井の中の蛙
蛙を捕まえて井戸の中に入れた事があった。そんな遊びが子供の間で流行っていたからだ。友達は最高で百匹ぐらい入れたと言っていた。僕は何匹ぐらい入れたのか数えていなかった。でも、まだ二十匹ぐらいだと思う。
そして、今日も蛙を捕まえて井戸に入れに行こうとすると井戸の所に一人のお爺さんが座っていた。こういう遊びは大人に知られたくないから、お爺さんが立ち去るまで待っていた。しかし、お爺さんはなかなか立ち去ろうとしなかった。すると、お爺さんが立ち上がりこっちに来た。やっと立ち去ってくれると安心していると、急にお爺さんが僕に声を掛けた。ビックリした僕は持っていた蛙を放してしまって、蛙はそのままどこかに行ってしまった。
「蛙を苛めてはいけないよ」
お爺さんはそう言った。もしかして、このお爺さんは知っているのかもしれない。
「昔、この井戸に蛙を入れて遊ぶ子供達がいたんだ。丁度、君達がやっているような事をね。そんなある日、一人の子供が目を覚ますと、そこは井戸の中だった。必死に登ろうとしても物凄く高くて上には行けなかった。子供はこれが夢だと思ったが、井戸の中で蛙の鳴き声がうるさいぐらい聞こえると、子供は現実だと分かり、井戸から出ようとするけど、結局そのまま死んでいったのさ」
お爺さんの話を聞いて、僕は体が震えだした。もしそれが本当なら僕もそうなってしまうかもしれない。
「昔の話さ。君が蛙を井戸に入れるのなら止めはしない。ただ、その先は知らないからな」
そう言って、お爺さんは去っていった。僕は怖くてそのまま家に帰った。その日はあのお爺さんの話が頭から離れなかった。もし次に目が覚めたら、井戸の中にいるのではと思うと眠る事が出来なかった。
そして、翌日。あれから一睡も出来なかった僕は学校でとんでもない話を聞いてしまった。あの井戸に蛙を百匹ぐらい入れていた友達が、突然行方不明になったのだ。もしかして、あの井戸にいるのではと思った僕は、井戸のある所に行くと、既に遅かった。友達は井戸の中で死体となって発見された。大量の蛙の死骸と一緒に………
その事故以来、井戸に蛙を入れる遊びはなくなった。あの井戸も今では立ち入り禁止の看板が立っている。ひょっとしたら、あのお爺さんは井戸の中にいた蛙ではないかと、僕はそう思った。
携帯サイトで掲載していた短編です。テーマが『蛙』であったので、真っ先に思いついたのが、井の中の蛙という言葉だった。そこから、こんな怖い話になるとは思わなかったですけどね……