霊盟摩訶不思議探検会

第八話 

四月十二日
 
 名波神社の境内に着いた俺は、遙歌の家に住んでいる妖怪達に押し潰されています。
「お、お前ら……重いって……」
 またここに住んでいる妖怪の数が増えていないか。これじゃぁ、百鬼夜行が起きてもおかしくないぞ。
「ピキ〜!」
「あれ、お前は、あの時の古狸?」
 この前、商店街で暴走していた古狸の子供が嬉しそうに抱き付いてくる。まだこの神社にいたんだ。
「お前の家族とは、まだ連絡がつかないのか?」
「ピキピキ!」『レンラクハツイテイルケド、ボクヲムカエニキテクレルジンジャノヒトガ、マダキテイナイノ。ダカラ、ソレマデハココニイテヨイッテ、ココノミコサンガイッテイタ』
 なるほど。結構遠い山に棲んでいると言っていたから、迎えに来るのに時間が掛かるのか。だから、遙歌がそれまで、ここにいて良いよって言ったのだろう。
「そうか。まぁ、ここにいる間は俺もちょくちょく来るから、一緒に遊ぼうな」
「ピキ〜!」
 喜びながら、ピョンピョンと跳ねている。
「あ、浩輔君。もう来てたんだ」
 すると、遙歌の家の方から巫女服姿の遙歌がやってきた。遙歌が現れた事で、妖怪の皆さんが遙歌に集った。
「はいはい、みんな。一緒に遊んであげたいけど、今日はこれからお仕事があるから、お留守番していてね」
 妖怪一匹一匹の頭を撫でてあげる遙歌。みんなもそれが嬉しくて遙歌の言う事を聞いてくれた。妖怪に優しい所が遙歌の良い所でもあるけどね。
「雅之さんは?」
「お爺様なら、向こうの集会所で皆さんと話をしていますよ。今日の事でも話していると思うよ」
 今日の事ね……大方、妖怪達の罵声をどうやって回避しようかと色々言っているのだろう。
「そう言えば、今日はここでやるんじゃないんだよな」
 いつもだったら、ここで会合をする事になるけど、今回は妖怪側が別の場所を提案してきたのだ。
「うん。場所は、公民館にある大きなお部屋だって……」
 公民館と言ったら、この間の鼠妖怪退治で、あのボスがいた建設中の工事現場の近くじゃないか。いつもはここの集会所を使っているのに、今回だけは場所の変更とはどう言う事なんだろう……姉さんも、そこだけはよく分からないのよと言っていたし。
「でも、それにしては、ここの結界は少し強化していないか?」
 今日、ここに入ろうとした瞬間に、何か変な感じがしたのは、ここの結界がいつもより強かったのだ。だけど、それは入ろうとした時だけであって、境内の中にいたら、それは感じなくなっていた。恐らく、中と外との境界線だけを強化して、外からも中からも妖怪が手出し出来ない様にしてあるのだ。
「う〜ん、何だか、嫌な予感がするからね。それで、お爺様に相談したら、みんなを出さないようにと結界を強化してくれたの」
 嫌な予感ね。それは今日ここに来る時から、俺もそんな感じがしていた。
「そう言えば、かなでさんは来てくれなかったんだ」
「一応誘ったけど、何か別の用事があるからって断られた」
 寮で高科に会って、今日の事を話して一緒に来ないかと誘ったけど、これから別の用事があるから良いわと言われた。何の用事かと訊いたけど、答えてくれなかった。あいつの用事とは何か少しだけ気になっている。
「勇輝や源一郎にあいつの様子を見ておいてと言ってあるから、何か危険な事があったら、すぐに連絡が来るだろう」
「そうか……でも、それでも何か……」
 不安な顔をする遙歌。高科の事、かなり心配しているのか……
「まぁ、そんなに心配するなって。あいつは蓮之泉神社の退魔巫女だ。そんじょそこらの妖怪に負けるとは思わないさ。あいつを信じてやろうぜ」
 遙歌を元気付けてあげようとする。
「そうだね。かなでさんは強いもんね。そう信じましょう!」
 何とか納得して元気になろうとしている遙歌。まだ不安な所が出ているけど、さっきよりはマシになった。
「それに、この会合が終わったら、あいつの仕事を手伝ってやろうぜ」
「うん! それが良いかも」
 何だか、物凄く喜んでいるな。高科に会うのがそんな嬉しいのか……
「おや、二人とも。遅くなってすまなかったの」
 すると、集会所から雅之さんや他の維持会の人達がやってきた。どうやら、話し合いが終わったみたいだな。
「今日は来てくれてありがとう」
「いえ、こういう時に来なかったら、後で姉さんとかに、何言われるか分かりませんからね。それに、今回の会合は例の事件の事についてですから。もう俺達も無関係では無いですし、少しでも事件解決のために色々聞きたいですかね」
「うんうん、良い心掛けじゃ。君や遙歌みたいな若い子達が頑張ってくれると、年寄りのわし達も安心じゃからな」
 雅之さんがそう言うと、他の人達も俺達を褒めてくれる。
「浅川の坊主や会長の孫娘さんは良い子に育ちましたね。うちの倅にも、二人の爪の垢でも煎じて飲ませたいぐらいだ」
 それは大袈裟ですよ。俺なんて大した事無いですって……バカなだけですよ。
「それでお爺様、結局どうなったのですか?」
「うむ、例の事件であちらも相当お怒りだと思ってな。彼らの話をちゃんと聞いてあげて、それでこちらも彼らを刺激させない様に話をしようと思っている」
 やはりそうだろうな。誰だって、全面戦争にはなりたくないからな。穏便に済ませようという事か……
「そこで、君達二人に頑張ってもらおうと思っておるのじゃ」
「はい?」
 今、何かとんでもない事を言いませんでしたか?
