶつけようとする。しかし、ライガは素早い動きで虎之助の攻撃を避けた。その隙にライガは虎之助の背後に回って口から電磁砲を放った。虎之助は電磁砲を避けてライガの前足に回し蹴りを喰らわせた。
「ぐっ! ちょっとはやるじゃないか!」
前足にダメージを喰らったライガであるが、それでもあまりダメージを受けていない。ライガは尻尾を振って虎之助を吹き飛ばした。壁に激突した虎之助にライガは口から電磁砲を放った。まともに喰らった虎之助は地面に倒れる。しかし、ゆっくりと虎之助は身体を起こして立ち上がった。
「何というタフな奴だ。だが、これで終わらせてやるよ」
ライガに身体に大量の雷を纏い出した。青白い光がバチバチと鳴り出して、周りの大気からもバチバチと鳴っている。
「喰らえ、奥義『雷牙猛衝撃』!」
ライガは雷を纏った状態で突進してくる。その速さに虎之助は避ける事も出来ずに激突されて吹き飛ばされた。身体をビリビリと電流を流されて仰向けになって倒れた。
「……は、長谷部様!?」
ミルフィーユ皇女は倒れている虎之助に向かって叫ぶ。びくんびくんと痙攣している虎之助であるが、起き上がってこない。
「ふん、この攻撃を受けて立った者はいないのさ。これで漸くくたばっただろう」
ライガは技に手ごたえがあったし、動かなくなった虎之助を見て大笑いする。ミルフィーユ皇女は目を瞑って涙を流す。
「許しません……貴方方だけは決して許しません。私の国を滅ぼすだけでなく、そこにいる人々まで苦しめるなんて……このシャインヴェルガ第二皇女ミルフィーユ・シャインヴェルガが許しません!」
ミルフィーユ皇女は涙を流しながら、ライガを睨みつけながら枯れた声で叫ぶ。
「ああ? 皇女が何を言ってやがる。まだ痛めつけないと言う事を聞かないみたいだな」
ライガは身体をバチバチと鳴らしてミルフィーユ皇女に近付いていく。
「……手を出すな」
すると、ライガの後ろから声が聞こえた。ライガは目を見開いてゆっくりと首を後ろに振り返ると、そこには倒れていた虎之助が立ち上がっていた。魔導服がボロボロになって、頭から血が垂れ流れていても立ち上がったのだ。
「は、長谷部様……」
「き、貴様……何故立ち上がれる……何故まだ戦えるんだ……」
「……皇女様に……手を出すんじゃねえよ……俺っちは、皇女様の歌が大好きなんだよ。皇女様の出したCDを必ず初回限定版と通常版を保存用、観賞用、布教用と3枚買っていき、コンサートもプレミアムチケットを手に入れる為に前夜から並んで手に入れて、コンサートでは誰よりも大きな声で応援するぐらい大好きなんだよ」
カッコ良いのか悪いのか分からないセリフである。
「そんな皇女様の声を潰そうとして、さらに今皇女様を傷付けようとする。だから、俺っちが皇女様に指1本触れさせないぜ。俺っちが、皇女様を守るナイトになってやるぜ!」
「長谷部様……」
虎之助の言葉にミルフィーユ皇女の頬が赤くなった。
「ちっ、その程度で死ぬかも知れないと言うのに。他人の為に命を投げ出す様なバカはここで死ぬが良い」
ライガは身体を虎之助の方に向ける。
「俺っちは倒れねえぜ。どんな事があっても、皇女様をここから助けだす!」
虎之助はガオウに魔力を籠めて復活させる。ドリルからガントレットに変わってライガに向かっていった。
「命知らずが……今度こそぶっ倒してやるぜ!」
ライガも虎之助に向かって攻撃する。虎之助がライガの額に拳をぶつけると、ライガは前足の爪で虎之助を引き裂く。
「うおぉぉぉぉ〜〜!」
「はあぁぁぁぁ〜〜!」
虎之助の拳とライガの雷撃がぶつかり合う。
「はぁ…はぁ…はぁ……」
「はぁ…はぁ…はぁ……」
虎之助とライガは息を荒くする。ライガは身体から雷を出して、虎之助に向けて雷撃を放つ。虎之助はガオウをドリルにして雷を受け止める。すると、ライガが放った雷撃は虎之助のドリルに纏い出した。
「いっけぇぇぇぇぇ〜〜!」
虎之助は雷を纏ったドリルをライガにぶつけようとするが、ライガは口から電磁砲を放った。電磁砲をまともに受けた虎之助は吹き飛ばされるが、何とか地面に着地する。
「……何という男だ……俺をここまでさせるとは……」
「俺っちはまだまだだぜ……」
虎之助の方はそろそろ限界が来ているのか、身体がふらつきだしている。ライガはそれを見逃さなかった。
「もう限界だろう。これで終わらせてやるよ」
ライガは身体に雷を纏い出した。先程の奥義をもう一度出すつもりだ。今の虎之助がこれを受けてしまったら、もう立ち上がれないかも知れない。
(くっ……ここまでなのか……んっ?)
