紅魔六・九合戦
 
 午後十一時
 
 紅魔館。
幻想郷にある霧の湖の近くにある洋館で、吸血鬼が住んでいると言われている危険な場所である。しかも、夜は吸血鬼がもっとも活動している時間であり、その存在は恐ろしいぐらいに不気味である。
 一人のメイドが紅魔館の廊下をゆっくり歩いている。銀色の髪に透き通る様な青い瞳。青と白のメイド服に、白のヘッドドレス、華奢な体であるが、その優雅さはまさに瀟洒と呼ばれる。
彼女の名前は十六夜咲夜。この紅魔館で唯一の人間で、メイド達を指揮するメイド長である。もっとも、ここにいるメイドをしている妖精たちは、あまり役に立たないから結果的に彼女がメイド長をする事になったのだ。
 咲夜は一つの部屋の前でピタリと止まり、部屋の扉をノックする。
「失礼します、お嬢様」
 そう言って、咲夜は扉を開けた。蝋燭の火だけが照らされた薄暗い部屋。奥には玉座があり、そこに誰かが座っている。
「お疲れ様、咲夜。ワインの一杯貰えないかしら」
「はい、ただいま」
 主の命令を受けて、咲夜は懐中時計を取り出して時間を止めた。そして、その体とは思えないほどの速さで厨房に行きワインを一升瓶選び、これまた物凄い速さで先程の部屋に戻り、時を動かした。その時間は普通の時間では五秒も掛かっていなかった。
「お待たせしました」
 咲夜は主の傍にあるワイングラスにワインを注ぐ。ワイングラスを持ち、優雅にワインを飲む。
 薄紫色の髪に真っ赤な瞳、薄い桃色の帽子と服、背中には蝙蝠の羽が生えている。
 そう、この主が紅魔館に住む吸血鬼、永遠の幼き紅い月と言われたレミリア・スカーレットである。
「いよいよね、咲夜」
「そうですね……」
 レミリアの言葉に咲夜はただ微笑むだけである。それは、決して貶しているのではなく、言う事はもう分かっているのであると言う事である。
「もうすぐ始まるわ。この日をどれだけ待っていたのか」
「日付を見る度に、まだかまだかと仰っていましたからね、お嬢様は」
「うふふ、そうだったね」
 レミリアがもう一度ワインを飲もうとした時、蝋燭の一本の火がふっと消えた。そのため、その周りだけ何も見えなくなった。
 
 くすくすくすくすくすくすくす………
 
 部屋中に誰かの笑い声が響く。レミリアと咲夜は特に驚く事はなかった。二人はその笑い声の正体を知っているからだ。すると、先程の見えない場所からキランと紅い瞳が光った。
「ねぇ、お姉様。本当に今日は私も参加して良いの?」
 ゆっくりとレミリアに近づいてきて、蝋燭の火で姿を現した。金色の髪にレミリアと同じ真っ赤な瞳、フリルのついた白のブラウスに赤のベストに赤のスカート、背中には七色の結晶体がついた翼が生えている。
 レミリアの妹にして狂気の吸血鬼、フランドール・スカーレットはくすくすと笑っている。
「えぇ、フラン。年に一度のお祭りだもの。貴女にも楽しんでもらわないとね」
 うふふと笑うレミリアはパチンと指を鳴らすと、先程消えていた蝋燭の火がまた点いた。
 コンコンと誰かが扉をノックする。
「門番隊隊長、紅美鈴。只今参りました」
「入って良いわよ。みんなもう集まっているわよ」
 レミリアは最後に現れる者を招き入れる。赤い髪をして青い瞳、緑が目立つ中国風の服。
 この紅魔館の門番をしている気を使う中華妖怪、紅美鈴はおずおずと部屋に入ってくる。彼女もまた、フランと同じこの祭りは初めてであるからだ。
「そんなに怯えなくてもいいのよ、美鈴。貴女も楽しめるからね」
「あ、はい」
 やや緊張気味の美鈴。彼女は今宵午後十一時に、この玉座の間に来る様にと咲夜に言われただけであるからだ。だから、詳細を知らないため緊張しているのだ。
「さて、これで全員揃ったわね」
 レミリアは玉座から立ち上がる。
「あ、あの、レミリアお嬢様……まだ、パチュリー様が来ていないのですけど」
 美鈴はまだここに来ていない者の名を出した。
「良いのよ。むしろ、パチェがこの祭りの主役なのだから」
 そ、そうなのですかと美鈴は思った。パチュリーが主役とは一体何の祭りなのだろうと思っている美鈴。
「ところで美鈴。咲夜から聞いているけど、ちゃんと用意してきたのでしょうね」
「あ、はい。咲夜さんに頼まれまして、私を含め門番隊二百人、現在本館前に待機しています」
 実は咲夜から、もう一つ言われていた事である。今夜門番隊二百人用意しておきなさいと。どうして用意しないといけないのかと訊くと、咲夜は夜になったら話すと答えた。
「上出来ね。咲夜の方はどう?」
「こちらも私を含めメイド隊二百人を紅魔館に配置しておきました」
 咲夜は事前にメイド隊を選抜していたのである。
「流石、咲夜ね。あと、フラン。貴女にはEX部隊百人を用意しておいてあげたわ」
 指をパチンと鳴らすと、どこから現れたのか妖精メイド百人現れて、一斉にお辞儀をする。
「「よろしくお願いします、フランドールお嬢様!」」
「うわぁ、凄いね。でも、お姉様。私は一人でも良いのに」
「それはダメよ。ルール上、単騎は厳禁なのよ。私も一応、自分の部隊を三百人と妖精メイドだけの部隊二百人も用意しているのだから。咲夜、これで何人になったかしら?」
「はい…美鈴率いる門番部隊二百人と、私率いるメイド隊二百人、妹様率いるEX部隊百人、お嬢様率いる部隊三百人に、妖精メイド隊二百人で、丁度千人になりました」
 ちなみにこんなに妖精メイドがいるのかは聞かないで下さい………
「くすくす……さぁ、あちらはどういう状況かしらね」
 レミリアはグラスに入っている最後の一滴を飲んだ。
 
