博麗神社の居間にて、博麗霊夢と東風谷早苗はこたつに入ってのんびりしている。霊夢はミカンをむしゃむしゃと食べて、早苗は年賀状の準備をしている。幻想郷では年賀状を送るには、自分達でやるしかないのだ。郵便屋さんがいない以上仕方ないかも知れません。
「もう少しで今年も終わりか……」
「そうですね……今年もあっという間でしたね。あ、霊夢さん、ミカンの汁が付いていますよ」
早苗がティッシュで霊夢の口許に付いている汁を取ってあげる。
「ありがとう……それよりも良いの? あんたん所はお正月大変なんでしょう?」
博麗神社と違って守矢神社は初詣などで忙しいはずなのに、その早苗がここでのんびりとしている。
「あぁ、今年は命蓮寺の方に取られてしまっていますので、こちらものんびりとする事が出来ますよ」
除夜の鐘が鳴り響く命蓮寺では、今も人が集まっている。妖怪山の麓にある守矢神社に比べれば、人々が集まりやすいのだ。
「あの除夜の鐘なんて、鳴らした所でどうにかなるのかしらね。前に魔理沙と行った時に鳴らしたけど、大した事なかったわ」
「いや、霊夢さん……煩悩の数108回鳴らす事に意味があるのですよ」
ゴーンと鳴る除夜の鐘……
「ご〜ん!」
「そうなの? 何で108なの? 中途半端じゃない」
「ご〜ん!」
「えっとですね……色々言われている事があるのですけど、人間の眼、耳、鼻、舌、心、意の六根に好、悪、平の三種類に浄、染の二種類を前世、今世、来世の三つをかける事で108となったと言われています」
「ご〜ん!」
「ふ〜ん、むしゃむしゃ……」
「あの、霊夢さん。ちゃんと聞いていました?」
「いや、全然……」
「ご〜……わわっ!?」
むんずと霊夢に首根っこを掴まれてしまう幽谷響子。濃い緑色のウェーブがかかった髪に茶色の垂れ耳が付いている少女は山彦の妖怪で、今は命蓮寺に居候している。
「あんたはさっきから何をしているのよ?」
「あんたはさっきからなにをしているのよ? 私はお暇を貰ったので、博麗神社に遊びに来たの!」
霊夢の言葉をそっくり返してから質問に答える響子。流石、山彦の妖怪だ。
「遊びに来たって、忙しいのではないのですか?」
「あそびにきたって、いそがしいのではないのですか? いえいえ、聖様からお暇を貰ったのです」
響子は早苗の言葉を返してから話す。
「相変わらず厄介ね」
「あいかわらずやっかいね」
「響子ちゃん、もう良いから!」
「きょうこちゃん、もういいから!」
止められない止まらない状態の響子ワールド。山彦の妖怪、恐るべし……
「霊夢さん。響子ちゃん、可愛すぎます!」
「お持ち帰りしない様にね。私がお持ち帰りしたいから」
「霊夢さん……どうせなら、私をお持ち帰りをして下さい」
「はぁ!?」
霊夢は早苗の突然宣言に驚くが、早苗はブンブンと首を横に振っている。
「犯人はあんたか……」
「はんにんはあんたか……早苗さんの心の言葉を山彦しました」
「ちょっ!? 響子ちゃん!?」
早苗は響子の口を押えるが遅かった。霊夢はじと〜と早苗を睨み付ける。
「まぁ、貴女がそうしたいのでしたら、別に構わないけど……」
霊夢は少し頬を赤く染める。響子が何かもがもがと山彦をしようとするが、早苗に押えられている為、喋る事が出来ない。
「そ、それでは! 今から早速!」
早苗はある泥棒ダイブをして霊夢に襲いかかろうとすると、霊夢がミカンの皮を曲げて汁を飛ばした。ちょうど早苗の目に当てる様に……
「ひゃぁぁぁぁ〜! 目が! 目が!」
目に直撃して、バタンと霊夢から逸れてじたばたと転がる早苗。