「えぇと、お爺様? もしかして、私達に……」
「ふむ、二人が代表となって、妖怪側の皆さんと戦ってもらいたい。これが、わしらが考えた結論だ」
 結論も何も……ただ、俺達に押し付けているだけじゃないか……だから、さっきまで俺達をベタ褒めしていたのか。
「どうする、浩輔君。逃げる?」
「やめておくよ。後が怖い……」
 今まさに逃げようと考えたが、ここまでみんなに期待されている以上、逃げるなんて格好悪過ぎる。
 面倒な事を押し付けられたけど、まぁ、やるしかないか……
「決定じゃの。では、行くとするか」
 嬉々とした顔で歩き出す雅之さん。大人は本当に汚いなと常々そう思った。
 
 見覚えのある工事現場を通ると、公民館に辿り着いた。ここには昔の霊盟町の事について色々調べられる事が出来る場所で、社会見学などでも使われている場所である。
 すると、入り口の前で姉さんが立っていた。
「おはようございます〜。皆さ〜ん、本日はお越しいただき〜、誠にありがとうございます〜」
 ペコリとお辞儀をする姉さん。
「妖怪の皆さんは〜、既にお部屋で待っておられますので〜、私がご案内いたします〜」
 姉さんが案内してくれて、俺達はある部屋に入った。そこは教室ぐらいの大きさで、長机が四角の形となっている。奥の机には妖怪達が席に座っていて、こちらが来るのを待っていたみたいだ。
 その中心にいる紋付袴を着て、毛がなくてよぼよぼな老人がこちらを睨む様に見ている。この老人が妖怪側の治安維持会の会長で、浅川家の現頭首であり、俺の義理の祖父、浅川勘吉である。
「久しぶりじゃな、浩輔……」
「お久しぶりです、頭首様……」
 お互い挨拶するけど、目を合わせない。この妖怪も俺もお互い嫌っているからだ。いや、あっちはどうだろうけど、俺はこの妖怪は嫌いである。
 しかし、これは面倒な事になってきたな。あのじじいと対面する事になると言うのは、俺としてはやりたくない事だ。じじいとはいつも顔を合わせては喧嘩ばかりしている。
「お前と会うのは、いつ以来だ」
「年始以来でしょう。もうボケたのか?」
 バチバチと火花を散らす俺とじじい。
「浩輔君、落ち着いて!」
「お爺様〜!」
 遙歌と姉さんが俺達を止めに入った。いかん、いかん……じじいと喧嘩している場合じゃなかった。
「貴様の事は吹雪から聞いておる。例の事件を勝手に調べておるみたいじゃな」
「そんなの俺の勝手だろう。それに部活でもあるし、治安維持会の為でもあるんだよ」
 また喧嘩腰になっているなぁ。どうも、じじいと正面を向きあうと喧嘩になってしまう。
「やれやれ、困ったものじゃ」
「勘吉。その辺りにしてやるんじゃ。浩輔君だって、必死に頑張っておるのだから」
「雅之。そいつの肩を持つ必要は無い。浅川の名を持つ者として、わし等に恥を掻かせているだけじゃ」
 じじいは一息を吐きながら言った。何だか殴りたくなってきた………
 と言うより、雅之さん。やはり、俺と遙歌に代表にした時点で間違っていませんか。このじじいと対面していたら、それこそ全面戦争になりかねますよ。
「浩輔君、とにかく私達も座りましょう」
 遙歌は苦笑いしながらイスに座る事を勧める。
「そうだな。皆さん、とりあえず、席に座りましょう」
 俺は人間側の治安維持会の皆さんに言って、席に座らせていく。全員が座ったのを確認してから、俺は自分の席に座る。じじいを見ると、何かにやける様に笑っている。気持ち悪いって……
「さて、まずは妖怪の皆さんにお聞きしたい事があるのですけど、よろしいでしょうか?」
「構わん、何じゃ?」
「貴方方は、霊盟町妖怪連続殺人事件は、どの様に見ているのですか」
 姉さんから貰った資料はかなり役に立っている。だが、そこまで調べていたのに、一向に表に出なかった。だから、妖怪達はもうこの事件は誰が起こしているのかも知っているかも知れない。
「ほぉ、貴様はわしらを疑っていると言うのか?」
「そうじゃね……そう言う事ではありません……」
 俺がじじいに怒鳴りつけようとしたら、遙歌に服を抓まれた。落ち着いてと言っているのだろう。
「自分は皆さんのお怒りする気持ちは理解しているつもりです。仲間が殺されて、人間達に怒り、協力する気は無かった事も」
「まったくだ。人間の警察は無能ばかりだし、我々で解決しようと思っておった」
「そんな時に、俺達が動いている事を知ったのですね」
「そうじゃ。お前達が遊び半分でこの事件に首を突っ込まなければ、わし等で解決する事が出来た」
 本当に出来るのか……だが、じじいの目には絶対の自信を持っている。
「では、もう犯人は知っていると言う事ですよね」
「いや、だが、犯人の目的は見え始めている」
 目的?
