霊盟摩訶不思議探検会

第四話

四月八日
 
 商店街に妖怪が暴れているかも知れない為、俺達はさっき聞こえたガラスが割れる音がした場所に向かった。商店街にまだ居る人達は、なにやらパニックを起こしているみたいだ。それはそうだろう。もし、そいつが自分に襲ってくるかもと考えたら、冷静にはなれないか………
「浩輔君、まずはパニックになっている人達をどうにかした方が良いかもしれないよ」
 後ろについてきている遙歌が、今の状況を見て俺に提案してきた。確かにこのままではマズイな。俺は一旦走るのを止めて、携帯電話を取り出して、ある番号を打ちコールダイヤルを押す。そして、一度息を吸い込む。
「霊盟町にお住まいの皆様方にご連絡申し上げます。只今、霊盟三丁目十‐七の商店街にて暴走化している妖怪がいます。お近くの皆さんは、慌てず騒がず治安維持会の指示に従って、お近くの避難場所に避難にしていて下さい。これより、霊盟町規律第五条に則り、暴走化している妖怪を食い止めますので。治安維持会浅川浩輔よりご連絡致しました」
 そう言い終って、俺は携帯を切る。これは治安維持会による霊盟町全体に放送する事が出来る連絡で、何か問題が起こっている時、町のみんなを守る為に連絡するのだ。
 さっきの放送を聞いた人達が次々と避難していき、商店街はガランと人気が無くなった。
「それって、逆に不安にさせてない?」
 高科が睨む様に俺を見る。
「いや、むしろ逆だ。それを見たくて、あの様に窓から見ている人もいるだろう」
 俺は一つのお店を指す。お馴染みのファーストフード店の窓から、こちらを見て応援している人達がいる。
「なんて暢気な町なのよ……」
「それが普通なんですよ、かなでさん」
 まぁまぁと高科を宥める遙歌。お前もそれは言ってはおしまいだろう……
「おい、源一郎。聞こえているか?」
 俺は無線機の向こうにいる源一郎達に連絡を取る。
『おぉ、ちゃんと聞こえているぞ、浅川中尉』
 いつの間にか昇格されているのだけど……
「これから、暴走化している妖怪を止めに行くけど……」
『うむ、確かにこれ以上被害が出るわけにはいかないな。では、霊盟町摩訶不思議探検会はこれより、暴走化している妖怪の鎮圧作戦を開始する。ユウ、コウ達のいる商店街をフルスキャンして、識別信号が出ていない妖怪を探してくれ』
『了解!』
『コウ達はその場で待機していてくれ。結果が出次第、それぞれの携帯に転送する』
「了解……と言う訳だ。勇輝ならすぐ結果が出るだろうから、少し待とうか」
 俺は携帯をパカパカと開けたり閉めたりと弄っていると高科が遙歌に何か言っている。
「あのさ……本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だと思うよ。松井さんなら、ここの商店街を上から調べてくれるから」
「上って?」
「衛星だよ」
「ちょっと待ちなさいよ!? 妖怪は衛星なんか打ち上げているの!?」
 あれ、知らなかったのか? 結構噂になっていた話だと思っていたけど……
「かなでさん、知らなかったの? 去年、霊盟町で衛星の打ち上げをしたって」
 簡潔に説明すれば、霊盟町に来る妖怪が多くなってきて、いちいち外から来た妖怪なのか分からない状態になったため、治安維持会と妖怪側で妖力制御装置や携帯電話に発信機を取り付けて、そこから衛星で管理する事が決まり、去年、衛星を打ち上げたのだ。そこからネットワークを使って、霊盟町にいる妖怪を調べる事が出来るのだ。これが結構大変だったけどね。そうやって我々を監視するのかと妖怪の旧家の皆さん達にはかなり怒られたけど、何とか分かってもらえたみたいだ。貢献したのは、遙歌の祖父である雅之さんだけどね。
「やっぱりよく分からない町ね……」
 それはそうだ。町並みは、都会とは少し遠い田舎であるけど、衛星を打ち上げるなどをしているのだからな。
 すると、携帯が震えだした。俺のだけでなく、遙歌の携帯は鳴り出した。携帯を開いてみると、商店街のマップに点滅が三つ集まっている。それぞれ『ASAKAWA』『NANAMI』『TAKASHINA』と書かれている。それと一つの点滅が近くにある。そこには『UNKNOW』と書かれている。どうやら、これが暴走化している妖怪と言うわけか。
『浩輔、今送りましたよ』
「あぁ、今届いたよ。お疲れさん」
『それでは、コウ。ここから先は君の判断に任せる。名波君と高科君の事も任せたよ。それでは、グットラック!』
 ここからは俺がやらないといけないか……まぁ、これ以上、源一郎と勇輝は何もする事はないからなぁ。
「さてと、とりあえず、相手がこの近くにいる事は間違いない。大きい妖怪なら良いが、小さい妖怪なら路地裏から逃げられるかもしれない。この辺りをくまなく探そう」
 とにかく、まずはどんな妖怪なのかを知る事だ。携帯マップにはそこまで詳しく載っていないから、ここは目で見つけないといけない。
「浩輔君、その妖怪がこっちに向かって来るよ」
 携帯を見ていた遙歌がそう言うと、俺と高科はそっちの方向を向く。すると、目の前に何か飛んできた。
「うおっ!」
 俺は頭を下げて飛んできたのを避ける。そして、それは地面に落ちていくとポヨンと跳ねた。まるでボールの様にポヨンポヨンと……
 そこには体を丸くしている狸だった。いや、普通の狸とは違うのは、頭にお鍋の被っている所だ。
「あれって、古狸だよね? しかも、子供?」
 遙歌がキョトンとするのは無理もないな。普通、古狸は山や森の中に棲んでいるはずなのに、こんな人里に来る事は決してないのだ。だから、俺も少し驚いている。
 しかし、そんな事は関係ないと、高科は刀を抜いた。
「ちょっと待てって!?」
 俺は高科と古狸の子供の間に入る。
「退きなさいよ」
「バカ言うな!? いきなり殺そうとするなって。まだ子供じゃないか」
「何言っているのよ。子供だろうと妖怪は妖怪でしょう。それにあいつはもう暴走化しているじゃない」
 確かにそれはそうだ。あの古狸の子供からは凄い妖気を感じる。いくら何でも妖気が強すぎる。しかも、目は完全にイっているみたいだし……
「とにかく、無駄な殺生はするな」
「これは私の仕事よ。邪魔すると言うのなら、あんたを先に斬るわよ」
 あぁ、もう! 何でそうなるんだ!?