 午後十一時三十分
 
 ヴワル魔法図書館。紅魔館の地下にある巨大な図書館で、外の世界で幻想となった本などが自動的にここにやってくる。
 図書館の中心にテーブルとイスがあり、イスに誰かが座っている。紫色の髪と瞳に、三日月の髪飾りが着いた薄紫色の帽子に薄紫色の服を着ている少女が黙々と本を読んでいる。
 彼女がこの魔法図書館の主にして魔女、パチュリー・ノーレッジである。自ら問題を起こしては解決したり、色々知識を持っている。
「パチュリー様、紅茶のおかわりはいかがですか?」
 パチュリーの傍に一人の女性がティーポットを持ってくる。赤い髪と瞳、髪の左右に蝙蝠の羽根の髪飾りを着けていて、白のブラウスに黒のベストとスカートを着て、背中に蝙蝠の羽に、悪魔の尻尾が生えている。
 彼女は小悪魔と言って名前は特に無い。彼女自身も自分に名前は無いと言っているから、この紅魔館では小悪魔と呼ばれている。パチュリーの使い魔でこの図書館の司書をしている。
「ありがとう、こあ……頂くわ」
 ティーカップを小悪魔に差し出すと、小悪魔は丁寧にティーポットから紅茶を注いで、テーブルに新しい紅茶が入ったティーカップを置いた。パチュリーは本を閉じて、小悪魔が淹れてくれた紅茶を飲む。
「さて、こあ。こちらの配置は出来ているのかしら?」
「はい!」
 小悪魔が右手を上げると、魔法陣が展開さえ何かの立体映像が出てくる。それはこの図書館の映像である。
「先程、皆さんに配置の指示をしておきました。まずは図書館入り口にて妖精メイド隊二百人とトラップ魔法陣百個設置しまして、対空戦闘用に妖精メイド隊百人とEX部隊百人、壁際にEX部隊百人とトラップ魔法陣百個設置、中心部に私率いる図書館防衛部隊二百人にパチュリー様率いる防衛部隊三百人にトラップ魔法陣百個設置しました。総合合わせて千人の防衛と三百個のトラップを配置、設置しました」
「そう、ご苦労様。毎年貴女には色々やってくれて感謝しているわ」
「いいえ、これも使い魔として当然ですよ。それに、今年はフランお嬢様に美鈴さんも参加されますからね。いつもの何倍かは覚悟しないといけませんからね」
 そうねとパチュリーは紅茶を飲みながら、これから起こる祭りに対して、色々と作戦を考えないといけない。
「そういえば、こあ。現在、私達は何勝何敗だったかしら?」
 パチュリーが小悪魔に訊くと、小悪魔はポケットに入れていたメモ帳を開いて確認する。
「えぇと……幻想郷に来てから始まりましたので、過去七回行われまして、私達は四勝三敗です。その三敗は、最初に行われた一回目と四回目と六回目です」
 小悪魔から聞いて、パチュリーはこれまでの敗因をもう一度思い出す。
 一回目の時は全くルールを知らなくて、簡単に負けた事は覚えている。四回目は二連勝した事で咲夜まで出してきたからレミリアを甘く見ていて負けて、六回目はついに妖精メイド達は巻き込んで、最早合戦だった事は覚えている。そして前回つまり去年、こちらも妖精メイドの他にトラップを仕掛けた事は覚えている。
そして、今年はついにフランや美鈴、さらにEX部隊まで使ってくると言う事だ。もう完全に戦争ですよね………
「それで、パチュリー様……今回の作戦はどうなさいますか?」
 小悪魔はパチュリーの作戦に胸がドキドキしている。小悪魔自身、実は少しこの祭りを楽しんでいるのだ。
「……こあ。楽しんでない?」
 ギロッとパチュリーは小悪魔を睨む。
「ふぇ!? そ、そんなこと、あ、ありませんですよ」
 動揺している時点で説得力は無いに等しい。結局、パチュリーに本で叩かれる小悪魔であった。
「まったく、こっちはいい迷惑よ」
 パチュリーはこの祭りをあまり楽しんでいない。それは当然である。何故なら、相手の目的はパチュリーだからだ。
「ご安心下さい、パチュリー様。私達が必ずパチュリー様をお守りいたしますので!」
 復活した小悪魔は物凄く燃えている。
「あまり暴走しないでね………それと、前みたいに寝返ったらどうなるか、分かっているでしょうね」
「い、イエス! マイロード!」
 敬礼する小悪魔。前回の事をまだ根に持っているパチュリー。前回、小悪魔はレミリアに買収されて寝返った事がある。もっとも、それによって完全にキレたパチュリーは、魔力増幅版のロイヤルフレアを放って勝利したのだ。小悪魔も流石に反省して、今年は寝返らないように頑張ろうとしている。
 
 午後十一時四十五分 玉座の間
 
「さて、そろそろ行こうかしら」
 レミリアは立ち上がり、ゆっくりと玉座の階段を下りていく。その途中、レミリアは持っていたワイングラスを放り投げると、咲夜は瞬時にワイングラスが落ちる所に向かい、落ちてくるワイングラスをハンカチで包み、また広げるとワイングラスが消えた。
 フランはただくすくすと笑っている。だが、それは今から始まる祭りを想像して、笑いが込み上げているのだ。今か今かと待ち焦がれている。
 ただ一人、美鈴だけはこの空間に漂う狂気に体が震えだしている。一体、今から始まる祭りとは何なのかと考え出す。
「さぁ、今年こそ………」
 ニヒルと笑うレミリアは、右手に力を入れて叫んだ。
 
「パチェに『むきゅ〜』と言わせてみせる!!」
 
 ………え?
 美鈴の目が点となった。
 
 真タイトル
  む・きゅ〜
紅魔『六・九(』合戦
 
 レミリアのカリスマゲージが六十%ダウンした。
 それに伴い、今まで点いていなかった電灯が点き始めた。咲夜はパチパチと拍手をして、フランは持っていたタンバリンを叩く。そして、状況が分からない美鈴はまだ固まっていた。
「……ちょっと、何で明かりが点いているのよ。ここはまだ点けちゃダメでしょう、咲夜!」
 レミリアの段取りでは、この後の作戦タイム時に、灯りを点ける手筈だった。しかし、咲夜が勝手に電灯を点けてしまったのだ。
「残念ですが、お嬢様のカリスマゲージが五十%以下になってしまいましたので、フラグが立ちませんでした」
「えぇ〜!? せっかくここまで頑張ったのに〜!」
 がっくりとレミリアの膝が折れる。
 レミリアのカリスマゲージが五%ダウンした。
「残念だったね、お姉様」
 最早茶番劇となったこれに付き合っていたフランは、よしよしとレミリアを慰める。
「……はっ! あ、あの、咲夜さん……」
 漸く戻ってきた美鈴が咲夜に尋ねると、咲夜は頭を下げる。
「貴女には何も言わなくて悪かったわ。お嬢様も門番に言わなくても大丈夫でしょうと言っていたから、言わなかったのよ。貴女の表情でお嬢様のカリスマゲージが一気に下がってしまったけどね」
「す、すみません!」
「謝らなくてもいいのよ。お嬢様のカリスマを世界に轟かせたいと言う事で行った事ですし、何よりも毎年やっていることですから」
 やれやれと咲夜は溜め息を吐きながら首を横に振る。美鈴は苦笑いするしかなかった。
「いつもは下がらないのですか?」
「たまに最後まで行く事もあるけど、最近はこの辺りでゲージが一気に下がっていくから、最後まで持たないのよ。まぁ、私が下げるようにしているのですけどね。ヘタれるお嬢様が見たいから」
 やっぱり咲夜さんは最強だと美鈴は思った。その満面な笑顔を見ていると何も言えなくなる。
「じゃぁ、今回の趣旨は……」
「えぇ、今からこの軍勢で図書館まで行き、パチュリー様率いる図書館防衛軍を撃破して、パチュリー様に『むきゅ〜』と言わせるのよ。もうすぐ、六月九日でしょう」
「六月九日……『むきゅ〜』の日ですか!?」
 漸く気付いた美鈴。
「そう言う事よ……お嬢様のためにも貴女も頑張りなさいよ」
「は、はい………」
 曖昧な返事をしてしまった美鈴に、何かが左頬を掠めた。後ろを振り向くと一本の投げナイフが壁に刺さっている。
「ガ・ン・バ・リ・ナ・サ・イ・ネ?」
「サー、イエッサー!」
 敬礼をする美鈴。これは最初でやられたら、お仕置き決定だと言っている様な感じである。
「咲夜。門番の説明は終わった?」
 いつの間にか立ち直ったレミリアに呼び出される咲夜。
「はい、只今終わりました」
「それじゃぁ、今回の作戦を説明するわね」
 レミリアを中心に今回の作戦を説明するレミリア。
 