「じゃが、これをお前達に教えるつもりはない」
 じじいがそう言うと、人間の維持会の人達が怒りだした。
「ちょっと待てよ! 何で教えてくれないのだよ!? あんた達は、もう知っているんだろ!」
「黙れ! お前に話をしていないのだよ!」
 すると、向こうの妖怪の一人が喰らいついた。それが火付け石となって、一気に爆発した。
「てめぇら! アホ抜かしていないで、さっさと教えろ!」
「何だと、この無能どもが!」
「うるせぇ、化け物が!」
 次々と喧嘩し始める人間と妖怪。遙歌と姉さんが止めに入るが、全く聞いてくれない。
「ふっ、やはり人間とは……」
「じじい……?」
 何だろう。今一瞬だけどじじいの表情が呆れているとか、哀れんでいるとか、そう言う顔じゃなかった。
 そう、後悔だ。自分の所為でこうなったと後悔しているんだ。あの人間嫌いのじじいが……
 雅之さんを見ると、彼もまた同じ様な表情をしている。どうして二人はそんな顔をしているんだ。
 そんな事をお構い無しで喧嘩する人間と妖怪達。そんな彼らを見て、俺は体が震えだした。そして、俺はバンと机を叩いた。
「いい加減にして下さい!」
 俺はそう怒鳴ると、皆ピタッと止まりだした。
「今は俺達が争っている場合ですか!? ここで喧嘩したって何も変わりません! そんな事をしている内に、どんどん妖怪達が殺されてしまうかも知れないのですよ! 今日、ここに集ったのは、この事件を一刻も早く解決して、またいつもの平穏な日々を取り戻す事でしょう!? ですからどうか、喧嘩なんてしないで下さい!」
 はぁ、はぁ、はぁ……息継ぎ無しで言ったから、かなり苦しかった。
「浩輔君……あの、今の浩輔君が言った事、少し乱暴だったかも知れませんでしたけど、皆さんの為にと思って言った事なんです」
 おい、ちょっと待て、遙歌……乱暴って何だ、乱暴って……
「それに、皆さんが手を取って協力してくだされば、私達も頑張ると思います。必ず、事件を解決して見せますし、皆さんを守ってみせます」
「ほぉ、お前達で解決してみせると。そして、この町の者を守ってくれるというのか、雅之の孫娘よ」
「はい! 私と浩輔君、今はここにはいませんけど、妖怪である大和さんや松井さんもいます。それに、かなでさんもいます」
「……あの蓮之泉神社の巫女も?」
 おいおい、遙歌さん。高科の名前を出してやるなよ。あいつが蓮之泉神社の巫女だと皆知っているんだぞ。
「大丈夫です! ねぇ、浩輔君!」
 俺に振るなぁぁぁ!
「まぁ、高科はたまに暴走する事もありますけど、根は真面目な巫女です。それに、ここに来てから、彼女は妖怪を殺してはいません。俺が知っている限りでは、彼女はかなりの戦力になると思います」
「じゃが、あやつがわし等に牙を向けないという保証はないはずじゃろう」
「確かにそうかも知れません。ですが、俺達がもし彼女が暴走しそうになったら、必ず止めてみせます」
 これだったら、本当に今日あいつをここに連れてきた方が良かったかも知れないな。まぁ、もしもの事を考えて一応手を打ってあるけど……
「浩輔、逆に訊こう。貴様はこの事件、どう思っておる?」
 じじいが俺に逆に返してきた。こちの質問には答えていない様な気がするけど……
「……儀式と言った所でしょう」
「儀式と?」
 今までの事件を見て、現場にも足を踏み入れて、それからも夜の見回りなどをしていて、少しずつだけど、この事件が何か特別な事をしているのではないかと考えた。
 何故なら、殺されているのは遠方の妖怪だ。どうしてわざわざ、この町で遠方の妖怪を殺す様な事をするのか。それには何か目的があるのではないかと考えた。そして、殺された場所も何か特別な意味があるのだと思う。そうでなくては、いちいち結界を使って身動きが出来ない様にする意味がない。
 それに、妙に何か引っ掛かっている。何か大事な事を忘れている様な気がする。
「ほぉ、そこまで考えていたとは。普段の学力の低さとは思えない思考じゃの」
 勉強が出来なくて悪かったですよ……もう、それで弄るのは止めてよ〜……
「吹雪はお前なら大丈夫と言っておったが、わしは少し不満じゃった」
「俺が浅川の家の者だからか。それとも俺が人間だからか? 言っておきますけど、俺はまだあんたの事は許していないからね」
「じゃろうな。まぁ、それで良い。お前はお前で勝手に生きておけと言っておるから」
「あぁ、俺はあんた達妖怪と違って、短い命だ。その短い命で、もう二度と後悔をしない人生を送ってやるよ。そして、この町に住む人間と妖怪を守ってやるさ」
「……若造が。好きにしろ」
 まったく……素直じゃないのだから……
「どっちもどっちだと思うよね、吹雪さん」
「はい〜、お爺様もこー君も〜、素直になっちゃえですわ〜」
 それはどういう意味なんでしょうかね、そこのお二人さん?