「浩輔君、かなでさん! 今は言い合っている場合じゃないですよ!」
 それはそうだけど、こいつをまず何とかしないと……っ! 妖気がこっちに!?
「まさか!?」
 振り向いた瞬間……
 ガツンッ!
 見事に俺の額に古狸の頭突きが直撃した。しかも中華鍋だから、超痛いのですけど……
「こ、浩輔君……?」
 あぁ、何だろう……何か今日はよく何かにぶつけられる日だよな。教室では釣瓶落としの海藤に三回も頭をぶつけられて、今度は古狸の子供に頭突きを喰らわされて………
「や、ヤバイ……浩輔君が本気で怒っている」
「あ、あいつ……本気みたいね」
 後ろの二人が何か言っているみたいだけど、今はツッコまないであげよう。
『ま、待て、コウ!? さっきまで高科君に殺すなと言っていたお前が殺しては元も子もないぞ!』
『そうだよ、浩輔。頭を冷やして下さい』
 まったく、源一郎も勇輝も何言っているんだ……
「あははは……何を言っているんだ、お前ら? 俺が殺す訳ないだろう」
 ゴゴゴと後ろに炎を出している様に、遙歌達を見る。二人は開いた口が塞がらない状態になっている。
「こ、浩輔君!? 血、血がピューと出ているよ!?」
 あぁ、確かにピューと血が噴出しているな。でも、今はそんな事、関係ないか……
「っ!」
 古狸がその場から逃げようと跳ねながら行こうとする。どうやら、俺が怒っている事に気付いて、逃げた方が良いと考えたのか。暴走化している割には、まだ理性だけは残っているみたいだな……
「上等だ……」
 やれやれ……少し本気を出すか……
 俺は全速力であの古狸の子供を追いかける。
 
(遙歌視点)
 あ、これはマズイかも知れない……浩輔君、ちょっと本気で怒っているね。
「上等だ……」
 そう言うと、浩輔君は走る構えを取った。
「かなでさん、ここは危ない!」
「えっ?」
 でも、遅かった。浩輔君は全速力であの古狸の子供を追いかけていった。その反動で、強い風が襲い掛かってきた。それはまるで突風が来たかの様な感じである。
「きゃぁ!」
「くっ!」
 私はスカートと髪を押さえる。かなでさんは飛ばされない様に踏ん張っている。う〜、私もかなでさんみたいに巫女服に着替えてくるべきだった。制服のスカートは短いから、見えちゃうよ。
 漸く風が止んで、一息吐いた。
「ふ〜、浩輔君ったら……周りの事も考えて欲しいよ」
 昔から、ちょっと頭に血が上っちゃうと周りが見えなくなるからね。
「どうするの? 追いかけるの?」
 かなでさんが私に訊いてきた。
「そうだね。とりあえず、ゆっくり追いかけるか」
「大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。浩輔君は頭に血が上っていても、やられたりしないから」
「そういう問題じゃないわよ。あいつ、私には妖怪を殺すなとか言っているのに、あのままじゃ、殺すんじゃない。あいつ、かなりあの妖怪を憎んでいたみたいだし」
 そう見えるのかもしれないけど……
「大丈夫。絶対に浩輔君は妖怪を殺したりはしない」
「随分、信頼しているわね」
「だって、約束してくれたから」
「約束?」
 そう……浩輔君はこの約束は絶対に守ってくれる。例え、頭に血が上っていて、周りが見えなくなっていても………
「さぁ、行きましょう。浩輔君を追いかけに」
「え、えぇ……」
 私とかなでさんは浩輔君の後を追いかける。
「ところで遙歌。あいつ、あんなに速く走れるの?」
「うん、本気を出したらね。浩輔君、本気を出すと人間離れした身体能力を出すのよ。しまいには空だって飛んじゃうのよ」
「……嘘でしょう?」
 かなでさんが半目で私を疑っている。うん、それが普通の反応だよね。でもね……本当の話なの。
「普通、一階から屋上まで飛べると思う?」
「……あいつ、本当に人間なの? 半分妖怪じゃない」
 それは言えてる。けど、浩輔君はちゃんとした人間だよ。これは、れっきとした事実だから。
「ただ、子供の頃、浩輔君を鍛えた人がいてね。浩輔君曰く、その人に比べたら、自分はまだまだ人間の域だって言っていたの」
「……本当にこの町は化け物だらけね」
「そういう気持ちになるのは分かるよ」
「あんただって、その中に入っているのよ」
 えっ? そうなの?