すると、虎之助の耳に何かが聞こえた。ライガが雷を纏わせる為に大気中バチバチと鳴っている中で、虎之助は何かの旋律が聞こえた。
「〜♪」
それは枯れて声をあまり出せないミルフィーユ皇女の詩魔法である。それにより、虎之助の体力と魔力が少しずつ回復した。
(やはり、皇女様の歌は最高だぜ。ならば、もうこれを使うしかない!)
虎之助は何かを決めたのか、ガオウのコードをリリースして、魔導服を解除した。いつもの魔法学校の制服に戻った。
「何だ、諦めたのか?」
ライガは虎之助が降参したのではないかと思った。だが、もう身体に溜まった雷の力を止める事は出来ない。これでトドメを刺そうとしている。
「いや、諦めないぜ。これでお前を倒してやるぜ、白虎のライガ」
虎之助は右手を前に出すと魔法陣が現れて、そこから黒い鞘に納まった一本の剣が出てきた。
「そんな剣で俺を倒すと言うのか」
「ああ、もちろんだぜ」
虎之助は鞘から剣を抜くと、そこには刀身がなかった。それに剣からは何の魔力も感じないとライガは感じている。
「やはりお前の考えは理解出来ないな。ならば、ここでくたばるが良い! 奥義『雷牙猛衝撃』!」
ライガが雷を纏った状態で虎之助に突進していった。
「……さあ、今こそ伝説の再来だぜ! 出でよ、光の剣よ!」
虎之助がそう叫んだ瞬間、虎之助の剣から眩しいほどの光の刀身が出て来た。
「な、何だと!? その剣は!?」
「……光の剣!?」
ライガもミルフィーユ皇女も驚いた。まさか、あの伝説の剣が現れたのだ。
「喰らえ! 光剣空破斬!」
虎之助が光の剣を大きく振り落とすと、光の衝撃波を放ってライガに向かった。ライガと光の剣がぶつかりあったが、光の剣の力に押し負けてライガは吹き飛ばされた、
「ぐ、ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜!」
光の剣の衝撃波は壁も壊して、そのまま外まで出て行ってしまった。煙が晴れて瓦礫の中に人間の姿に戻ったライガが倒れていた。
虎之助は光の剣を一振りして一息吐いた。
「……まさか本物の光の剣。かつて大魔王クリムゾンジュエルを倒した伝説の勇者にしか持つ事が出来ない伝説の剣を、長谷部様が……」
ミルフィーユ皇女は虎之助の持っている光の剣を見つめる。何百年も昔、魔界の王の中で最強と呼ばれていた大魔王クリムゾンジュエル。圧倒的は破壊力で世界を混沌に陥れた。そんな中、伝説の勇者が現れて光の剣を使って大魔王クリムゾンジュエルを封印したのだ。ちなみにこの大魔王の力を糧にして使う攻撃魔法が黒狐やハクトが使う真紅邪王炎滅破である。その光の剣は勇者が去ったのと同時に、世界から消えたと言う伝承があったが、それが今虎之助の手に持っているのだ。
虎之助は光の剣でミルフィール皇女を吊るしていた鎖を斬った。光の剣は全ての魔法の効果を受けつかないので、無力化も意味ないのだ。
「大丈夫ですか、皇女様?」
光の剣を鞘に戻した虎之助はミルフィーユ皇女の容態を訊く。
「…は、はい。声以外は問題ありません。それよりも、虎之助様の方こそ、酷いケガを……」
「にゃあははは! この程度の傷なんて、唾でも付けておけば大丈夫だぜ。何たって、俺っちはタイガーだからだぜ!」
虎之助はミルフィーユ皇女を安心させる為に身体を動かしまくる。
「にょへ……」
しかし、途中で身体から力が抜けていき、前に倒れようとしているが、ミルフィーユ皇女が抱き締めてあげた。
「あ、あははは……情けないぜ。もうちょっと簡単に倒せたら、こんな事にはならなかったぜ」