 午後十一時五十分
 
「以上です。それでは皆さん、持ち場に着いて下さい」
 小悪魔の説明が終わり、それぞれの部隊長は持ち場へと戻っていく。
「これで大丈夫でしょうか、パチュリー様?」
 小悪魔は今回の作戦についてパチュリーに尋ねる。パチュリーは相変わらず本を読んでいる。
「どうかしらね。妹様と門番まで引っ張ってくるのだから、レミィはかなり本気で来るわよ。もっとも、レミィがどんな作戦で来ようとも、こちらは二重三重の罠を仕掛けないといけないけど、出たとこ勝負のつもりで行かないといけないからね」
 緻密な計算をするパチュリーの作戦のダークホースは、今回初参加のフランと美鈴とEX部隊である。こちらもEX部隊を使う事が出来るけど、フランの爆発的な破壊力と美鈴の火力も強力である。この二人の部隊がどの様に動くかによっては、作戦を変えないといけないからだ。
「と言うよりも、四対二と言う時点で私達が不利なんだけどね………」
「パチュリー様に『むきゅ〜』と言わせたい気、満々ですよね。でも、私もパチュリー様が『むきゅ〜』としている姿は見てみたいのですけど……あぁ、大丈夫です!? 今回はちゃんと最後まで頑張りますので! ですから、その笑顔でロイヤルフレアを撃たないで下さい!」
 慌てふためく小悪魔にロイヤルフレアを撃とうとするパチュリー。本気で撃とうとしたが、小悪魔の必死さに撃つのを止めた。
「まったく、本当にいい迷惑よ。早く終わってほしいわね……」
 もうすぐ合戦開始の時間になるにつれて、胃が痛くなりそうなパチュリーである。これさえ終われば、またゆっくり本が読めるだろうと考えるが、それは無いだろうと首を横に振る。今回は今までより時間が掛かるかも知れないからだ。
「パチュリー様、そろそろ時間です」
「えぇ、分かっているわ。こあ、お願いするわ」
「了解しました」
 小悪魔は魔法陣を展開して、各部隊長に連絡する。
「全部隊、第一戦闘態勢に移行。気合を入れてパチュリー様を守ってくださいね。それでは、パチュリー様からご挨拶があります」
 小悪魔がそう言うと、パチュリーは小悪魔が使った魔法陣を展開する。
「みんな、こんな?な遊びに付き合ってくれて感謝するわ。私の方についてくれた事もね。貴方達の力を頼りにしているわ。そして、私達が勝ったら、貴方達にちゃんとした優遇を用意してあげるわ。それでは武運を祈る」
 そう言って、パチュリーは魔法陣を消した。優遇してもらえると知った妖精メイド達の士気が上がっていく。
「さぁ、こあ。もう少ししたら、レミィ軍が扉を開ける時間になるわ。用意は出来ているわね」
「お任せください。全てパチュリー様の言うとおりにしましたので」
 レミリア軍を迎え撃つパチュリー軍。
 
 そして、図書館の扉前で突撃準備をするレミリア軍。
「いいわね。私が立てた作戦通りに行けば、絶対に勝てるわ。用意は出来ているわね、みんな!」
 腕を組んで軍に活を入れるレミリア。妖精メイド達も『おぉ!』と叫んだ。
 レミリアのカリスマゲージが二十%アップした。
「お嬢様、もうすぐ零時になります」
 咲夜が持っていた懐中時計で時間を確認する。あと一分で午前零時になり、開戦の時間となる。
「ワクワクするね。早くパチュリーが『むきゅ〜』と言う顔が見てみたい」
 フランはまだかまだかとレーヴァテインを振り回す。
「ここでお嬢様のお役に立たないと……」
 今まで目立たなかった美鈴は、この戦いで自分の株を上げようと燃えている。
 そして、あと十秒…九、八、七、六、五、四、三、二、一……
 
 六月九日 午前零時 開戦
 
 ここで、この合戦のルールを概ね説明しましょう。
 舞台はヴワル魔法図書館全域で、図書館に入れる場所は、現在レミリア軍とパチュリー軍入り口部隊の間にある図書館出入り口の一つだけである。レミリア軍はここからでないと入る事が出来ない。しかも扉は一部隊しか入る事が出来ず、全部隊がいきなり入れると言う訳ではないのだ。また、図書館にある本棚には特別な防御魔法が施しているため、どんな強力な攻撃が来てもびくともしない。これは言わば、迷路の壁と言う事である。もちろん飛行は有りです。そして、制限時間は無制限。
 戦い方は全て弾幕勝負のみであり、武器等は一切無しです。もっとも咲夜の投げナイフや美鈴の気功技、小悪魔の魔法は弾幕として認められている。妖精メイド隊とEX部隊だけが弾幕だけであるのだ。また、パチュリー軍にはトラップ魔法を仕掛けていて、これに掛かると何が起こるか分からないのだ。小ダメージのものがあれば、部隊が全滅するぐらいの巨大なトラップもあると言う事だ。
 そして、お互いの勝利条件は以下の通りです。
 
 レミリア軍勝利条件……パチュリー・ノーレッジ撃破
 
 パチュリー軍勝利条件……レミリア軍を全滅
 
 まぁ、概ねこんな感じでしょうか……細かい説明はまたあとで説明します。それでは、そろそろ図書館の扉が開きますので、本編に戻ります。
 
 図書館の扉が開き、レミリア軍が動きだす。
「さぁ、先陣は任せたわよ、美鈴」
「お任せください、お嬢様。門番部隊、行きます!」
 美鈴を先頭に門番部隊二百人が先陣を切った。そして、入り口に構えていたパチュリー軍妖精メイド部隊が弾幕を撃ってきた。負けずと門番部隊も弾幕を撃っていく。すると美鈴が、ある格闘家の飛び道具の構えを取る。
「先手必勝。星気『星脈地転弾』!」
 美鈴が巨大な気弾を打ち出し、パチュリー軍妖精メイド部隊を一気に潰していった。
「おぉ、凄いね、お姉様。門番が妖精メイド部隊を一気に全滅させちゃったよ」
「当然よ。門番をやらせるなら、妖精メイドでは役不足よ。本家門番である美鈴でないと門番なんて出来ないのよ」
 レミリアの作戦通り、入り口に構えている妖精メイド部隊は、美鈴率いる門番部隊だけで全滅させる事が出来ると踏んでいた。
 レミリアのカリスマゲージが十%アップした。
「やりましたよ、お嬢様。このまま押し切ってみせます!」
 美鈴が図書館の中に入ろうとした瞬間………
 
 ドッカ〜〜〜〜ン!!
 
 いきなり大爆発が起きる。しかも、一回だけでなくそれが連鎖的に起こり始め、門番部隊を次々と潰していく。
 これは、パチュリー軍が仕掛けたトラップ魔法である。入り口に仕掛けていた百個のトラップが一気に発動して美鈴率いる門番部隊を全滅させたのだ。
 それを見ていた咲夜は頭を押さえた。
「何をやっているのかしら、あの子は……」
「いいえ、門番はちゃんと役目を果たしてくれたわ。これで入り口に仕掛けられていたトラップは全部無くなったからね」
 そう、レミリアは最初から美鈴達門番部隊を囮に使って、入り口に設置されていたトラップ魔法を全部発動させるようにしたのだ。前回レミリアはこの入り口のトラップ魔法で多くの部隊を全滅させられたので、今回は美鈴達を捨て駒にしてトラップを回避させたのだ。
 
「入り口部隊全滅、並びにトラップ魔法全て発動し、美鈴さん率いる門番部隊を全滅させました」
 パチュリー軍本部にて、パチュリー部隊と小悪魔部隊と一緒にある防衛軍の司令部から報告が来た。
「やはり門番は捨て駒で来たわね。レミィの考えそうな事ではあったけど、トラップが全部発動してしまうとはね……」
 大方予想していた事とはいえ、これで入り口は完全に押さえられて、こちらは逃げる事が出来なくなった。あとはこの図書館で戦うしかなくなった。
「パチュリー様、そろそろ私達の部隊が動きましょうか?」
 小悪魔は自分の部隊をレミリアの本隊と戦おうとしている。
「いいえ、こあ。貴女達の部隊には、もっと強力な敵と戦ってもらうわ」
 
 入り口のトラップが全部無くなった事を確認すると、レミリア軍は次々と図書館の中に入っていく。
「貴女達は言われたとおり、ここを守りなさいよ」
 レミリアは妖精メイド部隊二百人を入り口に置いた。これで、パチュリー達はここから出る事が出来なくなるからだ。
「ねえねえ、お姉様。もう私達の部隊は行っても良いかな?」
 フランはもう戦いたくてうずうずしている。しかし、レミリアは首を横に振った。
「ダメよ、フラン。貴女達の部隊には、もっと強力な敵と戦ってもらうわ」
 
「そう、妹様の部隊と」
「そう、リトルの部隊と」
 
 レミリアとパチュリーはどうやら同じ事を考えていた。お互いの部隊で一番強敵なのはフラン率いるEX部隊と小悪魔率いる図書館防衛部隊である。恐らく、そこを先に潰せば勝利に近づく事が出来る、だから、自分達の強力な部隊で潰そうと考えているのだ。
 