 二人を睨みつけようとした瞬間、ズシンと大地が揺れた。
「何だ!? 地震か!?」
 この部屋のいる人も妖怪も慌て始めた。ただ、一人動じていないのはじじいだけだ。
「おい、じじい。何か知っているのか!?」
「騒ぐな! 今調べている……」
 調べているって……
「浩輔君、何か感じない?」
 俺も薄々何か感じていた。確かにこれは……
 すると、俺の携帯のバイブ音が鳴った。まさかと思い俺は携帯を取った。
「もしもし……勇輝か?」
『あぁ、浩輔。君の予想通りだ。高科さんに気付かれない様に尾行していたら、君達が今いる近くの工事現場で妖怪が突然現れた。今、高科さんはその妖怪と戦っている』
 やはり、俺が嫌な予感が的中したか。あんなにも治安維持会の事を知りたがっていた高科が、今日の会合に誘っても断ったんだ。それよりももっと大事な何かがあるのではと考えて、勇輝に尾行する様に頼んでいたのだ。もちろん、寮には彼女を見失わない様に、源一郎が衛星から調べてくれている。
『源一郎は君と名波さんは急いで高科さんの所に行けと言っている。僕もそれが良いと思う。僕が彼女を止めるより、君達で彼女を止めてほしい。このままだと、高科さんはその妖怪を殺そうとしている』
 やっぱり……俺達がいない事で枷が外れたのかの様に、妖怪を殺す気だ。俺達で止めなくては。
「分かった。こっちもこの騒ぎで会合どころではなくなった。急いで高科のいる所に向かうよ」
『お願いするね。君達が高科さんと合流したら、源一郎を連れてくるから』
「分かった。それじゃぁ、また……」
 携帯を切る。
「松井さん、何て言ってたの?」
「高科が妖怪と戦っている。状況から見て妖怪を殺す気だ」
「っ! 早く、止めないと!」
「あぁ……そう言う事だ、じじい、姉さん。俺達は少し席を外す。姉さんはここから外に出ないように皆に言っておいてくれ」
「えぇ〜、分かりました〜」
 俺達は部屋を出ようとすると、じじいが俺を呼び止めた。
「何だよ、じじい。今急いでいるんだ」
「浩輔、お前は先ほどこの事件は儀式と言っておったの。なら、儀式に必要な物とは何だ?」
 こんな時に一体何言っているんだよ……えっ? 儀式に必要な物……それは……
「ちょっと待て……じじい、知っていたのか?」
「いや、わしもお前が儀式だと言った時に、漸くこの事件の真の目的に気付く事が出来た。だから、お前にも言っておこうと思ったのじゃ」
「待てよ! いくら、何でも……それが本当に起こったら、この町は!?」
「うむ……」
 ば、バカな……ふざけるな、ふざけるな!
 高科の奴、それを知っているのか……知っていてやろうとしているのか……もし知らずにやっているのならまだ間に合う。だが、知っていてやろうとしているのなら、俺はお前を絶対に許さないぞ。
「急ぐぞ、遙歌! 取り返しがつかなくなる前に、早く行くぞ!」
「う、うん!」
 俺達は全速力で、高科がいる所に向かった。
 頼む……俺達が行くまで、その妖怪を浄化までに追い込む様な事をするんじゃねぇぞ。
 
(かなで視点)
「はぁ!」
 私は刀を振り下ろす。すると、その妖怪は体から雷撃を放ち、私の攻撃を防いだ。
 私は一度、その妖怪と距離をとる。
「はぁ、はぁ、はぁ……流石にやるわね……」
 私は目の前にいる妖怪を睨みつける。猿の様な顔をしていて、体中犬の様な毛を生やして、尻尾は蛇そのものの獣妖怪、雷獣はその場から動かないけど、体から発する雷撃で私の攻撃を防いで、口から光線を吐く。
 私はその攻撃を札で結界を作って防ぐ。
「ナメられたものね……」
 雷獣と言えば、動きが活発で動き回る事で相手を翻弄させて仕留めると言う妖怪の筈よ。それが、あそこからまったく動こうとしない。
「あいつが言っていた事は、本当だったみたいね」
 昨日会ったあの男の話では、この雷獣はとても自信家で、いちいち動き回らず、その場を動かないまま相手を仕留める様な凶暴な妖怪である。
「でも、かえって好都合だけどね」
 こんな狭い所で動き回られたりしたら、それこそ危ない所だったかもしれないからだ。
 それしても、こんな妖怪を用意していたなんて、奴らは本当にこいつで、遙歌やあいつを殺そうとしてなんて……絶対許さない。
 私は刀を構え直して、雷獣と向き合う。待っていて、こいつは私が必ず倒すから……
 
(浩輔視点)
 俺と遙歌が例の工事現場の前に行くと、そこには勇輝が待っていてくれた。
「松井さん、かなでさんは!?」
「今、中で戦っているみたいだ。その後はまだ……」
「源一郎には連絡したか?」
「よっ! 待たせたな!」
 すると、源一郎が後ろから突然現れた。全然そんな気配は感じなかったぞ。
