Scarlet・Valentine 
 
  
 幻想郷の一角にある紅魔館。そこの主であるレミリア・スカーレットは館内を歩いていると、厨房のある部屋で何か貼ってあるのに気が付いた。
『お姉様は厨房に入ったらダメだよ。入ったら、きゅっとするからね!』
 レミリアの妹、フランドール・スカーレットの字で、何だかとんでもない事が書かれてあった。
「何やってるのかしら。気になるわね」
 入るなと書いてあって、入らない悪魔がいるわけがないと、レミリアはニヤリと笑って、厨房のドアをこっそりと音を立てない様に開けて、中を確かめる。
 中は至って何か変わったことはないが、少し甘い香りがする。その中では麗しき妹、フランが何かをしている。三角巾とエプロンを付けて、料理をしているみたいだ。フランの横では、メイド長の十六夜咲夜がフランに教えているみたいだ。
「……一体、何を作っているんだ?」
 甘い香りがすると言う事は、お菓子を作っている事は分かった。しかし、何故フランが作っているのかは分からない。しかも、レミリアは厨房に入ってくるなと張紙まで貼っているから、レミリアには内緒で作っているみたいだ。
「あっ、レミリアお嬢様?」
 レミリアの背後から、紅魔館にあるヴワル魔法図書館の司書である小悪魔が呼び掛けた。ビクッと身体が驚いたレミリアは、バタンと厨房のドアを勢いよく閉めてしまった。
「え、えぇと……」
「じゃぁ!」
 小悪魔が何か言おうとする前に、レミリアはそそくさと逃げていった。何故か逃げてしまったが、この後どうする気なのでしょうか?
 「あの、失礼します……」
 レミリアが逃げていった後、小悪魔が厨房に入る。
「あら、小悪魔さん。今のは貴女でしたか?」
 厨房に入ってきた小悪魔に気付いた咲夜は、小悪魔に訊いてきた。さっきの大きな音には気付いていたみたいである。
「あ、えぇと……はい、すみません……」
「気を付けてくださいね。お嬢様には内緒ですからね」
「は、はい……」
 事を知っている小悪魔はレミリアを庇った。本当の事を言ったら、全て台無しである。幸い、レミリアもフランが何をしようとしているのかは、まだ知らない。
「咲夜、出来たよ!」
 するとフランが、さっきまで何か一生懸命やっていた作業を終えたみたいだ。
「お見事です、妹様」
「わぁ〜、スゴいですよ、フランお嬢様」
 咲夜も小悪魔も、お世辞ではなく本当に褒めてあげた。
「これでお姉様、喜ぶかな?」
「えぇ、きっと喜びになりますよ。小悪魔さん、あれは持ってきましたか」
「はい、こちらです」
 小悪魔が持ってきたのは、赤と白のチェック柄の包装紙と白のリボンである。
「こっちも用意してありますので、あと少しですよ、妹様」
「うん!」
 フランは最後の仕上げに入った。
 
