ネコです
僕はネコです。捨てられたネコです。名前の無いネコです。だから僕はネコです。
少女が僕を見ている。少女は何かを出そうとしている。そして、出したのは小さな玉だった。少女はその玉を僕にあげた。僕はその玉を転がした。面白かった。楽しかった。僕がそんな風にしていると、少女は笑っていた。少女も楽しいのだろうか。なら、僕は嬉しい。僕が玉を転がしている。少女がそれを見て笑っている。楽しい時間だった。でも、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。少女は僕に玉をあげて、立ち去ろうとする。もう少女に会えないのかと僕は思ったが、少女は僕に向かって言った。
「また明日ね」
次の日、少女は来てくれた。少女は餌を持ってきてくれた。僕はそれを食べた。
美味しかった。今までで一番美味しかった。餌を食べている僕を見て、少女は笑っている。嬉しかった。
その次の日、またその次の日も少女は来てくれた。その時間をずっと待っている僕。一番楽しい時間。幸せな時間だった。
しかし、突然、少女は来なくなった。どんなに待っても来なくなった。
あぁ、分かっていた。楽しい時間なんてあっという間だと………
でも、待っていたい。いつか、またあの楽しい時間が来る事を………
あれから、どれだけの時間が経ったのだろうか………
僕はどうしてここにいるのだろう………
僕は誰かを待っていた……誰を………
あぁ、終わっていく………僕の時間は………
ふいに誰かに持ち上げられた感じがした。見るとそれは、あの時の少女だった。でも、あの時よりずっと大人っぽくなっている。
「ずっと待っていてくれたのね。ありがとう。私ね、一人暮らしする事になったの。良かったら、私の所で暮らさない?」
僕は嬉しかった。少女は僕の事を忘れていなかった。少女は僕を抱えながら、家に向かった。僕と一緒に暮らすその家に………
僕はネコです。拾われたネコです。名前はまだ決まっていない。だけど僕はネコです。
(了)
携帯サイトで掲載していた短編です。捨てられたネコの気持ちを書いてみた作品です。
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