「さて、全員集った事だし、早く高科君を止めに行くとしようか」
 そうだな……
「浩輔君、どうしたの?」
 俺が少し不安な顔をしている事に気付いた遙歌が俺に近付く。
「いや、なんでもない……」
 まだ遙歌達には話さない方が良いかもしれない。それに、高科を止めれば、それが起きる事もないはずだし。
「行こう。高科を迎えにいかないとな」
「うん!」
 俺達は急いで工事現場の中に入った。
 中では凄まじい戦うが行われていた。高科とかなり大きい雷獣が暴れている。
「かなでさん!」
「遙歌……無事だったみたいね」
 高科は俺達の姿を見て、ホッとしている。
「高科、これは一体どう言う事だ!?」
「見れば分かるでしょう。暴走している妖怪を退治しているのよ」
 確かに、あの雷獣は暴走化しているみたいだけど、少しだけ様子が変だぞ。体中から血がたくさん出ているけど、高科の刀傷だけではない。まるで、ここにいる前から大きな戦いをしてきたみたいだ。
 源一郎が俺の肩を掴むと耳元で囁いた。
「コウ、どうも彼女は何か知っているはずだ。奴は俺とユウで食い止めておくから、君は名波君と一緒に高科君の話を聞いてやれ」
「……分かった。妖力制御装置解除を俺が許可を出す」
「あぁ、恩に切るぜ。ユウ」
「うん……」
 二人は俺達の前に行くと、源一郎は眼鏡を外して、勇輝は首飾りを外して俺に放り投げた。すると、二人の妖力が復活して、源一郎は額に一角が生えてきて両手の爪が鋭く伸びていく。勇輝は犬の耳と尻尾が生えてきて、源一郎と同じ爪が鋭く伸びていく。
 これが鬼族の大和源一郎と、犬族の松井勇輝の変化した姿である。今まで妖力制御装置で妖力を完全に抑えていたけど、それが外れると彼らは本来の姿になるのだ。
 本当なら霊盟町に住んでいる妖怪は変化してはいけないと言われているけど、治安維持会である俺とかが特例として妖力制御装置の解除を許可する事が出来る。
「よし、それじゃぁ、行くぞ。ユウ!」
「おう!」
 源一郎と勇輝が雷獣との戦闘を開始する。俺はその間に高科を呼んで、遙歌と連れて少し離れた場所に移動する。
「それで、もう一度訊くけど。あの妖怪は一体何なんだ?」
 あんな大きい雷獣は、この町にはいないはずだ。つまり、遠方から来た妖怪に違いないみたいだ。
「蓮之泉神社の使者から貰った情報よ。ここにあの雷獣が召喚されると」
 蓮之泉神社から!?
「でも、かなでさん。どうしてその事を、私達に教えてくれなかったのですか? 確か、新しい情報が入ったら教えると言う約束じゃなかったのですか?」
「そ、それは……遙歌達の為よ」
 俺達の為?
「今日、あんた達がこの近くの公民館で、治安維持会の会合があったでしょう。妖怪達はこの妖怪を使って、遙歌達を殺そうとしていたのよ」
 ………はい?
 俺も遙歌もキョトンとしている。
「ど、どうしたの、二人とも?」
「高科、お前何を言っているんだ? いくらあのじじいでも、そこまではしないと思うぞ」
「えっ?」
「そもそも、あんな傷だらけの雷獣を呼び出したとしても、私達が殺されると思ったのですか?」
「えっ? えぇ?」
 どうやら、こいつの勘違いだったらしいな。
「いや、違うな……高科、キツい事を言うかも知れないけど言わせて貰うぞ。お前は蓮之泉神社に利用されていただけだ」
 ここまで来れば、完全に使われていただけだと思った。まぁ、こいつはまだまだ新米巫女だし、根が真面目だから、そこを付け込まれたのだろう。
「蓮之泉神社はこの事件に片棒しているのか、ただ犯人がこの事件に蓮之泉神社後と利用している。後者なら、まだマシだけど、前者だったら少し軽蔑するぞ」
「し、知らないわよ。私は、ただ……」
「安心しろ。お前を責めるつもりはないさ」
 高科はちゃんと仕事をしているし、それをとやかく言うつもりはない。
「それに、何より嬉しいかな。遙歌の為に内緒で守ってあげていた事にね」
「そうだね。ありがとう、かなでさん」
「べ、別に……そう、あんた達は私の道具なんだから、利用しているだけなのよ」
「本当にそう思っているなら、とっくに俺達を見捨てていると思うぞ」
 こいつはそう言う奴だよ。
「さて、次は……」
 俺が次の質問をしようとすると、また大地が揺れた。あいつら、暴れ過ぎじゃないのかと少し様子を見ると、源一郎も勇輝も何もしていない。あの雷獣が何かに苦しんでいる。
「何か様子が変だな。ちょっと行ってくるから、遙歌達は待っていろ」
 遙歌達をそこに残していって、俺は源一郎達の方に向かった。
「源一郎、勇輝。一体何が起きた!?」
「いや、俺達は何も……」
「あの雷獣が苦しんでいるけど、様子もおかしいんだ。あそこから一歩も動かないんだ」