「だから、こあ。貴女は妹様の部隊をしっかりここで見ていて、ここに近づいてきたら抑えに行く。良いわね?」
「りょ、了解です!」
 パチュリーの命令に了承する小悪魔。
 
「だから、フラン。貴女達はこのまま前に進んでいって、リトルの部隊を潰してきてね。良いかしら?」
「分かったよ、お姉様! それじゃぁ、行ってきます!」
 フランはEX部隊をつれて、図書館の迷路に入っていった。
「では、お嬢様。私達も行きましょう」
「そうね、行くわよ」
 残った咲夜とレミリアの部隊は空を飛んでパチュリー軍の本隊がいる中心部に向かう。
 
 パチュリー軍本部にある司令部から、またしても報告が来た。
「報告します。レミリアお嬢様率いる部隊と咲夜さん率いる妖精メイド部隊が、空を飛んでこちらに接近してきます。そして、フランお嬢様率いるEX部隊は図書館の迷路を進んでいます」
 報告を聞いたパチュリーは目を閉じると、くすっと笑った。
「やはり、そう来たわね、レミィ。私の作戦通りよ」
 パチュリーは、既にレミリア軍の動き方を読んでいたのだ。
「対空戦闘用の妖精メイド部隊とEX部隊に連絡。プランAと報告して」
 パチュリーの指示に従い、司令部の妖精メイドが対空戦闘用に待機している妖精メイド部隊とEX部隊に指示を出す。
「プランA実行、プランA実行。総員指示された位置に移動してください」
 指示を聞いた妖精メイド達が移動し始める。
「さて、こあ。私達もそろそろ動くわよ。司令部は随時報告をお願いね」
「了解です。フランお嬢様の部隊の方は?」
「現在、ポイントS217を移動中。もうじきトラップ魔法を設置した場所に向かおうとしています」
 小悪魔はフランの部隊を確認している。
「それでは、パチュリー様。先に出陣してきます」
「えぇ、私の予想だけど、妹様はただ遊びたいだけで参加していると思うから、思いっきりやってあげれば満足すると思うから、貴女も全力で相手して上げなさい」
「分かりました。それでは防衛部隊行きます!」
 小悪魔と防衛部隊が出陣する。
「さぁ、レミィ。覚悟しなさい」
 パチュリーは帽子を被りなおすと、右手を突き出して魔法陣を作った。
 
 レミリアの部隊と咲夜の部隊が空を飛んでいると前から物凄い弾幕が飛んできた。
「邪魔よ。神槍『スピア・ザ・グングニル』!」
 レミリアがグングニルを勢いよく投げる。弾幕を掻き消していき、向こう側にいる部隊を吹き飛ばした。
「ふん、楽勝ね。最初のトラップさえ無くなれば、私に敵う者なんていないのよ」
「ですが、お嬢様。そろそろ、パチュリー様が何か仕掛けてくると思いますよ」
 咲夜が周りを警戒しながらレミリアの後ろで飛んでいる。あのパチュリーが、このまま何もしてこないわけが無いと考えている。
「えぇ、その通りよ、咲夜」
 すると、レミリアと咲夜がいる所から声が聞こえた。しかも、それはありえなかった声であった。
 レミリア達の前に魔法陣が現れると、そこから誰かが姿を現した。
「なっ!?」「そんな!?」
 レミリアと咲夜は驚いた。
「どうしての。レミィ、咲夜。私がここに来る事は予想外だったみたいね」
 そう、現れたのは敵軍の総大将、パチュリーだった。さらに、次々と魔法陣が現れると、そこからパチュリーの部隊である図書館防衛部隊が次々と現れて、弾幕の一斉射撃を撃ってきた。不意を突かれたレミリアの部隊と咲夜の部隊である妖精メイド達が、次々と被弾して堕ちていった。
「パチェ……やってくれるじゃない。お前達は少し下がりなさい! 逃げる際は背中を向けるな! 被弾するわよ!」
 レミリアはまさかのパチュリー登場に対応が遅れたが、すぐに指示を出して妖精メイド達を後方に下げる。
「あら、いつもの様に『う〜』と泣き顔にならないみたいね。少しはカリスマが出てきたのかしら」
「いつも出ているわよ!」
 レミリアのカリスマゲージが三%ダウンした。
「お嬢様、カリスマゲージが下がりました」
「はっ! ふふ、危うくパチェのペースに嵌まりそうだったわ。感謝するわ、咲夜」
 レミリアのカリスマゲージが三%アップした。
「でも、以外ね。まさかパチェがこんな前線に出てくるなんてね」
「このまま待っていたら、いずれ妹様の部隊と合流されて篭城戦になるかもしれないからね。だから先にこちらから動く事にしたのよ。あと、妹様の部隊は、こあの部隊に行かせたわ」
「やはりね。私もリトルの部隊が怖いから、フランをぶつけてあげようと思ったから別行動させたけど、正解みたいね」
「お互い考える事は同じと言うわけね……レミィと同じ頭脳だと思われるから止めてほしいわ」
「どういう意味よ、それは!?」
「言葉通りの意味よ」
「今日はいつになく毒舌ね、パチェ。まぁ、いいわ。ここであんたを潰せば良いのだからね」
「うふふふ、残念だけど。もうチェックさせてもらったわ」
 パチュリーは指を鳴らす。すると、上空から巨大な魔法陣が出現する。そこから、物凄い熱気が出始め、ギンギンと何かが照らしている。それはまるで太陽である。
「これでチェックメイトよ。偽陽符『アーティフィシャルサンライズ』!」
 人工で出来た太陽の光が照らされ、レミリアの体がどんどん蒸発していく。吸血鬼の弱点を突いた見事な魔法である。
「お嬢様! 日傘です!」
 咲夜はどこから出したのか黒の日傘をレミリアに向けて投げる。レミリアはすぐに受け取り日傘を差した。何とか蒸発されずにすんだ。
「あら、惜しかったわね。もう少しでレミィを仕留められると思ったのだけど」
「パチェ……本気で殺す気満々だったでしょう」
「えぇ、当たり前でしょう」
 即答で答えるパチュリー。それにはレミリアもプチンとキレた。
「覚悟しなさい! あんたを倒したら、一日中『むきゅ〜、むきゅ〜』と言わせ続けてやるから!」
 レミリアは日傘を持っていない方の指の中指だけを上に向けると言う、決して人に向けてはいけない事をした。そして、レミリアはたくさんの弾幕を放った。完全に頭に血が上っている証拠である。
「甘いわね」
 パチュリーはスイスイと弾幕を避けていく。まるで博麗神社の巫女の様に、当たり判定が小さい様なそんな感じである。
「……おかしいですね」
 レミリアとパチュリーの勝負を外から見ている咲夜は、何か違和感を覚えた。いくらレミリアが頭に血が上っているとはいえ、あんなにたくさんの弾幕をパチュリーが簡単に避けるなんて出来るのか。そもそも、パチュリーは体力が無いから、弾幕を自分の魔法で掻き消すタイプである。それが逆に避け続けているのだ。
「………っ! まさか!?」
 咲夜は何かに気付いた。それは、パチュリーがここにいるという時点でおかしいと言う事だ。
「すみません! 失礼します!」
 咲夜は懐中時計を取り出し、時間を止めた。そして、パチュリーの周りに投げナイフをセットして、時を動かした。パチュリーが気付いた時には、もう目の前にナイフが来ている所である。
「っ!」
 パチュリーはギリギリで避けた。すると、パチュリーの周りにカチカチと何かの音が聞こえた。そう、これはグレイズの音である。
「やはり、そうでしたか……」
「どういうことよ、咲夜?」
 漸く冷静さを取り戻したレミリアは攻撃を中断して、咲夜を見る。
「これはパチュリー様の偽者です。そして、あの太陽は恐らく気質の烈日です」
 烈日とは強く照り続ける夏の太陽であるから、レミリアには最悪の天候である。
「……はぁ。もうバレるとは思わなかったわ。ちょっとやりすぎちゃったかしら」
 すると、パチュリーの体が一瞬何か映像の様にぶれが生じた。
 