「『えっ? そうなの?』て顔してるんじゃないわよ!」
 あれ? 私、そんな顔していたの?
「全く、ほら、とにかく行くわよ」
「あ、うん……」
 何か呆れられちゃった……何でだろうね?
 
(浩輔視点に戻る)
「待ちやがれ〜!」
 あの古狸に漸く追いついた。あいつ、路地裏や屋根の上に逃げ回って……今も商店街の屋根の上で追いかけっこをしている。
 すると、古狸は急に跳ねるスピードを落としてきた。観念したのかと思ったけど……
「っ! 来るか!」
 相手はクルッと反転して、こっちに頭突き攻撃をしてきた。
「何度も同じ技が喰らうと思ったか!? 防御結界!」
 俺はお札を一枚前に投げて結界を作る。ゴツンと結界にぶつかると、壁で跳ね返ったボールの様に跳ねて逃げようとする。だが、何度も逃がすと思ったか……
「もう逃がさないぞ!」
 俺は奴よりも早く動く。俺は足に霊力を籠めると、一気に上に高くジャンプして、まるで空中に足場がある様に跳んでいく。
 これは、霊力を自分の足に籠めて、空を蹴って跳んでいるのだ。昔はこれを使って学校に行っていた時期もあったけど、空中を走る謎の妖怪と言う噂が流れた事もあったな。だから、あまり使わない様にしていたけど、今回は仕方ないと言う事で自分を納得させた。
 古狸を追い越して進路を塞ぐ。だが、古狸はそのまま頭突きをしてきた。
「バカの一つ覚えみたいに攻撃してきて……まぁ、子供だからしょうがないけどな」
 俺はまたお札を使って防御結界を張った。またしても結界にぶつかって、跳ね返った反動で逃げようとする。
「でも、悪いけど、鬼ごっこはここまでだ!」
 お札を五枚投げつけて、古狸の周りに飛ばして囲んだ。そして、星の印を切り、術を発動させる。
「妖魔霊封陣!」
 古狸の周りを飛んでいる五枚のお札から霊撃を放ち、相手の動きを封じた。身動きが取れなくなった古狸から、妖気が少しずつ消えていっている。俺はタイミングよく術を解く。そして、そのまま地面に落ちていく古狸をキャッチする。
 妖魔霊封陣は封じた妖怪の妖力を消していく術で、俺は途中でこの術を解いたけど、最後までやると完全に滅する事が出来る。俺はそんな事を一切しないから、暴走している妖怪の妖力が一定になるタイミングを見つけて、術を解いているのだ。だから、妖怪を滅する事はしていない。
「ふ〜、全く……ちょこまかと逃げ回って……」
 おかげで遙歌達はまだ追いついていないみたいだ。まぁ、携帯のマップを見ればすぐに追いついてくるだろう。
「おい、源一郎。聞こえるか?」
 とりあえず、無線機を使って源一郎に連絡する。
『おぉ、コウか。どうやら、もう怒っていないみたいだな』
「ちょっと頭に血が上ってしまった。反省するよ……まぁ、ちゃんと古狸の子供を捕獲したよ」
『おぉ、そうか。流石だな。よし、今晩は狸鍋だ!』
「源一郎……鬼鍋と言う物も結構おいしそうに思うのだけど」
『すいません、反省します……』
 実際、鬼鍋って美味いのかどうかは別にして……
「とりあえず、任務完了だ」
『うむ、ご苦労だった。それで、そいつがどこの森に棲んでいるのかを調べないといけないな。ユウ、出来るか?』
『正直難しいですね。結果が出るのに少し時間が掛かります。それまで、浩輔が預かる訳にはいかないだろうし』
 確かに俺がずっと抱いてあげたいけど、学生寮の門限がある以上、そうする訳にはいかないか。
「だったら、遙歌の神社に一時期預かってもらうしかないか。あいつなら、オーケーは出ると思うけど」
 名波神社はこう言う妖怪を預ける事が出来る便利な預かり所でもある。あそこなら、棲み処を調べている間も安全だろう。
『そうだな。名波君なら何とかしてくれるだろう』
「それで、肝心な遙歌から連絡はないのか?」
『……』
 何故、黙っている? まさか、何かあったのか!?