「めが! めが!」
それを響子は笑いながら真似している。
「楽しそうね……」
霊夢は何の驚きもせずにもぐもぐとミカンを食べていると響子がじ〜と霊夢を見ている。
「ほら、あ〜ん……」
「ほら、あ〜ん……」
霊夢がミカンを一つ摘んで響子にあげようと口を開けると、響子は真似して口を開ける。霊夢はひょいとミカンを響子の口に入れた。
「なっ!? れれれ、霊夢さん!? な、何て羨ましい事を!?」
「食べたそうだったからね。ほら、あんたもやってみなさいよ」
霊夢が早苗にミカンを渡してあげると、響子は次に早苗の方をじ〜と見る。その姿にきゅんとした早苗。
「はい、響子ちゃん。あ〜ん……」
「はい、きょうこちゃん。あ〜ん……」
さっき霊夢がした事を早苗もやってみた。口を開けると、響子も真似して口を開ける。その中にミカンを入れてあげると嬉しそうにミカンを食べる。
「か、可愛すぎます! そう思いませんか、霊夢さん!?」
「え、えぇ……思わずきゅんとしてしまったわ」
霊夢も早苗も、響子がミカンを食べている姿に可愛く見惚れてしまう。
(はっ! これはひょっとして、家族の様な感じじゃないですか! 霊夢さんがお父さんで、私がお母さん、そして響子ちゃんが私と霊夢さんの愛の結晶……きゃぁ〜! でもでも、響子ちゃんみたいな娘が欲しいかも……)
早苗はえへへと物凄い想像をしている。霊夢はこたつの中に入れていたハリセンを出して(何故入っているのかは不明)早苗の頭を叩いた。
「ばっし〜ん!」
ハリセンの音を山彦する響子。ハリセンをこたつの中に入れる霊夢と、頭を押えて痛がっている早苗。
「お帰りなさい、早苗」
「はい、ただいま現実世界に帰ってきました……」
「仲良いね。恋人同士なの?」
響子の質問に霊夢と早苗はびくっと驚く。すると質問した響子もびくっと驚いた。山彦ですから……
「ま、まぁね……」
「はれて恋人同士になっています。そしてもうすぐ結婚も考えて……」
早苗が何かとんでもない事を言おうとした瞬間、またしても霊夢にハリセンで叩かれた。
「あのね……それ以上言うと、投げるわよ」
「お、陰陽玉をですか?」
「いや、このハリセンを」
「痛いじゃないですか!?」
早苗は頭を押えてガードしようとする。
「やっぱり仲良いんだね」
満面の笑みで喜ぶ響子に、霊夢と早苗はお互い顔を見て笑い合う。
「あんただって、命蓮寺の人と仲が良いんじゃないの?」
「あんただって、みょうれんじのひととなかがいいんじゃないの? うん! 聖様も星さんも、ナズーリンさんに一輪さんに雲山さん、村紗さんにぬえちゃんに小傘ちゃんにマミゾウさんも仲が良いよ。たまにやってくる神子様に布都さんなども仲が良いですよ」
えへへと響子は嬉しそうに笑う。今まで彼女は山彦の妖怪としてずっと一人ぼっちである。しかし、命蓮寺に居候してからは毎日が楽しくなってきた。大きな声で挨拶する事でお寺に来てくれた人達も喜んでいる。
「そうか……」
「そうか……ご〜ん!」
すると、除夜の鐘の音に反応して響子はご〜んと木霊する。
「そろそろお寺に帰ろうと思います」
響子はコタツから出て、居間を出ようとする。
「あら、せっかくだし泊まっていかないの?」
「そうですよ。霊夢さんが泊まらせるなんて滅多に無いですよ。私だってそんなに泊めさせてくれないのですから!? 羨ましいですよ!」
「待て待て……」
霊夢は早苗に裏拳でツッコミを入れる。早苗はゲホッゲホッと咳き込む。
「良いの? 響子、迷惑にならない?」
「白蓮からは私から言っておくからさ」