 そう、パチュリーはまだ自軍の本部にいるのだ。パチュリーの前には魔法陣があり、そこからレミリア達の姿が映っている。そしてパチュリーの手にはゲームのコントローラーみたいなのを持っていて、耳にはマイクが付いているイヤホンをつけている。つまり、これで自分を動かしていたり、声を出したりしていたのだ。
「手の内を曝し過ぎたわね。ちょっとゲームを楽しみすぎたのが失敗だったみたいね」
 うんうんと司令部の妖精メイド達が首を縦に振る。ゲームに集中していたパチュリーの姿は、本当にゲーマーであったからだ。
 
「と言う事は、このパチェを倒しても私達の勝ちと言う訳ではないのね」
「そう言う事です。言うならば、中ボスのパチュリー様と言う事です」
 状況が分かったレミリアはやる気を失った。
「それじゃぁ、さっさとここを抜けて、あいつの所に行きましょう。何だか、馬鹿馬鹿しくなったわ」
 すっかりやる気の無いレミリアを見て、パチュリーはニヤリと笑う。
「悪いけど、レミィは私と戦ってもらうわよ」
 すると、レミリアとパチュリーの周りに巨大な結界が張られた。咲夜は周りを見るとパチュリー軍の妖精メイド達が陣形を取っていたのだ。それは結界魔法陣の配置である。パチュリーの言うプランAとは、この事である。レミリアを閉じ込める結界魔法を作る事である。
「つまりここで私を足止めすると言う事ね。最初からこれが狙いだったと言う事ね」
「そう言う事よ。流石に貴女達二人同時でも、私一人では無理があるからね」
「お嬢様……」
 咲夜はレミリアの指示を待つ。自分的にはレミリアを置いて先に行く事は出来ない。だが、ここで待っていても何も出来ない。だからこそ、レミリアの言葉を待つしかなかった。
「パチェ、こんな結界如きで私の足止めが出来ると本当に思っているの? こんな結界、これでぶっ壊してあげるわよ」
 レミリアはそう言うと、日傘を持っていない手から槍を取り出した。
「ぶっ壊れな! 神槍『スピア・ザ・グングニル』!」
 結界目掛けてレミリアはグングニルを投げた。
「そうはさせないわ。さぁ、我が元に現れなさい。神盾『シールド・ジ・アイギス』!」
 パチュリーが唱えると、魔法陣から巨大な盾が現れた。その盾をグングニルにぶつけようとする。すると、槍と盾は交わる事無く一瞬で消えた。
「バカな!? 神の槍をそんな盾で守ったと言うのか!」
「忘れたの? 神の槍と神の盾は決して交わってはいけないのよ。それが神々の掟だからよ」
 パチュリーの言うとおりである。全てを穿つ神の槍と、全てを守る神の盾が交われば『矛盾』が出来る。だからこそ、神々はこの二つを交わらない様に相殺させたのだ。
「そして、この結界はグングニル以外では壊す事は出来ない。これがどう言う事か分かるでしょう」
 レミリアは表情が歪んだ。手は完全に潰された。
「咲夜!」
「お嬢様!」
「貴女は自分の部隊を連れて、このまま本物のパチェの所まで行きなさい!」
 それは主を置いて、ここを離れると言う事である。それは従者として、したくない事である。
「従者が主を置いていくなんてしたくないと思っているけど、見ての通りよ。私はここから出られそうに無いわ。だから、貴女がパチェの所に行って、少しでもパチェにダメージを与えれば、ここの結界も消えるかもしれないわ。これは命令よ」
「………分かりました。ご無事でいて下さい」
 頭を下げて、咲夜は自分の部隊を呼んで先に進んだ。
「さて、パチェ。しばらく、貴女の遊びに付き合ってあげるわ」
「えぇ、来なさい。レミィ」
 レミリアとパチュリー(偽)の戦いが始まった。
 
「きゃはははは! 楽しいね!」
 そして、図書館の迷路を進んでいたフランの部隊は仕掛けられたトラップに引っかかっていた。だが、それは部隊に致命的なダメージではなく、小規模なものであった。だから、フランはそれらを片っ端から壊しているのだ。もし、本棚に防御魔法を施していなかったら、今頃大惨事であっただろう。
「んっ? あれは……」
 進んだ先は、前にレミリアが霊夢や魔理沙、咲夜と一緒に月の都に行って帰ってきた時、パチュリーに頼んで作ったプール広場である。今は利用者がいないけど、夏になると利用する人が増えてくるだろう。
「お待ちしていました、フランお嬢様」
 プールの中央に小悪魔が立っている。小悪魔の後ろには小悪魔率いる図書館防衛部隊がいる。
「ご安心ください。フランお嬢様がプールに落ちないように、結界を張っておきましたので」
 小悪魔が足で床をコンコンと叩く。透明なガラスで出来た結界で、よほどの理由で無いと、壊れない様にしたのだ。
「へぇ〜、リトルの方から来てくれたんだ。お姉様からリトルを潰してきてって言われてきたの」
「奇遇ですね。私はパチュリー様からフランお嬢様と遊んであげてと言われました。それも全力全開、手加減無用でと」
 小悪魔の体から物凄い魔力が溢れてきた。涼しい顔をしているけど、かなり本気の顔であるのだ。
「うふふふ……楽しみだよ。じゃぁ、その全力と言うものを見せてよ!」
 フランは一気に小悪魔の間合いに入った。
禁忌『レーヴァテイン』!」
 持っていたレーヴァテインを発動して思い切り振り下ろす。
「では、こちらも……現れなさい、魔槍『ガイ・ボルガ』!」
 小悪魔が魔法陣を出して現れた槍でレーヴァテインを受け止めた。投擲用の槍だが、逆に小悪魔は薙ぎ払ったり、突いたり、振り下ろしたりと武器として使っている。武器の類は無しだと最初に説明しましたが、これは小悪魔の魔法であるからありと言う設定です。フランはギリギリで避けているが、小悪魔がスピードを上げてくると避けるのに専念する。
「やるね、リトル。でも、これならどう!」
 フランはレーヴァテインのパワーを上げて薙ぎ払う。武器でも防御魔法でも防ぐ事が出来ないぐらいの力だから、これで決まるかと思った。
 しかし、小悪魔はそれを見向きもせず、ガイ・ボルガを思い切り投げる。既に薙ぎ払っていたフランに避ける術はなく、心臓を貫かれた。そのままの勢いで壁に激突すると、フランの口から血が吹き出した。
「くっ………まさか……リトルに……一本……取られるなんてね………」
 小悪魔はクイッと指を動かしてガイ・ボルガを戻した。
「これが全力ですから」
 ガイ・ボルガが抜かれて、フランはフラフラしながら立ち上がる。いくら心臓を貫かれても、死ぬ事は無いけど、相当のダメージを受けている。
「効いたよ…今の……。今回はいつもの様に遊びじゃなかったね」
「はい……私もフランお嬢様にこんな事をして、心苦しいですけど、パチュリー様の敵である以上、容赦しません」
 小悪魔はそう言うと、射撃方の弾幕を放つ。しかし、それがフランの所に届く前に、全部掻き消された。
「っ!? 来る!」
 小悪魔は今いる所から離れると、ドカンと爆発した。
「よく避けたね……」
 フランは未だに立っているのがやっとの状態なのに、攻撃をしたのだ。
「今のは……禁弾『スターボウブレイク』ですよね。モーション無しで出してくるとは、思っていませんでしたね」
 今までフランは技を出す時、かなり大振りを見せてから攻撃するのが多かったが、今のは完全にそんな動作が無かった。
「それじゃぁ、次はこれよ……」
 フランがそう言うと、バッと何かが飛んできた。そして、小悪魔を中心に四方八方から弾幕が来る。小悪魔は自分の周りに防御魔法を張って防いだ。
「今度は、禁忌『フォーオブアカインド』ですね」
 小悪魔の周りにフランが四人いる。もっとも、本物のフランは心臓に穴が開いているから、すぐに見分けられるが、他はまだまだ元気な状態である。
「流石に一対四では分が悪いですからね。こちらも増やしてもらいます」
 小悪魔は魔法陣を三つも出す。
「さぁさぁ、現れなさい、邪神の子達よ。我が元に降臨するが良い。魔狼『フェンリル』、大蛇『ミドガルズオルム』、冥王『ヘル』!」
 呪文を唱えると、三つの魔法陣から、魔狼に大蛇に冥王を召喚した。
「凄いね、リトル。邪神の魔物を召喚するなんてね」
「これぐらい、小であっても悪魔ですからね。覚えれば出来る事なのですよ」
「やっぱり、リトルと遊ぶのは楽しいよ。私も本気でやりあえるのだからね」
「お褒めに預かり光栄です。では、そろそろ……」
「行くよ、リトル!」
「行きます、フランお嬢様!」
 ドカンドカンとプール広場では本当の戦争が始まった。そして、フランの部隊であるEX部隊と小悪魔の図書館防衛部隊は完全に忘れ去られていた。
 