 一歩も? それは変だろう。雷獣は動き回ってこその妖怪だ。それが一歩もあの場から動こうとしない。
 下をよく見ると、この間の鼠妖怪同様、何か足元に結界が張られている。やはり、あそこから動かさない様に固定しているのか。
「あの結界を壊せば何とかなると思うけど……」
 どうも、それをさせてくれそうにないみたいだ。雷獣はさっきから体から雷撃を発しているから、封印霊方陣をしても、あの雷撃に阻まれるだろうな。
「さて、どうしようか。俺の頭の中にある選択肢では?源一郎ミサイル、?源一郎ロケット、?源一郎バズーカしか浮かばないのだけど……」
「あっ、僕もそれしか浮かばないね」
「君達……」
 などと、ボケている場合じゃないみたいだな。
「かなでさん!」
 すると、遠くから遙歌の叫び声が聞こえた。それに振り返ってしまったから、高科が雷獣に向かって突進している姿に気付くのが遅れてしまった。
「これで、終わりよ!」
 高科は刀身に霊力を籠めて、渾身の一撃を与えた。雷撃で阻まれているが高科が霊力をさらに籠めていき、ついに雷獣の体を斬った。断末魔を上げる雷獣はそのままドシンと倒れた。そして、浄化の炎が燃え出した。
「マズイ! そいつをその場から離れさせろ!」
 俺がそう叫ぶと今までとは比べようがない程の大地震が起きた。立っているのがやっとだ。そして、倒れている雷獣の所から光の柱が上がった。
 ここから確認出来ないけど、恐らく他の所でも光の柱が出ていると思う。
 俺は雷獣に近付くが、光の柱の力で進む事が出来ず、そのまま吹き飛ばされる。何とか着地は出来たけど、このままでは……
「遙歌! 手伝ってくれ!」
 後ろで揺れに耐えている遙歌を呼ぶと、必死でここまでやってくる。
「手伝うって、何するの?」
「あの雷獣を空間転移術で、どこか遠くに移動させる」
「えぇぇぇぇ!? この状況でそれって、かなり難しいんですけど」
「いいから、やるぞ! このままだと最悪な事になってしまう!」
 俺の意思が伝わったのか、遙歌は頷いてくれた。俺と遙歌はお札を取り出して、念じてから雷獣に向かって投げる。五枚のお札が力を発揮しようと光り出した。
「「空間転移術!」」
 印を切り、発動させると、五枚のお札がさらに結界のように包み込んでいき、中にいた雷獣はどんどん消えていった。
 そして、完全に消えてしまうと揺れが収まった。な、何とかなったか……
「ど、どう言う事よ、これは……」
「どう言う事よ、これは……だと?」
 ギロッと俺は高科を睨んだ。流石にこの状況を理解出来ず混乱しているのか、ヒッと怯えた。
「お前の所為だろうだろうが! もう少しで危なかっったんだぞ! 遙歌並みのドジをしやがって!」
「あの、浩輔君……私並みのドジって、何?」
 つまり、一歩間違えたら死を意味している事だよ。
「良いか、よく聞け! 今、起ころうとしていた現象は霊術の予兆だったんだ。しかも巨大な霊術をね。この妖怪はその霊術の方陣を作るための頂点だったんだよ」
 第一の事件から第三の事件までの正三角形と、第四の事件から第六の事件で作ろうとしていた逆正三角形。これらを繋げるための頂点だったんだ。
「正三角形と逆正三角形……六角形の方陣を作ろうとしてたって事なの?」
「そうだよ、遙歌。そして、六角形の方陣を使う霊術は『六亡星滅殺方陣』と呼ばれる霊術しか存在しないのさ」
 子供の頃、師匠に教えられた事があった。
「『六亡星滅殺方陣』は、その方陣に入っている全ての妖怪を完全に消滅させる、最も危険な霊術なんだよ」
「完全に消滅って……それじゃぁ、もしそれが発動していたら」
「あぁ、この町に住んでいる全ての妖怪は滅されていただろうな……」
 まったく、誰がこんな危険な霊術を作ったんだろうか。
「なら、尚更止めてほしくなかったね」
 高科がぼそりとそんな事を言った。
「かなでさん。何言っているんですか!? ここにいる妖怪達が皆滅びかけたんですよ。吹雪さんやみーちゃん、松井さんに、私の家族である妖怪達も!」
「あの、名波君。俺は呼ばれていないのですけど」
 お約束だ……気にするな。
「私は蓮之泉神社の巫女なのよ! 妖怪を殲滅するのが私達の流儀なのよ! そのためなら、どんな犠牲も構わないわ!」
 高科は高科なりに蓮之泉神社の巫女をしているという事か……だったら、これは言うべきだな。
「妖怪を殲滅するのがお前達の流儀だと? そのためなら、どんな犠牲も構わないだと? だったら、教えてやるよ。この『六亡星滅殺方陣』の最大の欠点を」
「最大の欠点?」
「どう言う事だ、コウ?」
「それぞれ、陰か陽の六つの贄を用意せよ。陽を贄にすれば陰は滅され、陰を贄にすれば陽を滅する」
「浩輔君、何の呪文なの、それ?」