「おい、源一郎!? 遙歌に何かあったのか!? おい、聞こえているのか!?」
『聞こえているよ、浩輔。実はさっきから無線機に連絡しているけど、応答が無いのだよ』
 なっ!? おいおい、まさか……
『そこで、ちょっと調べたのだけど……無線機に付けている発信機の位置と名波さんの携帯に付けてある発信機の位置が、全く違う所にあるのだよ。そして、今もどんどん離れていっている』
 ……はい?
『つまり……その……無線機を落としたみたいです』
 ……あ、あのドジッ子がぁ! 心配して損したじゃないかぁぁ!
「だったら、何で携帯で呼ばないんだ!?」
『出来たら、とっくにやっていますよ。ですが、どうも名波さん。携帯マップ画面から戻していないため、繋がらないのですよ』
 あのドジッ子レベル?! それじゃぁ、連絡のしようが無いじゃないかぁぁ!?
『まぁまぁ、落ち着いてください、浩輔。携帯マップをそのままにしているという事は、恐らく見ながら進んでいると思いますよ。現に浩輔のいる所に近づいているみたいですし』
 確かに携帯マップを調べると、遙歌と高科の信号がこっちに近づいている。どうやら、携帯マップはちゃんと見ているみたいだな。
「あぁ、良かった。これで携帯マップをそのままにしてポケットの中に入れていたら、どうしようかと思ったよ」
 いくらあいつがドジでもそこまでいかないか……
『コウ……あの名波君だぞ』
「……あ〜」
 だよね……あいつはこう言う時、本当に期待に答えてくれると思うからな……
 
「う〜、ごめんなさい……」
「やっぱり……」
 こいつ、携帯をポケットに入れたまま移動していたみたい。しかも、無線機を落とした事にも気付いていなかったみたいだ。ドジッ子レベルが?にアップしたよ。
「それじゃぁ、どうやってここまで最短距離で来れたんだよ」
 自分の携帯マップで遙歌達の様子を見ていたけど、こいつは一度も道を間違えずにここまで来たのだ。
「勘かな?」
 勘でここまで来たのかよ……相変わらず直感だけは冴えているな。でないと、全国を回るなんて出来ないよね。
「それで、あの妖怪は?」
「あぁ……今は気絶しているだけだから」
 抱いている古狸はまだ目を覚ましていない。
 すると、高科は刀をこちらに向けてきた。
「放しなさい。そいつを斬るから」
「却下だ。そんな事はさせない」
 いい加減にしてほしいな……
「そいつは町に被害を与えたのよ。それに、あんただって怪我しているじゃない」
 あぁ、そういえば額から血が出ていたっけ?
「町に被害が出てしまったのは仕方ないとして、俺は大丈夫だよ。見ての通り、もう回復しているのだから」
 追いかけている間に、治癒用のお札を使って回復していたのだ。いつまでも放っておいたら、出血多量で危なかったかもしれないからな。
「それに、こいつは誰かに妖力を籠められて、ちょっと暴走していただけだ。こいつ自身が暴走していたわけではなかったんだ」
 そもそも暴走化と言うものは、自分の体にある妖力を蓄えている器に妖力が耐え切れなくなって暴れだすと言う事を言う。言い方を変えれば、コップの中の水が溢れて零れていく事を言う。溢れた妖力が体を蝕んで理性を失っていき、暴れるだけの化け物になってしまう。
それは二つのパターンがあって、一つは自然的に妖力がキャパシティーを超えて暴れ出す事がある。こういう妖怪はよく見るし、そういった妖怪はもう止める事が出来ないから倒すしかないのだ。そして、もう一つは間接的に何かがそいつに妖力を籠めさせる。ただでさえ、器の中にある妖力は殆ど満タンの状態なのに、さらに妖力を入れられてしまっては、器の中にある妖力が溢れてしまい、理性を失って暴走してしまうのだ。このパターンだと、まだ回避できる事は出来る。さっき俺がやった様に、溢れている妖力を浄化させて、本来の妖力まで戻してあげれば、そいつは正気を取り戻す事が出来る。この古狸は後者だったから救う事が出来たのだ。子供だったからという事もあったからね。
「だから、こいつを殺す事は俺が許さない。もっとも、この町に紛れ込んだ妖怪は名波神社に判断を任せているけど、遙歌はどうなんだ? こいつ、殺して良いのか?」
「きゃ、却下ですよ! そんな事させる訳ないでしょう」
 と言う訳だと、俺は高科を見る。高科は歯痒い顔をしている。
「妖怪だってこの世界に生きている者なんだ。それを何の理由もなく殺されるなんて事が一番嫌いなんだ。いくら仕事だからと言って、お前は子供を殺すというのか?」
「そ、それは……」
「お前も少し頭を柔らかくしろよ。そうしたら、見えてくるものも違うかもしれないのだから」
 今はこう言ってあげないと、こいつは絶対間違いを起こすかもしれない。それこそ、高科が想像した事のない間違いを……
「ピキ?」