 そして咲夜の方は、ついにパチュリーがいる本部に到着した。
「パチュリー様! 咲夜様が来ました!」
「えぇ、だけどちょっと待って……レミィが中々手強くてね」
 カチャカチャとコントローラーの操作するパチュリー。画面にはレミリアが不夜城レッドを発動してきた所である。それを避けようと必死になっている。やはりその姿はゲームをしている子供である。
「……パチュリー様。ゲームは一日一時間だけです!」
 咲夜は投げナイフを投げる。しかし、パチュリーに当たる前に何かに阻まれた。
「なっ、ここにも結界を……」
「当然でしょう、咲夜。私が無防備にゲームなんてすると思ったかしら?」
「それではこれでどうですか? 傷魂『ソウルスカルプチュア』!」
 咲夜は両手にナイフを持って、物凄い速さで切り刻んでいく。
「ならばこちらは……水符『ジェリーフィッシュプリンセス』!」
 パチュリーが張った結界の上に水の膜を張り、咲夜の攻撃を全て無効化させた。
「残念だけど、咲夜の力ではこの結界は破れないわよ。破れるとしたら、美鈴ぐらいね」
 この時、咲夜は何かに気付いた。美鈴を捨て駒にした事をパチュリーが読んでいたら、この様な二重三重の結界を作って、美鈴しか破れない様にすれば、最早誰もこの結界を破る事が出来なくなる。
「レミィは美鈴を捨て駒のように使ったみたいだけど、私ならちゃんとあの子を活用していたわよ」
「………」
「咲夜、ボーとしていると、こちらから攻撃するわよ」
 すると、パチュリーの部隊が咲夜の部隊に攻撃を仕掛けてくる。咲夜の妖精メイド部隊は残り少なく、もうすぐ全滅しそうである。こちらから攻撃しても、結界で当たる事が出来ない。
「さて、レミィの方もそろそろ体力が尽きそうだし、咲夜には悪いけど、ここでリタイヤしてもらうわよ」
「くっ……ここまでですか………」
 咲夜は手が尽きて諦めようとした。その時だった。
気符『猛虎内剄』!」
 パチュリー軍の本部の前に誰かの叫びが響いた。そして、司令部から警報が鳴り響く。
「パチュリー様! 物凄い気がこちらに接近しています!」
 パチュリーもそれには驚いた。まさかと疑ったが、その声の主が姿を現した。
「「美鈴!」」
 パチュリーと咲夜が名前を言うと、美鈴は右手に溜めた気を集める。
撃符『大鵬拳』!」
 渾身の一撃を籠めた右手を結界に向けて放った。ビシッと結界に罅が入り、ついにバリンと結界が壊れた。
「くっ……」
 パチュリーはコントローラーを操作していた魔法陣を消して後方に下がる。司令部の方でも次々と爆発する。
「美鈴!」
 咲夜は美鈴の所に向かった。美鈴はさっきので力尽きて倒れている。
「しっかりしなさい、美鈴!」
 咲夜が美鈴を抱き上げると、うっすらと美鈴は目を開ける。
「あ、あははは……すみません、咲夜さん……やっぱり……役に…立ちませんでした……」
 笑顔で笑った美鈴は、そのままがくりと気を失った。
「……いいえ。よく頑張ったわ。あとでちゃんと礼をしてあげるわよ」
 咲夜は美鈴を安全な所に運んで横にしてあげた。
「……これは予想外だったわ」
 パチュリーの表情が歪む。美鈴が最初のトラップで倒せたと思ったけど、実はまだ倒れていなかったなんて、それを見逃していた自分に後悔している。その後悔が咲夜の攻撃に後れを取る。
幻符『殺人ドール』!」
 パチュリーに向かって飛んでくるたくさんのナイフ達にパチュリーは吹き飛ばされた。
「美鈴、貴女が作ってくれた活路、無駄にはしないわ」
 頑張ってくれた美鈴の為にも、咲夜は全力でパチュリーを倒す覚悟が出来た。恐らく、レミリアを閉じ込めている結界も、さっきので無くなったはずだから、もうすぐレミリアがこっちに来るはずだ。
「どうやら、チェックメイトですね」
咲夜がそう言うと、倒れているパチュリーはゆっくりと起き上がった。落ちていた帽子を拾って被るとぼそっと呟いた。
「……ごめんね、咲夜」
「えっ?」
 咲夜は何の事か分からなかったが、それはこの後起こった時にその意味を知った。
 
 レミリアを閉じ込めていた結界が消えていくのを見ていたレミリア。そして、さっきまで戦っていた映像のパチュリーがピチュンと消えた。
「どうやら、やってくれたみたいね……咲夜」
 レミリアは息を整える。さすがに映像のパチュリーでも本物のパチュリーが遠隔操作していたから、苦戦していた所であった。
「さて、私も行かないと……っ!?」
 レミリアは何か物凄い気を感じた。それはさっきも感じたけど、それよりももっと大きな気である。
「咲夜!?」
 従者である咲夜の身に何かあった様な感じである。急いでパチュリーのいる所に向かった。
 
 一方、プール広場にて戦っていたフランと小悪魔は……
「はぁ、はぁ、はぁ……楽しいよ、リトル……」
「はぁ、はぁ、はぁ……そうですね、フランお嬢様……」
 お互い衣服がボロボロの状態でもまだ立っている。結界魔法や防御魔法を施していない所は地面が裂けていたり、穴が開いていたりと凄い事になっていた。そして、それに巻き込まれた妖精メイド達は完全に気絶していた。
 フランが弾幕を放つと、小悪魔は回避して反撃の弾幕を撃つ。フランはそれを動く右腕で薙ぎ払って弾幕を掻き消した。
「ダメだよ、リトル。こんな小手先の弾幕なんていらないよ。もっともっと強力な攻撃をしてきてよ」
「……そうですね。ですが、フランお嬢様もスペルカードはあと一枚のはずですよね。出し惜しみしていましたら、負けてしまいますよ」
「そうだね……そろそろ決着をつけようか」
 フランは最後のスペルカードを取り出して発動させる。
禁忌『禁じられた遊び』!」
 フランの周りに大量の十字架が現れて、クルクルと回っていてフランはそれらを投げつける。小悪魔は一度深呼吸をして、魔法陣を作る。それは小悪魔のお気に入りにして最強の魔法である。
「行きます。闇黒星咆哮、ダークスタースパーク!」
 放たれた黒の光線とフランの十字架たちがぶつかる。バチバチと火花が散り、そして大爆発を起こした。爆風で吹っ飛ばされるフランと小悪魔はお互い力尽きて倒れた。
「あはは……やっぱり……リトルと遊ぶのは……楽しいや……」
「ふぅ〜、もう限界です………申し訳ありません、パチュリー様……」
 フランと小悪魔は完全に動けない状態であるため、ここでリタイヤとなった。
 