「いいえ、とても素晴らしかったです。それに私の為に戦ってくださって、本当にありがとうございます。それに嬉しかったです」
「あ、あれは、その……何と言うのか……漫画の様な展開だったから、つい……」
「……俺っちの方こそ、ありがとうございます。皇女様の歌、届きましたよ」
あの時ミルフィーユ皇女の歌が聞こえなかったら、きっと虎之助は負けていたのかも知れない。だからこそ虎之助はミルフィーユ皇女に感謝の言葉を言った。
「ぐっ……うっ……」
すると、瓦礫に身体が埋まっているライガが目を覚ました。虎之助はミルフィーユ皇女を守る様に身体を動かす。
「そう身構えるな……もう身体が動けねえよ……どうやら、俺の負けの様だ……」
ライガの魔力は底をついている上に、光の剣の力で身体も動けなくなっている。
「それよりも……何故お前が光の剣を持っているんだ……そんな物があるのなら、最初から出していれば勝てたはずなのに……」
ライガも光の剣の力は知っている。だからこそ、最初の時にそれを出されていたら、確実に負けていた。だが、虎之助はそれを出さなかった。
「……これは長谷部家に代々伝わっていた宝剣だ。そして俺っちがこの剣に選ばれた者となったから、これを持っているんだよ。普段はこいつを使わない様にしていたけど、皇女様を助ける為に仕方なく使っただけだ」
「……そうか。その黒い髪と黒い瞳……東の国には伝説の勇者の血を引いている者がいると聞いた事があったけど……それがお前だったとはな……」
「別に俺っちは伝説の勇者の血を引いているだとか、前世からの使命とかなどは関係ねえんだよ。今の俺っちはタイガーこと長谷部虎之助だからな!」
キランと歯を光らせる虎之助。それを見たライガは小さく鼻で笑った。
「ふっ……まったく……本当に俺は……とんでもない貧乏くじを引かされたみたいだ…な……」
そう呟いて、ライガは気を失った。そしてライガの胸に取り付けられていた魔水晶が割れた。これでクリスを封じている魔法陣の一つが破壊されたみたいだ。
玉座の間にてハクトとサイガの拳がぶつかり合う。
「せいっ!」
「はあっ!」
ハクトの拳とサイガの拳がまたしてもぶつかり合う。レナはいつでも動ける様に魔導殺しNO07を起動させている。
「っ!?」
すると、サイガは何かを感じたのか、磔にされているクリスの方に振り返ると、四つの魔法陣の内、黄色の魔法陣が消滅した。
「まさか、白虎のライガが負けたと言うのか……バカな! あんな屑みたいな奴らに我らの魔導師が負ける筈がない!」
「果たしてどうかな。自分の物差しだけで計っていたら、痛い目に遭うぜ」
ハクトは少し笑った。誰かが四神獣の牙の1人を倒したのだと喜んでいるのだ。しかし、それがまさか虎之助だと言う事は知らない。
「残り三つ。そうすればクリスは復活出来る。待っていろ、クリス! みんながお前を助ける為に頑張っているんだ!」
「はい、ハクトさん!」
クリスも嬉しそうに笑う。
「……うるせえよ、ゴミどもが!」
するとサイガの身体から黒い魔力が溢れ出てきた。
「な、魔力数値が上がった……どうして?」
レナはサイガの魔力を計測しているが、さっきまでの何倍も上がり出したのだ。
「ウォーミングアップはここまでだ。そろそろ見せてやるよ。本物の魔戒神生流の力を!」
サイガがニヤリと笑うと右腕に黒い炎を纏わせる。
「やってみろ、サイガ。俺はもう負けない。エル、システムコードリリース!」
ハクトは左腕に装着していたエルを解除させる。
(続く)