デパートの少女

 とある潰れたデパートには、幽霊が住んでいる。そんな噂を聞いて、僕は友達三人と一緒にやってきた。
 昼ぐらいに、デパートに着いてから、下調べの為にデパートの周りを散策する事になった。
 裏手の方は草木が茂っていて、とても人が行ける様な所ではなかった。その時、ゴンと足に何かが当たった。見るとそれは丸い石が、四角い石の上に乗っていたのが、さっきので落ちたのだ。
 とりあえず、石を元に戻しておく事にした。戻してからよく見ると、お墓みたいに飾ってあるので、もしかしたらと思った。
 これで何も起きなければ良いかなと思った。すると、友達の一人が僕を呼ぶ声が聞こえた。僕はそのお墓に、軽く合掌する。
 日が落ちてから、しばらくして、僕達はデパートの中に入った。非常口の一つが開いていたので、そこから入った。
 友達三人は中を散策しながら、あれこれ話していた。その後ろを僕は歩いている。
 デパートは地下一階から七階まであり、地下一階が食品売り場、一階が雑貨売り場、二階が衣料売り場、三階がインテリア、四階が電化製品、五階がホビーショップ、六階がレストラン、七階と屋上が駐車場となっている。
 電気とかは完全に切断されているから、先頭に一人、しんがりの僕が懐中電灯を持っている。
 一階から始めて、地下一階、一階から二階へと上がっていく。すると、二階の方でガタンと言う音が聞こえた。調べに行くと、折り畳んでいたパイプイスが倒れただけであった。
 それからも、何かが音をするけど、それらはどれもおかしくない様なものばかりである。最初は、友達三人も、怖がっていたけど、もうみんな呆れている様な感じであって、笑いながら進んでいる。
 だけど、僕は逆にこれが不気味に見えてしまう。どうしてかは、自然に見える様な事が、不自然であるからだ。一階上がって行くに連れて、音は激しくなって来ているし、マネキンが倒れた音なら、まだ良いが、トイレの音や時計のアラームなどは、誰かが仕掛けないと出来ない事である。
 五階のホビーショップに着くと、だんだん体が寒くなってきた。冷房が付いている訳でもないし、窓がないから外からの風でもない。
 ふと、おもちゃが置いてある方を見ると、何かが落ちていた。行ってみると、ウサギの縫いぐるみが床に倒れていた。
 よく見ると、埃だけでなく、腕の所が少し縫ってある所があるから、きっと誰かの落とし物なのかもしれない。とりあえず、鞄の中に入れて持って行く事にして、みんなの後を追いかけた。

 ついに、屋上まで来て、一息つけた。友達のみんなは、あれこれ言っていた。僕は安心して帰れると思った。

 しかし、その時だった。不意に何かに足を捕まれた。足下を見ると、そこには髪の毛が長く、体が黒ずんでいて、僕より年下の女の子が、呻きながら足を掴んでいる。僕はみんなに助けを求めようとすると、友達の一人が屋上から飛び下りようとする。しかも、誰もそれを止めようとしない。大声で止める様に僕は言ったけど、聞いてくれず、ついに、そいつは屋上から飛び下りた。
 それだけでは終わらなかった。もう一人が割れていたガラスの破片を拾って、左手の甲に刺し続ける。それを見て、もう一人は悲鳴を上げて、デパートの中に入っていった。左手の甲にガラスの破片を刺したまま、新しいガラスの破片を拾って、次は右の脇腹を刺す。

 僕は目を瞑って、これが夢なのだと思いたかった。でも、友達の笑い声が聞こえてきて、ついには、その笑い声も消えて、倒れる音が聞こえた。目を開けると、血塗れの友達の死体しかなかった。足を掴んでいた女の子も消えていて、僕もデパートの中に入った。

 中に入っていった友達を探そうとすると、悲鳴が聞こえた。そっちの方に行くと、友達が首を吊っていた。僕はもう、全力で逃げるしかなかった。
 一階まで戻り、扉を開けようとするが、扉が開かない。押しても引いても開かなくて戸惑っていると、女の子の笑い声が聞こえた。僕は脱兎の如く逃げる。しかし、走っても、走っても、その声は聞こえる。

 裏の倉庫に行くと、抜け穴があって、そこから脱出する事が出来た。外は真っ暗な夜で、何も見えない。懐中電灯は逃げる時に落としてしまったから、地道に走るしかない。

 すると、何かヌルッとした物が右手を掴まれた。振り向くと、さっきの女の子がニヤッと笑っている。放そうともがくが放れない。女の子はもう一本の手で首を締め上げる。もうダメかと思った時、カバンが落ちて、ウサギの縫いぐるみが出て来た。すると、女の子は急に力を抜いて、放してくれた。女の子は縫いぐるみを持って、どこかに行く。
 あとをついていくと、昼に来た所に着いた。そこには、お墓みたいな石が置いてあった。よく見ると、直しておいたはずなのに、また倒れていた。どうやら、僕がここを離れた後、友達の来てこの石を倒したのに放っておいたのだろう。だから、この子は怒っていたのかもしれない。

 僕はもう一度、石を直してあげる。すると、女の子はすぅと消えていく。その時、女の子は口をパクパクと何か言っていたけど、そのまま消えてしまった。

 そして、辺りを見渡すと、僕は真っ暗だった景色が明るくなった。もう夜明け前になっていたのだ。
 それから、デパートの中に入っていた友達たちがみんな外に出て来た。どうやら、あの後、僕は幻を見せてみんなが死んでいく姿を見てしまったのだろう。

 とにかく、無事で良かったから、車に乗って帰る事にした。みんな、何もなかったの様に喋っている。助手席に座っていた僕は、窓の外に映っているデパートを見る。

 あの女の子は、成仏出来たのだろうか。あの子は何故あそこにいるのだろうか。僕はそんな事を考えていた。ひょっとしたら、あの子は縫いぐるみを探してほしかったのだろうか。それに最後の言葉。それは知らなくても良いのかもしれない。そう僕は思った。





 そう、これで終わったのかと思った………
 
 しかし、それは起こった。急に車が暴れだしたのだ。運転していた友達を見ると、何かに怯えている。口から何かブツブツと言っている。

 女の子を轢いちゃった…女の子を轢いちゃった……女の子を轢いちゃった………

 僕はサイドミラーで後ろを見るけど、あっちへ行ったり、こっちへ入ったりするから、分からない。とりあえず、運転している人を落ち着かせようとする。しかし、運転している人は悲鳴を上げて、ハンドルを切りながら、急ブレーキをかけた。さっきから物凄いスピードを出していたから、そのままスピンして転倒して壁にぶつかった。

 僕はシートベルトをしていたけど、体のあちこちが痛い。みんなを見ると、運転していた人は、頭から血がたくさん出ていて、目が開いたままだった。後ろの二人の内、一人は血塗れに、もう一人はシートベルトがどういうわけか首を締め上げていた。
 これはまるで、デパートで起きた時と同じだった。僕も体が動かない事もあり、意識が消えかかっている。すると、外には、あの女の子が立っていた。女の子は、また口をパクパクと何かを言っていた。

 あぁ、今なら分かる………あの時も、あの子は言っていたじゃないか………





 さようなら………
 
 
(了)
 
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 携帯サイトで掲載していた短編です。怪談話を書くのが好きだった頃でしたね、この頃は……
 
 
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