 レミリアがパチュリーのいる中心部に到着すると、そこはなにやら凄い事になっていた。まず、咲夜が戦闘不能状態で倒れていて、咲夜の妖精メイド部隊はまるで恐ろしい物を見ているかの様に怯えている。だが、それはパチュリー軍の妖精メイド達もそうである。そして、その中心にはパチュリーが立っていて、彼女の周りには五つの結晶がクルクル回っている。あれはパチュリーの火水木金土符『賢者の石』を発動しているのだ。
「パチェ……漸くここまで来たわよ」
「やっと来たわね……レミィ」
 パチュリーはまるで何かが取り払われたかの様に冷静な声でレミリアの名前を呼んだ。そこにレミリアはパチュリーが完全に本気になっていると感じた。
「どうやら、パチェの軍で残っているのはパチェだけみたいね。リトルが来るのを待っても、あのフランと戦った後では、ろくに戦えないと思うわよ」
「えぇ、分かっているわ……こっちも一つ教えてあげるわ。あなたが入り口に残していた妖精メイド部隊は私の残りのEX部隊と交戦して相打ちになったわ」
 パチュリーはレミリアが来る前に、その状況を確認していた。入り口で立っている妖精メイド達は誰一人いない。
「つまり、残っているのは私とパチェだけになったと言う事ね」
「えぇ、その通りよ……」
「なら……もう何も言わないわ」
「来なさい……レミィ」
 レミリアが地上に降りると、一気にパチュリーの所まで体当たりした。パチュリーはそれを防御魔法で防ぐと、サマーレッドを放つ。すると、『賢者の石』の火属性の結晶が割れてサマーレッドを強化した。レミリアはすぐさま飛び回って、サマーレッドを回避するとパチュリーの真上に飛ぶと物凄い勢いで急降下する。パチュリーは後方に下がるとレミリアは地面ギリギリでパチュリーが下がった方に方向転換した。ぶつかりそうになったパチュリーだが、咄嗟にエメラルドシティを発動させて防いだ。
 だが、レミリアの攻撃はまだ続いた。後ろに下がると召喚魔法陣を作り、サーヴァントフライヤーを放った。たくさんの蝙蝠の使い魔がパチュリーに向かって飛んでいく。それに対して、パチュリーは金属性の剣、フォールスラッシャーを放って、全ての使い魔を串刺しにした。
「ふん、小手先の探り合いの時間はおしまいよ。次からはスペルカードで勝負よ」
「望む所よ……来なさい」
 レミリアのカリスマゲージが百%になった。
「行くわよ! 神罰『幼きデーモンロード』!」
 レミリアからの先制攻撃、悪魔の紋章の魔法陣を作った弾幕攻撃。
「ならばこちらは、木&火符『フォレストブレイズ』!」
 五行相生、木生火。木は火を強化させる魔法で木の葉が燃える事で、パチュリーの周りがレミリアの弾幕を通さない。
「そのまま、火金符『セントエルモピラー』!」
 その火が金と合わせる。今度は五行相克、火克金。金属性を飲み込み、巨大な炎の球を放つ。
「甘い! 神槍『スピア・ザ・グングニル』!」
 今回三回目のグングニルを投げて、炎の球を貫通させる。炎の球はそのまま爆発をして、辺りは煙で見えなくなった。
紅符『スカーレットシュート』!」
土水符『ノエキアンデリュージュ』!」
 直線型の弾幕を放つ二人。二つの弾幕がぶつかり合い相殺すると、レミリアは両手の爪を伸ばし、パチュリーは魔法陣を作る。
月符『サイレントセレナ』!」
獄符『千本の針の山』!」
 月の魔法と千本の針からぶつかる。中々、決定打が決まらない二人は、ついに最大スペルカードを発動させた。
紅魔『スカーレットデビル』!」
日符『ロイヤルフレア』!」
 紅き十字架による体当たりと王者の太陽がぶつかり、二人は吹き飛んだ。何とか着地する事が出来た二人だが、息が乱れ始める。
「はぁ、はぁ、はぁ……やるじゃない、パチェ。とても喘息を持っているとは思わないわ」
「はぁ、はぁ、はぁ………生憎、今日は体調も良くてね。絶好調よ」
 お互い、体力は限界を超えている。恐らく、次で最後になるかもしれない。勝つのはレミリアか、それともパチュリーか。最後のスペルカードを発動する。
夜王『ドラキュラクレイドル』!」
日月符『ロイヤルダイアモンドリング』!」
 吸血鬼最大の体当たりと、最強の魔法がぶつかろうとする。
神霊『夢想封印』!」
恋符『マスタースパーク』!」
 その時だった。どこからか、光の球を光の光線が飛んできた。
「ぷぎゃ!?」
「むっ!?」
 レミリアとパチュリーはそれぞれ当たって吹き飛んだ。今度は着地が出来ず倒れてしまった。レミリアが顔を上げると、そこには黒髪のポニーテールに赤と白の巫女服を着た博麗神社の巫女、博麗霊夢と、金色の髪と瞳をして、黒のとんがり帽子を被り、白と黒の服を着た魔法使い、霧雨魔理沙が飛んでいた。
「霊夢!? 魔理沙!? どうしてここに!?」
 まだ深夜だと言うのに、何故この二人がここに来ているのかレミリアには分からなかった。
「それはこっちが訊きたいわ。あんた達がここで暴れていると魔理沙から聞いて来てみれば。一体何をしていたわけよ。今、レミリアもパチュリーも本気で戦っていたでしょう」
 霊夢の指摘にレミリアは言葉を返せなかった。それよりも魔理沙がどうしてこの事を知ったのか。
「いやぁ、ちょっと図書館の本を貰い…じゃなくて、借りようと思って来たら、門番はいないし、中でドンと音が聞こえたから、駆けつけてみれば、妖精メイド達が倒れているからよ。何かとんでもない事でも起こったのかと思って霊夢を呼びに行ったのさ」
 こんな深夜に訪れる事自体間違っているが、何と言うナイスタイミングなのだろう。つまり、偶然この日に魔理沙が来たから、霊夢にも知れたのだろう。
「えぇと、これは、その、紅魔館のちょっとした遊びみたいなものよ。弾幕合戦みたいな、そんな感じなのよ」
 レミリアのカリスマゲージがどんどん下がっていく。
 あれこれ言い訳をするレミリア。しかし、魔理沙はともかく、霊夢は何故か不機嫌である。まぁ、こんな深夜に呼び出され、しかも、こんな馬鹿馬鹿しい事だから、さらに不機嫌になる。
「レミリア……覚悟は出来ているんでしょうね」
 霊夢は完全に怒っていると感じたレミリアは魔理沙に助けを求める。
「悪いな、こんな面白い事に参加させてくれなかったからな」
 魔理沙はミニ八卦炉を構える。
「ぱ、パチェ!? 起きて!」
 パチュリーを起こして、この場を何とかしないといけないとレミリアは思ったが………
「きゅ〜」
 パチュリーは目を回して気絶していた。つまり、霊夢と魔理沙の標的はレミリア一人である。
『夢想天生』!」
魔砲『ファイナルスパーク』!」
 二人の最強スペルカードがレミリアに向かって放たれた。
「う、う〜〜〜〜〜!」
 ドカ〜ンとレミリアに直撃した。
 レミリアのカリスマゲージが0%になった。
 こうして、今年の紅魔六・九合戦は、勝者無しの引き分けとなった。
 