「『六亡星滅殺方陣』を作る時の注意点みたいなものだ。六角形の頂点に、その贄を捧げろと言う事だ。しかも、その場で殺さなければならないから、少しでも離れてしまったら術は完成しなかった」
 だから、そうさせない為にあんな結界を作っていたという事だ。
「そして、この霊術の最大の欠点は、その贄を間違えたら取り返しがつかないと言う事だ」
「陰と陽……まさか!?」
 どうやら、遙歌は気付いたみたいだな。
「そうだ。陰とは妖怪の魂、陽は人間の魂の事を言うんだ。『陽を贄にすれば陰は滅され、陰を贄にすれば陽を滅する』とは、人間を生贄にすれば妖怪を滅する事が出来て、妖怪を生贄にすれば人間を滅する事が出来るという事になるのさ」
 この時になって、漸く高科も自分がやった事に気付いたのか、腰が折れたかの様に座り込んで、体が震えて驚いた顔をしている。
「漸く気付いたみたいだな。そう言う事だ。この町には六つの妖怪の生贄が揃っていたのさ」
「じゃぁ、それが発動していたら……」
「完全に消滅していたな……俺達人間だけがな……」
 もし発動していたら、俺や遙歌、そしてこの町に住んでいる人間達だけが完全に消滅させられていたのだ。もちろん、その中には高科も入っている。
「わ、私は……人間を滅ぼそうとしていたの……私自身も……嘘よ…嘘よ……」
「かなでさん」
 遙歌は座り込んでいる高科を、優しく抱き締めてあげる。高科の目から少しずつ涙が零れだした。
 だが、俺はさらに高科に言わなければならない事がある。キツい事かも知れないけど、これを言っておかないと高科は前に進めないかも知れない。
「高科、さらに追い討ちを掛けるかも知れないけど、言わせてもらうぞ。この事件、裏では完全に蓮之泉神社が動いていたはずだ。真犯人に利用されている事も知らずにね」
「そ、そんな……どうして……?」
「もし『六亡星滅殺方陣』が発動して人間が消滅していたら、あっちはどう思う? しかも、神社の巫女である高科も消滅していたらどうなるか。あちらさんは、妖怪がこの様な術を使って、高科事人間達を消したんだと勘違いして、この町に住む妖怪達は危険だと判断して殲滅してくるだろうな」
「おいおい、コウ。それは大袈裟じゃないか」
「大袈裟だと思うか。蓮之泉神社は妖怪殲滅のプロだ。しかも、新米とは言え、自分所の巫女が殺されたとなったら、あっちも黙っていないと思うよ。それにね、あちらさんは欲しかったのかも知れないな、大義名分を」
 この町の調査をしていた巫女が妖怪に殺されたと言う大義名分が出来て、妖怪達を殲滅する事が出来る。これがあちらさんの計画だったのかも知れない。実際に、蓮之泉神社にそう言う動きがあったと、さっき姉さんが言っていたしね。
「わ、私は……利用されていたの……それとも、捨てられていたの……」
 高科の精神が崩れ出している。無理もないか……折角退魔巫女になれて、その最初のお仕事がこんな結末だったなんて信じられないだろう。
「こう言ったらおしまいかも知れないけど、お前は利用されていて、最後に捨てられた。あっちの大義名分欲しさにな」
「浩輔君、それは言い過ぎだよ!」
「だけどな、高科。お前はお前の信じた道を進めば良いんだよ。裏切られても、お前の為にこうして抱いてくれている友達がいる。お前の為に心配している奴もいる。俺も遙歌も、そして勇輝だってお前を裏切らないさ」
「あのコウ。俺を忘れていないか?」
 だから、お約束だって……
「だから、もう良いんだよ……我慢せずに……」
「……うっ……うわぁぁぁぁぁぁ〜!」
 高科は遙歌の胸の中で大泣きした。今まで、我慢していたのが一気に爆発したのだ。
「かなでさん……もう大丈夫だよ。私達がちゃんとついているからね」
「ごめんんさい…ごめんなさい……私……みんなの事、道具だとか……利用するとか言って……ごめんなさい……」
 高科はこれまでの事を謝っている。
「もう良いよ。かなでさん……」
 もらい泣きしたのか、遙歌の目からも涙が零れている。
「う、うぉぉぉぉぉ〜!」
 すると、源一郎がわんわんと泣いた。しかも、物凄い涙と鼻水が出ていて、絵では表現出来ない顔となっている。
「お、お前な……空気読めよ」
 折角の感動が台無しになってしまった。
 
 漸く高科が泣き止んで、ゆっくりと立ち上がった。少し目が腫れているけど、今は見ない事にしてあげよう。
「もう大丈夫よ……ありがとう」
「平気、かなでちゃ……あっ」
 遙歌は高科の事をちゃん付けで呼ぼうとして、口を押さえた。すると、高科はクスっと笑った。
「良いわよ、かなでちゃんで」
「本当に!?」
「えぇ、ずっと言いたかったのでしょう」
「じゃぁじゃぁ、私の事もハルちゃんで良いから」