 すると、古狸が目を覚ました。目を開けて、辺りをキョロキョロしている。どうやら、ここがどこなのか分からないみたいだな。
「もう大丈夫だよ。お前の中にある悪い病気は取り除いてあげたから」
 俺は古狸が安心出来る様に優しく声を掛ける。少し警戒しているのか、怒っている顔をしている。
「ピキッ!」
 ガブッと小さい口で俺の手を噛んだ。
「っ!」
 高科が刀を構えだした。
「待って、かなでさん! 大丈夫だから」
 遙歌が止めてくれた。良かった、止めてくれなかったら、俺が高科を武力で止めていた所だった。
「大丈夫だよ。怖くないからね」
 こいつは怯えているから攻撃してきたのだろう。体が震えているのがよく分かる。だから、まずは安心してあげないと。
「ここにいる人達は決して君をいじめたりしないから。だから、怖がらなくて良いのだよ」
「ピキ?」
「うん、本当だよ。安心して」
 俺は優しく古狸の頭を撫でてあげた。それで安心したのか、噛んでいた口を離してくれた。
「うん、良い子だ。それで、君はどこから来たんだ?」
 俺は古狸をこちらに向かせて目を合わせる。
「ピキ〜」
「分からない? それじゃぁ、君の家は?」
「ピキピキ……」
「そうか……ここから結構離れているな……」
「ちょ、ちょっと? あんた、そいつの言っている事が解るの?」
 高科が驚いた表情で俺を見る。あぁ、そうか……普通ならおかしな人だと思うだろうな。
「あぁ、解るよ。子供の頃から妖怪の言葉を聞く事が出来るみたいなんだ」
 どういうわけか、俺には人語を話さない妖怪の言葉がそのまま人語の様に聞こえるのだ。だから、さっきこいつと会話していた内容は、俺がどこから来たのかと質問すると『ワカラナイ』と、古狸は不安そうにそう答えたのだ。それで、家はどこなのかと訊いたら『キョウト』と、そう答えたのだ。
「し、信じられないわ……」
 まぁ、信じてもらえないかもしれないけど、俺には聞こえるのだから仕方ないのだ。
「ピキ……」『アノオネエチャン、コワイ……』
「あぁ、大丈夫だよ。あの人、少し根が真面目な人だから」
「何教えているのよ!?」
「いやいや、高科。その威圧する様な霊力を放出するな。怯えているだろう」
「まぁまぁ、かなでさん。ここは浩輔君に任せましょう。浩輔君、あとはお願いね」
 遙歌が、高科を引っ張って離れていった。すまない、遙歌。そっちは任せたよ。
「さて……君に少し訊きたい事があるの。君が理性を失う前に、何があったのか教えてくれないかな?」
「ピキ……ピキピキ」『エェト……ボクハ、トモダチトモリデアソンデイタノ。ソシタラ、ナニカヘンナケッカイニハイッテシマッタノ』
「変な結界?」
「ピキピキ……」『ナンダカ、キモチワルカッタ。カラダカラ、ナニカアツイモノガハイッテイッテ、キガツイタラ、ココニ……』
 なるほど……そういう事か。
 恐らく、こいつが入った結界と言うのは、妖怪を捕獲するための罠結界だろう。本来はそれで妖怪の身動きを取れなくして捕まえる術だが、それに妖力を注入する術でも加えていたのだろう。それなら、こいつが妖力に耐えられなくなって暴走する事が出来る。だけど、それでここまで来る事が果たして出来るだろうか……
 もしかして、例の事件と同じ様に、ここに瞬間的に移動させられたか。でも、こんな古狸の子供を使って何をさせるつもりだ。それに、今回は足を拘束する結界を張っていない以上、犯人はこいつをどうしたかったのだろう……事件とは関係ないのかな……
「他に何か思い出せないかな?」
「ピキ…ピキッ!」『ウ〜ン……アッ!』
「何かあるのか?」
「ピキピキ」『ソウイエバ、アノオネエチャントオナジフクヲキテイタヒトガミエタ』
 俺は少し離れた場所にいる遙歌達を見る。いや、正確には高科だ。古狸は高科を指しているのだ。
「まさか……」
 いや、ありえない。もしこれが本当なら、この事件にはどこかの神社が関わっている事だ。俺の予想がもし当たっていたら……
「これは……話さない方が良いかもしれないな」
 あくまでも予想だし。間違っている可能性が高い。でも、万が一という事もあるから、あいつには喋らないでおこう。もちろん、遙歌にもだ。遙歌はたまに舌を滑らせてしまう。同じ理由で勇輝と源一郎もパス。俺だけの秘密にしておこう。
「ありがとうね。あとは、君を帰してあげる事だけど………」
 ここからは恐らく、遙歌の仕事になる。俺は遙歌達にこっちに来る様に言った。
「話は聞けたの?」
「あぁ、色々話してくれたよ」
 とりあえず、話せられる範囲の事を話した。最後の事は省き、この古狸がここから離れた森で遊んでいたら、結界に引っかかって、暴走させられた事を話した。
「と言う訳なんだ。遙歌、こいつが棲んでいる森の近くの神社と連絡を取って、こいつを引き取る様に出来るか?」