「ハァ〜……」
 レミリアは大きく溜め息を吐いた。
「ここでそんな溜め息をしないでくれるかしら」
 向かいにいるレミリアの親友である魔女、パチュリー・ノーレッジが本を読みながらレミリアに言った。
「だって……フランが何をしているのか気になるじゃない?」
「厨房でやる事なんて、一つしかないでしょう」
 パチュリーは当然の事を言った。
「……料理だよね。でも、何で?」
 フランが料理する事なんて、あまり想像出来ないとレミリアは思った。物を破壊と言う能力を持つフランが、物を作るなんてとても信じられない。
「それじゃぁ、これが最後のヒントよ。今日は世間では一体何の日と呼ばれている?」
 パチュリーは殆ど答えみたいなヒントを出した。レミリアは今日の日付を思い出す。
「二月十四日……」
 レミリアも何かを思い出した。
「お姉様!」
 その時、図書館の入口からフランの声がした。
「おや、来たみたいね。それじゃぁ、私はこれで失礼するわね」
 パチュリーは読んでいた本を閉じて立ち上がった。
「ちょっ、ちょっと!? どこに行くのよ、パチェ!?」
 予想外の事に慌てるレミリア。この図書館の主であるパチュリーが出て行くなんて、思わなかった。
「姉妹の話に部外者は必要ないでしょう。まぁ、頑張りなさい。あの子のお姉さんでしょう」
 立ち去るパチュリー。レミリアはどうしたら良いのか分からない状態である。
「あっ、お姉様! 見〜つけた!」
 屈託のないスマイルでレミリアを見つけたフラン。
「や、やぁ! フラン……な、何かな……?」
 ガタガタブルブルと身体を震わせているレミリア。
「えぇとね……お姉様に渡したい物があるの。ダメかな」
「へ、へぇ〜……何かな? 楽しみだな〜……」
 引きつった顔のレミリア。フランはモジモジとしている。
「お姉様!」
「はい!」
 フランに呼ばれて、ビシッと直立するレミリア。端から見たら、初々しいカップルである。
「これ! 受け取ってください!」
 フランはレミリアに、赤と白のチェック柄の包装紙に白のリボンで結んだ箱を出した。
「……えぇと、ありがとう」
 レミリアはただ言われたとおりに貰う。すると、フランが少し頬を赤くして言った。
「お、お姉様。い、今ここで、あ、開けて、もらえないでしょうか……」
「え? えぇ……良いわよ」
 レミリアは丁寧にリボンを解いて、これまた丁寧に包装紙を解くと、白い四角の箱が現れた。レミリアは蓋を開けると、そこにはコウモリの形をしたチョコレートが出てきた。真ん中には『お姉様へハッピーバレンタイン』と生クリームで書かれている。
「これ……フランが作ったの?」
「うん! 咲夜やリトルに教えてもらったけど、一人で頑張って作ったんだ」
「そうか……ありがとうね、フラン」
 レミリアはフランを優しく抱き締める。
「お、お姉様……?」
「ごめんね……ちょっと、このままで良いかしら」
 レミリアの目から涙が零れそうだから、フランに見られたくない為に抱き締めたのだ。それに気付いていないフランは、えへへと嬉しそうな顔をしている。
 
「どうやら、大成功みたいね」
 紅魔館のある部屋でレミリアとフランの様子が写っている。それをパチュリーと咲夜、小悪魔が見ている。図書館の中にカメラを設置していたのだ。
「はい。お嬢様もさぞかし喜んでいるみたいですね」
「良かったですね、フランお嬢様」
 小悪魔はハンカチで涙を拭く。
 この三人はフランに、今回の事をお願いされて協力していたのだ。咲夜と小悪魔はフランのチョコレート作りの手伝い、パチュリーはレミリアの足止め役をしていたのだ。
「それはそうと、咲夜。失敗作はどこにやったの?」
 そう、何もフランのチョコレートは一回目で成功するわけがない。何十回ぐらい失敗していると小悪魔から聞いていたパチュリーは咲夜に訊いてみた。
「あぁ、それなら……」
 咲夜が何か言おうとした時、ドッカ〜ンと外で爆発する音が聞こえた。
「美鈴に渡してきたわ。小さい小悪魔さんから私からのチョコレートだよと言ったら喜ぶだろうと言われたから」
「ここあ……グッジョブ!」
「いやいや、パチュリー様! グッジョブではないですよ! そして、ここあ! 貴女もそんな事したらダメでしょう」
 小悪魔が部屋を出ようとした小さい姿をした小悪魔、通称『ここあ』を呼び付けた。
「えぇ〜!? でも、門番は幸せそうな顔していたよ。だから、一回ピチュっても本望だと思うよ」
 全く反省しないここあ。小悪魔はただ溜め息を吐くしかなかった。
『ふ、フラン!? それは一体誰から教えてもらったの!?』
 すると、向こうの方で何かあったみたいで、みんなレミリア達の映像を見ると、頬を真っ赤にして、咲夜は鼻血をこれでもかというぐらい噴射した。
 