「でしたら、今から私達も命蓮寺に除夜の鐘を鳴らしに行きましょうか?」
早苗がポンと手を叩いて提案する。
「それは良いかもね」
「それはいいかもね」
霊夢と響子が早苗の提案に賛成する。早速出かける準備をして命蓮寺に向かった。
命蓮寺では、除夜の鐘が鳴っている。
「あら、霊夢さん、早苗さん。こんばんは」
命蓮寺の住職である聖白蓮が挨拶してきた。
「えぇ、こんばんは」
「こんばんは、白蓮さん。」
「あら、響子ちゃん。霊夢さんの所に行ってくると聞いていたけど?」
「あら、きょうこちゃん。れいむさんのところにいってくるときいていたけど? 実は霊夢さんの所に泊まっても良いですか?」
「あら? 霊夢さん、良いのですか?」
「私が良いって言ったからね。良いかしら?」
霊夢がそう訊くと、白蓮はぱぁ〜と喜びの顔となった。
「まぁ〜、良かったわね。お寺の事は良いですから、ゆっくりしていって下さいね。霊夢さん、響子ちゃんの事よろしくお願いしますね」
白蓮は霊夢の手を握ってぶんぶんと振る。
「そ、そこまで喜ぶの? 本当に良いの?」
「私は全然。響子ちゃんが霊夢さんと早苗さんと仲良くしてくれた事に私は嬉しいのですから。朝ごはんも霊夢さんの所で食べてきてからお寺に戻ってきて良いからね」
「あ、ありがとうございます! あの、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる響子。
「こちらこそよろしくね」
「こちらこそよろしくね。えへへ……」
響子は笑顔で霊夢の声を真似る。
そして、博麗神社に戻ってきた三人。早苗は一旦守矢神社に戻って、今日は霊夢の所に泊まらせてもらうと言ってきた。神奈子は反対していたが、諏訪子がオッケーと了承してくれて、早苗は早速着替えなどを持っていって博麗神社に戻ってきた。
すでに霊夢と響子は寝間着に着替えていて、寝室には大きな布団が一枚用意されている。
「あら、早かったわね。お風呂は済ませてきたの?」
霊夢は響子の髪を拭いてあげている。
「はい。自分の所で、即効で浴びてきて戻ってきました」
「別に早苗は呼んでないんだけど……まぁ、良いか……」
早苗に何を言っても仕方ないと諦めた霊夢は響子の耳をしっかりと拭いてあげる。響子は少しくすぐったそうにしている。
「はい、これで終わりね」
「はい、これでおわりね。ありがとうございます」
お礼を言う響子の頭を撫でてあげる霊夢。
「さぁ、霊夢さん。今日こそは……」
早苗はいつの間にか寝間着に着替えて霊夢の横で寝ようとする。そして、今度こそ霊夢の上を手に入れようとする。
「はい、早苗。あんたはこっち側ね」
霊夢が布団の左側を指差す。
「それで、私が反対で響子が真ん中ね」
「それで、わたしははんたんできょうこがまんなかね」
「ななっ!? 何故に!?」
「いや、だって、そうした方が良いからね。それに響子は抱き心地が良いからね」
霊夢は響子を抱き締めてあげる。早苗はその光景に驚いた。霊夢が他の人と抱き締めるなんて今までなかったからだ。
「ちょっ、霊夢さん!? でも、それじゃぁ……」
「ほら、もうかなり遅いわよ。早く寝ましょう」
「ほら、もうかなりおそいわよ。はやくねましょう」
霊夢と響子が仲良く布団に入って横になった。それを羨ましそうに指を咥える早苗。
「それじゃぁ、響子。お休み」
「それじゃぁ、きょうこ。おやすみ。お休みなさい、霊夢さん」
二人はそのまま寝てしまう。そして早苗はぐすんぐすんと枕を抱きながら寝る。
除夜の鐘が鳴り響く幻想郷の大晦日。そして来年へと変わっていく。
(了)