「うん、何とかしてみるよ。それまでは私がお世話するね」
「あぁ、それも頼もうと思っていたんだ。お願いするよ」
「任せて!」
 俺は遙歌に古狸を抱かせてあげる。一応、こいつには遙歌の事は話しておいたから、怯える事はなかった。
「う〜ん、フワフワ〜」
 古狸の毛が気持ち良いのか、頬擦りする遙歌。
「ほら、かなでさんも触ってみます?」
 遙歌が高科に古狸を触らせようと近寄る。
「っ!」
 高科は遙歌が一歩進んだら、一歩下がった。いきなりだったから、ビックリしたのかと思ったけどそうじゃない。まるで、恐ろしい物を見ているかの様に怯えている顔をしている。
「おい……大丈夫か、高科?」
 俺が声を掛けると、ハッと気が付いたのか、冷静な表情に戻った。
「わ、私は遠慮しておくわ」
「そう……ごめんね」
「別に謝る事はないわ。私は妖怪が嫌いなんだから………」
 今の言葉……何か違和感があるな。
「さて、もうすぐ門限が過ぎてしまうから。今日はこの辺りにしよう」
 時間を見ると、もう少ししたら学生寮の門限を過ぎてしまう。いくら治安維持会の仕事であっても、門限はちゃんと守らないといけない。会長曰く『それはそれ、これはこれ』だそうだ。
「とりあえず、遙歌を神社まで送ってから、学生寮に戻る事にしよう。遙歌と高科もそれで良いだろう」
 まぁ、ここで解散すると遙歌を一人にさせてしまう。だけど、遙歌を送ったら、高科を一人にさせてしまう。そうならないために、こういう手間をかけないといけないのだ。
「それじゃぁ、名波神社に戻りましょう」
 遙歌がそう言って、俺達は名波神社に向かう。
 
「それじゃぁ、浩輔君、かなでさん。また明日ね」
 遙歌は古狸を抱いたまま、神社の石段を上がっていく。俺達はそれを見送ってから、学生寮に戻ろうとした。
「ふ〜、今日は色んな意味で疲れたぜ」
 学校初日でこんなに疲れてしまうなんて、去年とは比べ様にないぐらいだ。もう、部屋に戻ったらこのまま眠りたいぜ……
「ねぇ、少しあんたに訊きたい事があるけど、良いかしら?」
 もう少ししたら、学生寮に着く所で、高科が呼び止めた。まぁ、俺もこいつと話がしたくて、二人になったけどね。
「良いよ、あぁ、その前にこいつは切っておくか」
 ここから先は源一郎達に聞かれる訳にはいかないかも知れない。だから先に無線機の電源を切っておいた。
「これで良いだろう。答えられる範囲だったら、答えてあげる。だけど、答えられない範囲だったら、ノーコメントさせてもらうけど」
「構わない。まずはどうして、あの妖怪を殺さなかったと言う事よ」
 いきなり物騒な話題だな。まぁ、答えてあげるけど。
「言ったはずだ。俺は無駄な殺生はしないの。もちろん、それは他人であっても」
 目の前で妖怪が殺される所はあまり好きじゃない。昔はそうじゃなかったけど、今はそこまでバカではない。
「なら、あんたは本当に人間なの?」
「人間だ。一割も妖怪の血は持っていないよ」
「だったら、どうしてあんな身体能力を持っているのよ!? 遙歌から聞いたわよ。あんた、空を飛ぶ事が出来るって?」
 遙歌の奴、どこまで俺の事を話したんだ。まぁ、明日、聞いたら良いか。
「正確には空を蹴って飛んでいるんだ。こんな風にね」
 俺は軽く飛んで、足に霊力を籠めて空を蹴った。すると、その場で跳んでいる様に見える。
「それを子供の頃は修行の一環と言う事でやらされていただけだし、空中を走る謎の妖怪と言う噂が流れたからやらなくなったんだ」
 俺は霊力を止めて、地面に着地する。
「これで納得出来たか?」
「……こうやるの?」
 高科は俺がやった事を真似している。だが、一度も空を蹴る事は出来ない。霊力をそのまま足に籠めても、出来るものではない。霊力のコントロールはもちろん、そして、何より大事な事は、俺達がいるこの場所で蹴る事が出来る空を見つける事だ。俺にはそれが見えるから空を蹴る事が出来る。だから、高科がいる場所にも空を蹴られる場所があるが、高科にはそれが見えていない。
「ちなみに、これが出来るのは俺と、俺にこれを教えくれた師匠だけだ」
 もっとも、師匠は化け物だ。あれは最早、戦闘民族の宇宙人ではないかといつも思うんだよね。
「まぁ、巫女としてまだまだ新参者だから、霊力のコントロールとかあまり出来ないだろう」
「むっ……」
 高科が急に刀を抜いて、こっちに向けてきた。どうやら、バカにされたと思ったのだろう。
「お前なぁ……何でもかんでも刀抜くのはやめろよ」
「あんたが私をバカにしたからでしょう!」
 高科が刀を振り落としてきた。
「うわっ!? 危ないだろう!」
 俺はそれを避けると、空を蹴って上に逃げた。
「ちょっと! 下りてきなさい、卑怯者!」