 フランはレミリアを押し倒して、上に乗る。そして、さっきレミリアに渡したチョコレートを、自分の口に咥えてレミリアに食べさせようとしている。その際、服を少しだけ脱いで下着が見えるか見えないかと言う状態にしている。
「待ちなさい、フラン!? いくら何でもそれはおかしいでしょう! 誰に教えてもらった!?」
 レミリアは顔を真っ赤にして抵抗する。
「ん〜? チビリトルだよ。こうしたらイチコロだって」
「あ、あの悪魔がぁぁ〜!」
 いや、悪魔だよと、ここあはウインクしている。
「お姉様……」
 フランはどんどんレミリアの顔に近付いていく。レミリアも出来たらそれでも良いかと思ったが、フランがチョコを小さく割って、それを咥えている為、少し小さいのだ。つまり、実質これは……
(き、キスする様なものじゃない! 一体、フランに何教えているのよ、チビリトルは!?)
 顔を真っ赤にして、煙が上がっていくレミリア。
(もう、お姉様ったら! いつまで待たせるのよ! 早くしてくれないと、こっちが参りそうなんだよ!)
 フランも最早、限界が来そうな感じである。
(えぇい! やってやろうじゃないの!)
(こうなったら、こっちからお姉様の口に!)
 すると、レミリアとフランは同時に相手の顔に勢い良く近付いた。
 ゴッチ〜ンと、その結果、レミリアとフランはお互いおでこに頭突きをしてしまった。それを見ていた観客側は、あらら〜と転んだ。
「つ〜〜……いった〜〜……フラン……」
「……お、お姉様が悪いんだよ……」
 二人とも、おでこを押さえて痛がっている。まぁ、綺麗に頭突きが決まったからね。
「もう! しょうがないわね! フラン!」
 レミリアは覚悟を決めて、フランが咥えているだろうチョコを食べようとする。
「っ!?」
 フランはビックリする。レミリアも『あれ?』と考えた。やったのは良いけど、チョコの甘い味や感触がないのだ。
(えっ? これって……)
 そして、漸く気付いた。さっきの頭突きのせいで、フランが咥えていたチョコが落ちたのだ。その為、今レミリアとフランがしている事は、完全にキスである。
 「お、お嬢様〜〜!」
 またしても咲夜が鼻血を噴射した。もう完全に致死量行っているはずなのに、まだ痙攣しながら倒れている。
「あ、あわわわわぁ〜〜……こ、ここあは見ちゃダメ!」
「えっ? 何々? 見えないよ、お姉ちゃん」
 小悪魔は頬を真っ赤にしながら、ここあの目を隠している。
「レミィ……大胆ね」
 パチュリーもまさかレミリアがここまでやると思わなかった。
 そして、実はこの部屋には、この現場にもっともマズい人物がいた。
「いやぁ〜、良い物見させてもらいました」
 それは新聞記者の鴉天狗、射命丸文である。文はカシャカシャッとカメラを撮っている。文に見つかったなら最後、その日の夕方にはこの事が幻想郷中に知れ渡るのだ。
「霊夢さんと早苗さんと言い、今日と明日を楽しみにしてくださいね。では、私はこれで失礼します!」
 文は嵐の様に去っていった。
 
 そして、新聞の一面にでっかく載った。
『紅魔館の百合姉妹の姉。大胆な接吻行為』
 それを読んだレミリアは顔を赤くして新聞を破るのであった。
 
 (了)
 
 
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フラン「『Scarlet・Valentine』お疲れ様でした!!」
レミリア「えぇ、本当にお疲れ様だったわ……」
フラン「お姉様はフランと一緒じゃ嫌?」
レミリア「いや、そうじゃないのよ。わ、私だってフランと一緒にいたいし……その……えぇと……」
パチュリー「そう言う時は、思い切り抱き締めてあげなさい」
レミリア「うわっ!? パチェ、いたの?」
パチュリー「いたのとは酷いわね。他のみんなもいるわよ」
小悪魔「はい……」
ここあ「ここにいるよ」
レミリア「あれ、咲夜は?」
パチュリー「あ〜……あっちで鼻血出して倒れている」
レミリア「やっぱり……」
フラン「みんな、ありがとうね」
小悪魔「いえいえ、フランお嬢様の頼みでしたし、やはり仲の良い姉妹が見れて、私も嬉しいですよ」
パチュリー「貴女って本当に悪魔なのか、よく分からない時があるよね」
小悪魔「ほぇ!?」
フラン「でも、お姉様にはチョコ食べてもらえなかった……」
レミリア「な、何言ってるのよ。あの後、美味しく頂きましたよ」
パチュリー「スタッフが?」
レミリア「私だ!!」
小悪魔「あとがきなのに、こんなに長いと収拾がつかなくなりそうですから、フランお嬢様、最後はお願いします」
フラン「は〜い、それでは次の話でお会いしましょう……だったっけ?」
ここあ「ここは最後に作者にスペルカードだよ」
フラン「そうなんだ。よ〜し……」
 
フラン「禁忌『レーヴァテイン』!!」
 
またですか、このパターン!? 
 
 
 
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