 翌日。大暴れしていた図書館はあっという間に元に戻った。パチュリーはいつもの様に本を読んでいて、小悪魔は紅茶の準備をしていると、魔理沙と霊夢が図書館に入ってきた。
「よっ、来たぜ」
「邪魔するわよ」
「えぇ、いらっしゃい……」
 霊夢と魔理沙を呼んだのはパチュリーである。昨日の事を話してあげると、霊夢は溜め息を吐いた。
「本当にくだらないわね……あんたもあそこまで付き合う必要ないんじゃないの」
「まぁね。けど、前に負けた時、レミィのあの大笑いを見てムカついたからね。負けたくなかったのよ」
「見かけによらず、負けず嫌いなんだね」
「貴女だって、レミィに負けるのは嫌でしょう?」
 言えてると霊夢は思った。レミリアの勝ち誇った顔は誰もが不機嫌になる顔であるからだ。
「紅茶の用意が出来ました。どうぞ」
 小悪魔が霊夢と魔理沙の紅茶を用意してあげる。
「そういえば、小悪魔。お前、フランとまたドンパチやったんだって。しかも今度は物凄い本気でよ」
「え、えぇ……まぁ……」
 小悪魔自身、あまりあんな本気モードにはなりたくはないのだ。やりすぎると大変な事が起きそうだからだ。
「そうだよ! リトルったら、凄い魔法が使えるんだよ!」
 魔理沙の後ろからフランが飛びついた。紅茶を飲もうとしていた魔理沙は後ろの倒れそうになった。
「魔槍や邪神の魔物など、色々使ってきて凄く楽しかったよ」
「へぇ、そうなんだ。なら、今度は私が戦いたいぜ」
「い、いいえ! もうあんな事はしたくありませんから」
「こあ、だったら魔理沙に勝ったら、また奪われた本を返してもらうと言う約束をしたらどうかしら? それなら、貴女も本気になるでしょう」
「そ、そうですね……それでもあまり乗り気ではないのですけど………」
「だったら、私が負けたら、今後ここの本を持っていかないからさ。それなら良いだろう」
 その時、パチュリーと小悪魔の目がキランと光った。
「……こあ。絶対勝ちなさい」
「イエス、マイマスター。では、魔理沙さん。早速、始めましょうか」
 小悪魔は笑顔で魔槍『ガイ・ボルガ』を出した。
「おい!? いきなりかよ!? 冗談だろう!?」
「本気ですよ……」
 ガイ・ボルガを振り回す小悪魔に避け続ける魔理沙。
「ひゃっほ〜い! これでもう魔理沙さんに本を奪われなくてすみます!」
「のわぁぁぁ! 悪魔か、お前は!?」
「はい! 私は悪魔ですよ!」
 どたばたと魔理沙を追いかける小悪魔はまるで死神のような感じである。死神は死神でも、小野塚小町ではないですよ。
「何か、ハイテンションになっていない? あの子……」
「やっと魔理沙から本を奪われなくなるのだから、本気になるでしょう」
「頑張れ、魔理沙! ほら、止まるとリトルが来るよ!」
 フランは既に観戦モードになっている。魔理沙は箒に跨って逃げる。小悪魔はそのまま後を追った。
「こっちはゆっくりとお茶でもしておきましょう。その内帰ってくるでしょう」
「そうね……」
 パチュリーも霊夢も完全に放置する事にして紅茶を飲む。
 すると、図書館の扉がバンと開いた。
「パチェ!」
 レミリアの声が響いた。その声にハァと溜め息を吐くパチュリー。
 レミリアがパチュリーの所まで来る。その顔は勝ち誇った顔である。後ろには咲夜もいる。
「パチェ。昨日は私の勝ちよ」
「はぁ? あれは引き分けでしょう。全員戦闘不能になったのだから」
「何言っているの? 最後の最後に残ったのは私なんだから、私の勝ちよ」
「その最後に残った者は、霊夢と魔理沙にやられたじゃない。盛大に『う〜』と言って……」
 レミリアの表情が歪んだ。だが、すぐに引きつった顔を戻して言い返す。
「あら、最後に目を回して『むきゅ〜』と言ったのはどこのどなたでしたっけ? だから、あれは私の勝ちよ」
 カチンとパチュリーは頭にきて、読んでいた本を閉じた。
「レミィ……だったら、ここで決着をつけようじゃないの。また盛大に『う〜』と言わせてあげるわ」
「望む所よ。完璧な『むきゅ〜』を言わせてあげるわよ」
 バチバチと火花が散る。
「やれやれ、昨日の今日でよくやるわね」
 ハァと溜め息を吐く霊夢。
「だったら、今度は私も混ぜてくれだぜ!」
 いつの間にか魔理沙が戻ってきた。
「そんな面白い事、ここの連中だけじゃつまらないだろう。私や霊夢が入ったら、かなり面白くなるぜ」
「ちょっと!? 何勝手に私も入っているのよ!?」
 魔理沙の提案に霊夢はツッコんだ。
「良いわね……今度は霊夢たちにも参加してもらおうかしら」
「勝手に話を進めないでよ!?」
「良いですね。では、霊夢はお嬢様の方で」
「咲夜、あんたまで!?」
「じゃぁ、魔理沙はパチュリーの方だね。だったら、今度は私もパチュリーの方に就こうかな」
「ダメよ、フラン。それだったら、こっちが不利になるわ」
「もともと四対二と言う時点でこちらが不利だったじゃない」
「門番は人数に入らないから、三対二よ」
「酷いぜ。昨日だってあいつが頑張ったから、良い所まで言ったのだろう、咲夜?」
「まぁね……」
 ちなみに美鈴は門の所で気絶している。さっき、霊夢と魔理沙がぶっ飛ばしてしまったからだ。
「そういうわけだ、霊夢。来年が楽しみだぜ」
「ハァ〜、もう勝手にしなさい………」
 この紅魔六・九合戦が、いつしか幻想郷のお祭りになるのではないかと霊夢は溜め息を吐くしかなかった。
 
 
(了)
 
 

 
小悪魔「ここまで読んで下さった皆さん。本当にありがとうございました。今回は六月九日『むきゅ〜の日』と言う事で、こんな話になりました。でも、パチュリー様は一回も『むきゅ〜』は言いませんでしたね」
パチュリー「非常に不愉快よ……」
小悪魔「ですが、当初はかなり短い話で、タイトルも『パチュリーにむきゅ〜と言わせたい!!』だったのですけど、いつの間にかこんなタイトルになりましたよね」
パチュリー「あまりにも捻っていないから、変えたみたいよ。真タイトルを知ったら、あぁ、なるほどと思うけどね」
小悪魔「それはそうですね。あ、ちなみに今回、私やパチュリー様が使った魔法は本編には無い二次設定が紛れていますので、決して本気にしないで下さいね。『パチュリーにこんなスペカあったか?』とか、そんな事を考えないで下さいね」
パチュリー「貴女の場合はやりすぎでしょう。ケルト神話のクーフーリンが使っていた武器や北欧神話の邪神ロキの魔物まで使ったのだから」
小悪魔「パチュリー様だって、ギリシャ神話の盾を使ったではないですか。しかも、あれは『うみねこのく頃に』でも使われていましたよ」
パチュリー「しかたないでしょう。神の槍に勝つには、神の盾が必要だったのだから」
小悪魔「ちなみに『ガイ・ボルガ』は『ゲイ・ボルグ』とも言います。投擲用の槍なんですけど、武器として使っていましたね。当初は伝説の剣あたりを使うはずだったのですけど、悪魔ですので聖剣はあまりよくないので妖剣や魔剣などを探したのですけど、あまり良いのがなかったので『ガイ・ボルガ』になってしまったのです」
パチュリー「魔剣と言ったらレーヴァテインだからね」
 
小悪魔「では、最後にパチュリー様から『むきゅ〜』と言っていただきたいと思います!」
パチュリー「なに!? そんな話聞いていないわよ!?」
小悪魔「せっかくの『むきゅ〜の日』ですから、最後は言っていただかないと。大丈夫ですよ、一回だけで良いですから」
パチュリー「本当に一回だけで良いのね?」
小悪魔「はい! それでは、パチュリー様、どうぞ!」
パチュリー「………む、むきゅ〜……」
小悪魔「ブッ!(鼻血を噴き出す。)あぁ、パチュリー様! 可愛いすぎます! もう一度、お願いします!」
パチュリー「ちょっと!? 一回だけと言ったでしょう!」
小悪魔「ダメですダメです! これは一回だけでは足りないです! せっかくの『むきゅ〜の日』ですから、十回でも百回でも千回でも言っていただかないと………」
パチュリー「いい加減にしなさい! 日符『ロイヤルフレア』!」
小悪魔「ちょっ、パチュリー様!? 魔力増幅版のロイヤルフレアは! あ、あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
 
 
 
この話に関して感想や批評がありましたら、こちらまで

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