「バカ言うな! 下りたら、殺す気だろう!」
「えぇ、そうよ!」
 少しは否定しろって!? 即答で答えるなよ……
 俺はゆっくりと下に下りて、地面に着いた。
「分かったって、悪かったよ。でも、これを習得するのは一朝一夕では出来ないんだよ。俺でも三年は掛かったのだから」
 出来たのは小六に上がった時に、漸く出来る様になったのだ。
「……まぁ、良いわ。別の質問をするわよ」
 刀を鞘に収めてくれた。本当に危ない奴だな。
「あんたの家を少し調べたけど、あんたの家って妖怪一族でしょう? 何故あんただけ人間なの?」
 あぁ、家系の事ね……あまり好きじゃないんだよね。
「もともと俺は浅川家の生まれじゃないの。ちなみに担任の吹雪姉さんや、一つ下の妹の未紗も血の繋がっていない義理兄妹。浅川家に引き取られたには、姉さんの母親が浅川家の妖怪だったから引き取られたの。でも、人間である俺がそこに住む事は出来ないから、別の場所で過ごす事になったの」
 ここから先は絶対知る事が出来ない範囲になる。あの神社で過ごしたと言わなかったのは、その神社の事を知られる訳にいかないからだ。
「問題はその先よ。あんたはこの先に数年間、学校以外では目撃されていなかった。完全に行方を暗ましていたと言っても良いぐらいにね。それは何故?」
 やはり、その先の事は蓮之泉神社でも知られていなかったか……
「ノーコメント。残念だけど、それは答えられる範囲の域を超えている質問だ」
 これは絶対に教えてはいけない事だ。あの遙歌も知らない事だから。
「どうしてそう言い切れるの」
「知ってはいけない事だからだ」
 間違いなく殺されるよ、主に俺が………
「分かったわ。それじゃぁ、最後に訊くけど、あんた、私に何か言おうとしていたけど何を言うつもりだったの?」
 あぁ、そうだった。訊こうとしたら、古狸の件が出てしまったんだっけ……
「大した事じゃないけど、蓮之泉神社はこの事件でどうして新米であるお前を派遣させたと言う事だ」
 いくら何でも、新米巫女で現場慣れしていない高科には、この事件は大きすぎると思う。
「どういう意味よ? 私じゃ役不足でも言いたいの?」
「そう言う事じゃないよ。神社側は何て言っていたのかを聞きたいんだ」
 あそこは妖怪殲滅派でも、かなり荒っぽい連中が多いと聞いている。だから、もしかしたらと俺は思っている。
「私も詳しくは教えてもらえなかったのよ。ただ、霊盟町で起こっている事件の調査をして来なさいって、詳しい仕事の内容は、おって通達するって……」
 なるほど、つまり高科は事件の協力者ではないが、逆に利用されている事は間違いないみたいだ。どうやら、この事件、裏で蓮之泉神社が関わっているみたいだな……
「まさかあんた、私の神社がこの事件に関わっているなんて考えていないでしょうね」
「ご明察だ。あくまで可能性だけど、蓮之泉神社はお前には教えていない何かを知っているはずだ。それが何かは知らないけど」
「私の神社を悪く言わないでくれる」
「悪く言うつもりはないさ……」
 でも、間違いなく神社は何かを知っている。それをまずは何とかした方が良いかもしれない。最悪の場合は、高科の命にも係わる事かもしれないからだ。
 
(かなで視点)
 学生寮に戻った私はベッドに腰を下ろして、息を吐いた。今日は流石に疲れた。明日も学校には行かないといけないから、早めに寝るとしよう。
「……全く、あいつ」
 学生寮に着いて、男子寮と女子寮で別れようとした時………
 
「そうそう、こっちも何か進展があったら教えてあげるから、お前の方も何か分かったら教えてくれよ」
 急にそんな事を言い出した。
「何故あんたにそんな事をしなければならないの? 私は一人で仕事をするわ」
「まぁ、そう言うなって……お互い知り得る情報は欲しいだろうからな」
 それはそうかも知れない。こいつらの情報は普通に集められるものではなかった。利用は出来ると思っている。
「だけど、あんたに協力する保障は無いわよ」
「そうだね。お前は一人で何とかしようとする危ない奴だからな。でも、俺や遙歌がそんな事させると思うか?」
 確かにそうね。こいつはともかくとして、遙歌は私と一緒に行動してくるに違いない。
「分かったわよ……蓮之泉神社から何か入ってきたら、遙歌に伝えるわ」
「それで十分だ……こっちも新しい情報が入ったら、すぐ連絡してやるからよ」
「期待せずに待ってるわ」
「それと、もう一つ……これは個人的な事になるけど」
 まだ何かあるの?
「いい加減、俺の名前を言ったらどうなんだ。ずっと、あんたとしか言われていないのだけど」
「別に良いでしょう……私の勝手なんだから」
「でも、仲間なんだから、名前で言い合った方が良いと思うけどね」
 な、仲間!? こいつ、何言っているのよ!?