「……悪いけど、私のイメージ的じゃないから遙歌のままで呼ばせてもらうわよ」
「うぇ〜ん……浩輔君」
 こっちに振るな……俺に何言えって言うんだよ。だが、すっかり高科は元気になったみたいだな。
「さて、高科。気になる事が一つあるけど……」
「使者の事でしょう」
 察しが良いな。完全復活している。
「私も昨日会ったばかりなのよ。最初は寮に戻ったら、私の部屋に蓮之泉神社からの手紙が来ていて、その内容が廃工場にいる使者に会いに行けと書かれていたの?」
「その時、神社に連絡は?」
「もちろん連絡して確認を取ったわ。使者は本当の話だし、場所もそこで合っていると。まさかとは思ったけど」
 あぁ、この時点で蓮之泉神社は妖怪殲滅の計画を立てていたのだろうな。そして、高科を消せば、この事件を知っているものはいなくなる。
「それで? その後はそこに向かったのか?」
「えぇ……」
「どうして、その時浩輔君に頼らなかったの? と言うより、どうやって外出許可を取ったの?」
「……あれ? そう言えば、私、どうやって外出したのかしら? 気が付いたら、その廃工場の前にいた……」
「何……?」
 どう言う事だ? そう言えば、俺はこの時、寮の廊下で遙歌と電話していたから、高科の事に気付いていなかった。
「本当にどうしたんだろう。何だか、プツンとそこだけの記憶が無くなっている様な、そんな感じ……」
「大丈夫、かなでちゃん?」
「源一郎と勇輝はどうなんだ? その時、何か感じなかったか?」
 既に妖力制御装置をつけて、人間の姿に戻っている勇気や源一郎に訊いてみた。
「すまない……俺達もなんだ」
「えっ? 俺達もって……」
「君や名波さんには話していなかったけど、僕達も途中で記憶が途切れている時間があったんだ。多分、君が名波さんと電話している間だと思う」
 それじゃぁ、俺が遙歌と電話している間に何かあったと言う事か……
「ひょっとして、かなでちゃん。浩輔君の部屋に行こうとしなかった。その廃工場に一緒に来てほしいから」
「……多分、そうかも知れない……」
「だとしたら、これはこの事件の真犯人が何か仕掛けたと言う事だね」
「そうだな。その廃工場がどんなのか覚えているか?」
「場所も覚えているわ」
 なら、何か手掛かりがあるのかもしれない。そこに行ってみるか。
「っ!? 何だ!?」
 すると、何か変な妖気がこっちに向かっている。しかも、一つだけじゃなく、たくさんある。二十、いや三十ぐらいだ。
「くっ、この変な妖気……嗅ぐだけで吐き気がする」
 コツコツと靴音が聞こえて、俺達の前に現れる。そこには、サラリーマンの男がゆらゆらと体を揺らしながら、歩いている。まるで、ゾンビの様にだ。
「こいつ……普通じゃないぞ」
「浩輔……彼だけじゃないみたいよ」
 勇輝が周りを見ろと合図すると、四方八方からあの男と同じ様な動きをする人達が次々と現れる。
「この人達、全員この町に住んでいる妖怪だよ」
 遙歌はビックリしながら言った。
 一体、何がどうなっているんだ……
 
 
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遙歌「読んでくれました皆さん、はじめまして。『霊盟摩訶不思議探検会、後書きコーナー(仮)』のパーソナリティーの名波遙歌です」
かなで「高科かなでです」
遙歌「な、何とか〆切ギリギリだったね……」
かなで「夏コミの時に一ページも書かなかったのが敗因なのよ。少しぐらいやっていたらこんな事にはならなかったのに……」
遙歌「でも、夏コミが終わってから寝る間も惜しんで、殆ど徹夜で書いていたから間に合ったんだよね」
かなで「まぁ、書きたかった所だったから良かったものの、プロットに書いていない所だったらどうなっていたか……」
遙歌「そうだね。この事件の目的とかは当初から決まっていたし、そして最後はどうやるのかも決まっていたからね。スムーズに書いていたよね。でも、私が一番嬉しかったのは、やっとかなでちゃんと呼べるところかな」
かなで「やっぱり、止めてほしいわ……」
遙歌「さてさて、そんな訳で、次回はついに黒幕登場。果たして、黒幕さんの真の目的とは何か。そしてゾンビの様に襲いかかろうとする妖怪達に囲まれた私達はどうなるのか。次回『犯人は●●さん!!』をお楽しみください」
かなで「何、犯人の名前を言おうとしているのよ!? 一番やっちゃいけないことでしょう!!」
遙歌「大丈夫だよ。犯人はヤスと言っておけば良いのだから。それでは、本日はここまで」
かなで「良いのかしら……それでは、また次回お会いしましょう」 
 
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