「か、勘違いしないで! あんたやあんたの友達は、私が利用している道具なの! 仲間じゃないのよ!」
「そこまで言うかよ……何か、ガッカリだな」
 そんな残念そうな顔をしないでよ。私が悪い事を言ったみたいじゃない。
「とにかく、あんた達道具は私に利用されていれば良いのよ!」
 
 その後は、私はあいつの顔を見ずに女子寮に戻ってきてしまった。
「ちょっと……言い過ぎたかしら」
 最後のあいつの顔は、本当に残念そうな顔をしていた。私の事を仲間だと言ってくれて手を差し伸べてくれたのに、私はその手を払ってしまったのだ。
 それは遙歌の時もそうだ。今日の町を案内してくれた時だって、遙歌は色々教えてくれた。
『今度は二人で一緒に行こう?』
 そう言ってくれたのに、私は何も言えなかった。しかも、遙歌は私の携帯電話に、勝手に自分の番号とアドレスを入れてきた。
 すると、携帯のバイブ音が鳴って震えだした。画面には『名波遙歌』と表示されている。
「早速来たわね……しかも、メールとは……」
 私はメール画面を開いて遙歌のメールを開いた。
『もう夜中だから、もしかしたら寝ているのではないかと思って、メールを送りますね。今日は色々とごめんね。 かなでさんは仕事で来ているのに邪魔しているのではないかと思っていました。ただ、私や浩輔君もかなでさんと仲良くなりたいと思っているの。それと、これは多分、浩輔君の無意識なのかも知れないけど、あの古狸の子供が浩輔君の額に当たったの覚えている? あれね、浩輔君は避ける事は出来たのだけど、浩輔君の後ろにはかなでさんがいたから避けなかったの、あのまま避けていたらかなでさんが被害に遭うかも知れなかったから。だから、浩輔君は自分から当たりに行ったの? 別にそれで恩を売ろうとか、そんな事じゃないの。浩輔君の事、悪く思わないでね。以上です。では、お休みなさい。P・S 今度二人で一緒に買い物しませんか?』
 私はメールを読み終わると、息を吐いた。
 あいつは私を庇って、あの妖怪の攻撃を受けた。もし、避けて私が当たったら、自分に後悔していたのかも知れない。あいつはそう言う奴だと分かった。
「全く……どっちがバカなんだか……」
 すると、携帯が震えだした。今度は電話の方?
 表示画面には『蓮之泉神社』と表示されていた。私はコールボタンを押す。
「はい、高科です……」
『私よ、高科』
 声の主は、私にこの事件の調査任務を与えてくれた私の上司だった。
『今回、何匹妖怪を殺したの?』
「……いいえ、一匹も殺していません」
『……そう』
 声が冷たくなった。怒らせてしまったの?
『格好の餌がたくさんいるのに、一匹も殺していないなんて、どう言う事かしら?』
「も、申し訳ありません……今日は名波神社の巫女と事件現場の調査と町の案内をしていましたので」
『関係ないわ。妖怪がいたら、問答無用で殺せ。それが貴女の任務よ』
 そうだ。私はこの事件の調査と、この町の妖怪の殲滅………それが、私の仕事。
『それと、浅川浩輔だったかしら、貴女が教えて欲しいと言っていた人間は……あいつは妖怪一族の者よ。だから、分かっているでしょうね』
「……はい」
 私はあいつを……殺さないといけない……
『良い事……私達、蓮之泉神社に情けなんていらないわ。目の前にいるのが妖怪や、それを庇っている人間もまた妖怪なの。だから、殺さないといけない。理解出来たかしら、高科かなで』
「はい……」
『それじゃぁ、今日は報告する必要は無いわ。ゆっくり休みなさい』
「お疲れ様です……」
 携帯の通話が切れると、私は窓の外を見る。
「私は蓮之泉神社の退魔巫女……」
 だから、あいつらと仲良くなんてなってはいけない………いずれ、私があいつらを……殺さないといけない……
 私はもうどうしたら良いか、分からなくなってしまった………
 
 
 
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遙歌「読んでくれました皆さん、はじめまして。『霊盟摩訶不思議探検会、後書きコーナー(仮)』のパーソナリティーの名波遙歌です」
かなで「高科かなでです」
遙歌「漸く学校初日が終わりました……いやぁ、長かったですね」
かなで「そうね。戦闘シーンはそんなに書いていないみたいだけど……」
遙歌「それは作者が未熟だからだよ。ちゃんと考えて書いてほしいよね」
かなで「今回は遙歌の視点と私の視点と言うのが出てきたけど、だったら普通に三人称書きにすれば良いのにね。一人称に拘っているとこうなるのよ」
遙歌「まぁ、これは私とかなでちゃんだけであって、他の人では三人称書きにするみたいだよ」
かなで「かなでちゃんって言わないでくれる!!」
遙歌「えぇ、良いじゃない。後書きぐらい……」
かなで「却下よ。それで、次回はどうするつもりなの?」
遙歌「う〜ん、ちょっと話とはズレるけど、学校のイベントの話をする予定ですよ。言うならば、新入生の歓迎会かな。楽しみにしていて下さいね。それでは、今回はここまで」
かなで「また次回でお会いしましょう」
 
 
 
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